ものづくり事業部

月別アーカイブ:2016年 9月

第9回 ロングセラーはもう出ない ―成熟市場下の新製品開発―      山﨑登志雄

〔成熟市場では焦っても始まらない〕
 新製品開発は、ものづくり企業にとって、最適の経営革新になることに違いない。だが開発には『時間』と『コスト』という貴重な経営資源を注ぎ込む、大変リスキーな経営行為になる。だから事業の停滞時や、開発の『ネタ不足』のとき慌てて取り掛かるのは危険極まりない。
 経済社会の流れが、緩やかな大河のごとく安定していたときは、どの企業もロングセラー商品を生み出してきた。しかし大河はもはや、流れを多様化して細い急流に分散した成熟市場へと変化してしまったが、この流れは独自の努力で、元の大河に戻すことはできない。
 個別企業はこの成熟市場に何とか沿うべく、目先を変えた新製品開発に貴重な経営資源を消耗することになる。が、そんな小刻みな対策に焦っても、安定経営は始まらない。

〔道筋をつけるのが経営革新〕
 製品ライフサイクルが短くなると、新製品開発の機会が多くなり、企業の将来を見据えた道筋がみえなくなってくる。だからものづくり企業は『製品フレーム』つまり自社製品共通の『骨格』を時の流れに沿わせる経営革新が必要になる。
 どの企業にも『製品ジャンル別』だとか『業種別』だとかに区分される、製品ポジショニングがあるものだが、経営資源を分散すると、その位置を確保し続けられなくなる。このため自社製品の背骨から矯正し、将来への筋道をつけていかなければならない。

〔製品群の拠るべき骨格は〕
 自社の製品フレームを有望市場向けにシフトする着眼点は、4つの道(ストリーム)があるのではなかろうか。その道こそは現在、自社製品が位置付けられているポジションから見渡すことができる。
 すなわち一方の着眼点は、経済の社会的分業における生産プロセスの上流(アップストリーム)と下流(ダウンストリーム)の二つの方向があるであろう。さらに傍流(サイドストリーム)にも市場と技術関係から二つの方向性が考えられる。

① 上流への指向
 これは文字通り、現在は社外から調達している部品、材料などを自家製品に切り替えるための新規開発で、組立型産業はもちろん素材産業でも、上流の採掘型産業へシフトする可能性は十分にある。
 しかしあくまでも、コストパフォーマンスあっての指向であり、むしろ特徴ある『機能性部品』や『希少素材』などの確保と安定供給を目的とすれば、その機会は必ずしも多くない。だがこの道が成功すれば、高付加価値生産が約束されることは、間違いないであろう。
② 下流への指向
 これは新たに現有製品の『付属品』や『周辺装置』『追加ソフト』などを開発し、市場占有率の向上と規模の拡大による総原価率の低減を狙う革新である。だからこの流れに沿う事例は、日常的に多く見かけるだけに、安易な指向は激しい競争に晒され、経営資源を消耗しかねないところでもある。
③ 傍流右サイドへ指向
 仮に右サイドは、従来から取引のある、または新規取引をねらう『販売ルート』の要請(ニーズ)に基づくのだが、あくまでも独自の確認情報を根拠にした新製品開発でなければならない。
 この狙いは『異分野参入』『新市場開拓』であり、ルートのニーズに基づく新市場シフトは比較的に易しい対策といえる。だが逆に、自社から販売ルートへの提案型アプローチの方が重要で、積極的なPR攻勢を展開すべきであろう。
④ 傍流左サイドへ指向
 得意とする自社技術を活かして『商品レパートリーを拡張』する流れを掴もうとする意図は、従来から存在した。しかしその指向は、市場ニーズを無視した独善的な『プロダクトアウト』の新製品開発に陥る恐れがある。だからむしろ独自判断で、市場ニーズに沿った『マーケットイン』を指向し、その新製品開発に必要な中核技術(コアテクノロジィ)を探索する流れを起こさなければならない。

〔ショートセラーを効率的に〕
 こうして製品フレームの指向性が確定されれば、全社的な目標への関心事が統合され、的確な情報をキャッチする機会も多くなり、僅かな経営資源を集中させて『低リスクの新製品開発』が期待できる。
 これからの経営は、開発製品のロングセラーが望めない成熟市場であっても、自社の製品フレームの方向性をしっかりと見極めていけば、数あるショートセラーを効率よく開発する革新によって、企業の永続性を望むことができよう。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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