ものづくり事業部

新商品開発 第1章 商品企画 3~5

成功する企業には新商品開発がある

1.新商品・新サービスは企画から - 新商品をものにする土壌づくり -

1-3.技術シーズ依存の開発態度

〔技術と技能の違い〕

● これまではどうであったか
 新商品開発は、ただ「新しい商品を送りだしていけばよい」というものではありません。つまり商品企画は、新商品を産み出す基礎の『土壌づくり』ですか ら、この取り組み態度が最終的な成果を決めます。ですから自社では、これまで『どのような考え方』で新商品を開発してきたか。仮にこれまでは「新商品開発 らしい業務をやっていなかった」としても、なぜ『やらなかった』『やれなかった』か、改めてチェックする必要があります。

● 製造業での実態は
 まず製造業の取組みは、既存の技術シーズ(種子)だけを頼りにした新製品開発の態度が、多くみられることです。もちろん製造業として「わが社の強みたる技術自慢」がなくては困ります。むしろ技術は、製造業の一番大きな経営資源です。
 特に中小製造業にとっては『資本力なく』『販売力なく』『技術力だけを頼り』に生きてきたのはよくわかります。
 しかし「わが社には技術がある」と自認し、安心している中小企業を診断すると、実は『技術ではなく技能だけ』であるケースが多いのです。中でも下請け中小企業では、技術ならざる技能にのみ頼り、生計を立てている実態に出くわします。
 広義には、技術も技能も『一括して技術』と呼ばれますが、両者には図表1-6のような違いがあると思います。

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● サービス産業の場合でも
 またサービス産業に属する企業が、サービスを創生しようとするときも、やはり既存の技術シーズが頼りになるわけです。新しく供給するサービスの創出、つ まり生産が『装置や設備』を主体とするか、提供者の『個人的技量』への依存度が大きいかといった違いはあります。でも依存すべき技術と技能が、前提となる ことに違いはないのです。
 ただ、提供者の技能だけが前提となる新商品開発は、下請け中小製造業と同じく、生み出しうるサービスの内容が限定的になってしまうでしょう。一方で技能には、ノウハウといわれる強みがありますが『技能だけ』では、新商品になる可能性は低いのです。

● 技術力は不可欠の資源
 反面で『技術だけ』が強みのきぎょうだと、技能者に設計図を渡して作らせれば、新製品が開発できます。知恵を絞って考案したサービスは、腕のよい定年退職後の職人さんをスカウトして提供することもできるはずです。
 現に、機械設備や作業者といった『生産手段をもたず』、新製品開発だけで利益を上げる企画専業の企業もあります。この企業形態は、大きな資本を要する生産設備がもてない、ベンチャー・ビジネスのひとつの姿でもあります。
 ただ、技術だけに依存したアイディア開発は、生産手段をもった企業が買ってくれるか、資本を投じて下請け企業に外注しなければ、新商品になりません。また、マーケティング力が伴わなければ、造っても売れません。
 したがって企業の新商品開発力は、『開発技術』と『生産技能』を合わせ、かつ『販売力』を付加した経営資源が総合された水準で決まります。が、『技術の総合力』であって、決して『資本力でない』ところに、企業経営の妙味があるというものです。

〔新商品開発での技術指向〕

● プロダクトアウトといわれる所以
 これまでの製造業は、経営の領域を決める原点で「わが社の技術で何ができるか」と考える傾向がありました。つまり新製品開発に取り組む態度が、プロダクトサイドの都合で決まります。
 例えば、ガラス加工の技術を誇る会社だと、ガラスを加工して「何が作れるか」と考えます。もちろん製品の色彩や形状の変更は、売れる新製品を生む大きな要因に違いありません。が、ガラスは新商品にとって『単なる加工対象』にすぎないのです。
 新しい色彩や形状を変える開発思考なら、むしろ「新しいデザインを検討すべきです。いいデザインが開発できれば、ガラス以外の素材の方が、価値を高めるかもしれません。だのに生産者側は、加工の都合にこだわるわけです。
 これが、いわゆるプロダクトアウトとよばれる思考の類型です。製造業の場合は「○○ガラス工業株式会社」と、社名からしてプロダクトアウトであるのが不思議です。これでは、考えを「一旦、ガラスから離せ」といっても無理かもしれません。

● これに似た思考
 一方、マーケティングアウトという言葉は、一般的には使われませんが、これに類する新商品開発態度があります。時間と資金は貴重な経営資源だのに、それを費やして開発した商品が、もしも売れなかったら一大事です。
 このため、新商品開発は初めから「自社ルートで売れるものは何か」を探そうとします。要するに、自社の得意分野なら安心できるのでしょうが、市場情勢を まったく気にせずに新商品を開発しようとする態度は、プロダクトアウトと同じマーケティングアウトとでも呼べる思考だと思います。
 サービス業でも、永年培った技能だけを頼りに、新しい商売をしようとするのも同じです。が、このような新商品開発態度に関する思考の流れは、整理すると図表1-7の下段のようになります。

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● では、マーケットインとは
 これからの企業に必要な新商品の開発態度は、マーケットインでなければなりません。この思考は、市場ニーズの探索から始まります。つまり新商品開発の態度は「市場でいま何が求められているか」「求められようとしているのか」を基盤におくわけです。
 もちろん従来の新商品開発においても、市場ニーズは探索されました。同様にマーケットインの思考でも、まず市場ニーズを探索します。が、ニーズがキャッチできれば、次に新しい技術シーズ(種子)の獲得、育成のプロセスを続けます。
 そうでなければ、プロダクトアウトのまえに、市場ニーズの探索プロセスを「付け足した」に過ぎず、またもや「ニーズにフィットしたガラス製品は何か」といった思考に陥ります。
 マーケットの動向に沿って、自分自身の得意技術そのものをマーケット側にシフトさせ、つまり技術の『移転』、『適合』、『変革』を図るのです。新商品開 発は、シフトされた新技術でやろうとする、マーケットイン思考に基づく態度です。図表1-7上段に示すような思考の流れになるのでしょう。
 販売態度の方でも、市場ニーズに技術シーズを適合させようとしなければなりません。つまりプッシュセールスと違った、プルセールスが介在しなければならないのです。

1-4.商品企画ループを回そう

〔新商品開発の経営原則〕

● リスキーな事業
 新商品開発は企業にとって大変リスキーな、経営本体の死命をも制する大事業です。したがってその遂行には、次の三大原則の遵守が不可欠です。原則の相互関連は、図表1-8のとおりです。

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● マーケティング先導の原則
 まず、マーケティング先導の原則です。マーケットインの理念に基づく開発ですからこの原則は当然ともいえますが、激動の時代に経営機能の硬直、とりわけマーケティング活動が現状維持という『保守の金縛り』に合ってしまうと、新商品開発は成功しません。
マーケティングのフレキシビリティ(柔軟性)は、情報という潤滑剤により弾力性を増加させます。

● 新商品開発中枢の原則
 次は、新商品開発中枢の原則です。企業のもつすべての経営資源、とりわけ技術力の総ては、新商品開発のために集結しなければなりません。
 製造業や建設業に限らず企業には、新商品設計の『開発技術力』、商品化のための『生産技術力』、高度技術の商品には『販売技術力』、顧客のもとで商品効用を保てる『サービス技術力』といった、機能の異なる技術力が存在します。
 ですから新商品開発には自社が発揮しうる、これら総ての技術力を結集させるというわけです。

● 新技術導入の原則
 企業のもつ経営資源のすべては、時代の変化に適合させていくのですが、新技術導入の原則については、とりわけ技術力をマーケットの『変化に適合』させなければならないということです。
 新商品開発に総資源を投入するに当たって、技術水準が現状のままでは、『投入効率』が落ちるばかりか、劣悪な『競争条件』におかれるのですから、開発リスクも増大させます。
 ただ、これらの原則は十分にわかっていながら、中小企業ではどんな場合でも、どうしても「仕方ない」現実があるものです。
 このような場合では、少ない人的資源をパワー分散させて「取るに足らない平均化を図る」よりも、むしろ一点集中型に徹するのが賢明といえます。いわゆる『重点主義経営』の思考です。
 しかし三原則の部分強化の指向性や方法が何であれ、マーケットインの新商品開発が、経営資源強化に絶好の機会を与えることだけは確かです。

〔環境変化の適応サイクル〕

● 経営環境は常に変化
 経営環境は、時々、刻々と変化します。経済社会の流れが変われば、世の中が必要とする製品やサービスも変わります。商品の供給者である企業は、常に商品をリフレッシュすることで、経営環境の変化に適合するのです。
 商品企画という経営機能は、企業経営の意図を込めて製品の状態に『好ましい変化』を与える仕事です。『開発』、『改造』、『新用途』、『新サービスの付加』など、どんな形式の商品企画であっても、次の5段階のステップが必要です。その概念は、図表1-9のとおりです。

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● 陳腐化に晒され続け
 「今日のマーケテットイン」思考は、古びてくると「明日のプロダクトアウト」思考に変ってきます。したがって、新商品企画のステップの繰り返しは、企業の『生き残り要件』です。その原理は、ビジネス界の常識でもあるマネジメントサイクルと同じです。
 すなわちマネジメントでは、P(計画)からD(実行)へ、Dの後はC(確認)へと回り、さらにA(修正、行動)へと繰り返して、再び原点のPに帰るサイクルです。同様に新商品企画も、5段階ステップのサイクルを回すというわけです。
 ただ、商品企画の場合は各ステップ相互の間に、業務の課題別に時間的なずれが存在します。サイクルを回すときは、課題の時間的なスパン(幅)の違いを調整しなければなりません。各課題には、それぞれ図表1-10のような時間要素があるからです。

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1-5.商品企画担当者とは

〔担当者の職務遂行能力〕

● 自社商品の先導役
 商品企画ループがサイクルする(回る)根拠は、総て情報でなければなりません。ですから、会社に商品企画担当なる者がいるとすればその日常業務は、あた かも情報担当者のごとくです。が、商品企画の担当者は、収集した情報を根拠に自社の商品フレーム(骨格)の形式によって、企業が「進むべき道を先導する」 大変重要な使命をもちます。
 自社の商品を通じて、大は会社の『事業転換』や『業種転換』など、リストラクチャリング(事業再構築:リストラ即首切りではない)の『企て』さえ担当するのです。

● 資質論では語れない
 経営学の分野では、職務担当者の「具備すべき資質」や、職務遂行に「必要な能力」といったことをよく論じます。が、一般職と違って商品企画担当は、資質、能力論を重ねていけばいくほど、適任者が選べません。
 それは人材豊富な大企業であってもいえることです。ですから特別な事情でもないかぎり、中小企業においては「とても専任担当者を置けない」ことになるでしょう。
 しかし商品企画は、そういった『職務機能』のことを指すのですから、専従担当者を置く余裕がなければトップ自らが、商品企画を担当しなければなりませ ん。中小企業でなくても多くのケースで商品企画の機能は、社長自身か商品戦略事業部長など、トップに近い職位の人が担っています。
 それは商品企画機能がなければ、会社は「何を売ればよいのか」わからなくなるのですから、むしろ当然だということです。
 一体に専従者というのは、商品を企画する人つまり「わが社は何を売る事業か」の意志決定者、つまりトップに「情報を送るスタッフ」にすぎないと言っても、差し支えないくらいです。

〔企画担当者は予測する〕

● 将来に向けた企画
 新商品企画に限らず、あらゆる種類の企画は『未知なる未来』に向かって考えます。ですから企画に先立って、未来を予測しなければなりませんが、予測が立てられたからといって、企画ができるわけではありません。
 改まって、意識的に予測をしなくても企画は立てられるのですが、意識しようがしまいが『予測の当否』は『企画の成否』を決します。
 したがって企画担当者には、予測という業務が職務としてつきまといます。予測業務の作業効率面からも、やはり予測の技法を知っておく必要があります。

● 計数予測と非数値予測
 予測技法といえば、過去のデータを基にした時系列分析が浮かびます。つまり統計学上の『最小二乗法』、『指数平滑法』、『移動平均法』、『相関係数 法』、『連環比率法』及びこれらの混合法などの計数予測で、将来の姿を回帰式の形に表します。また最近では、コンピュータソフトの発達から時系列分析以外 に『多変量解析』のような、難しい予測技法が脚光を浴びてきます。
 ただ中小企業では、自社のデータさえ整理されていないケースがあって、あえて計数予測にこだわるのではなく、討論形式などによる非数値予測を奨めます。有名な『デルファイ法』が浮かぶからです。
 つまりこの技法は、ある予測対象を設定し、複数の専門家にアンケート方式などで、第一次の予測をしてもらいます。その結果を集計し、バラツキのあるデー タのまま、再び回答者に集計結果を示して再度予測してもらう作業を繰り返します。そしてデータのバラツキが、これ以上縮まらない段階に至り、最終的な予測 結果とするわけです。

● 結局はK・D・U
 この原理は、ブレーンストーミングに通じるので『社内の専門家』つまり自社の仕事に最も関心の高い社内の人々の見解が活かせるわけです。
 これに対して『』社外専門家の意見を聴取するのもひとつの予測技法です。企業秘密が漏れないことを前提に、個別課題にコンサルタントの招聘やトップの友人、知人に「有識者と思われる人々」を探し、前の「討論形式による予測結果などを検証する」形式もあるはずです。
 しかし現実問題として、予測にはどうしても勘(K)と度胸(D)と運(U)が付き纏うと思います。
 予測という作業は、最終的に人の判断によるのですから「科学的背景をもつ勘(K)」で「大胆な度胸(D)」を発揮し、人事を尽くした挙句に「運(U)を待つ態度」が必要です。
 個人的な山勘に大切な企画を委ねるわけにきませんが、いつまでもじぐじぐと判断を下さないでいて、予測やそれに基づく意志決定が出されなければ、企画は先に進みません。
 ただ、予測技法は業務の効率性から習得すべきですが、「この方法でやれば的中率が上がる」という確たる技法はありません。したがって図表1-11のように、考えられる技法をミックスして確度をあげていくよりほかにないのです。

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事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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