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新商品と情報 第3章 情報モンスター 1、2

成功する企業には新商品開発がある

3.情報モンスターに挑む  - 新製品開発の幹を構築 -

3-1.新商品フレームの検証

〔情報源を求めて〕
● 人にとって情報とはなにか
 かなり以前に、情報という言葉は森鴎外の造語だと聞きました。つまり「情(なさけ)を通じて報(しらせ)を知る」ことからきたといわれます。明治の大文豪が「心そこにあらざれば、もの見えず」とつぶやいたかどうか、知る由もありません。が、情報洪水とか、情報公害とかいう言葉さえ聞かれる現代、その対象に関心がなければ、同じ情報が入っても何の反応もないことは、たしかに経験するところです。
 この実感からすると、コンピュータの世界で『情報処理』という言葉が使われるのは、『信号処理』というべきです。信号は、機械で処理できますが、情報は人間でなければ処理できません。

● 勘や閃きと情報
 新商品企画のために、情報そのものに対する知識は、たしかに必要です。が、情報を収集し、処理し、活用していくうえで、情報の性質を整理して理解しなければ、絶対に活用できないものでもなさそうです。
 新商品開発に際しては閃きが貴重です。もちろんこれらがはたらくのも、豊富 な『知識という情報』の蓄積があればこそですが、「あのとき、なぜ閃いたか」といったような詮索は不要です。これに拘りだすと『インスピレーションの由 来』など、情報の活用法と離れたところに関心事が流されるおそれがあるわけです。こうなると、新商品開発で「占いによる地震予知」のような側面が強まり、 およそビジネスの話でなくなります。

● 鶏が先か卵が先か
 さて情報収集の話が、商品コンセプトの後にきた意味です。たしかに、情報とコンセプト樹立は「鶏と卵の関係」にあります。鶏を先におけば、情報収集しないでコンセプトなど立つはずがないという理屈です。が、筆者は卵を先におき、周辺分野という『仮親』に『商品コンセプトの卵』を生ませます。
 そんな『タマゴッチ』のような理由を一言でいうと、自社の商品フレームが「どちらに向かっている」のか、「どのような領域にある」のかということがはっきりすれば、情報に対する集中力が増加することです。
 集中力が増し、情報マインドが高まると、情報源が定まって上質の情報が大量に入ります。ですから、商品コンセプトが先に必要だという主張です。
 ただ、ここでは新商品企画の必要性から、情報の受け手側が積極的に収集しようとする情報だけを主体として考えます。
 つまり新商品開発には、企画、実施計画、設計・試作、生産・販売すべての段階に情報が不可欠です。ですから論点を限定しないと、この情報というモンス ターにはとてもかなわないでしょう。ただし情報自体は、についてどの段階においても、その本質に変わるところはありません。

〔フレームの洗礼〕

● 設定前情報と後情報
 情報は、人間活動すべての潤滑油ですから『商品フレームを設定』するためにも、事前の情報が必要です。自社のもつ『技術を棚卸し』することや、自社が所 属する業界やその周辺の『実態を把握』することは、フレーム設定のための情報収集です。この場合は、社内データのチェックや再分析などが、情報源となりま す。
 そして、大枠の事業領域として決定された新商品フレームは、その有用性、正当性、有利性、安全性、発展性、有望性の確認などが、情報の洗礼を受ける順序です。先に設定したフレームは、いわば商品コンセプトの仮説ですから、常にフレームの正当性を外部情報と照合します。調査とは「仮説の検証である」といわれるとおりです。

● 金と時間を掛けるために
 一方では、トップの承認まで得て設定されたフレームを「なぜ見直すのか」との、疑問があるかもしれません。が、調査・情報収集には「金と時間がかかる」 わけです。ですから、仮に設定したフレームは、トップの承認を得るために開発ステップに「駒を進める」よう、業務命令を得ることだと解釈すべきです。
 一度踏みだした決定は図3-1のように、時間の経過とともに軌道修正が難くなるものです。ですから仮説のうちに、慎重な検証をするのです。
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 また、ワンマンのトップが決めたフレームは「誤りがあるのではないか」と疑えるとしても、「不正を指摘する内部告発」ではないのですから、企業内の誰も が指摘し辛いものです。が、首を覚悟で誤りを諌めなくても、客観的データを揃えて提示すれば、賢明なワンマンにはきっとわかってもらえます。

〔フレーム検証の手順〕

● 収集者の立ち位置
 情報収集には、収集者のスタンスというものがはたらきます。人間は、五感という情報インターフェイス機能をもっています。つまり人間の情報センサーですが、中でも目が捉らえる情報量が最も多く、かつ確実です。そこで目と情報収集のスタンスの関係は、図3-2に示すようになると思います。つまり目の高さによって、事象の見え方が違ってくるわけですし、また違えなければならないものです。
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 フレーム『設定』のときは、基準においた自社の活動分野の周辺をみてきました。次のフレーム『検証』では、市場や技術の動向を鳥瞰する、つまりスタンスを高くとって全体をみるわけです。
 例えば図3-3のように、鳶は地上の獲物をみつけるために上空を旋回します。そして、「設定したフレームを支柱にした新商品開発が大丈夫」そうなら、次は目の位置を下げて焦点を徐々に短くズームアップしていきます。
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● 調査は仮説の検討
 これらを逐一調べていくのは実に大変です。が、この先何年間か「企業全体の商品を規定する」コンセプト構築のための調査ですから、大変でもやらなければなりません。
 また、設定されたフレームは、調査結果によってのみ確定すべきです。調査は、仮説フレームを確定するのに「都合のよい情報」だけを集めないことです。何 事でも、都合のよいことばかりはないのですから、都合の悪い情報も集め、その悪さ加減を検証し「この程度の不都合ならいける」という見方もできるわけで す。
 しかしこの場合も、情報を収集した結果による判断であって、収集時点で仮説に有利性や不利性を偏って与えた結果であってはなりません。

3-2.情報力で商品展開

〔人につく情報力〕

● 社員の情報力を超えはしない
 会社の情報は、社外の一般社会や市場から社員がもたらす」ものです。当然、社員ひとりずつの情報機能が集積し、会社全体の情報機能を形成することになります。
 社員がもたらす情報は、その会社にとって最高品質の情報です。つまり、会社にとって社員は最も高価ながら、最も高級な情報メディア(媒体)といえます。
 また社員の情報は、会社が「再確認できる情報」です。会社が欲する情報を、社員に「指示して積極的に収集」させることもできます。ですから逆にいうと、社員の「知識レベルを越えた情報」は、会社に入ってこないことになります。
 だのにトップの中には、社外の話はよく聞いても「社員に耳を傾けよう」としない人がいます。トップが部下を無視するのは、自己の「情報網を断つ」ことを意味します。

● 情報力は高められる
 ただ、組織構成員の情報機能には個人差があることも、また仕方のない現実です。したがって会社の情報力を高めるには、トップが情報の担い手たる社員を自分の情報ルートとして教育しなければなりません。
 そこでここに、情報マンイドを高めるための私案があります。個人の情報機能を『ラジカセ』というクラシックな情報機器の基本回路に例えて、図表3-4のように分解します。そしてこれらの各要素を磨いていけば、情報力が高まろうというわけです。
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 この図表は洒落で表現していますが、人々が情報を扱ううえで大切な要素を含んでいます。したがって多少くどくなっても、この内容を詳細に説明しておきたいと思います。が、説明はちょっと詳細にわたりすぎるので、次の項まですっ飛ばしても結構です。
(1) アンテナ
機能:情報の捕捉   留意点:指向性
内容:アンテナには周波数特性と指向性がある。周波数が高いほど情報密度は濃いが、反面で指向性が強くなるから、アンテナはしっかりと情報源に向けなければ機能しない。
 したがって社員たる者は、自社の商品フレームに『関心を集中』し、狙い分野に周波数の規格を合わせ、狙い市場・技術分野に的確に向ける。情報発生源が不明確なら、電界強度計を使って『予備調査』をする。
(2) 同調
機能:情報の選別   留意点:情報価値の評価
内容:数局の捕捉電波をフィルターに通し、必要な信号だけを取り出す。クラシックラジオは選局のためにぐるぐる廻すダイアルを用い、ピーピー、ガーガー鳴らしながら目当ての局を探す努力をしたものだ。
 昔のバリコン式フィルターに相当する情報選択基準が、かなり絞られてくると広い範囲から探し出さなくても、今のラジカセのようにワンタッチ方式で効率的に狙った情報に焦点を合わせることができるようになる。
(3) 高周波増幅
機能:原始情報の拡大   留意点:雑音除去
内容:同調後の微弱な放送波(高周波)を増幅する機能だが、同時に混入雑音も拡大してしまうおそれがある。
 この段階の情報処理では、雑音を消去するために負帰還(出力の一部を負の信号に変えて元へ返す)回路をはたらかせる。信憑性のチェックなど、原始情報に別の視点からネガティブフィードバック(負帰還)を掛け、雑音成分を打ち消す必要がある。
(4) 検波
機能:情報の整理   留意点:独自の理解
内容:受信した高周波は、人の耳に聞こえる音声周波数(低周波)帯に変えられる。この機能では、自分や社内の誰もが共同で情報を活用できるように、情報マン自身が選択した情報を自分なりに消化する必要がある。
 よく『生データ』と称して、採取したままの情報(ファクト・データ)をそのまま提示する例をみる。が、情報マンの個人的な知識水準が消化剤として作用さ せてもよいから、自分自身のファクト情報に対する見解をもたねばならない。このため、社員は常に情報マインドを高め、見聞を広めておかなければならない。
(5) 低周波増幅
機能:情報の加工   留意点:共通性
内容:検波情報を文書や数値、図形化など、スピーカが鳴らせる電力まで高めるように増幅する。
 情報加工ミス等、内部で発生する雑音は電力が大きくて(思い込みが強くて)取り除き難くなるため、ここでも強力な負帰還回路をはたらかせる。しかし企業情報活動の雑音防止策としては、社員の個人的な情報処理能力を高めるよりほかに方法はない。
(6) 録音
機能:情報の保管   留意点:整理整頓
内容:メモリーの機能は、情報の取得と活用のタイミングおよび活用場面を調整するため、将来の活用を見込んでコード番号などをつけて整理したうえで保管する。この記録は、社内共通のデーターベースであり、将来、再加工できる原始情報でもある。
(7) 再生
機能:保管情報の再生   留意点:確実性・迅速性
内容:「必要なときに必要な情報を探して」取り出す検索と再生は、録音と組みになった機能。検索の迅速性と確実性が、再生機能の要件となる。
(8) スピーカ
機能:情報の活用   留意点:接続性
内容:アンテナに入った原始情報を最終的に活用する、マン・マシン・インターフェイス(人と機械の接続)機能。
 スピーカとは「無駄なおしゃべりマンの代名詞」だったかもしれないが、社内では大いにこの称号に甘んじ、有益な情報を流そう。

● 情報機能も慣れのうち
 さてこうしてみると、情報処理とは何と「多段階で面倒」なものでしょうか。しかも、これらの機能の中のどれひとつ欠陥があっても、スピーカはよい音色で鳴ってくれません。
 ここで示した『情報機能の分析』は、あたかもスローモーションを見ているがごとく、もどかしいことでしょう。ですが実際に優れた情報マンは、誰でもこれらの機能をプロセス別に「無意識のうちにも消化」しているものです。

〔人がもたらす情報力〕

● みんなの情報力を合わせた会社の情報力
 会社という組織的な生きものは、社員である組織構成員個々がもたらす情報を組織全体が認識し、共有化することによって取得できます。社内情報を共通化、共有化する制度的手段は、常識的ですが図表3-5のようなものになるでしょう。
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 しかし組織情報の共通化、共有化の中では、階層別の機密情報というものがあるものです。機密のレベルは、ビジネス社会の常識の範囲を適用するほかに、慣習や会社別の規程を以て、階層間の漏洩がないように配慮します。

● 職務階層別の共有化
 新商品企画に関連する情報では、特許などの『工業所有権にかかわる情報』は、出願前に漏らすことはできません。さらに新商品発売前はマーケティング戦略上、自社の狙いどころを漏洩しないことも当然です。
 そのために、特定な部門や階層内だけで『共有化の範囲を限定』する情報があるのは、組織的な生き物の本能として当然です。
 そこで、社員個人がもたらす日常的な情報取得手段はどうなっているかです。商品フレームの設定など、企画の初期的段階に必要な情報の収集は、図表3-6 に示すように、これも常識的なものになるでしょう。が、問題はこのような手段を、いかに有効に用いるかによって、人それぞれの情報感度が決まるということ です。
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● 泥臭い古典的な手法でも
 ちなみにそのポイントは「これらの機会」に「これらの手段」で得た情報を、前項に示したラジカセのたとえ的にいえば、最終的に『覚えておく』ことです。 例えば私が、コンサルタント活動に必要とする一般情報は、図表3-7のようなどろくさい手段で、十分に役立つプライベートデータベースを形成しています。
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〔対人情報の類型〕

● 人と人との情報ネットワーク
 個人的な『情報活動の基本』になるのは、対人情報です。対人とは、お客さんであったり、先生、先輩、同僚、後輩、同級生、勉強会などサークルの仲間で あったり、ときには近所の人達さえもが対象になります。これらの人々と逢い、または電話やネットなどで「話し合ううちに得る情報」です。
 日常的な対人情報の取得に関しては、図表3-8に示すような「原則を守る」ことが大切です。誰しも、気を許さないと話し難いものですが、聞き手の気持ちで好ましい人間関係が築かれ、やがて個人的な情報ネットワークができてきます。
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● ネットワーク機会
 ところが通常のビジネスマンは「気を許す仲間を増やす」といっても、会社以外では同級生との交流のような狭い人間関係以外では、あまり拡張できるものではません。ですから仕事関係の同一系情報ネットワーク以外では、ビジネスマンの間でサークル活動がトレンドです。
 活動グループは、交換される情報が一般的であっても、話題は豊富です。その場で新商品企画にかかわる『直接的な話題』は、めったに出ないかもしれませんが、聞き手の態度によっては、多くのヒントが与えられるものです。

〔企業間情報の類型〕

● 個別企業間のネットワーク
 このサークル活動を企業レベルで行うのが、異業種交流活動だと思います。ただ『融合化法』などにみられる官製の異業種交流に関する発想は、「技術がありさえ」すれば「何とかなりそうだ」という、プロダクトアウトの匂いが気がかりです。
 新商品開発が、マーケットインの指向ならば、異業種交流は当然、『市場の一般的な動向』を知るところから出発しなければなりません。その意味で、異業種交流は「会社レベルの情報活動の一環」と位置付けておいた方がよさそうです。
 異業種交流グループは、図表3-9のような構成で成り立つ進行ステップがあるでしょう。このプロセスにおいて、「社長の飲み会」だと冷やかされるかもし れません。プロダクトアウトに比べ、マーケットイン思考の実践は、じれったいものですから、成果を急がないことも大切です。
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事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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