ものづくり事業部

企画書 第5章アイデア評価 1~3

成功する企業には新商品開発がある

5.アイデア評価は企画書で  - 新商品には優れた苗だけを -

5-1.新商品企画書のつくり方

〔企画書の役割〕

● トップに惚れさせる文書
 新商品イメージが描けたら、新商品企画のプロセスは一歩進めてアイデア評価のための企画書づくりのステップに移します。
 新商品開発は、「よし、何が何でもこれを開発しよう」という『トップの強い意志』の存在が絶対的な成功要因です。つまり、新商品開発によって「損をするのも儲けるのも」すべての結果責任を負うトップが、新商品開発について「その気に」ならなければ、せっかく開発したアイデアが活かされないのは当然です。
 トップとて、人間であるからには『好き嫌い』もあるものです。アイデアに惚れ込むようでなければ、『その気』が興りません。そこで提案者は、アイデアに 惚れ込ませるに十分な情報を『企画書の形式』で提供するのです。いわば企画書は、トップに対するアイデアのお見合用文書です。

● 仲間の同意も得る
 さらに文書になった企画書は、組織内の人々に発案者の『意図と内容』を知らせます。お見合いに差し出したアイデア姫の良さを、親戚縁者に知ってもらうのと同じです。ですからその内容は、企画書の「書式に設定」しておくと便利です。
 新商品開発は、企業経営の『命運を分ける大事業』ですから、開発が実行されたら初期の狙いと結果との差異を分析し、PDCAサイクルを回します。初期の企画書は、次の反省材料にするための資料でもあるわけです。これら企画書のもつ機能は、図表5-1にまとめます。
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〔企画書の要件とスタイル〕
● 発案者の意図を的確に
 まず企画書のタイトルです。必ずしも名称は『新商品企画書』でなくて開発計画案』『新商品提案書』『アイデア審議 書』でも、気張らずに『新商品構想メモ』でもいいのです。要は「トップの承認」と「社内認識」を得る要件が備わっていればいいのです。が、“書”というか らには、『記録』『保存』の機能を備えた一定様式でなければなりません。
 企画書の要件は、常識的に5W2Hの形式で整理できるでしょう。図表5-2のとおりです。
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● 常識的事項が書けないようでは
 企画書の要件は常識的といいながら、この表をご覧になると「ペテンにかかった」ように感じるかもしれません。
 つまり企画書の諸条件は、常識的であっても「書き方は簡単」でないとの印象です。たしかに各項目は、新製品イメージを多面的に検証しなければ、埋めていくのが難しいことばかりでしょう。それを承知で、ここまで述べてきました。
 新商品イメージは、頭の中で描いた『仮想の商品』です。これを実際に『売れる新商品』に仕上げる前に、これら企画書の中に示す項目だけは、調べて検証しておかねばなりません。
 そうでないと、企画書づくりの目的が果たせず、「アイデアは開発した」が「新商品は企画できない」ことになります。このことは『新商品企画』が『アイデア開発』と同じではない証拠です。
 企画書を巡ってトップ・サイドでは、リスキーな新製品開発の「意志決定をする」のですから慎重です。
 だからあれこれと突っ込みたいところですが、その論点は必ずしも理路整然としているものではありません。提案サイドは、企画書づくりに苦労しすぎたが故に、評価段階で不採用になりそうだと、感情的にも引くに引けなくなるかもしれません。

● 第一次のアイデア評価
 このような提案者と評価者の『立場の違い』から、第一次のアイデア評価を受けるために「どうしてもこれらの各項目」が、ざっと埋まっているだけの新商品企画書を考えます。それが図表5-3です。
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 この例示は、書式に図表5-2の5W2Hの要件をまとめただけです。たった一頁の企画書で物足りなければ、提案理由ともいうべき企画書を「書いた背景」 の情報は、詳細な別紙にまとめて添付します。これはいわば、提案テクニックとでもいうところのコツです。が、企画書自体は一枚程度にまとめたほうが、訴求 力が増すというものです。

〔企画書づくりのコツ〕

● 第二次、三次評価があると思え
 アイデアの実現性という緊張感からか、企画書づくりは難しく考えがちです。が、企画書づくりのコツは「完璧な企画書を作ろう」と気張らないことです。完璧な企画書が、アイデアの実現を保証するはずがありません。
 いい企画書は、新商品イメージが、的確に表現されていることです。決して新商品の、実現性を表現するだけの書面ではないのです。むしろ実現性を強調したいばかりに、『誇張した情報』を盛り込まれるのは困ります。
 提出される企画書の数が多いと、その中から「ベストを選択しようとする」のは必然です。が、一挙に「ベストを絞り込む」のは機会損失を招くおそれもある ので、第一次選択のほかに第二次、第三次と落としていかざるをえないのですから、第一次から『誇張』までして気張る必要はないということです。

● 大雑把な見積でも必要
 書き方のコツは、まず「アイデアの強調項目」のアピールです。そのアイデアの目玉が、狙いとする『性能や機能』にあるのか、『市場規模』が大きいのか、『開発費』が安上がりになりそうか、『短期開発』が可能なのか、といった強調点です。
 次は、狙いや経済性の項目を「およそ、この程度」という概算であっても、必ず埋めることです。企画書をつくるため、随所で必要になってくる『予測はアバウト』で記入するわけです。
 アバウトに見積もってもよい理由は、これからの新商品開発プロセスにおいて、何度も再確認を繰り返してアイデアの『確実性』を検証しなければならないからです。
 会社は激動する市場環境の変化に適応する新製品を、効率的かつ適時に開発したいでしょう。もちろん開発リスクは軽減したいところですが、リスク回避は、「どこまでやれば大丈夫」か、完璧なレベルがわかりません。にもかかわらず、そのときに得られる情報は『確度』と『タイミング』との兼合いで価値が変わってきます。
 情報の確度を上げるために「金と時間をかける」か、とりあえず情報収集の「迅速性を優先」するかです。ケースによって、この兼合い具合は変わるでしょう。が、タイミングを外すと新商品開発が成功し辛くなるものです。
 ですからアイデア提案に用いる企画書では、リスクを意識しつつも「拙速を尊ぶ」精神が優先されるべきであろうというのです。

● 根拠のない予測と大胆さは違う
 情報が完全に集まるまでは、アイデアをトップに提案し、評価が貰えないのでは、次の段階に進めません。企画書づくりに「時間を掛け過ぎ」ていては、好機を逸するおそれがあります。
 またどんな会社でも、数あるアイデアを「全部採用できない」はずですから、全ての提案に詳しいデータを揃えていると、かなりの部分の「調査費がムダ」になるはずです。
 企画書づくりの段階は、迅速性を優先した情報収集をもとに、大胆な予測をするわけです。が、まったく『根拠のない予測』と、『単なる大胆さ』とは違います。拙速のうちにも集めた情報に、勘(K)、度胸(D)、運(U)を大いにはたらかせようとするわけです。が、K・D・Uについては後述することにいたします。

5-2.アイデア評価のポイント

〔入・出力の大きさを見積もる〕

● 投入と成果の両方がポイント
 アイデア評価は、企画書に基づいて行われます。企画書に書かれている商品と市場の5W2H情報は、投入成果の対比を評価基準にします。つまり、新商品の『開発投資や市場導入費の投入額』と、新商品開発によって『獲得可能な利益』の比較です。
 まず、投入のレベルです。開発投資額の大きさは、会社によって「投資し得る額」が自ずと決まります。が、はじめに「投入額は1千万円以内」といった、提案に対する評価基準があると、重大な「機会損失を招く」恐れがあります。
 本当に『儲かるアイデア』が提案されたのなら、「借金をしてでもこの実現を図る」のが企業経営の本領です。ですから投入額上限だけを基準にすることはありません。

● 開発成果の読み
 新商品開発事業のインプットとアウトプットの比率関係において、開発投資は過去の実績から比較的容易に割り出せます。したがってまず、開発成果の確からしさのほうを点検しなければなりません。
 つまり新商品開発の成果を利益におけば、【利益=販売数量×(単位売価-単位原価)】です。
 このうち原価は、過去の実績から比較的容易に想定できます。しかし新商品に、どれくらいの「販売価格が設定できるか」となると、需給関係の中で競争条件の変化があるため、容易に推測できません。
 販売数量は、新商品の対象市場に存在する『総需要』と、自社商品の『占有率』で決まります。この「占有率を上げるため」に新商品を開発するのですが、売価の設定はその「占有率を決める要素」という、因果関係があります。
 つまり価格競争下において、低価格なら占有率は上がり易く、高価格なら下がるであろうことは容易に理解できます。が、客観的なデータベースなどを引用し、総需要の調査ができれば、市場占有率を配慮した「販売数量の予測」は、売価設定ほど難しい問題ではないでしょう。

● 成果の稼動期間も配慮
 仮にこの見積もりが、いくら難しい問題であっても、具体的な計画を立てるときは「開発目標として設定」しなければならないものです。ですからアイデア評 価段階では、企画書に記載された大雑把な総売上高予想から、開発成果を推測するよりほかになくても、仕方ないでしょう。この売上高予想は、開発業務の実行 段階では販売目標にもなるのですから。
 ただ同じ売上高でも、どの時点をとって比較するかの問題が残ります。このため、複数の企画を比較評価する場合は、開発費を売上高によって、何年間で『取り戻せるか』を判断し、相互の優劣を決めることがあります。回収のパターンは図表5-4の概念です。
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〔絶対評価と相対評価〕

● 投資効果ゼロの危険性
 企画書に記入される情報は、荒削りの不完全なものにすぎません。ですから評価者の方でも最後は、予測の項で述べた図表1-11のように K、D、U つまり『勘』と『度胸』と『運』を頼って判断せざるを得ない要素が、多分に含まれています。
 技術者やセールスマンへの『教育投資』や、広告宣伝費のような『販促投資』は、投資成果を予測するのが難しい部類です。その代わりここでは殆ど投資効率だけが問題です。つまり投資額の決定も含め、効果的な『方法』や『手段』、『タイミング』の選択が、投資効率を決めるというわけです。
 しかし開発投資の場合は「完全に失敗する危険性」さえあります。つまり教育や販促への投資は、効果に大小があってもゼロということはないのです。が、開 発投資はONかOFFであって、効果がゼロのケースさえあります。平たく言えば、開発が完結しなかったり、開発した新商品が全く売れなかったりすることで す。
 だけどこのような開発投資の不確定要素は、完全にカバーできる『最適な評価方法』がありません。

● 比較評価法をとるために
 そこで実務的には、数ある企画の『代替案』の中から「より好ましいアイデアを選ぶ」比較評価法が使われます。アイデアは「多ければ多いほどよい」とされるのも、選ぶ範囲が広がって「成功の確率があがる」であろうというわけです。
 一般的に代替案の評価理論は、絶対評価の正当性がいわれます。が、提案アイデアを絶対評価すれば、たったひとつの提案も十分に審議できます。また多数のアイデアが、開発能力を越えてまでも、全部採用しなければならない事態も起こります。
 逆に会社の開発投資に余裕があっても、採用できるアイデアがない場合もあるわけです。絶対評価には、「次善の案」というものがないから、ここはやはり相対評価でいくのが常識的になるでしょう。

● 被評価者の態度
 しかし評価を受ける提案者は、「絶対評価を受けるつもり」でなければなりません。提案者側の意識が相対評価なら、誰しも自分のアイデアが可愛いから、採用案と非採用案との間では、『提案者同士の葛藤』が起こります。
 この葛藤は、競争社会で「今度こそは自分の案を」とばかり、有効にはたらく場合もあります。が、多くの場合は「社長の親戚だから」や「どうせ俺なんかは」といった妬みや僻みなど、好ましくない方へ向かう可能性が大きいのです。
 葛藤が起こる理由は、責任と権限において『評価を受ける者』と『評価する者』の意識が混同されることです。例えばベ ンチャービジネスなどで、ワンマン社長が評価者と非評価者を兼ねる場合は、厳しい絶対評価をしないと、『己の愚案』をもって大切な経営資源を消耗させてし まいます。ときに第三者的な立場から、そんな事例も診たものです。

〔開発リスクと評価基準〕

● ワンイヤー・ルールの中のタイムラグ
 アイデア評価では、『時間の要素』を考えます。つまり図表5-4のように、開発投資と成果の間にタイムラグがあるため、両者の比較評価には時間差を配慮するのです。
 企業会計がワンイヤー・ルールに則って、1ヵ年以内に決算しなければならないのですから、研究開発費は『繰延資産』にしないかぎり期中の損失です。が、多くのケースで開発成果のほうは、2年後とか3年後でないと利益に計上されません。

● 開発リスクの特性
 さらに投資資金には、回収終了まで利息等の資本コストが追加されます。同時に、時間の経過とともに、『期間原価が増大』するばかりか『強力なライバルの発生』や『急激な市場環境の変化』など、開発リスクはますます増大するのです。
 ところがリスクの大きさというものは、容易に評価できるものではありません。が、図表5-5のように考えることによって、リスクが「時間との関数」で表せるであろうと思っています。
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● 評価態度の方向
 リスクに関連した入出力比の評価基準において、開発期間という時間要素を絡めると、『短期決戦型』と『長期展望型』とでも言うべく、二つの評価態度が方向付けられます。図表5-6の区分です。
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 新商品開発には誰しも、これこそ「わが社の救世主」といわんばかりに意気込むところがあって、かっこいい長期戦展望型の評価態度に走りがちです。
 危険を冒せば冒すほど、儲けも大きいというのは「シルクロードのキャラバン隊に通用しても」現代の新商品開発には通じません。ですから長期戦展望型の勇ましさが、必ずしも「上手いアイデア評価」というわけにいかないのです。
 この評価態度によって意気込み、新商品開発に経営資源が分散することによって、現在の企業を支えている『ベースの製品』や『売れ筋商品』が弱体化でもすれば、勇ましい意思決定どころか惨めなものです。
 しかし反面で、アイデア開発は「大いに夢を抱け」とハッパをかけてきました。ですから、評価段階になって「夢を砕くような現実」に戻ってしまうのはどうでしょう。

● この意思決定こそ経営の醍醐味
 およそ経営の現実は、技術者が『クレーム対策』だとか『特需への対応』『軽微な現場改善』などの、技術者からみれば『雑務』に追われている実態があります。
 正直なところ、新商品アイデアの「評価どころではない」というところかもしれません。しかし反面で余裕の有無ではなく、理想を追求するのが企業経営でもあるわけです。
 ですからこのような二つの評価態度から『短期の防御』と『長期の攻撃』のごとく、開発テーマをミックスして選ぶのが理想です。が、開発資源が不足がちの中小企業が、能力を遥かに越えた開発テーマを抱え込んだのでは理想どころか、消化不良の現実に悩むのも現実です。
 結局ここでの判断は、平たくいえば投入費用回収期まで「会社がもつか」ということです。それが会社の『リスク耐力』ですから、総合的な判断基準は会社を「永続的な発展」に如何に導くか。この意思決定に尽きるのではないでしょうか。

5-3.動機づけに活かす

〔評価票の作成目的〕

● 紙に残して何度もチェック
 アイデア評価は、記録に残せる『評価票の形式』で、ペーパーを用いて行います。が、企画書と評価票は、後世に残す意味合いが違います。
 評価の基本は『企画書の内容』を確認し、企画書相互の「利益率を比べる」ことです。が、テストの答案用紙に採点するように、企画書の中に直接「評点を書き入れる」のはいけません。評価票は特定のフォーマットを「別に準備」すべきです。
 企画書は時期を失することなく「アバウトの情報」で十分でした。これに対し評価票は、提案審査だけを目的にしていません。
 ある新商品アイデアは、評価結果に基づいて『新商品開発テーマ』になると、テーマの終了後に成果が現れるまで、長期間にわたって開発コストが掛かり続けます。つまり開発リスクは、増大し続けるわけですがその間、市場の環境変化を何度もチェックします。
 そして市場動向に急激な変化があれば、開発テーマそのものを見直すくらいでなければなりません。要するに開発テーマを評価し直さなければ、開発が終わる頃、売れる新商品ではないかもしれないのです。
 そこでチェックすべき項目は、テーマ終了までの「すべてを想定して網羅」しておくとすれば、そのチェック・リストが開発過程の各ステップで使えます。図表5-7-1,2は、その評価項目をリストにしたものです。
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 このチェックリストが、図表5-1に提示した5W2Hよりも、やけに細かくなっているのは、開発段階で変化が予想されるすべての項目を網羅したとはい え、ちょっと欲張りすぎたのかもしれません。が、実務的にどこまでをチェックするか、否かはともかくとして、これくらいの項目はあるべきだということで挙 げてみました。

● 評価票のフォーマット
 アイデア評価票は、このチェックリストをもとに作ります。もし評価ステップ毎に用紙を分けて作るなら、新商品評価と新技術評価が4ステップずつなので、8種類ができることになります。
 市場性評価と長・短所評価を分けるなら、全部で16種類にもなるため、自社で大切だと思える事項だけ、ケース・バイ・ケースで選んで利用してください。
 評価票に『項目』『ポイント』『方法』を全部記入すると、例えば開発見込みの難易度などをウエイト付けした『評点の欄』や、評価者の『コメント欄』が狭くなるでしょう。このため共通のチェックリストは全項目を網羅した一種類を作ります。
 そして項目以下の三つの欄は記号化し、用途別に8または16種類の白紙に近い評価票を作れば、窮屈ですがA-4版に納まり、記録や保管が便利です。
 また、短期決戦型の目で評価すべき新商品イメージと、長期戦展望型の目で評価すべき新商品アイデアは、「評定の日程を分ける」といいでしょう。そうすれば、両者の重要性を区分して評価できるのではないでしょうか。

〔評定の苦しみ〕

● 膨大な評価データ
 評点は評価票を前において、企画書を見ながら一件ずつチェックして付けます。が、実はこれがまた、大変な作業です。
 大きな組織では、部門ごとに一次評価をします。いくつかあるアイデア提案を、ある程度ふるいにかけた後に、選択されたアイデアだけを上層部にあげ、最終評価を求めることもあるでしょう。
 また評価者の側では、意志決定することも大変です。が、『開発』『生産』『営業』など、それぞれの「思惑が違う各部門」の関係者が集まって「小田原評定」に陥ってはなりません。
 中規模企業になると、評価票を『集め』『集計』し、結果を『再評価』するといった単純な事務作業だけでも、大変な量になるでしょう。が、これを機械的に 処理するだけでは、アイデアを「コンピュータ占い」か「人気投票」にかけているようなもので、当事者の意思が介在しなくなります。

● 遣りたいことを遣れれば
 会社にとってアイデア『開発』と『評価』の過程は、実務者を動機づける絶好のチャンスです。中には『下手の横好き』もありますが、一般的には『好きこそものの上手なれ』というのがものごとの道理です。
 研究開発など評価以後のプロセスで、担当者が「惚れ込んで提案」する場合は開発業務だけでなく、会社中に志気がみなぎって、業務全体の効率が上がるものです。何事も人間のやることは、気が入ってやれば上手くいくものです。
 開発者は自分で「やりたいテーマ」が、同時に「会社の目的に適い」、会社の「トップがそれを容認」する『三拍子揃った状態』が、新商品開発で最も大きな成功要因になることは間違いありません。まさに図表5-8に示すごとくです。
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● 説得と納得の兼ね合い
 世間にあるピソードには、開発研究者がトップの「反対を押し切り、夜中にこっそり実験を重ねて」新商品開発を成功させた。その結果、トップに「アイデアの素晴らしさを認めさせた」というような話もあります。
 また、おらがアイデアで「おらが開発したんだ」から、「利益の半分はいただく」などとの主張が、面白おかしくマスコミを騒がせます。が、この開発活動に伴う最終的な「結果責任はトップが負う」のが、厳然たる企業の論理です。
 平たくいえば「会社の経営資源を活用」して「開発活動を展開」した結果、「大損をして」も「大儲けをして」も、後始末はアイデアの評価者たるトップが執るのです。「大損の補償」をアイデアの提案者に追及することはないのです。儲かったら「半分もらう」が、損したら「知らん顔」なんてありますか。
 ですからどうしても、提案者と評価者の「イメージが一致しない」新商品アイデアのときは、「トップの意志を通す」よりほかにありません。その場合は、まずトップ主導で実務者を説得しなければなりません。これに対し実務者は納得という形で納めるべきです。

● 充実した社会人々生をおくりたい
 このときトップは、開発や市場開拓に現場ではたらく実務者を『説得するだけの情報』を把握しておく必要があります。トップの単純な好みや山勘で「損をするのは自分だから、命令に従え」と感情論で迫る説得はないのです。こんな情報不足の説得では、実務者の納得が得られるはずがありません。
 いくら「責任は自分でとる」といわれても、責任をとるのは経営者として当然のことです。そして部下が「感情論で強制された」と思うかぎり、結果的にその 新商品が成功しても後にしこりを残し、その後の生産にも販売にも支障をきたします。仮に失敗でもしようものなら、強制された方は「俺の人生どうしてくれ る」と開き直ることになるでしょう。
 開発担当者には、職務を通じて社会人としての『自己実現』を果たす権利があります。それが認められるような上下関係のあり方が、産業民主主義というものです。その主権者の一人としては、評価時点の意見は別にしても、納得したからには共に「成功の美酒に酔いたい」ものです。特に『今の若い人達』は、この人間として当然の気持ちをはっきりと表します。
 時代はいつであっても、新商品開発や新市場開拓は、意志をもった人間がやる仕事です。むしろ『評価者たるトップ』も『被評価者たるフォロワー』も、自分 の考えに対して葛藤が起きるくらいの『信念と誇り』をもって、けんけんがくがくの討論をするくらいであってもいいのではないですか。
 評価段階で、このように真剣なプロセスを進行させることが、評価票を作るうえでの『本当の意義』なのでしょう。そしてアイデアの評価者も被評価者も、十分に納得があれば次のステップである研究開発へと進まなければなりません。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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