ものづくり事業部

第5回 調達段階のコストダウン

製品に占める調達材料費を調べてみよう
 製品の開発から製造、販売までのステップでは、製品開発が終わると、図面や仕様書が生産部門に送られ、生産活動に渡されることになります。
 そして、まず製品を作るため必要な材料や部品を調達することから始まります。
 このとき、その製品の原価に占める材料や部品などの調達費用の割合について調べてみてください。 製造業の総費用に占める直接材料費、買入部品費、外注 加工費などの材料費の割合は、一般に50%以上を占めるものです。製品の組立に主体をおく大手企業の中には80%を越えるところもあります。
 これは、とりもなおさず製品のために発生する費用の中で、調達費に重点を置いて管理することが大切であることがわかります。
 また、調達部門におけるコストダウンの効果を考えてください。
 調達は、製造の前に実施されます。そして、コストを減らすことができた場合、その効果は、品物を購入したときにコストダウンを達成できます。
 これに対して、製造段階でのコストダウンは、製品を作ることができたときにコストダウンになりません。削減できた時間や減らすことのできた作業者を他の 製品を作るために振り向けることができたときに、コストダウンを達成できるのです。
 このように購買段階でのコストダウンの効果は、即効性を持っています。

 しかし、会社によっては、工場の現場の生産性に重点を置いて、作業に適さない社員を間接部門である調達部門に回すと考えているところがあります。
 これは、材料や部品などの調達活動は誰でもできる仕事だと考えているためであり、重要な役割を担っているという意識がないからです。また、バイヤー自身にも、多くの材料や部品を取り扱っているため、とにかく生産ラインに支障をきたさないことが優秀なバイヤーであると勘違いをしている 場合や忙しく材料や部品を集めることに注目してしまい、調達コストに関心を持って仕事をすることができないバイヤーもいます。
 1人のバイヤーが、1年間に買い入れる調達金額をみてください。バイヤーは、製品を作るために自分の年収の数十倍もの大きな金額を1人で扱い、会社を代表して仕入先と交渉していることを十分に認識することが必要です。

調達費用の中でもっとも重要な外注加工品
 つぎに調達品について考えてみましょう。調達品といってもその中身は、様々です。大きく分類すると、製品に使われる品目、製品を作るための設備機械や治工具、会社で使用する備品や消耗品などがあります。

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製品を対象に考えますと、原材料や副資材、購入品、外注加工品に分けられます。原材料は、鋼板や棒材、樹脂のペレット、木材などのことで、副資材クズ銑鉄、新砂などをいいます。
購入品は、規格品、メーカー品、市販品に分けることができます。規格品は、ボルト、ナットなどで、メーカー品にはモーター、電磁弁などがあり、市販品はパッキンなどがあげられます。

そして、もっとも重要な調達品に外注加工品があります。
 外注加工品とは、自社の図面や仕様書に基づいて、外部の取引先にその品目の製作をしてもらう品目のことで、鋳造品や鍛造品、ダイカスト品などの素形材、機械加工品、半完成品、完成品があります。
 これらの品目を購入するにあたっては、ある程度のその調達品に関する技術的な知識を持っていることが必要です。

相見積りの弊害を知って活用する
 しかし、私が多くの会社を訪問して、調達品のコストダウンの相談を受けますと、購買担当の方が、あまり調達している品目に関しての商品知識や加工技術などの知識を持っていないことに出会います。
 たとえば、モーターを購入していて、現在購入しているモーターは標準タイプかオーダーメイドタイプか、そのモーターについての競合先は何社あるか、それ は何という会社なのかといった単純なことですら調べないと答えられないといったことです。また、もっとも重要と述べました外注加工品については、「この品目は、どのような加工方法で作っていますか」とよく質問するのですが、「たぶんこのように作っているのでないか」とか、「分からない」という返事が返ってくることです。
 つまり、製作依頼をしている部品について、その作り方を知らないのです。このように状況で、取引先からの見積価格を何を持って評価するのでしょうか。

 このような会社の多くは、調達品を複数の会社に見積もり依頼をして、一番安価なコストを提示した会社を選ぶ、いわゆる相見積りをしています。その結果、外注先が固定してしまっていることもあって、限られた中での検討しか出来ません。また、取引先も、この状況を見透かして見積りを提示してくるようになります。
 結果的に、調達品の価格の妥当性が全く無くなって、異常に高く価格で買っていたり、仕入先が取引をやめてしまうような価格設定など起きてしまいます。
 このような相見積もりでのコストダウンは、もう限界にきています。

見積書の査定・評価の進め方
 まず調達品のコストダウンのためには、購入品目について、その中身である作り方について知ることが必要です。
 そのためには、まず取引先から提出される見積書をじっくりと見てください。
 見積書を見て、最初に何を確認しますか。当然、見積価格をチェックするのではないでしょうか。それでは、つぎに何を見ますか。
 見積書の明細は、どうなっているのかを確認するでしょう。

 外注加工品の場合によく見受けられるのが、見積もり単価の金額だけ記入されていることです。この見積書を見て皆さんは、その金額をどのように評価・査定するでしょうか。
 このように詳細が記載されていない状態で、コストダウンを進めようとしたらどうしますか。結局は、価格の比較しかできなくて、取引先に対して価格交渉で買い叩くか、お願いすることで値引きしてもらうしかないでしょう。

 また、多くの取引先に見積もりを依頼しても、受注できない会社では、「また見積依頼がきた。どうせ注文にはならないのだから適当に出しておけ。」という程度の話になって、真剣に見積もってはこなくなってしまうのではないでしょうか。
 このような方法が、限界にきているということなのです。
 このため、まず見積書について、しっかりとその明細を記入してもらうように改めることが大切です。

 そして、つぎは、自社では「この値段で買いたい」という金額を持つことです。
 皆さんの会社で算出・評価した金額を持っていれば、見積もり単価が高いのか安いのかも容易に判断できるでしょう。
 ただし、自社で算出・評価した金額は、その裏づけがしっかりとないといけません。裏づけによって、取引先との差額が明らかになり、差額を改善してもらうように促すとともに、より適正な価格による購入ができるからです。
 このように自社のコスト見積もりについての整備を図ることが、コストダウンに結び付くスタートになるのです。

資材・購買でのコストダウンのポイント
 そのためには、調達活動として以下のような前提条件を確認しておくことが必要です。pur2.jpg
1.なぜ、買うことにしたのか

 社内でつくるか、外部から買うかについての判断のことです。コストメリット、専門的な技術、生産能力の不足、固定費の変動費化など、取引先を利用する目的を明らかにすることです。

2.何を買いたいのか
 購入するにあたって、どのような状態で買いたいのかです。購入の範囲です。電子部品で買うのか、プリント基板に組付けたアッセンブリ状態で買うのかというようなことです。
 多くの会社が、部品単品ではなくアッセンブリ単位での購入を指向しています。

3.どうやって買うのか
 自社で直接購入するのか、取引先で購入するのかです。材料や電子部品などを自社で購入するよりも取引先で購入してもらうほうが、材料調達の手間を省けます。しかし、安価で入手できることがポイントです。

4.どこが注文するのか
 注文は、本社の購買部門か、工場の購買部門が発行するかということです。主に複数の工場を持つ会社で検討されていることなのですが、同じ部品や材料をどの工場で購入しても同じ価格にする、まとめて本社で購入することでコストダウンを図るのかといったことです。

5.取引条件はどうするのか
 注文の方法、納品の方法、発注ロットを設定、配送のための条件、検査、支払い方法などを取り決めることです。一般には、買い手側の条件で決まるものですが、売り手側の提案で調達コストを引き下げることができることもあります。
 これらを整理しておくと、調達品のコストダウンを図る上で、まず見直すべきことになります。

情報の取捨選択が大切
pur3.jpg 経営に必要な要素として、人、物、金(経営の3要素)と言われますが、現在では、これらに情報を加えて、経営の4要素としていることが多いようです。
 購買活動でもこの情報は、非常に大切な要素の一つです。新聞や雑誌、テレビなどから豊富に提供され、とくに現在では、インターネットが積極的に活用されています。そして、購買活動では、この情報に関して社内と社外の両方から入手できる重要なポジションにあります。社外の情報には、調達する品目に関するものだけで はなく、それらの品目を扱う業界全体の動き、企業の競争関係や競争上の利点・欠点などのポイント、技術的な動向と今後の流れなどを知ることができます。
 とくに、取引先を通じて得られる情報は、新聞や業界紙などに掲載されて、多くの人たちの知るところになっているものではなく、その業界や製品に関する生きた情報であり、最新の情報を入手できることができます。

 このように多くの社外の情報が、調達部門を経由して会社に入手できるのです。したがって、他社に一歩先んじた購買戦略を考えるためにも、調達部門から得られる情報を大切にするべきです。そして、収集した情報を取捨選択して、自社に重要な情報を整理することです。これらの情報は、とくに価格競争の優位性に大きな影響を与えるものです。

新規の取引先開拓に努める
 従来多くの会社では、厳しい価格競争に対応して、調達する材料や部品を直接メーカーから購入する傾向が強くあります。これは、代理店を経由すると、代理店の利益分が購入価格に上乗せされて、コストアップになるのではないかと考えたるからです。

 しかし、本当に直接メーカーから調達するこが、ベストな方法なのでしょうか。
 大手の材料や部品メーカーの代理店のしくみを確認してください。代理店のしくみの中には、お客様への納入価格を決めて、それから代理店との仕切価格を設定している会社もあります。また、総代理店では、値崩れを防ぐために、価格統制をしているところもあります。この実態を知ってください。
 そして、取引先の自社に対する依存度(購入金額)を確認すること大切です。依存度が高ければ、無理な要求をしても対応してくれるでしょう。しかし、取引先から見ると少量であると、無理を聞いてくれることは難しいでしょう。
 購入価格だけに目を向けて、取引先について理解をしていないと、納期通りに品物が入らず、いつもバタバタしながら、品物を集めることになってしまうのです。
 新規の取引先開拓を進めているとそれらの情報を知ることが出来ますし、新たなコストダウンの道を探すことにもなります。

有利購買による取引先の整理
 相見積もりは、ある特定の品目について複数の取引先から見積書を提出してもらい、比較検討して、安価な購入先を決める方法であると述べました。この相見積もりは、調達する製品知識に乏しくても容易に実行できる点から、一見すると有効な方法に見えるのですが、あくまで現在取引のある会社の範囲内での比較です。
 日本全国を見たならば、その品目を買える会社はたくさんあります。また、海外調達も盛んに行なわれています。もしかしたら、それらの企業の中に、もっとその品目を安く買える会社があるかもしれません。いやあるはずです。購買部門では、このような考え方を忘れてはなりません。
 そして、まずは、自社の現在の取引先の品質や納期、価格、技術力、特徴、経営状況などの水準を知っておくことです。
 また、過去あるいは新規に紹介された会社も、同じ項目について整理しておきます。そのうえで、自社の現在の関係のあった取引先情報とします。
 この情報は、将来自社では、どのような水準の会社と取引をしていくのかといった購買政策を含めて検討していくために重要になります。
 そして、新商品の開発に伴って必要になる技術やサービスなどに役立てることもできます。
 このようにしておけば、普段の購買活動では、どの取引先から購入したら有利に購入できるのかが明確になり、有利な購買活動が進めるのです。
 これが、調達品のコストダウンへとつながっていきます。

機能の視点から捉える価値購買
 ここまで調達品を品物という対象にして考えてきました。ここでは、別の視点から、調達品を考えたいと思います。
 それは、その品物のはたらきという機能の面から考えます。調達品を見て、「それは、どのような機能を持っているのか。」という視点から、その機能を満たす安価な代わりの品目を検討することです。
 これは、価値分析(VA)という言葉で紹介されています。機能の視点からのとらえ方は、「その品目の何を買っているのか」ということを考えます。

 事例を掲げて、考えてみましょう。
 昔の車のバンパーは、金属で作られていました。そのバンパーを機能の面から考えると、衝突の衝撃を和らげることです。
 その結果、現在のバンパーは樹脂に置き換わり、コストダウンを達成しています。
 このように購入する品目を機能面から考えることによって、コストダウンを導き出すことです。
機能面の検討は、設計段階でも進められていますが、製品や加工技術などに関するさまざまな情報は、外部と接している購買部門が一番入手しやすいものです。
 それらの情報を活用して、機能面からコストダウンを図るのです。


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ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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