1.コストは人によってつくられる
1-2 コストダウンは人間の本性から
● 儲かっていれば忘れる行為
ものづくりのベストコストを達成するためには、もちろんコストダウンという企業活動の徹底が不可欠です。ところが「会社が儲かっている」ときは、どうもコストダウンに熱が入りません。
それは会社の仕事において、コストダウン最大の目的が利益の確保にあるからです。つまり「世間の景気が良くて」利益が出ていれば、売上増進のほうに注力するわけです。
コストダウンは、必ずしも「楽な仕事」ではありません。このため、利益獲得目的が『他の方法』で達成できれば、あえて辛い仕事に取り組もうとしないのは道理です。
ここで仮に『10%の利益率』で経営している会社が、『10万円の利益』を増加させる必要が生じたとします。このとき同じ利益率が保てる条件下で『売上を増加させて』これを得ようとします。もしも100万円の売上増が図れるなら、90万円の追加コストは要りますが、目的すなわち10万円の利益増は達成できます。
しかし逆に、売り上げ増が見込めない条件下でも、『10万円のコストダウン』をすればそのまま目的の利益増につながります。つまりコストダウンは、大変な仕事に違いないのですが、図表1―1に示すイメージのような利益効果を生むわけです。
逆に10万円のコストアップが、10万円の利益減少に直結するのは必然ですから、それを売り上げ増でカバーしようとすれば、もっと辛い仕事が加わることになるのです。
● 覚悟して絶対性に挑む
どんな会社も、苦しくなってから「コストダウンを考える」傾向があります。たしかに、厳しいコストダウンの取り組みには「何が何でも不況を乗り切るぞ」といったような覚悟がいるものです。が、それで達成したコストダウンでも、その時点で「活動した」という実績は、後々までも残るものです。
コストダウンは、不況がきてから急にやろうとしても、直ぐに効果は現れません。そこで不況期には、手っ取り早くでてくる手段が『人件費の削減』です。が、そんな安易な方策は、不況期の一時的な企業防衛策になっても、決してコストダウンではありません。それどころか『賃金カット』や『人員整理』をすれば、会社はパワーダウンするのですから、長い目でみれば企業防衛策とは逆行です。
いうまでもなく人件費にかかわるコストダウンは、作業の方法を工夫したり、改善したりすることによって「仕事の量そのものを圧縮」する活動でなければなりません。
仕事量を圧縮しても、従来と同等以上の生産効果を生むのであれば、これはたしかに作業改善によるコストダウンです。この理解は、コストダウンが「不況対策だけではない」ことの証拠にもなるはずです。
コストダウンは、他の生産要素に比べると絶対的に「何が何でも安くつくらなければならない」のです。つまり『高級品』であろうが、あるまいが。『儲かって』いようが、いまいが。『品不足』の状態であろうが、あるまいが。コストダウンそのものは、図表1―2に示すとおりの絶対性をもっているということです。
● コストダウンの手立ては仕事の中にある
コスト自体は、利益と相対関係のない公共事業や消費生活でも、人間が生きていくすべての場面で発生しています。が、およそコストと認識される物資や労役・サービスなどの資産は、その『使用』や『消耗』または『消費』される量が、引き下げ努力の対象になります。
人々の生活に『有用な資産』を有効に活用することは、人類の本能のようなものです。ですからコストダウンは、社会経済的な富の根源を守る『絶対的な行為』です。企業はコストダウンという経営行為に「努力を払う」からこそ、社会にその存在を認められるのです。
たしかにコストダウンは、企業にとって利益確保の決め手に違いありません。しかしこの経営行為は、図1―3に示すように、企業活動のあらゆる側面に決め手を与えているのです。これらの決め手が、不況期の企業防衛策になることは、もちろんです。が、あくまでもコストダウンという行為そのものは、人間の本性からくるということです。