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成功する企業はベストコストをつくり込む(10)

2.コストダウンはインテリジェンス

2-4.工学と心理学のドッキング

● ありえない計算結果
 狭義のコストダウン機能は、ものづくりの現場で製造原価を引き下げることですから、技法の主力が理工学的なテクニックになるのは必然です。図表2―4の工学的技法のジャンルで示しましたが、たとえばOR(Operations Research)などは、どれも数学的な論理展開があって、高度な響きを感じます。

 しかし実務的には、各々の技法がどのように適応されるかとなれば、いろいろとわからないことが起こります。たとえば資材調達で、ORの教科書どおりにいえば最適ロットサイズの計算は、図表2―7のようにいわれます。 ところが実際にこの計算をやってみると、常識的に考えてとても実行できないような、大きい数値がでてしまいます。

 その原因は明らかに、計算根拠となる『U:単位あたり発注経費』や『I:在庫費用率』などのデータが不足していることです。が、多品種少量生産を行っている一般の中小企業などが、その都度大きく変動する状況下において、的確なこれらのデータを拾い出すのは、とても実務的な作業といえません。

● コストを発生させている人々
 それにしてもOR自体が、実体原価を下げてくれるわけではありません。その点は会計学的手法と同じ事情です。これに対しIEVEさらにその前段のVAは、実体原価そのものにはたらきかける直接的な技法です。またこれらの技法は『工学的』と呼ばれますが、製造業以外の分野でも有効です。

 その点で、残る分野の心理学的技法は、実際にコストを発生させているコストダウンできる人々に直接はたらきかける強みがあるのです。
 ここで「コストを発生させている」というのは、ベストコストという筆者の造語が「再考にコストを掛けた贅沢品」と誤解されかねないのと同様に、何だか「悪いことをしているような」言い方です。
 しかし実際にコストを発生させているのは、現場で仕事をしている人々に違いないのです。コストの発生源だからこそ、その人々が「コストダウンできる中心人物だ」というわけです。
 ですから、そんな心理学的技法が有効でなければ、その会社にはコストダウンができる人がいなくなるといっても過言ではないのです。

● 人は人としてはたらいてもらう
 ただ、コストダウンできる人々は、血の通った『生身の人間』です。必然的にコストダウン技法の方も、機械や材料といった物体と同じ使い方はできません。

 たしかに、1910年代のF・W・テイラーの時代なら、意志をもった人間が機械的に扱われる能率向上技法が体系的技法の始まりでした。が、図表2―8にあるように、人間に対する考え方も徐々に変わってきたことは、経営学史が示すところです。

 コストダウンできる人々を対象にした技法は、工学的技法などと違って『泥臭い』イメージをまぬかれません。が、この泥臭い方法の遂行に、世の経営者達は悩みます。反面、この技法が比較的うまくいくのも日本的経営の実態なのでしょう。
 ですから、ちょっと古い話になりますが、TQC活動・小集団活動の提唱者であったデミング博士は「日本が第二の故郷」と思えてくるのではないでしょうか。

● 実効をあげるのは合わせ技
 それはともかく、どこの会社でもコストダウン手法の『合わせ技』を用います。ラインの業務でコストダウンに取り組んだり、日常的にVA活動を重ねたりするのです。

 一方では、会社全体の一般社員を対象にTQC活動や、改善提案を奨励する提案制度などを合わせます。また会社内に『ビラ張り』や『場内放送』をし、『朝礼』『夕礼』などとも合わせて、コストダウンできる人にはたらきかけるのです。
 しかしそのはたらきかけは、コストダウンに不可欠の『できる人への意識高揚』や活動への『きっかけづくり』多数の人々による『アイデア開発』などの面に作用することが目的になるわけです。
 実際にコストダウン・ターゲットに「手を加える」のは、やはりコスト発生現場の改善活動に委ねます。さらに技法面では、工学的技法を駆使した改善活動でないと、実利があがりません。
 心理学的技法については、特別に奇抜な方法があるわけではないので、両技法の『合わせ技』が実際の成果を生むのです。

2-5.提案制度の成果を追う

● コストダウンできる人々の達成感
 心理学的技法のような、従業員の『視聴覚への訴求』は、有効性が十分に想像できます。その反面、通常はムード先行で精神論が先走って、どれくらいのコストダウン効果があったのか、かりにくいものです。その点、実効が『数値で読める』提案制度は、コストダウンできる人々に達成の喜びをも与えます。

 もちろん提案内容は、どこでも同じように玉石混交です。が、コストダウン効果の積み重ねは、相当額の数値にのぼります。
 ある体験の集計では、改善提案によるコストダウンは意外や意外、ラインによる業務上のコストダウン成果の1.05倍、VAなど工学的技法を用いた効果の1.28倍にも達していたのです。
 たしかにこの数字の出し方には、報告相互の『ダブリ』や効果が現れ集計されるまでの『時間的なズレ』など、怪しげな問題が残ります。しかしこの際は、なぜこのような結果がでるかを考えることが大切です。

● 多くの目でコストダウン・シーズをみる
 コストダウン・シーズ(種子)は、企業内外のどこにでもあるわけです。図表2―9に示したのは、ある中小企業で「こんなところにもシーズが探せる」と、みんなで寄って集って拾い上げた事例です。

 このようにコストダウンに育てられる種は、身の回りにいっぱいあり、誰でも見つけられるものです。ですから、コストダウンの「意識を高め」ちょっと注目すれば、数々の改善案がでてきます。
 コストダウン・シーズが多く見つかる要因の第一は、参加者数の違いからくる『情報量の多さ』です。会社にいるみんなは、誰でも、何らかの形式で「コストの発生」にかかわっているのです。
 作業者がもっている自分自身の工数が『直接労務費というコスト』であるのはもちろんのこと、間接要員が「トイレのムダな電気を消す」のも、すべて「コストの発生」に関係があるということです。
 第二の要因は、注意力の集中です。多くの人々が意識を高め関心を寄せて、身の回りの仕事で実施する『小さなコストダウン』の集積が、大きなコストダウンになるのです。
 また第三の要因は、そういった現場の改善努力を制度的にきちんと評価し、全社員の前で顕彰してやれることが、コストダウン・シーズを見つける「励みになる」ことです。図表2-10は提案制度の有効性を要因分析図にしたものです。さらにこの要因は、心理学的技法のすべてに通じる『共通事項』であるはずです。
● 提案制度運用の当事者の態度
 提案制度自体は『品質管理』でも『労働安全衛生』などでも、作業改善のどのような分野にも適用できます。が、それらに比べてコストダウン課題は、経済的効果がきちんと計数で評価できるため、制度として最も有効にはたらきます。その根拠は、コストダウン以外の案件では実施提案が難しく、アイデア提案になりがちだということです。

 現場が発するアイデアは、全員参加の糸口に違いないのですから、アイデアの「発生自体は貴重」なできごとです。が、実施条件が難しいアイデアが生まれた場合など、発案者が達成感を得るところまでは、容易に到達しません。
 ただコストダウンの場合は、その対象に直接『タッチできない人達』から、コストダウンが『できる他の人』へ寄せられるアイデア提案は、できるだけ高く評価するべきです。そのアイデアは発案者個人が実現できなくても、グッド・アイデアは『会社の財産』ともいうべきコストダウン・シーズですから、組織を通じて『実施を検討』させればよいのです。
 また『提案推進委員』など提案制度の運営にあたる者は、検討に相当しないような愚案と思える提案であっても、誠意をもって提案全部に目を通すべきです。
 案件の内容がわかりにくい場合は、提案者に直接事情を聴取するくらいの行動力が必要です。そして取り上げられなくても、必ず次の提案を奨励することです。
 しかし、このあたりの舵取りを間違えると、他の部署から現場への讒言に等しい、批判的な意見提案が出る危険性をはらみます。世の経営者たちが、心理学的技法の有効性を認めつつも実施段階で悩むのは、この辺りの事情があるためだと思います。

● 継続こそ力になる草の根運動
 どこの会社も同じ現象ですが、提案制度のような草の根運動には、制度自体がマンネリズムをきたすことです。この活性化対策は難しいのですが、制度がマンネリに陥ったときは、一旦休眠することです。ある期間をおき、リニューアルするのです。

 ただし休眠中は必ず、定常的な『TQC活動に移行』するとか、一時的なコンテストなどの『イベントを開催』することによって、他の心理学的諸制度を継続設定するのが条件です。そうでないと、提案制度は休眠でなく、完全な中止となります。
 一旦中断すると、容易に回復しないのも心理学的技法の特性ですから、制度が休止のままでは、大切なコストダウン技法のひとつを失います。ですからこの技法は「改善提案規程を全面的に改定」するなどの手を打って、あたかも新しい制度をつくったような形式で、継承し続けなければなりません。

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