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成功する企業はベストコストをつくり込む(17)

4.人の知恵にみる標準化

4-5.固定費の扱いにはコツがある

● 物指しを作り直すわけ
 標準原価も原価に違いないので組立型製造業でいうと、原価要素は『原材料費』『外注加工費』『直接労務費』『製造間接費配賦率』といったところで構成されます。文字どおり、標準原価は原価の標準なので、予め定められたこれら原価要素それぞれの『標準値』が全体を構成します。
 本来、標準原価は財務会計において棚卸資産を評価するために設定するものです。要するに価額変動のある『原材料や製品・商品の在庫高』および『半製品や仕掛品の在り高』が、それぞれ「どれくらいに評価」されるべきかを、予め決めておくための『標準的な金額』のことです。
 この標準金額は、決算に当って図表1-5(平成24年3月23日掲載)に示したように【売上原価=期首在り高+当期投入原価-期末繰越高】によって把握されるわけです。これは当期の投入原価が『直接原価管理法』によって把握されるのに対して、決算のための『全部原価管理法』によって損益計算書に載る『売上原価』を指していると、既に述べたところです。
 ここで『当期投入原価』は、当期間中に発生した原価ですから「そのままの金額で把握」できます。ですから標準原価を予め決めておくのは、次の『期末繰越高』を評価するときの標準として用いるためです。そして『期末繰越高』は、そのまま翌期の『期首在り高』となるわけです。
 このような目的によって、原価を構成する『原材料』『製品・商品』『半製品』『仕掛品』などの要素別標準を設定しておくのです。が、経営環境は「目まぐるしく変化する」ため、新しい会計年度の予算編成に先立って毎年、設定し直さなければなりません。
 大工の棟梁の物指しが、毎年「作り直され」それで大屋さんのニーズに添えるというのでは、少し話がおかしくなるかもしれません。たしかに物指しが物理的に変動することはありえません。が、大屋さんのニーズも変化するのですから、やはり毎年「作り直さなければならない」という『こじつけ論』でもありますが・・・・。

● 物指しづくりのイメージは
 前の項(平成24年12月19日掲載)で説明したように、大工の棟梁がコストダウン・ツールとして用いる物指しも、決算期ごとに作り直します。それはあたかも、図表4-6のようなイメージです。が、これを「作り直す」つまり標準原価設定の目的そのものは、必ずしもコストダウン・ツールの構築にはなりません。
 この原価標準は、ベストコスト達成には直接役立たないかもしれませんが、使いようによってコストダウン・ツールになるのです。あるいはひとつの標準ですから、その「水準以上のコストは容認しない」ルールを厳守することによって、少なくともコストキープツールには使えます。
 標準原価の設定に当たっては、はじめに構成要素をできるだけ細かく分解し、要素別に標準的なコストを決めます。この原価構成の要素別標準を設定するに当たっては、はじめに構成要素をできるだけ細かく分解し、個別に標準的なコストを決めていくわけです。
 『原材料費』や『部品費』は、1個とか1kg、1mといった原単位あたりの、購入価格を標準にすることができます。その一覧が、次の章でも述べる機能別コストテーブルだともいえます。
 それはともかく、構成要素はできるだけ『細かく』個々の部品材料まで『分解』しておくと事後において、より精密な原価差異分析がだせます。またそれが、VAVEによる改善のとき、有効に使えるというわけです。
 次に、生産対象として調達された部品材料の加工費は、外注費と内製による直接労務費に分けておくと、生産管理の『手配業務』においても便利に活用できます。
 外注加工費は、OEM契約のような一括した『請負業務』の場合を除き、内製の直接労務費と同様に『標準時間』と『標準単価』に分けて設定します。
 さらに1分(1m)とか1時間(1h)とかの単位時間あたりの外注費や直接工賃は、加工業務の『難易度』や作業員の『賃金水準』によってランクづけされます。
 ただ、加工に必要な標準時間の設定は、大変な業務になります。古典的IE(Industrial Engineering)では、ストップウオッチ片手のタイムスタディが行われたものです。が、今ならさしずめ、工程改善や作業改善に用いるワークサンプリングがあれば、その結果だけでも、より良い物差しができるのではないでしょうか。

● 内製と外注のコスト格差の矛盾
 同じ『加工業務』でありながら内製外注では、一般的に『時間当たりの単価』にかなりの格差が生じます。この場合は「生産活動に入る前」に、何もしなくても原価差異が生じるわけです。
 この現象は『労働集約的』であり、かつ比較的『単純な作業』において起るので、必ずしもベストコストの追及でなくても、工程管理上でも大きな経営課題になります。
 つまり直接工数に「製造間接費を配布」した標準は、当然ながら正味の発注金額だけで計算される外注加工費よりも一層高く計算されます。したがって「内製で標準を組み」ながら、社内が「忙しくて外注に出す」といったような生産負荷調整をすると、原価差異分析において基準となる標準自体が狂うわけです。
 一体に、目標原価でもある標準原価の設定は、見積りが可能な限り「最も低いところに設定」しなければならないものです。ですから同じ仕事の内容でも「外注の方が安い」のであれば、標準原価は外注加工費で組むべきです。
 内製外注にこのような差があるケースでは、当然「標準は外製で組む」べきです。が、そうすると「社内に仕事がなくなっても、工程管理の担当者は「仕事を内製に切替える」ことをしません。内製に移すと、マイナス原価差異がでて自分の責任になるため、担当者達は外注を「社内に取り込みたがらない」のです。

● 社内で草むしりでもさせるか
 原価標準を設定して利益管理する企業は、専門の原価管理者がいるケースが多いのです。が、組織が大きくなると、標準原価を基準として「数値を睨んでいるだけ」の原価管理者には、現場が不要な業務に工数を消費させる事態になっても、気付かないことがあります。
 仕事量が減ったために手が空いた社内工数は『書類の整理』など、間接の仕事を忙しそうに過ごすため、原価管理だけでは実情が見えなくなってしまいます。
 現に、業務の合理化が進行し、手が余った皆が「線路の草むしり」をしている姿がテレビに映ったことがあります。もちろん運行に支障のないように「軌道を保全する業務」も大切ですが、こうなると当然、一方では「間接費が上昇」してくるものです。
 しかし標準に組み込んだ間接費配布率は、期末まで変更しないため「皆が草むしり」をしていても、記録のうえでは原価差異がでてきません。ですからP-A-C-Aサイクルの“”チェックに際しては、間接費の上昇も同時に抑えておかなければならないということです。

● 固定費の変動費化という課題
 およそ利益管理においては、不況対策の原価管理でなくても『コストの変動費化』は重要な課題です。このため前の章でみたように、間接コストに関してもそれ自体のコストダウンが必要であることはいうまでもありません。加えて、固定費的な性質の強い製造間接費販売費一般管理費も、できるだけ「操業度に比例」する変動費にしておくべきです。それがベストコストに向かうための基本原則です。
 そこで外注費は「本質的に変動費」であるはずです。一方で社内工数は『名目的には変動費』です。が、『実際は人件費』ですから「実質的な固定費」であるわけです。ですから「外注を取り込む」ことは、変動費を固定費に振り替えるのですから、この「基本原則に反する」ことだとも言えます。
 生産管理側の『生産能力-負荷調整』において、不況などの事情によって「外注業務の内製化」を余儀なくされた場合です。そのときの原価基準は、特例のルールを設けていなければなりません。
 つまり原価差異の発生理由が「明確に説明できればよし」とするのです。そして内製への切り換えは、限定的に認めるというわけです。そうでなければ、ある時期において「原価差異は出なかった」ものの、一方で実際の間接費が膨張しているのが、後になって気付くという失態を犯します。
 このあたりの事情が、財務会計上の目的であった標準原価をコストダウン手法として活用する限界といえるかもしれません。とかく原価計算数値の活用は『後追い管理』になってしまうというわけです。

● 固定費配布率への配慮
 さて、その間接原価が配賦される方法です。製造間接費は『直接費全体』への配布率か、『直接工数』または『生産数量』などへの配布率が標準として決められます。が、間接費は期間原価としての固定費であり、総額の標準が予算で決まってしまいます。ですからその期の原価としては個別の配賦金額が、生産高や生産量によって違ってきくることです。
 棟梁の物指しでいうと、いわば配布率は「普請の規模」によって変えることになります。ですから変動要素の大きい製造間接費は、コストダウンの物差しに加えておかない方が、管理がし易いともいえます。
 つまり全体としての利益管理は、直接原価も間接費も「総てを睨んで」いなければなりません。が、標準原価管理法では、個別に「直接原価だけを睨んだ」原価管理をするのがいいのではないかということです。
 利益管理の側面からみれば、【売上高-直接原価=限界利益】(商業でいうところの粗利益)ですから、これは限界利益管理になるわけです。
 ただ『事業部別』『工場別』『製品別』など小まめに変えて、製造間接費の配布率を設定するのであれば『部門別予算管理』や『棚卸資産評価』をするのには、間違いなく有効です。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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