ものづくり事業部

事業部トップ>コラム>成功する企業はベストコストをつくり込む>成功する企業はベストコストをつくり込む(22)

成功する企業はベストコストをつくり込む(22)

5.VA・VEの王道を探る

5-1.はじめにVAありき

● ベターコストの積み上げが
 ベストコストを成すための『攻めのコストダウン技法』には、まずVAがあげられます。これは端的に、コストの構成要素を個別に価値分析(Value Analysis)することによって、より価値の高い原価要素すなわち製品や商品・サービスの生産に必要な『資材』や『用役』を個別に置き換えていこうとするものです。
 分析される価値(Value)は、資材や用役が果たす機能(Function)を獲得するためのコスト(Cost)で割り、V=F/Cの関係によって表わします。そして比較価値の大きな「より良いもの」と置き換えるというのですから、この手法の原理は明解です。
 つまり、同じ機能のものであれば「コストの低い方」が、同じコストであれば「高機能なもの」が、相対的に大きな価値を示すというわけですから、これはもう常識だといえるでしょう。
 技術進歩の目覚ましい時代ですから「高機能かつ低価格」といった、両要素を一挙に満たす『資材』や『用役』または『システム』が、新しく出現してくることは必然的に起りうるはずです。ですからベストコストの追求には、先ずベターコストの選択ともいうべきVAを積み上げていくところから始まります。

● 価値比較という常識
 およそ価値の絶対値というものは、人々の価値観などによる違いがあって『客観的な算定』が難しいものです。が、VAでは比較という、相対値をとるところに実務的な意義があります。
 ベストコストの形成において、はじめの『比較検討する段階』がVAに違いないのですが、次の『置き換える段階』はVE(Value Engineering)と、二つの業務に区別して考えるのが合理的です。
 ただVAの方は『原価構成表』や『コストテーブルの作り方』または『改善案の開発方法』『アイデア採否の基準』など、手法の細かいテクニックにだけ目がいくのは考えものです。なぜなら、VEすなわち価値工学には各種の技法があっても、VAはまさに常識的な判断材料があれば十分だと思うからです。
 ですからVAすなわち価値分析の場合は、技法として捉えるよりもむしろ『考え方』基本的な『スピリッツ』が大切です。たしかに、半世紀以上の発展過程を踏んできた今日では、VAの方にも常識以上のいろいろな留意点があります。しかしその留意点も、VAの基本精神を踏まえたうえで発展してきたものだといえます。 

● 生みの親のスピリッツ
 VA手法には、ローレンス・D・マイルズという提唱者がいます。彼はアメリカのゼネラルエレクトリック社の購買課長であった、1947年にこのVA手法を考えたのだそうです。その動機というのは、塗装のときにペンキの滴下を受ける「アスベストシートが入手難」で、その「代替品を探すときに思い付いた」とのエピソードが伝えられます。
 つまり「ペンキで床を汚すのを防ぐ」という機能と、燃え易いペンキだから「不燃物質でなければならない」という要件を手掛かりに代替品を探したところ、不燃性の特殊な紙が候補にあがったようです。アスベストが入手難なら、価格も上がっていたでしょうから、この代替品は『同機能』でありながら『安価な資材』になったでしょうから、コストダウン手法になると考えるきっかけになります。
 必要なものが「手に入らない」とき、その機能に着目して「代替品を探す」こと自体は、1947年以前でも、また誰もが普通にやっていたはずです。ですからマイルズさんが偉いのは、ごく当たり前の常識的な行為をやって、当然の経済効果を得たのに留まらず、これをコストダウンの手段にまとめあげたことだといえます。
 それが、VAスピリッツといわれるものです。官僚的な運営が行われる巨大企業のことですから、おそらくマイルズさんの周囲には、保守的な考え方をする人が多かったのでしょう。その人達を説得するには、体系的なVA手法にまとめる「理論武装が必要」だったのかもしれません。
 そう考えると、このスピリッツは十分にうなずける強調点が多くあります。図表5-1は、それらを項目別に区分してコメントを加えながら列挙したものです。
 このように一覧してみると、この提唱は手法というより、むしろスローガンにしてもいいくらいにVAの精神を感じます。VAに王道があるとすれば、現在でもこの精神を忠実に踏襲することに違いありません。
 スピリッツなどと改まると、およそ説教じみてきますが、マイルズさんの受け売り話は、図表5-2のようにまとめることができるでしょう。が、項目の中には、相互に重複し若干矛盾するところもあります。が、これはスピリッツといいながら、内容的にはテクニックも含まれています。
 ですから、たとえばこのようなまとめを大書して、QCサークル室などに張っておけば、VA奨励の一案として提唱者のご利益に預かれるかもしれません。

5-2.VA対象の機能に客観性を 

● 常識の範疇でありながら
 VAスピリッツの原点である比較購買は、どこの会社でもみられる普通の行動規範です。また比較購買は、なにもビジネスマンだけの専売特許でなく、家庭の主婦にとっては日常的な行動です。が、この常識を企業経営のベストコスト追求に適用するとなれば、考え方をもう少し深めておかねばなりません。
 つまりVA評価において『同機能』『低価格』の選択は常識の範疇ですから、何も躊躇することはないわけです。しかし『同一価格』『高機能』が、そのまま採用につながるかといえば、それは一寸問題です。つまり調達しようとする資材や用役が、生産対象に果たす機能に『副次的な役割』も多く共存するからです。
 さらに『使いもしない機能』が高度であっても「仕方ない」どころか、特定な機能に着目したとき別の側面では、マイナス要件になるかもしれません。マイルズさんのアスベスト探しも今なら、さしずめ発がん性物質というマイナス要件から、価格が若干高くても「別の不燃材を探す」ことになるはずです。
 また通常の用途では、同一の資材や用役がもつ数々の機能のうち、たった一つの要素しか活用していない場合が多いのです。つまり数々の機能を形成するためには、それ相当額のコストが投じられているはずです。


 にもかかわらず、これがもし『同一価格』で調達できるとすれば『多機能』の方が、なんだか「得したような気持ち」になるでしょう。例えば昨今の『携帯電話』のように、ますます多機能化すれば、必ず「それよりもっと原点に返った単機能型を」という逆のニーズが表れます。これは逆に「買い手の立場からマーケティング側に忠告」できるようなことでもあるわけです。
 つまり必要な機能だけに着目すれば、図表5-3の『対象(1) 』のように『過剰機能』になっている可能性があります。これが『同一価格』で調達できるとすれば、値下げせざるをえない「何らかの理由」が潜んでいるかもしれません。
 また『単一機能』『低価格』の資材や用役が、他に存在することも十分にあるわけです。ですからもっと、VA対象を広げなければベストコストに繋がらないかもしれません。 

● 機能をいかに客観視できるか
 金額という計数で表示される取得コストの大きさは、客観性があるので評価に異論はないでしょう。難しいのは、客観性があやふやな場合の機能の大きさです。 ですからVAでは、機能の分析が中心課題でなければ、本当に分析したことになりません。
 ただし価値分析は、単に機能と解釈するだけでは不充分です。機能はむしろ資材や用役の『はたらき』『役割』『作用』『職務』『任務』のように、いろいろな解釈ができます。が、はこのように、具体的な表現で解釈すればするほど、ますます客観性を欠く難しさがあります。
 また資材の機能は『公差』『精度』『強度』『耐久性』など、客観的な「数値で示せる要素」もでてきます。が、用役では『人事考課』をはじめとして、人のはたらきを客観的に評価しようとする試みはあるものの、経営が高度化するにつれて、昔の『出来高払い賃金』のように、ずばりと割り切れない労働機能がいっぱいでてくるのです。
 さらに資材も用役も、塗料に求められる『美しさ』や、デザイナーが提供する『感性への訴求力』などは、どのように価値評価するかです。人の感性にはたらきかける機能も、立派なVA対象ですから、ここでは最も主観的な分析が必要になります。だのに観念的情緒的にならざるを得ないこのような機能は、客観的なコストで割り算しても、主観領域の価値判定にまでもっていけるものではありません。
 原価の定義である経済価値は、経営目的達成のために「支払う」であるだけです。しかしVAの価値は、資材や用役が経営目的に「果たす」なのです。結局この機能は、経営目的を達成するために作用するのですから、抽象的なFの要素を少しでも客観的にもっていくことが、VA実務になるといえるでしょう。
 VAは、対象となる資材や用役の機能分析が主体ですから、企業活動のVAにするためには、対象がもっている「あらゆる機能を抽出」しなければなりません。それぞれの機能は科学的な評価を加え、客観的なデータにします。コストと同じように機能をデータで示されれば、VAの本旨である比較選択が可能になるわけです。 

● 要件や使用目的にも着目
 機能に着目する一方では、VA対象の資材や用役がもっている、目的達成のための要件を配慮しなければなりません。
 この要件は図表5-4でみるとおり、いくら価格が安くて性能が良く、したがって高いを有していても、強度が不足したり必要数量に満たなかったりする資材は、採用できません。VA対象の適合性は、将来ともに安定供給が受けられることを条件とした、使用目的でなければならないのです。
 仮に、某社が整理のために「良質の資材を投げ売りする」といった、耳寄りな情報が入った場合はどうでしょう。コストダウンのためには、たとえばフリーターという優れた用役の提供者を『臨時雇い』することもあるでしょう。それと同様に『投げ売り』であろうが『出物』であろうが、十分に活用する道はあります。


 これも情報活動による、コストダウンに違いないからです。が、このような臨時供給はVA対象といえず、もちろんベストコストの追求にもなりません。
 マイルズさんが探したアスベスト・シート代替品の必要性が、一過性だったのか恒久的だったのかわかりません。が、マイルズさんから半世紀が過ぎた現代は『燃えない』という要件と『ペンキを受ける』という機能を頼りに、より安い代替品を探すだけでは、実務的な価値分析にならなくなってきたのです。 

● 標準化と共通化の矛盾がここにも
 たとえば部品材料の標準化を図り、大量購入によってコストダウンしたい場合でも、使われる製品や使っている職場によって、全く同じ資材の使用目的が異なる場合があります。またそれに、別の違った機能を求める担当者がいると、必然的に要件も「違ってくる」ため、大量に一括購入すれば、かえってムダを生じることになるのです。
 こうなると、いろいろな『目的』や『機能』『要件』が交錯し、一律に代替品を選んで標準化すると、今度は共通化と矛盾が生じてきます。そこで、最大公約数を選択すれば、個々にはかえって高いものにつく恐れがあるわけです。
 では、それぞれの要件となると、VA対象がもつ機能と同数くらいに、それぞれの状況が『多様化』『分散化』し、VA業務が進まなくなってきます。仮に、VA対象の物理的要件である『寸法』といった、一項目だけをとってみてもそれがわかります。
 ある担当者が、より小さくなって高性能、低価格の新しいICを見つけても、それを採用するとなれば、プリント基板のアートワークを変更しなければならないでしょう。変更するためのコストを、今後の使用予想数量で割り、新しいICの取得価格に上乗せしても、なおかつ「高性能、低価格であるか」というところまで、すべて分析しなければVAになりません。
 ところがもっと他を探せば、やや性能は落ちるが「十分に使用目的を達し、なおかつコストのプラス要因は全く心配ない」別のICが、従来品より安くあったらどうですか。一つの対象について『目的』『機能』『要件』それぞれの情報は、別々に分析していないと、このような使用価値の高いICは、見つけることができないという事例です。
 要は、標準化・共通化の「矛盾を克服」し、かつVA効果が得られる価値分析業務には、それなりの根気と時間が必要だということです。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

詳細はこちら >

執筆者

月別アーカイブ

このページの先頭へ