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成功する企業はベストコストをつくり込む(26)

5.VA・VEの王道を探る

5-6.トリガーの掛かったVA業務

● マンネリ打破の妙薬はないか
 通常のVA業務は「情報関連の準備」が、やっとできたと構えたところで「日常業務に追われる中」で、容易に腰があがらないものです。なぜならば、コストダウンに関する活動は『現場の5S』や『品質管理』などと同様に、VA業務自体が日常的かつ通常の業務になっているからです。
 ともすると日常的な業務は、マンネリズムに陥って「一生懸命にやる」とか「精一杯務める」とかいう言葉に飾られているうちに、お仕舞いになります。すると通常業務以外の行動は、もう入る余地がありません。そんな状況の中で、仮に「毎月第1、第3月曜日はVAの日」と決めたところで、日常の忙しさに間切れてしまえば「ただ決めただけ」のことになってしまいます。
 ルーチン業務のマンネリは、どんな業務にも起こりうることです。が、ことVA業務に関してこうなる問題のひとつは、標的とすべきVA対象の絞り込み方にあるようです。  VA標的は一般的に、図表5-17の上の部分に示すように、重点主義の効率性から『量産品』などを対象とすべきだといわれます。
 ただVA対象が、これらの要件をすべて備えていなければならないのなら、多品種少量生産の企業でもすぐに種切れになるでしょう。だって「毎月」「毎週」やっていることですから。
 しかし『VAの日』や『VA週間』といった日常活動もさることながら、ルーチン業務以外に、VAを行う明確な動機があると事情が違ってきます。つまり、VAを行うためのトリガー(銃などの引き金)が必要だということです。

● コストダウンだけではない
 不況対策などで「特定のプロジェクトチームを組織して全社的に取り組め」といった、トップの命令一下で始まる形式のVAでもいいのです。が、図表5-17の下部に示すような生産条件の変化は、VA活動に入るトリガーとして好適です。
 これらの変化は『インターネットの出現』といったような、生産条件に大きな波があったときだけではありません。またVAをやるきっかけとなる変化は、いつやってくるかわかりません。
 いや、経済構造の変革のような大きな波ほど、変化がきたことを意外に察知し難いものです。それは変化する対象が大きすぎて、自身の生産条件の変化として『受け取り難い』だけです。
 しかし『わかり辛い変化』であっても、定常的な活動の中で「何か違うな」とばかり、徐々に気付いていくとしましょう。が、少なくとも『競合製品の出現』のような変化が認識できたら、その状況に対応した対策の手を打たなければなりません。
 要するにVA技法は、日常的なコストダウン活動としてだけでなく、生産条件の変化に対応した運動の一環として活用するべきなのです。結果的に、コストダウン効果が現れるか否かにかかわらず、ベストコスト追求の一環としては、VA技法の活用が不可欠だということに変わりはありません。

● 変化適応の対策手順はルール化する
 このような生産条件の変化が現れていながら、何の対策も採らない会社はないでしょう。もちろん変化適応に対しては、いろいろな対策があるわけです。また企業によって、執るべき対応策はいろいろあります。対応策の選択『採り方』が、企業の個性であり以後、事業の「成否を分ける」ことになるのです。
 しかし『設計変更』などの対策後は、直ぐに再生産に移るのではなく、必ず「VAを行わないと再生産に移れない」ことをルールにしていなければなりません。
 もちろん、応急処置を要する条件変化も起こるでしょう。が、その場合も「事後VAを行わない場合は恒久対策にしない」というルールにするのです。その意味で、ルールの中の『実施監査制度』は大切です。
 生産条件の変化と対策の間に、因果関係はありません。つまり対策には選択肢が多くあるわけです。仮に『競合商品が出現』したとして、このときに取れる対策は「一部の設計変更」とか、対抗して「別の新商品を開発」するのでもいいでしょう。単に「生産方法の変更」だけでも、十分に「対抗できる」という判断があってもいいのです。
 しかし「競合商品が現れるのは仕方ない」と、初めからあきらめたら負け犬です。ですからこれらの対応策を整理して、どんな方策であっても必ずVAを行い、その時点でのベターコストの獲得を規定化して勝ち残っていくのです。

● トリガーがもつ緊張感がマンネリを打破
 もっとも、平素から採用しているコストダウン対策が、別にあるのでしたら「生産方法を変えた」くらいで、競合商品への対抗策になるケースは少ないかもしれません。が、変化をVAトリガーにすることは、平素とは違って「この際、もう一度検討してみる」ということです。
 もしも競合品が出現しなければ、改めて『新製品の検討』や『生産方法の変更』を考えなかったかもしれません。したがってトリガーが掛からなければ、改善策はなかったでしょう。ゼロの改善策が、成功する確率はゼロなのです。
 VAトリガーは、何時「引き金が引かれるか」わからない緊張感が、マンネリズムを打破します。あたかも消防士が、日常的な機器整備を怠らないのと同様に、サイレンが鳴るまでは『VA週間』的な定常活動に従事しています。が、消防士の場合と違って、モノづくりの現場では、小火も含めた「サイレンが頻繁に鳴る」ものです。のんびりしたVA週間どころではないでしょう。  VA活動は、常に新しい課題に「追われながら」やっていることが肝要です。が、PL問題になりかねないような大事故が発生した場合です。その応急処置は逆に、コストアップになってもやらなければならないケースがあるでしょう。
 だからといってコストアップが「仕方ない」といった状況のまま放置すると、この伝染病はほかの商品にも感染し「仕方ない」「仕方ない」病が蔓延するようになるのです。それを断ち切るのが、応急処置でアップしたコストを恒久処置でダウンさせるのです。
 応急処置と恒久処置を同一視してはなりません。消防士でいえば「鎮火後の現場検証」によって、火災予防に努めるのと同じです。応急処置だけで終わるのは、陳腐化した商品を生産中止にせず、コストアップのまま売り続けるのと同じです。それではベターコストを確保するどころか、ワーストコストさえ次々と塗り替えていくでしょう。

● スクラップ&ビルドという手もある
 生産条件変化のトリガーは、どんなケースで引かれても、どんな対応策を採るにしても、必ず事後処理としてのVAを実施するルールを定めます。ただ会社の運営ルールというものは、固まってしまうと、ルールの存在自体がマンネリズムの源泉になるものです。
 特にルーチン業務が多忙なときは、せっかくトリガーが引かれながら、ただ制度にしたがって「形式的に消化」すれば足りてしまいます。いや多忙でなくても「ルールに縛られてのVAはめんどくさい」ということもあるでしょう。ですから今度は、VA規定の運営自体に「見直し」という更なるマンネリ防止策を、付け加えておかなければなりません。
 図表5-17では『生産中止』を独立した課題にしていますが、これは筆者が毎日『原価率低減』で責められていた生産部長時代の実感からきています。要するにスクラップ&ビルドのことですが、もちろん『生産中止』は『新商品開発』が前提です。
 特に商品群全体の限界利益率生産効率の側面からは、陳腐化製品を生産中止することが、全体の『原価率低減』『限界利益率向上』に有効です。が、生産中止を考えるのは、検討に検討を繰り返し、VA対策において「弓折れ矢尽きた」ときの最終対策です。
 生産中止は、ほかに道がないのですから、VAテクニックの選択肢といえません。ただ、競争に「負けるにまかせ」陳腐化しても「手は打たず」販売数量が下がって大幅にコストアップする中で、少量であっても「買ってくれるお客様もいる」から、少しでも「限界利益が残っているうちは」細々と「生産・販売を続ける」というのはいけません。
 このような製品が販売品目の中に残っていたのでは、別の製品のVA意欲もなくなります。「こんなことをしているより、あの商品を止めた方がよほど効果的」となるわけです。
 たしかに、足を引っ張る商品がなくなれば、全社の原価率は下がります。しかし中止のままでは限界利益額中止製品の分だけ下がります。ですから並行して『モデルチェンジ』なり『新製品開発』が要るのです。代替品が生まれなければ、企業は細る一方です。

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ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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