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成功する企業はベストコストをつくり込む(29)

5.VA・VEの王道を探る

5-9.VE改善は生産技術が主体
 

● 既存製品に手を加える機能
 現場のVEは、いまある製品に加えられます。つまりVE対象となる製品は、現に生産されており、継続的に販売しているわけです。したがってVE的な改善は生産の流れの中で、またはバッチの間隔を縫って『手が加えられ』ることになります。
 新製品開発時のコストデザインについては、次章に改めて述べますが、ここでは既存製品VE改善が主題になります。新製品開発は開発・設計の仕事ですが、既存製品のVE改善は生産技術の仕事だといえるでしょう。
 会社によっては、生産技術部門をきちんと『組織付け』しているところがあります。が、担当部門の名称ではなく、VEは会社の中の生産技術機能を果たす業務のことです。
 ですから部門として組織化できない中小企業でも、モノをつくる会社であるかぎり、部門の名称は違っても、どんな部門が担当するにしても、生産技術機能は本来的に存在しなければなりません。その体系は、図表5-26に示します。

● 四つのジャンルに分けて捉える
 生産技術は社内の生産機能の流れに沿えば、上流に相当する『開発・設計部門』と下流の『生産・販売部門』との中間に位置します。生産技術が果たす機能の具体的な業務内容は、これも会社によって違いがあるでしょう。
 しかし先ず考えられる生産技術業務は、主要機能福次的機能の二つの技術的な流れがあることです。さらに両サイドとも、生産技術機能からみて上流側の開発設計機能とつながる業務と、下流側の生産・販売機能に接続する二段階があります。そして個々の業務は、独立して区分することができます。
 すなわち生産技術には、製造技術に関して『定常業務』と、生産を継続的に進めるための『推進業務』があります。一方で生産の推進を支える『開発業務』と『情報業務』があるという構造です。ですから生産技術部門がない組織でも、各部門が分割して各機能を担当することができるわけです。
 日常継続される『定常業務』は、いわゆるモノづくり技術を発揮するのです。が、生産技術の『開発業務』は、上流と共同で新製品開発に助力することがあるかもしれませんが、モノづくり支援技術として生産機械・工具などを開発することが本務です。つまり製造現場に密着した独自の設計・制作業務を担当するのです。
 さらに生産そのものを『推進する業務』と、生産をサポートする『情報関連の業務』があり、これらが総合されて下流の生産・販売機能の部門とつながっています。また大きな組織になると、いわゆる『生産管理』を担当する製造や生産のスタッフ部門が、生産技術部門とは「別に存立」している場合があります。
 製造・生産機能面からみると、生産技術も『スタッフ機能』に違いないので『生産管理』『情報管理』も生産技術部門に統括されているケースは、しばしばみるところです。

● まるで雑用係りのような立場
 このように生産技術の業務内容を整理してみると、必要とする職務機能は、内容が多彩であるばかりか、上下流の他部門から外注先などの社外機関まで、広範囲に『折衝』をもたなければならず、筆者自身も「中間に位置するもの」の難しさを味わったものです。
 そんな過ぎ去った泣きごとはともかく、ここでベストコストを達成するために、生産技術が展開するVEは、上下他部門との関係で二面性があるということです。そのひとつは新製品の開発設計段階において「コストが確定する前」に、つまり「設計が固まる前」に加えるVEに、モノづくり現場代表として参加することです。が、これはベストコスト形成に最も重要な事項なので、次章で詳述することにします。
 あとひとつが、日常業務の中での「継続的に実施するVE」です。既存製品に加える生産技術部門のVEは、日常的・継続的な業務であるため何かのきっかけがないと、容易に進みません。
 VEを実施するためのアイデアは、生産技術部門が「独自に開発」することもあるでしょうが、上下他部門からのVA提案などは、日常的に持ち込まれるはずです。つまり「ここをこれに変えれば安くなる」とか「このようにすれば遣りやすい」「こんな治工具が欲しい」「新しい機械を導入すれば」・・・・といった調子です。
 それらのアイデアは、大小織り交ざっているため、実現するための『VEコスト』や、改善のための『要素技術』『所要工数』などにも大きな差があります。これらを考えない他部門から、軽い気持ちで「自分でやらない無責任」に提案されたアイデアの数々に振り回されると、生産技術の担当者は他の業務も合わせた全体業務の時間配分さえ、ままならない状況に陥ります。
 尤も、およそマイペースに「計画的な業務」を遂行するのが難しい部門ではありますが。それはともかく少しでも骨のある、つまりある程度の「コストダウン成果が見込める提案」へのVE的な取り組みを見逃されるかもしれません。
 VE業務の遂行責任がある部門としては、経済計算のうえ取り組みを意思決定し、VE改善のための「テーマを立てて」進めなければなりません。それでなくても、雑用とさえ思える雑多な日常業務に追われる生産技術部門です。ですから成り行きに任せておくと、せっかくのVEアイデアを機会損失してしまう恐れもあるわけです。
 既存製品のVEを担当する生産技術機能が、このように多忙な事情におかれているのですから、改善テーマの大きさによっては、プロジェクト・チームの結成などが必要になります。が、その場合もチームの主体は、生産技術担当者だということに変わり歯ありません。

● 現場から突き上げる共通化
 VEの成果は、共通化に集約されてこそ、ベストコストへの近道になるものです。共通化の基本原理は前に述べたように、ある時点でのベターコストに、社内全体で追従することです。
 しかし現実は、現在進行形で活動している既存製品を後続とし、新しく開発した先例追従させることが難しい事情はしばしばあります。生産現場の担当責任者は、保守的観念が強くあって「現状を崩されたくない」から、新技術を開発した部門と対立することもあるでしょう。
 ですから新しい情報を検討もしないで「設計変更すれば品質保証ができない」とか「設計変更中の納期を確保できない」というかもしれません。ときには該当する商品を生産中止するまで、VE改善による「新しい部分の共通化が図れない」で、機会損失がどんどんと膨らんでいるかもしれません。
 しかしVE結果の共通化効果があげられないのでは、その会社で重要なコストダウン手段を失うことになりかねないのです。既存製品の共通化は、新製品の開発・設計部門が行う場合とは違い、当該製品に直接タッチする生産現場でないとできないとできないことです。
 つまり生産部門は、技術の進歩に合わせて陳腐化していく既存製品を、生産技術部門が独自に書き直していかなければならないのです。逆に、その影響を新製品開発の設計段階に及ぼすくらいでないと、ただ「追従するだけ」という、共通化に対する消極的なイメージは容易に消えません。

● 生産現場でのVE改善事例
 まず、図表5-27を見てください。

 これは部品・材料など『生産対象を共通化』するときの運用手順の一例です。が、もちろんここでも「はじめにVA」があって、その発案を元にVE改善を加えたものを共通化しようというのです。このような『方法』や『手順』に整理しようと思ったきっかけは、筆者自身の実務的な体験からきています。
 あるとき『販売部門』から、特定部品のきわどい寸法の関係が「構造に無理があってこうなるのではないか」とのクレームが届いたことがこの事例の始まりです。ただその時点では、既に市場に出されている商品があるし、仕掛かり中の製品もあるため、直ぐに大幅な設計変更に取り掛かるわけにいきません。また、それほどの「致命傷になるクレーム」ではないのです。
 しかしいくら小さなクレームでも、放置するわけにもいかず、0.2㎜も小さくなればすむことでしたから、急遽、代替品を探すことになりました。ところが見付かった同品質の代替品は、結果的に以前の部品よりも「価格が安かった」のです。まるで「マイルズさんのアスベスト代替品探し」のエピソードのような話ですが、もちろんそれ以後はこの新しい発見を『VE改善の先例』として関連製品に逆展開し、他の製品に適用する『共通化のレール』を走らせました。

● 意識的なVEトリガー
 この事例の成功ポイントは、情報の集中です。たったひとつの『生産対象に注目』し、意識的に調査した結果がよかったのです。問題の部品が、もしも『製作部品』であったなら、おそらく図面を変更する手直しだけですませていたはずです。
 そんな設計変更では、変更を理由に製作費が上がっても、以前より下がることはまずないでしょう。また、大幅な設計変更が必要なクレーム内容であったなら、ほかの部品を探すことなく、いきなり『大掛かりな改造』を始めていたかもしれません。
 ですから偶発的なラッキー・コストダウンだったのですがよく考えてみると、これにはもうひとつの成功ポイントがあります。
 つまりこの「体験をヒント」にすれば、日常業務に追われている現場の人達でも、プチ・クレームの発生と同様に、意識的トリガー銃の引き金)を引いてVA・VE活動に入らせることができるということです。
 引き金を引く根拠になる情報は、特定の対象に集中すれば収集効率が上がります。集中そのものは、新しい情報をもたらしますが、トリガーがかかってからのプロセスは、典型的なVA・VE活動になるわけです。
 VE業務に取り掛かるうえでの留意点は、まず「誰がトリガー」を掛け、誰が主体となって「手順を進めるか」ということです。が、意識的にトリガーを引くのは、もちろん『生産現場の責任者』です。
 VE結果の共通化は、生産現場が主体となって、自分自身で改善対象を決めます。その改善案は、上流部門を突き上げるほどでなければなりません。
 この方法をとるとき、次の留意点はテーマを『小出し』に、次から次へと『継続』して与えることです。そしてテーマ別に、『個人を指名』して推進者決めます。商品別VAと違い、部品材料など『生産対象』を中心とするVA・VEは、種切れになることは絶対にありません。
 その代わり、ひとつのテーマは「一品種だけに集中」するのですから、トリガーは自動小銃のように引き続けなければ、対象範囲が広がっていきません。

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ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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