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成功する企業はベストコストをつくり込む(42)

6.コストはデザインできるか

6-10 全社一致のコストダウン活動

● 攻めの経営行為と守りの経営行為
 会社の経営からいうと『新製品開発』や『マーケティング』は、戦略的な攻撃行動であり『品質保証』や『原価低減』は、どうしても守備的な管理行為のイメージになるでしょう。しかしベストコストを望む行為は、そこでコストをデザインするからといって、OffenceDefense の経営姿勢を同時に取り入れるわけではありません。
 コストデザインは立派な経営戦略です。なぜならばベストコストを『つくりこむ行為』は、品質を『造り込む研究開発』と同じく、品質と同時にコストを開発し、設計する攻撃行動そのものだからです。
 開発された設計品質は、生産現場において製造品質に造り込まれます。つまり品質づくりは、機能別の単独行為ですから、設計部門や生産部門がそれぞれ『独自につくりこむ』ことができます。
 ベストコストは、ひとり設計部門や生産部門のみで、それぞれ『単独につくりこむ』ことはできません。全社体制の中で『営業』や『サービス』ときには会社の『受付や守衛などの総務』部門でさえも、同時に揃って『つくりこむ行為』でなければ、とてもベストコストなど望めるものではありません。

● 現場に名人ならぬ迷人は要らない
 商品の品質そのものは、生産プロセスの最上流に位置する『開発・設計』の当事者が主導しなければ、優良製品の造り込みになりません。
 たしかに直接原価だけをみれば、設計品質とともに開発・設計段階でベストと思えるコストの水準に、良品質を伴って造り込まれていくはずです。が、コストを形成する要因は、広範囲にわたるため企業組織の全パワーを結集して『間接費低減』なども含め、ベストコストを追求していくのです。
 ただ、全パワー結集といってもベストコスト形成の現場では、必ずしも名人の存在を要しません。むしろ的確なリーダーさえ居れば、チームワークだけで十分に追求できるのです。だのに上流の開発・設計部門に「名人ならぬ迷人」がいては、ベストコストどころかベターコストさえもならないのです。
 ここで迷人というのは、生産の「現場を知らない」で設計し、生産担当者を迷わす開発技術者のことです。迷人は必ずしも若い技術者とはかぎりません。が、迷人が生まれる背景は、図表6-15のようにまとめてられるでしょう。

 また技術者不足の時代では、新商品開発が急務なあまり、上流に重点をおく配置の人事政策にならざるを得ません。すると開発部門がボトルネックになって、全プロセスの入り口を閉ざすことになります。
 こういった人事の偏りが続くと、今度は『技術力にアンバランス』が生じ、下流の生産技術営業技術、サービス技術の力不足が、商品の『出口にネック』をつくります。これでは、後工程でつくりこむ製造品質市場品質の維持が難しいばかりか、『納期遅れ』やそれを補う『過剰生産』などもでてQQCD管理がめちゃくちゃになり、とてもベストコストどころではなくなります。

● 少しの工夫はする価値がある
 このように、技術者不足による内部矛盾は延々と続きますが、これは経営政策で補うよりほかにないのです。図表6-16のようなコンカレントエンジニアリング(CE)は、技術力アンバランスを少しでも和らげる一例です。
 会社の経営はタイム・イズ・マネーですから、CEのような『開発・設計』と『生産』の一体化はコストデザイン手法とともに直接利益を創出するほかに、新商品開発によって早期発売という、マーケティング上の間接的利益をも生み出す経営政策のひとつになるでしょう。
 もっとも特定な商品においては、図表6-16のような一体化が物理的に無理なケースがあるでしょう。また新商品の生産には、プラント装置の建設が必要なため、開発手順的に『開発・設計』と『生産』を一体化できないケースがあったりします。 

 そんなケースでは『開発の成功を確認』してから、生産準備に入らなければ、設備投資のリスクに耐えられないはずです。
 CEの導入が難しいケースとは逆に、筆者が試行した図表6-17のような『開発・設計』と『生産』の一体化を図ったケースもあげられます。 ただこれは筆者の試行が、見事に成功したとは言い難いケースです。たしかにこのプロセスは、筆者の工程設計に違いないのです。が、恥ずかしながら筆者は、開発・設計・生産・販売の『全工程を把握』したプロモーターではありませんでした。
 もちろんそのことは十分に自覚していますから、開発から販売までの各部門責任者にヒヤリングし、現状を把握したうえでプロセスの構想を練りました。そして当該製品の開発テーマが発効してからは、開発業務の着手前に各責任者にもこの『構想を試行』する了承をとりつけました。
 しかしこの試行で筆者は、危うく工程設計の『迷人』になりかけたというわけです。ただこの試行により、多くの実務的な教訓も得ましたので、まだ完全な『迷人』にはならなかったという「負け惜しみ」がないわけではありません。

● ここで得た教訓が活かせるか
 試行による教訓の第一は、当時の筆者が『経営企画』部門の立場であったが、まだ開発・設計・生産業務の実務経験がなかったということです。つまり販売部門の現場は長年の実務経験があったのですが、開発・販売部門をコーディネートして「新製品のシーズを開拓」する役目にすぎませんでした。
 このため後に生産部長になったとき、過去の工程設計が『現場から遊離』していたことに気付いたのです。経営企画部門の当時は、各部門責任者に確認したつもりでしたが、それが現場の実態に適合していなかったのです。
 教訓の第二は実施段階で総合的な見地から、それぞれの実施部署にタイミングよく作業指示が出せるキーマンが不可欠であったということです。それができるのは、組織を横断して『どの部署』それぞれに『業務内容と進捗状況』が把握されていなければなりません。
 その意味で、当時の『経営企画』という筆者の立場では、コーディネーターというスタッフ機能は果たせても、業務上の指示・命令を発するライン機能はなかったのです。これは単なる職務分掌的な『責任』と『権限』の問題だけではなく、職務能力的な問題なのですが果たして社内に、そんな適任者がいるだろうかとの疑問も残りました。
 これらの問題点は殆ど予測できたので、この事例は当時、開発を急がれていた『小規模な付属装置』を対象に、経営政策的な試行に取り組んでみたのです。その結果は、予定通りの工数確保ができなかったり、ソフト開発がネックになったりで、半年以内の開発は適いませんでした。しかし従来型の開発・設計・生産プロセスを直列的に踏むよりは、期間短縮になったと信じます。
 経営政策というものは、たしかにケース・バイ・ケースなのですが、何等かの『形式』や『条件付け』を整えれば、開発と生産の同時進行は、各社で『採用が可能』になるのではないかとの確証は得ました。まさにこのような試行は、全社一体となったベストコストづくりのひとつの形態にちがいありません。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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