ものづくり事業部

事業部トップ>コラム>成功する企業はベストコストをつくり込む>成功する企業はベストコストをつくり込む(45)

成功する企業はベストコストをつくり込む(45)

7.ベストコストづくりを考える

7-4 開発・設計過程の節目CRとVA・VE

● コスト形成は誰がする
 技術者は開発・設計の初期において、新商品が狙いとする形状機能性能を形成するために、夢中になって品質設計をしています。特に、自社の『未経験分野』での新製品開発は『海のもの』とも『山のもの』とも知れない対象へのアプローチが続きます。
 必然的に、新商品企画で『狙った性能』を生みだすのが精一杯の状態で、コストは『その結果』になっていくでしょう。が、コストが開発・設計の結果だけで決まったのでは、生産・販売段階に到ってみんなも困るし、会社も損します。 コスト設計品質と同様に、はじめから『狙いを定めて』設計されなければなりません。目標コストは品質目標と同様に、既に企画段階で狙いを定めているわけです。それを実現していくには、どのような「作り方をしていくか」という『生産移行計画』の中で、コスト構想を描いていくことになるのです。
 ただ理屈はそうであっても、現実的に『品質設計とコスト設計』の同時進行は難しいという向きには、図表6-17の開発生産並列型のプロセス(’14.12.29掲載)をもう一度みていただきたいのです。
 これから始まるコストデザイン過程でコスト構想を立てるにあたっては、当然ながら後工程を託される生産技術部門が関与しなければなりません。つまり生産段階に到って、実際に『コストを発生させる』生産技術部門は責任をもって、新製品づくりを請けるために品質づくりとともにコストづくりにも積極的に関与するはずです。

● 鉄は熱いうちに打たねば
 新製品開発は、生産部門でも開発・設計段階から加わってないと、開発者設計者希望的観測を交えてコスト構想を勝手に描く可能性があります。つまり「廉くて良いもの」を創りだしたい開発・設計者は、実現性に乏しくても「より廉い方」に希望的観測を振りがちだというわけです。
 これから先に何年もの間、固定的コストとして製造責任が生産部門側にのしかかってくるのです。もちろんベストコストをつくりこむために、生産段階でも絶えずコストダウン努力は怠らないところです。
 たとえば新製品の量産段階に到り、生産設備の「使い勝手が悪い」などとなると、困るのは造り手側の生産部門やそのスタッフである生産技術部門です。つまり『稼働中の設備の改善』は、稼動前で静止状態の設備改善より数段に困難です。だから『生産移行後の改善』となると、間違いなくムダな時間とコスト増大します。
 コスト構想は品質設計に忙殺される開発・設計者だけが、勝手に考えろというのではありません。要するに『鉄は熱いうちに』打つべきですから、まだ品質設計が固まらない軟らかいうちに生産部門が関与していこうというわけです。上流の開発・設計部門と下流の生産部門の両者が協力しなければ、ベストコストはつくり込めないということです。

● たしかにコストのレビューもなければ
 このコスト構想は、図表7-5の概念に示すように設計した『見積コスト』をあらかじめ設定した『目標コスト』と照合してみることの繰り返しで、徐々に固まってきます。商品開発過程において、はじめてのコストレビューCR)は、見積コストが出た段階で行うわけです。CRすなわち『原価設計評価』は、開発過程において『品質設計評価』のデザインレビューDR)と同じ意味をもちます。
      
 設計段階のレビューは、何度やってもよいのですが、作業効率の問題もあるので、この図では3回に分け、各段階に意義付けをしています。評価対象は『見積原価』と総称していますが、いずれも機能別に各原価要素を積み上げて『目標原価総額』と『比較して評価』するわけです。まだ生産実績のない新製品は、コストの機能別割り付けが容易にできないから、総額で「どれほどのレベルまで達成できているか」みるわけです。
 ベストコストのつくりこみは、開発・設計段階のVEを遂行することによってベストに近づくはずです。もっとも開発や設計の業務というものは、新しい価値を生みだすVEの仕事そのものなので、ここで改めてVEだというのはおかしいかもしれません。が、コストデザイン過程ではVAVE技法が絶対的な存在になることを改めて認識しておく必要があるでしょう。
 開発段階でのVAVEの考え方や進め方自体は、生産段階のそれと変わりません。つまり開発・設計段階のVAでも、第5章(27回目’13.09.20掲載)に示したチェック・リストチェック・シートが、そのままツールとして使えます。
 既存製品のVEでは、生産の進行中に『工程中』か『工程外』で改めて立ち止まるきっかけとなるトリガーがなければ、容易にスタートが切れません。その点、新製品開発は、通常の開発業務を進める中で、意識的・確実にVEを遂行すればいいようなものです。
 ただコストデザイン過程のVEは、既存製品のそれと違って、分析対象の現品が目の前にありません。そのため、予めコスト・ドキュメントが用意されていなければならないということです。

● 開発段階のVAツールとは
 開発業務で標準化された既製の部品材料や、機能ブロックだけを用いていたのでは、他社商品に差別化した新商品になり難いでしょう。したがって新製品開発では、自社でまだ「使ったことのない生産手段」を用いて「新しい生産対象を加工」し「未知の生産方法」を採用する必要性があるはずです。
 ところでVAは「どっちが得かなー」という比較購買が発祥原理でした(22回、’13.05.25掲載)。だとすると、比較対象となる『価値の一覧表』つまりコストテーブルの存在は欠かせません。が、従来の使用経験がある機能別コストテーブルは、開発・設計業務ではあまり使えません。ですからCRに際しては、用途別コストテーブルを作るよりほかにないのです。
 レビュー対象である『コスト構想』は、開発・設計者の心情から、過剰品質になりがちな環境下において、頭の中だけで構成されています。したがって構想を『紙に写した』用途別コストテーブルを前に、まず部品や材料・素材の『使用量を減らす』ためのVA(価値分析)と工夫が、徹底的に行われなければなりません。

● 下流側から突き上げるVA
 コスト構想だけを対象としたVAは、たしかに漠然としています。が、VAによる模索の中で後工程であっても設計・生産の両実践部門は、モノづくりのための新しい技術的・経済的情報を積極的に採り入れます。
 要は、生産の実践部門も『新商品開発の社会的動向』を知ることです。開発・設計段階のVAによる『造り手側』の知見とコストダウンの工夫が、逆に新商品の品質向上に寄与するアイデアを生むきっかけになることもあるのです。
 『情報収集』と『思考錯誤』を繰り返すアイデア開発は、コストダウンのみならず性能・仕様を向上させる品質設計の面にも、大きなヒントを与えます。つまり上流と下流の双方が、コストダウンのアイデアを出し合ううちに、新商品の性能向上をもたらすわけです。また逆に、性能向上のつもりが、実はコストダウンをもたらすケースも多いのです。これは実際に筆者が体験したところです。
 そうなる理由のひとつは、情報が「関心の高いところに集まる」原理をもっていることから説明できます。もうひとつは、アイデア開発が「三人寄れば文殊の知恵」的な原理をもっていることです。
 CR時におけるVAでは、開発・設計技術者と生産技術者がかかわり、コストダウン対象に『関心を集中』させる『人の数が増える』ことから関連情報が集まり、内容のあるアイデアが生まれてくるのです。開発・設計部門のVE業務の支援になるのです。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

詳細はこちら >

執筆者

月別アーカイブ

このページの先頭へ