ものづくり事業部

第12回 何故品質トラブルはなくならないのか?リスクアセスメントの勧め

大企業の製品リコールが度々発生しています。何故品質トラブルはなくならないのでしょうか?多くのものづくり企業は、技術力を駆使した製品を開発生産して販売しています。市場品質トラブルが発生すると多額の処理コストが発生して、経営に大打撃が当たってしまいます。どうやって大品質トラブルを防止したり、減らしたら良いのでしょうか?

まず第1は、人や機械はたまにミスやエラーを起こすという前提で対応することです。生産工程への適用を「検査」といい、設計工程への適用を「デザインレビュー(DR)」と言います。検査を自動化する例が増えていますが、検査・DR共にプロセス担当者以外に第3者(機械を含む)が検査・DRを行うことが、不良流出を防ぎます。

次に第2は、製品の使われ方や捨てられ方(製品ライフ)を想定して、甚大なリスクへの対策を未然に採っておくことです。これを「リスクアセスメント・リスクマネジメント」と言います。東日本大震災による原発事故で、放射能漏れが起きてしまい、未だに何兆円も掛けた対策を実施しているのは、生々しいトラブル事例です。万一「全電源喪失」となっても炉心溶融にならない為の対策が何年も前に議論されながら、しかも対策内容も判っていながら「そこまでの被害はありえないだろう」との想定が、取り返しのつかない甚大事故を発生させてしまいました。政治家や学者は、判断ミスによるツケを国民に背負わせることで逃げることができますが、企業経営者にとって甚大な品質事故は文字通り「企業生命」に係わってきます。そこで「リスクアセスメント」を学んで、企業生命に係わるリスクにだけは対策を講じておくことを勧めます。

「リスクアセスメント」のこつは、製品供給者が望まない使われ方や環境ではどうなるか?を想定してみることです。その場面で、人に危害が及んだり火災が発生するような大トラブル(事象)に着目します。製品が動作しないだけというマイナー?トラブルは無視します。もう一つのこつは、そのトラブルの発生確率はどれ位の頻度であるか?を考えることです。タカタのエアバッグ事故では、事例が数件になってから騒がれ始めました。そして最後に、重大品質トラブル要因は、「製造<設計<開発」ということを認識して対応することです。何ごとも初めての取組み(=開発)にはリスクがつきものであり、そのリスクはどの位の大きさでどれだけの発生頻度かを予測する取り組みが大切ということです(トヨタ自動車は、DRに変化点管理を持ち込んだ「DRBFM」という手法を開発して普及しています)。設計や開発のある中小企業は、ぜひ「リスクアセスメント」にも取り組んで、企業生命に係わるような大トラブルを未然防止しておきましょう。「リスクアセスメント」詳細は以下もご参照下さい。

リスクアセスメント・ハンドブック(経済産業省)
製品安全注意喚起リーフレット(nite)

第11回 エチオピア国のカイゼンの状況

私は2015年10月~2016年7月の間JICAの第Ⅲ期エチオピア国品質・生産性向上(カイゼン)PJに、第Ⅰ期のPJに続き参加し、エチオピア国のカイゼン普及支援事業に従事致しましたので、エチオピアのお国柄とエチオピアのカイゼンの状況についてご紹介致します。(ものづくり事業部・海外事業部 江澤 博)

1 エチオピアってどんな国
1)人口・位置・気候
エチオピアは、正式名称でエチオピア連邦民主共和国と言います。面積が1127千k㎡(世界26位)人口は約80百万人、そのうち日本の人口を抜くと言われ、平均寿命は5歳以下の子供の死亡率が高いため、50歳前後と言われています。

エチオピアはアフリカ大陸東側にあり、アフリカの角、Horn of Africaの地方にあり、東には海賊の国ソマリア、西には20年間の内戦から南部が独立したスーダン、南にはケニア、北を紅海沿のエリトリア(かつてはエチオピア領)とエチオピアの貿易港となっていて、自衛隊が派遣されているジブチと四方を他国に囲まれた海岸のない内陸国です。北半球ながら、北緯9度前後の赤道に近い位置にありますが、国土の西側3分の2位は2000m以上の標高の高原であるため、1年中ほぼ同じような気温です。1月2月でも朝晩は10℃前後、日中は20~25℃と寒暖の差がありますが過ごし易い気候になっています。
また、気圧の低い高地であるため裸足のアベベ以来の陸上競技長距離の強豪選手を輩出する国として有名です。

その一方で、国土の東北には大地溝帯があり、アファー低地帯では海面下150mのアフリカ一番の低地のダナキルがあり、世界で一番暑い場所です。今回私はそのダナキルを訪れました。硫黄の吹き出す
火山と一面の塩湖からなり、別の惑星に来た様な気分になりました。そのアファーは300万年前にアウストラピテクス・アファレンシスという人類の祖先である直立類人猿の住んでいたところで、何百体もの個体の骨が発掘されています。その中で最も完全に近い形で出土したものとして知られていますのがルーシーです。今ルーシーの骨はアメリカへの長期ツアーに出ていて、アジスアベバのエチオピア国立博物館にあるのはそのレプリカです。

2)宗教・民族
エチオピア正教徒(コプト派キリスト教)が約6割、イスラム教徒が約3割で敬虔な信者が多いことでも知られています。夜明け前、近くの教会からお祈りに誘う大きな音がスピーカーから流れて来ます。このためスピーカーの大音量は目覚まし時計代わりになります。
エチオピアには約80の民族がいます。その中でも最も多いのがオロモ人で約40%、アムハラ人約30%(アジスアベバを中心及びその周辺)、チグライ人(エチオピア北部・故メルス首相の民族)7%、ソマリ人(エチオピア東部)4%です。少数民族の中には、唇に大きな皿を入れることで知られています南部のムルシ族がいます。
今回私は、北エチオピアのチグライ州で、カイゼン指導を行いましたが、ここで話されているチグライ語は、アジスアベベで話されているアムハラ語と文字も発音も文法も全く異なり、チグライ出身でない、カイゼン指導員は全くこの言語を理解できません。

3)教育・言語
多民族国家(多言語国家)であるため、初等教育は地方毎の言語で行われますが、中等教育からは、エチオピアとしての共通言語がないため、英語で教育がなされ、大学ではもっぱら英語が使われます。このため、アジスアベバでは現地語のアムハラ語と英語が共通言語になります。ホテルの従業員や我々が乗っていますハイヤーの運転手は英語を話せますが、街の商店のおじさんやおばさんや工場の労働者は全く英語を話せません。もちろん我々のパートナーのカイゼン指導員は皆大学を卒業していますのでとても上手に英語をしゃべります。

また、指導した多くの工場は、インド、バングラデッシュ、スリランカ等の東南アジアから、多数の技術マネジャ・クラスを雇っているため、工場内の公用語は英語となっています。
また、TV放送ですが、現地語の放送局は1,2ありますが、サッカー中継、ニュース番組(BBC、CNN、アルジャジーラ)等の衛星放送を各家庭はパラボラアンテナを設置し受信しています。世の中の動きの情報や有名なサッカーの試合は英語が理解できないと解らないことになります。
また、エチオピアでは現地語での専門書の出版がないため、カイゼン指導員はほとんどの情報をインターネットにアクセスし、英語の資料をダウンロードして入手しています。近年日本でユニクロや楽天等、一部の大手企業が公用語を英語にしようとの動きがありますが、発展途上国では、好むと好まざるに拘わらず、英語を使用しないと知識も情報も得られないし、仕事も進まない状態で、日本より何歩も進んでグローバル化されています。

4)歴史時代以前のエチオピア伝説
旧約聖書によると、イスラエル王のソロモン王を訪ねたシバの女王は、エチオピアの女王です。その2人の間にメネリック一世が生まれてエチオピアを治めたということになっています。それから、最後の皇帝ハイレ・セラシエ(1974年、社会主義の軍事革命により廃位)に至るまでこの伝説の血統につながることが皇位の正当性とされています。又、インデイージョンーズの映画に出てくる、聖杯(アーク)伝説のあるのもエチオピアです。

5)現代のエチオピア国の成り立ち
エチオピアは多くのアフリカの国が西欧列強の植民地になった中で、伊ムッソリニーによる6年間の占領を除き、他国に支配されたことのない国で、誇り高い民族の国です。又、イタリアに勝利した日は国民の祝日になっていて、TV放送は朝から、イタリア戦勝の特別番組が放映されています。第二次大戦後の国連では設立当初の50ケ国の加盟国の1つであり、朝鮮戦争にも国連軍の一員として参戦しています。日本は敗戦国のため国連の加盟は1956年とエチオピアより10年以上も遅くなっています。

1974年に帝政から軍事革命により社会主義に移行し、1991年に軍事政権を故メルス首相をリーダーとする、TPLF(チグライ民族解放戦線)が倒し、1994年から議会制民主主義体制になり、現在まで続いています。他の新興国同様圧倒多数与党による一党独裁的な色彩がありますが、今のところチュニジアやエジプトのような革命が起こる懸念は少ないと感じられます。民主化後は、連邦体制で地方への分権化を進めており、序々に国営企業の民営化を進めて市場経済を導入し,育成しつつあります。今回のカイゼン指導の中にも、元の国営企業が含まれています。現政権は強力な政府指導で産業を引っ張って行く「開発国家資本主義」のモデルでの発展を目指しています。
我々のJICAプロジェクトもこの流れの一環にある。企業活動における品質・生産性の向上を図り輸入代替・輸出増加と雇用創出を進めることをエチピア政府は目標としています。

2 エチオピア国のカイゼン活動の状況
私の参画した、JICAの第Ⅲ期エチオピア国品質・生産性向上(カイゼン)PJは、カウンターパートである、カイゼン指導員のカイゼン実施能力の向上を図り、エチオピア国内でのカイゼン実施企業を拡大する目的があります。私は参加した、第Ⅰ期のカイゼンPJではカイゼン指導員は9名しかいませんでしたが、第Ⅲ期では、管理部門を含めて、カイゼン指導員の組織(EKI:エチオピア・カイゼン・インスティチュート)は100名弱の陣容を擁するまでに拡大・発展しています。

それぞれのカイゼン指導員の知識レベルもモチベーションも高いです。一方、実践でのカイゼン経験が不足している欠点も抱えていますが、エチオピアの大企業、中小企業や零細企業へのカイゼン普及の尖兵となっています。最大の悩みはカイゼン指導員は公務員であるため給与が安く、民間企業への転籍や国内外の外国企業への移籍が多いことです。このため、EKI 所長の最大の命題は如何にカイゼン指導員の待遇を向上させ、離職を防ぐためにできるだけ多くの予算を獲得することです。

アフリカでは、JICAにより、カイゼン普及PJがエチオピアの他エジプト、ジュニジア、ガーナ、ケニア、ザンピア、タンザニア、マラウイ他で実施されています。EKI所長がカイゼンへの思い入れが強いことと、カイゼン普及戦略が卓越していることから、アフリカ諸国での、カイゼンの第1人者を名実とも自負しています。今年の8月にケニアのナイロビで開催されたTICAD Ⅵで、安倍首相が1万人の工場経営者の育成支援を約束しました。このため、今後ともアフリカでカイゼンを導入する国が益々増えてきます。アフリカ諸国は、多くの資金を要さず、製造業の品質・生産性向上に大きな成果をもたらす、日本のカイゼンに熱い視線を注いでいます。

第10回 計画なくして経営革新なし ―予算という計画を建てる―

〔暗中模索のなかで〕
 企業経営は、近未来に向かって革新していくからこそ、永続していけるというもの。だが未来は、どのように開けていくか分からない。経営革新は未知の世界で暗中模索するのだから、ここに何らかの灯火があれば道標になる。
 この『ともしび』とは将来に向かう『計画』で、企業経営においては『経営計画』『事業計画』『ビジネスプラン』などの名称が付けられている。まさにこの道標は、経営者が自身のため、また革新していく仲間や協力者のために、自分が灯さなければならないのである。

〔どのように灯せばいいのか〕
 一言に『計画』といっても、慣れないうちはどのように建てていけばよいか分からない。その問いに即答するなら、1)どれくらい先の近未来を照らせばよいか ⇒「3~5年くらい先の『中期経営計画』にする」のが良い、2)どのような内容を満たせばよいのか ⇒「次に図示するような構成で考える」とまとまり易いのではないか、ということになる。
 ただしここで忘れてはならないのは、3)経営革新を進めるための計画は ⇒「絶対に『利益計画』でなければならない」ことである。逆にいえば、将来の経営を維持するための利益の獲得は ⇒未知の世界に対応した「革新を進める」ということになる。

〔二重構造の辻褄が合うか〕
 図に示したように、経営計画は将来に向けて『時間』と『金額』両方の要素を備えていなければならない。つまり利益を産み出すための『行動計画』と、その結果を客観的に表す『計数計画』すなわち『予算』の二重構造になっていなければならない。
 このうち行動計画の方は、販売活動にしても開発・生産活動にしても「今年はこうする」「来年はこう」で「再来年までには・・・・」とばかり、P-D-C-Aサイクルの『Pプラン』の目標も直ぐに建ち、スケジュールも建つ。また行動計画は『Pプラン』に対する『D実行』も、P-Dの『Cチェック』に基づく反省や修正も、次の『Aアクション』に繋ぐことも容易にできる。
 しかし子供の計画と同じで、ただ行動計画があるだけでは、どんなに頑張っても利益計画にはならない。つまり企業活動には、必ず『コスト』を必要とするのであり、活動の成果は『収益』として還ってくるのだから、これで【収益-コスト=利益】が見込めることになる。
 両計画が揃ってはじめて、利益計画のP-D-C-Aサイクルが廻るのである。この二つ計画は、サブプランとする場合もあるが、両方が揃わないと計画にならないのだから、両方ともメインプランと呼称すべきであろう。
 経営革新計画の立案にあたっては、一定の書式が決まっている場合でも、行動計画のスペースは多いのに、予算の方は将来の『予想損益計算書』スタイルのスペースがとってあるだけである。たしかに行動計画は「あれもやりたい」「これもできる」とばかり、次々に埋められる。
 だのに予算、つまり文字通りに「予め計算する」段になると、だいたい「こんな程度ではないか」とばかり、適当に見積もった数字を当てはめるだけになってしまう。
 もちろんこれでは、行動と結果の間に因果関係はなくなってしまう。だが紙数の関係で、どうすれば辻褄が合うようになるか、計画策定のコツは次の機会に譲ることにしよう。
                                               以上

第9回 ロングセラーはもう出ない ―成熟市場下の新製品開発―      山﨑登志雄

〔成熟市場では焦っても始まらない〕
 新製品開発は、ものづくり企業にとって、最適の経営革新になることに違いない。だが開発には『時間』と『コスト』という貴重な経営資源を注ぎ込む、大変リスキーな経営行為になる。だから事業の停滞時や、開発の『ネタ不足』のとき慌てて取り掛かるのは危険極まりない。
 経済社会の流れが、緩やかな大河のごとく安定していたときは、どの企業もロングセラー商品を生み出してきた。しかし大河はもはや、流れを多様化して細い急流に分散した成熟市場へと変化してしまったが、この流れは独自の努力で、元の大河に戻すことはできない。
 個別企業はこの成熟市場に何とか沿うべく、目先を変えた新製品開発に貴重な経営資源を消耗することになる。が、そんな小刻みな対策に焦っても、安定経営は始まらない。

〔道筋をつけるのが経営革新〕
 製品ライフサイクルが短くなると、新製品開発の機会が多くなり、企業の将来を見据えた道筋がみえなくなってくる。だからものづくり企業は『製品フレーム』つまり自社製品共通の『骨格』を時の流れに沿わせる経営革新が必要になる。
 どの企業にも『製品ジャンル別』だとか『業種別』だとかに区分される、製品ポジショニングがあるものだが、経営資源を分散すると、その位置を確保し続けられなくなる。このため自社製品の背骨から矯正し、将来への筋道をつけていかなければならない。

〔製品群の拠るべき骨格は〕
 自社の製品フレームを有望市場向けにシフトする着眼点は、4つの道(ストリーム)があるのではなかろうか。その道こそは現在、自社製品が位置付けられているポジションから見渡すことができる。
 すなわち一方の着眼点は、経済の社会的分業における生産プロセスの上流(アップストリーム)と下流(ダウンストリーム)の二つの方向があるであろう。さらに傍流(サイドストリーム)にも市場と技術関係から二つの方向性が考えられる。

① 上流への指向
 これは文字通り、現在は社外から調達している部品、材料などを自家製品に切り替えるための新規開発で、組立型産業はもちろん素材産業でも、上流の採掘型産業へシフトする可能性は十分にある。
 しかしあくまでも、コストパフォーマンスあっての指向であり、むしろ特徴ある『機能性部品』や『希少素材』などの確保と安定供給を目的とすれば、その機会は必ずしも多くない。だがこの道が成功すれば、高付加価値生産が約束されることは、間違いないであろう。
② 下流への指向
 これは新たに現有製品の『付属品』や『周辺装置』『追加ソフト』などを開発し、市場占有率の向上と規模の拡大による総原価率の低減を狙う革新である。だからこの流れに沿う事例は、日常的に多く見かけるだけに、安易な指向は激しい競争に晒され、経営資源を消耗しかねないところでもある。
③ 傍流右サイドへ指向
 仮に右サイドは、従来から取引のある、または新規取引をねらう『販売ルート』の要請(ニーズ)に基づくのだが、あくまでも独自の確認情報を根拠にした新製品開発でなければならない。
 この狙いは『異分野参入』『新市場開拓』であり、ルートのニーズに基づく新市場シフトは比較的に易しい対策といえる。だが逆に、自社から販売ルートへの提案型アプローチの方が重要で、積極的なPR攻勢を展開すべきであろう。
④ 傍流左サイドへ指向
 得意とする自社技術を活かして『商品レパートリーを拡張』する流れを掴もうとする意図は、従来から存在した。しかしその指向は、市場ニーズを無視した独善的な『プロダクトアウト』の新製品開発に陥る恐れがある。だからむしろ独自判断で、市場ニーズに沿った『マーケットイン』を指向し、その新製品開発に必要な中核技術(コアテクノロジィ)を探索する流れを起こさなければならない。

〔ショートセラーを効率的に〕
 こうして製品フレームの指向性が確定されれば、全社的な目標への関心事が統合され、的確な情報をキャッチする機会も多くなり、僅かな経営資源を集中させて『低リスクの新製品開発』が期待できる。
 これからの経営は、開発製品のロングセラーが望めない成熟市場であっても、自社の製品フレームの方向性をしっかりと見極めていけば、数あるショートセラーを効率よく開発する革新によって、企業の永続性を望むことができよう。

第8回 中小製造企業とIT(渡邉勝次)

中小企業白書でITの活用が取り上げられてから久しい。ITの活用というと、電子メールや自社ホームページの開設、インターネットバンキング、自社サイトでの製品販売などがイメージされます。ここでは中小製造企業とITの関連で、ものづくり支援補助金事業の事業類型にあるIoTとは一体どのようなものを想定しているのかを考えてみました。

 中小企業庁は平成27年度ものづくり補助事業の対象として、「IoT等の技術を用いて生産性向上を図る設備投資等を支援。」と説明しています。例として「あらたに航空機部品を作ろうとする中小企業が、既存の職人的技能をデータ化するとともに、データを用いて製造できる装置を配置。」としています。
昔から普及しているNC装置や自動機械の導入でも「IoT等の技術」に含まれる幅広い内容で、国の施策としては、実に寛大な定義であると思えます。
施策の背景には、中小企業の人手不足と設備の老朽化がすすんでいることが考えられます。中小企業の設備年齢は、1993年のデータと比べて2倍近く老朽化しています。実際、設備投資額の推移をみると、円高や海外進出も加わりリーマン・ショック前の水準くらべかなり落ち込んでいます。リ-マン・ショックから7年近くたちますが、この間、休廃業・解散中小企業数は増加傾向が止まりません。

 IoTと重なる用語に「インダストリー4.0」があります。蒸気、電気、電子に続くITを第4次産業革命に位置づけたドイツでの官民一体となったプロジェクトを指しています。ドイツでは、主要な企業がテストベッド(模擬工場)を設けて、生産コストを極小化するスマート工場の実現をめざしています。
IoTは、米国ではすでにあたりまえのシステムになっていて、ますます進化しています。例えば、GEのジャック・ウエルチに続くジェフ・イメルトは、IoTを、「インダストリアル・インターネット」と名付け、GEという巨艦をけん引しています。一例ですが、GEのエンジンを搭載した旅客機(ハードウエア)にはすべてセンサーが取り付けられ、世界中から刻々と集まるデータをソフトウエアで処理し、メンテナンスや航空会社向けの営業サービスに活かしています。これによって参入障壁を築くとともに売上の増大を図っています。
インダストリー4.0は、工場内のIoTと理解して間違いありません。ドイツは、極限までコストをカットすることで米国や日本に対抗できる製造業をめざしています。日本がものづくり技術で遅れているわけではないのですが、「見える化」、「5S」等による工場内の合理化だけでは、人件費の増加をカバーするだけの製造コストのカットは限界が見えてきています。日本の中小製造企業にも部分最適でない全体最適のものづくり情報武装化のムーブメントが来ることを願っています。

 では、中小製造企業でIoTは合理化対策になるのでしょうか。まだ、明確な答えはないように思えます。
どういうシステムを導入すれば、どのくらい生産性が向上するのか、といった基本的なデータがありません。国内には、IoTを開発し、提供している企業はありますが、中小企業には、それを評価し、導入システムを組める人材はいません。そもそもFAメーカーが提供する標準的なIoTが中小企業にそのまま役立つとは思えません。中小製造企業は、あまりにも人手に依存した仕組みのなかでなりたっているからです。
大企業ではERPやFMSなどはすでに導入されています。IoTは考え方次第で導入にさほどの困難はないように思えます。
一方、中小製造企業がIoTで合理化を進める解は、発注先企業との連携システムや同じ中小企業同士の生産の同期化システムといった、システム結合による効率化に見出せるような気がします。内部のモノのインターネットは、標準システムのカスタマイズが欠かせません。外部とのモノのインターネットの構築のほうがシステムを構築するリスクが少ないと思われます。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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