成功する企業には新商品開発がある
6.開発管理の要点 - 新商品の果実を結ぶ -
6-5.新技術導入と開発管理
〔ピカ一技術者の存在とは〕
● 学際的な複合化技術で勝負
研究開発要員は、科学技術的な『知識の獲得力』と、知識を駆使した『創造的思考力』といった個人的資質が要求されます。技術力そのものは人間の能力であるに違いありません。ですから技術は、会社の『役員』や『従業員』および『関係する人々』がもたらします。
ですが研究開発要員のすべてが、必ずしもスーパーマン的なエキスパートであることを要求されるわけではありません。
たしかに昔は、超スーパー・スター的な技術者がいました。またそんなスターにかぎって「残業、徹夜は厭わず」とも、ちゃんとヒット商品をかっとばしたものです。今でも、どこかにそんな存在の技術者がいるかもしれないと、期待する経営者がおられるだろうことは、十分に推察できます。
しかし現在の研究開発情勢は、多分野にわたる『情報をミックス』し、『統合』して『練り上げ』なければ、確信のもてる方向性がだせなくなっています。新 商品を『モノにする』には、いろいろな方面の学術的知識が混合された、つまり『学際的』に『複合化』した技術が要求されることになります。
また研究開発業務は『発想』『実験』『仮設計』『試作』『試験』『性能確認』などのプロセスが、細分化・専門化されています。
中小企業のワンマン経営者が「俺は一人で開発している」といっても、仕事の内容としてはこのように分化しているものです。
● お互いに情勢の変化に気付く
つくれば何でも売れるという『モノのなかった時代』はもう遠っくに過ぎ去りました。現在はいかに、スーパースター的技術者やワンマン経営者であっても、特定分野の専門技術者が『一人だけ』では、新商品開発の勝負になりません。
にもかかわらず、処遇の面で「相当な無理」をしてでも、外から技術者をスカウトしたいと思っているトップもいます。社内で「たった一人の研究開発要員」であっても、何とか高級技術者(?)を確保したい気持ちが残っているからです。
新商品開発を強く望む、中小企業の文系経営者などは、とりわけこの傾向が強くあるのではないでしょうか。
また現在、このように複雑な研究開発事情にあることは、技術者自身も知っています。ですから「月給を倍にする」といっても「オンリーワンの条件」では、容易にスカウトに乗ってきません。
中小企業には『処遇が悪い』から、技術者が集まらないだけではないのです。『倍の月給』が長続きするわけもなく、大きなプレッシャーがあるばかりです。つまり『掃きだめに鶴』の条件では、やがて『鶴もカラス』になることを恐れているわけです。
また逆に、鶴も「甘やかすと幻の鳥、鳳凰になる」ことも忘れてはなりません。鶴スーパーマン氏は、処遇面などで優遇されると、掃きだめ側の「妬みを買っ て」スタッフとしての「協力が得られなく」なります。そんな開発環境では、鶴スーパーマン氏が「舞い上がって鳳凰」になってしまう、図表6-13のような イメージが現実にあるのです。
〔金の卵を生ませる〕
● 要は体制次第で
ただオンリーワンの開発環境であっても、会社としてそのピカ一技術者に新商品開発に必要な情報が集中され、彼をヘルプさせる体制がとれるなら、事情は相当に違います。
例えば、異分野を含めて広く『情報収集が可能な環境』があり、ピカ一技術者に情報を『受け止める能力』があれば、カラスが「大勢でわあわあやっている」大きな『烏合の衆』がいるよりも、よほど効率的な開発ができることもたしかです。
成功している『ベンチャービジネスのリーダー』や『大企業のプレイングマネージャー』がこのピカ一技術者の例です。また同じく、社外の英知を導入するアウトソーシングの場合でも『大学の研究者』や『試験研究機関の研究員』、『コンサルタント』や『シンクタンク』などがもたらす情報や知識も、ピカ一技術者が受け止めて社内に伝播していくのです。
これからの高齢化社会では、中小企業も優秀な『人材を確保』が可能になってきたので、ピカ一技術者を中心とする研究開発チームがつくれる機会が増えたといえます。
たしかに大企業で優れた研究者が、中小企業の『経営環境に向かない』場合もあるので、元『○○開発部長』『××主任研究員』といったネームバリューだけに頼った人材確保には、問題が残ることもあります。
だけど定年退職者にかぎらず、社会・経済情勢の変化によってリストラに遭遇してしまったような『優れた人材』に巡り合えるチャンスがきたこともたしかです。
さらに仮にピカ一技術者が確保できても、その人材を『開発部長』などといった管理職位に就けて、何もかも全部を「預けっ放し」にするのは危険です。そのわけは「名選手、名監督ならず」の名言もあるからです。
かつての名選手は、自分の選手時代と目の前の選手を比べ「なんだ、たったこれだけのことができないのか」「君でも十分にできると思ったんだが」とやってしまいがちだからです。これは、『人事考課の対比誤差』という、誰にでも起こしがちな誤りと同じ理屈です。
将に図表6-14のように「昔の技術で現在の技術を指導、統制」しようとしたが、うまくいかないときは「監督も選手も」双方ともに悲劇です。しかもお客様である観客層が、新世代に位置づけられるケースでは、会社にとっての悲劇は倍増するわけです。
● 開発技術者の管理基準
研究開発の仕事は、マネジメントの仕事と性質が全く異なります。文系の人は、研究開発の『仕事を評価』し難いと誤解しがちです。その理由は、研究開発の仕事を評価する唯一の基準が「開発計画に明記」してある開発期限であることに気付かないのです。
評価基準は既に計画されているのですから、マネジメントのP-D-C-Aサイクルにおいて、期日内に開発「できるか?否か?」を照合C(チェック)するだけでいいのです。難しいことはなにもありません。
研究開発そのものに対する評価は、消費者やユーザーが決めてくれます。要するに「新商品が売れない」という厳しい評価は、新商品の『企画に対して』出されます。が、会社の開発管理は、どの技術者にも「自分の仕事」をさせ、「開発スケジュール」を守らせてやればよいのです。ですから管理のためのモノサシは、いたってシンプルにあるわけです。
中小企業などで技術系管理者が人材不足なら、社内で最もマネンジメント技量に長けているはずの『社長自身』が、開発管理の機能を果たします。そしてトップのリーダーシップが有効に機能すれば、鶴はやがて輝く「金の卵を生む」でしょう。