成功する企業には新商品開発がある
6.開発管理の要点 - 新商品の果実を結ぶ -
6-3.予算管理の要領
〔お金の側面から計画〕
● 開発倒産なんてありえない
一頃は、研究開発に力を入れ過ぎた『開発倒産』といったうわさを耳にしたものです。しかしこのような例は「開発投資が過ぎた」というよりも、投資に見合う売上高や利益がなかった、つまり計画に対する見込み違いだったとみるべきです。
もちろんそれも「売れない新商品を開発した」という意味で、新商品開発の失敗に違いないでしょう。が、企業経営に「見込み違いはつきもの」です。
その不確定要素に対処するために経営管理があり、P-D-C-Aサイクルの先頭に経営計画を立てるのです。新商品の研究開発計画はあくまでも、経営計画の一部にすぎません。ですから開発の失敗が、企業本体の経営管理を狂わせ「倒産の直接的な原因になる」というのでは、まさに『管理不在』というべきです。
● 開発予算の位置づけ
予算というものは『数字で書いた計画』ですから、経営計画の構成として『売上高予算』『仕入・生産高予算(製造予算)』『諸経費予算』などがあります。
企業の予算制度によって、その位置づけが違ってくるでしょうが『リスクの伴う』新商品の開発予算は、製造予算などの『売上原価予算』に埋没させないほうがいいのです。いくら小規模であっても、独立予算にしていると状況の変化による管理がし易くなります。
開発の成否は、はじめの『売上見込み』との対比です。たしかにはじめから「新商品の売上収入が見込めない」のなら、もともと開発計画など立てません。開発予算などないのですから、「支出を切り詰める」どころか、はじめから予算管理などないのです。
● 予算執行者の思い
予算管理というと、どんな予算でも「経費の切り詰め」など、随分と窮屈な印象があります。が、予算管理は研究開発を『金銭的に計画』し、一定期間内に研究開発の実施を『金銭的に統制』するプロセスのことです。
ここでの窮屈な印象は、統制でなく計画の中身である『予算不足』に対する感情であって、予算管理制度自体が窮屈なものではないのです。要するに、予算執行者である研究開発要員の予算額への恨みです。
しかし「有り余る資金を自由気ままに使ってよい」という「研究開発環境なんてない」はずです。当然、研究開発テーマに相応する必要投資の額というレベルがあるものです。
また逆に「存分に使え」といわれても、無駄遣いでもしないかぎり会社のお金なんて、そんなに使えるものではありません。ですから「金は十分に出す」といわれるよりも、研究者の立場からは、きっと「人材と時間をくれ」といいたいところでしょう。
● 研究開発予算の構成
一般的に研究開発予算は、図表6-7のように『人件費』『外注委託費』『試験材料費』『関係経費』等で構成されます。また試験研究設備など、資産勘定の 『設備予算』が別に組まれることもあります。つまり予算の範疇には『人材と所要時間』『単位人件費と開発工数』という損益勘定の『年次経費』と、減価償却 される『繰延べ経費』が含まれます。
● 研究開発する人の管理
ですから「金をくれるより人をくれ」という現場から要請があったとしても、企業経営的にみれば、『予算管理の側面』も『要員管理の側面』も同義です。つ まり『人の管理』も『お金の管理』も、開発管理の面からは同じだということです。「人は出せない」が「お金ならいくらでも出す」という開発環境なんてないわけです。
研究開発要員の状況は、業種や開発目標によって違いはあるでしょう。また中小企業では、設備不足なので『信頼性試験』などに『意外な外注委託費』が必要になるケースもあるでしょう。が、研究開発費予算の中では一般的に、人件費が大部分を占めているはずです。
零細企業によくあるケースでは、社長が「一人で研究開発費に没頭」しているが、会計処理的には『役員報酬』が人件費でないためか、自分のはたらきが開発コストである感覚がなくなります。ですから新商品価格の設定にも、自分の開発コストを入れずに計算します。
しかし社内で一番付加価値の高い仕事をしなければならない人が、開発コストに計算されない『只働き』をしているようでは、会社の飛躍的発展など望めません。
● アウトソーシング時代でも
人件費はコストですから「開発資金は自由に使え」といわれても「金を使う人間がいなければ」意味がないことになります。アウトソーシングの時代、外注委託費予算をたっぷりとって、社外の機関に『委託開発』すれば「金はいくらでも使えそう」に感じます。
しかし研究開発という仕事は、社内の開発体制が万全でなければ、いわゆる「丸投げ外注」ができません。社外の開発会社を活用する『企画会社』などの場合でも、外注先に仕様書を提示するだけではないのです。
工場など、生産設備をもたない企画会社では、目的達成の『手段、方法を指示』し、開発費の『見積もり評価』ができ、『技術的指導』ができる社内要員が、新商品開発の全工程を進展させていくのです。そういった開発過程の中に、外部パワーが織り込まれているのに過ぎません。
ですから、「儲かっているうちに、大先生にお願いして新商品を開発して貰う」とおっしゃる経営者がいたとしたら、その考えは間違いです。開発の丸投げで、自社に都合のいい新商品が生まれてくるはずがないのです。
人件費の次に大きな開発予算は、研究開発設備ではないでしょうか。ですが変化の激しいとき、設備自体の陳腐化や研究開発テーマの急変などにより、高級な設備が不要になることがあります。ですから予算面で研究開発設備は、経営資源を固定化する減価償却費とするよりも、長期リースや短期レンタルなど、一般経費に組み込いれることを考えるのが得策かもしれません。