〔最近、どうかしている!〕
直近では、スズキ自動車:燃費データ試験で法令と異なる数値の使用、その前は、三菱自動車:軽自動車などの燃費の不正表示がありました。昨年では、東芝:長期に及ぶ不適切会計、東洋ゴム:免震パネル&防振ゴムなどの試験データ偽装、タカタ:エアバッグ不具合、旭化成建材:杭打ち工事のデータ改ざんなど、「ものづくり大国」日本の評価を覆す事件のオンパレードです。長年にわたって培ってきた信用や信頼が一挙に崩れてしまいます。コンプライアス(企業倫理)やガバナンス(企業統治)の問題ですが、ものづくりの土台や基盤である技術は大丈夫なのでしょうか?
〔ものづくり日本の土台・基盤は?〕
「ものづくり」という言葉が使われてから10数年が経過したそうです。「ものづく白書」が刊行されたのは2005年です。それ以前は、「製造基盤白書」(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)と呼ばれていました。
「製造」や「生産」という言葉がありますが、時としてわれわれが「熱く」語る時には、「ものづくり」という言葉でなければリアリティを感じません。なぜなら、「日本のものづくり」と言った時には、外部との差異が強調されているからです。企業のグローバル化が進展する中で、「日本のものづくり」の独自性や特殊性がともすれば希薄になり、競争力が相対的に低下してきたことへの危機感を感じます。
中小企業白書(2016年版)によれば、減少ペースは穏やかになったとはいえ、中小企業の数は381万者(中規模企業の数は56万者、小規模事業者は325万者)となりました。企業数では99.7%を占め、従業者数では雇用の約7割を占めています。 国民総生産の約2割を占める製造業においては、中小企業は、製造業付加価値額の約5割を占めており、我が国経済を支えています。それゆえ、中小企業の経営革新こそが日本再興のカギを握っているといえます。
〔経営革新とは何をするの?〕
「中小企業新事業活動促進法」では、「経営革新」を「事業者が新事業を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ること」と定義しています。
「新事業活動」とは、次の4つの「新しい取り組み」を言います。1.新商品の開発または生産、2.新役務の開発または提供、3.商品の新たな生産または販売の方式の導入、4.役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動」。
1999年7月の施策開始以来、2016年3月末時点で承認件数(累計)が63,213件となり、6万件を突破しました。経営革新計画承認企業の業種別の割合を見ると、製造業が4割強となっています。
経営革新計画を作成・実施したことにより「経営目標が明確になった」「会社の進むべき方向が明らかになり、社員の意識が向上した」「対外的信用が増し、新たな取引ができた」などの効果が出ているとされています。しかし、これは行政側のお手盛り評価のような気がします。
最近では、国内への生産拠点の回帰も見られ、だからこそ国内の中堅・中小企業の生産性の改善の必要性が高まっています。そのため、経済産業省では「カイゼン」活動の中堅・中小企業への移転を目的とする「ものづくりカイゼン国民運動」を2015年度から展開し、支援策として「カイゼン指導者育成事業」を立ち上げ、2015年度には11、2016年度には12の民間団体等の取り組みを後押ししています。
〔経営革新を支えるカイゼン〕
企業にとって、改善活動の継続を通じて得られる効果には、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)の改善など、直接得られる効果だけでなく、間接的な効果にも結びつきます。それは、日々の改善活動の継続を通じて、広い意味で製造現場における学習が促進され、長期的には、企業の問題発見・解決能力が蓄積され、工場独自の文化が形成されるという効果で、企業の持続的競争優位の確立にとって、極めて重要です。
しかし、改善活動は、実際には思ったように継続せず、改善のネタが尽きて活動が途中で頓挫してしまい、活動自体がマンネリ化に陥り、形だけ活動が継続していても、推進しているメンバーの中に「やらされ感」「徒労感」が広がるなど、実務面で様々な難しさを抱えています。
特定の手法・技法を採用しマスターするには、先の「カイゼン指導者育成事業」等による「ものづくり企業OB」や「カイゼンインストラクター」の活動は一定程度の効果はあります。しかし、改善活動を長期間継続させ、直接効果だけでなく、間接効果をも生み出し、企業の持続的競争優位につなげていくためには、日常の仕事の中から解決すべき問題をその都度発見し、試行錯誤を通じてその問題を解決していくところにあります。
効果が短期的に出やすいか否かではなく、現場の作業者がそれぞれ自分の困っている問題を発見し、時間をかけてじっくりと解決していくため、多くの場合、成果が出るまでには長期間を要します。そのため、このアプローチは、ある程度企業に時間的・経済的な余裕があって、トップマネジメントの「コミットメント」がないと、そもそも採用できないアプローチかもしれません。
しかし、一緒に「手を汚す」「汗をかく」「悩む」、そして結果は「ほめる」「叱る」などの「コミットメント」こそがトップマネジメントの力量です。蓄積されるものは、特定の手法・技法に特化した改善ノウハウ・解決手段ではなく、問題を発見する力、問題を問題として認識し続ける問題意識形成能力です。この力こそが経営革新を支える力となります。