日本のものづくりと第四次産業革命の現状
前回は、第四次産業革命に至る過程とその中身に付いて説明しましたが、今回は日本のものづくりの現状も含めて、現実を直視したいと思います。
まず、世界における日本のものづくりの競争力を下図に示します。元データの出展は日本機械輸出組合で、キャノンがグラフ化したものに筆者が少し加筆しました。
競争力の定義は「利益率×シェア」としてあり、北米、欧州、アジアと日本の、主要企業平均を比較したものです。北米企業がずっとトップを走り、2000年初頭までは日本が2位だったものが、2008年のリーマンショック以降、欧州は勿論のこと、アジアの企業にも遅れを取りビリが続いています。思えば対象の17業界の内、家電、情報通信機器、半導体、液晶等々は、かつては日本が断トツの競争力を誇っていたものが、今は見る影もない業界もあります。ここでは日本のものづくりで世界的に存在感が大きい、自動車および自動車部品に注目したいと思います(素材産業や軽薄短小電子部品といった上流製造業も存在感あり)。
日本の自動車産業は、何故、競争力を持ち続けられているのでしょうか?
筆者は自動車部品メーカーにも籍を置いたことが有りますので、そのポイントを以下に纏め、日本のものづくり再興のヒントにしたいと思います。
1)カーメーカー、Tier1, 2・・・と、業界で「強固なサプライチェーン」が構築されている
2)設計開発や工程設計含め、確実で迅速な「情報伝達共有の仕組み」があり動きが早い
3) メカ系の加工に特長があり、微妙な寸法誤差を吸収する「すり合わせ技術」に優れる
4)農耕民族特有の、チームで行う自律的自発的な「改善活動」が定着している
ドイツの自動車産業との比較では、上記1), 2)は日本と同様ですが3)は若干異なる様です。すり合わせ技術より図面に忠実な高精度加工が、ドイツの自動車メカ部品の特長と言われています。日本の工作機械は世界一と思っている方も多いのですが、初期精度は同等でも耐久性や繰り返し再現性等はドイツ製に分がある様で、ものづくり補助金でドイツの工作機械を購入した中小企業様も少なからず目にしました。ドイツの機械加工マイスターは装置の保守にもめっぽう強いとJIMTOF(後述します)で伺いました。4) は従来、日本特有の企業文化でしたが、今や世界の製造業がトヨタをお手本にしています。
これら自動車産業の強みは、パソコンやケータイの様なオープン化とモジュール化がベースとなる電気自動車に置き換わると必要性が低くなり、電子産業のあとを追って衰退する可能性もあります。対応策は、基幹部品の先行技術開発とソフトウェアのプラットフォーム化であり、米国が先行する後者が日本の課題となります。現状は、各カーメーカーが独自で開発していますが、「官からの口出ししない出資」が望まれているそうです。
さて、日本の第四次産業革命の詳細を、日本再興戦略2016から確認しましょう。
経産省の第四次産業革命の内容は(日本再興戦略2016から)
1-1) 人工知能に関するグローバル研究拠点の整備(人工知能とものづくり技術の融合に向けた国際的な産学連携)
1-2) 最先端AIデータの生成・利活用促進による技術開発・社会実装
1-3) 介護ロボットの導入推進(効率化・負担軽減効果を実証検証し、効率的なサービス提供に資する基準の緩和や、効率的・効果的な職員配置につなげる)
1-4) ICTを活用した建設現場の生産性革命(iConstructionの推進)
1-5) データ利活用のための環境整備の促進 とあります。
さらに、官民戦略プロジェクト10の7番目、「中堅・中小企業・小規模事業者の革新」は、我々の事業者様に関係の深い政策です。
7-1) 地域未来投資促進事業(中⼩企業のIoT・BD・AI利⽤、経営⼒向上等の⽀援を図る)
7-2) ロボット導⼊促進のためのシステムインテグレータ育成
7-3) 賃⾦を引上げた中⼩企業・⼩規模事業者に対する助成・⽀援(⇒本件のみ異質)
このうち、ものづくりに関係するものは1-1),1-2)で、ノウハウを如何に数値化して高度化に役立てるかがポイントと思われます。1-3)のロボットは介護が例示されていますが、製造業の工程間の繋ぎにロボットが使われる例が増えています。7-1),7-2)では、中堅・中小・小規模事業者にも、IoT・BD・AI・ロボットの利用促進を図る内容です。
また1-4)は例が建築業ですが、製造業でも生産管理にICTを使っていない中小企業が多く見られます。1-5)は前回述べました、業界で横串的に適用可能なプラットフォームの整備を指します。
この様に見ますと第四次産業革命は、やはり、ものづくりが最も密接に関係する成長戦略と捉えて良いと思いますし、日本の「産業の将来像」への試金石でもあると言えます。
次に、ドイツで見られた工作機械メーカーのものづくり革新への取組みに対して、日本の工作機械メーカーの状況を、工作機械見本市であるJIMTOF2016でヒヤリングを行いました。質問の前提条件は、
IoT:工作機械毎の製品別の、加工進捗、品質特性等の情報をBig Dataとして集める
AI:集めたBig DataをQCDが最適化される様に分析を行って、工作機械に指示するとして、前回述べましたドイツの特徴である製造業での水平連携の内容としました。
ヒヤリング結果を下表に示します。IoTでデータを統合的に集めることは既にでき始めている様ですが、AIで最適生産解を導いて指示することまでは、FAの世界のリーダであるファナック様でも「将来課題」との答えでした。ポイントは二つあり、第一はIoT+AIで何をするのか(目的)、第二は繋ぐためのプラットフォーム構築(手段)でした。
またヒヤリングでは「学」との連携も話題となり、ドイツは「産学官」での全方位的な取組みに対し、経産省の取組みは「官民」戦略プロジェクトとなっています。しかし実際には、IVI(Industrial Value Initiative)では法政大学の西岡靖之教授がリーダーとなって、「産学」で「つながる工場」をプラットフォーム構築含めて推進され、IoTデータ流通では慶応大学の村井純教授がリーダーとなって「産学」で推進するなど、むしろ「官」より「学」が深く関与しています。ドイツとアメリカに出遅れた本分野で「官」に期待したい政策は、個人的には「第四次産業革命減税」ではないかと思います。新興国のハイテク産業立ち上げ期には、ほぼ例外なく法人税等の減税処置が寄与していますし、補助金は将来世代への借金を増やし、国の口出し介入(研究会でお聞きした意見)が懸念されるからです。
次回は、中小ものづくり企業の「第四次産業革命」への処方箋、に付いて述べます。