海はだれのものか
子どものころ、海や川で「ここで魚や貝を採ってはいけない」と叱られた経験はないでしょうか。「公有水面埋立法」によると海や川は国の所有とされています。ところが、漁業法により「漁業権」が「物権」として、「自然公物利用権」よりも法的保護が強い側面があるのです。
漁業とは
漁業は水産業の一部であり、1次産業です。ドラマ「ファースト・ペンギン」では漁業が水産加工、物流まで行う6次産業として紹介されていました。漁業には「狩る」漁業である沿岸漁業、沖合漁業、遠洋漁業と「増やし育てる」養殖漁業があります。沿岸漁業は日帰り漁が多く、日本の漁師の8割を占めています。漁法は地域さまざまですが、主に定置網や刺し網を使ってエビ類や海藻類を採取します。沖合漁業はEEZ内で沖合底引き網や第中型まき網を使って、サンマ、アジ、イワシなどの多獲性浮魚類(たかくせいうきうおるい)を採取する漁業です。遠洋漁業は世界中の海で遠洋トロールやマグロはえ縄漁でマグロやカジキなどを採取します。養殖は区画して管理する海域などで、タイや牡蠣、のりなどを育てます。
世界の漁業
世界の漁業・養殖業生産量は増加の一途をたどっています。2020年の世界の漁獲量は2億1,400万トンで1960年の3,687万トンのおよそ5.8倍、消費量は2倍に増加しています。生産・消費量が増加した原因は、輸送や冷凍冷蔵技術の発達、健康志向の高まりから水産物の消費が増えていること、新興国中心に芋類の食生活から魚中心の食生活に変化した点が挙げられています。しかし、日本で見ると魚介類が多かった食生活を肉類の消費が逆転したこと、魚介類の価格が肉に比べ、高めであること、家庭での調理がしにくいことなどから消費量は減少しています。各国の漁業構造を比較すると、日本の漁船の平均総トン数は最も低く、12m未満の漁船割合は最も高いといえます。
漁獲量は増えているものの、漁獲圧の高まりで水産資源の減少をもたらすメッセージは世界中で広まっています。2022年6月の第12回WTO閣僚会議で水産資源の乱獲を促進する漁業補助金の禁止が採択されました。これに先立ち、SDGs14.6でも「2020年までに過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止すること」が宣言されています。
日本の漁業
一方、日本漁業の生産量は、大幅に減少しています。生産量は1984年の1,282万トンがピークであり、現在は約3分の1にまで縮小しています。この大きな原因は遠洋漁業の縮小とマイワシの漁獲量が大幅に減少したためです。マイワシは食料となるだけでなく、肥料や飼料などさまざまな用途でしたが、1988年をピークに急激に減少しています。原因はさまざま考えられますが、海水温の急激な変化がもっとも大きな要因とされています。
漁業就業者数も減少し、高齢化をたどっています。平均年齢が56.9歳で65歳以上の割合が38.3%を占めている状況です。漁業者が活動する上で欠かせない漁業協同組合(以下、漁協)は信用事業、共済事業、販売事業、指導事業など4つの事業を営んでいます。漁協の合併も進んでいるものの、組合員数も減少し、倒産する漁協もみられます。漁協もこれまでのビジネスモデルを継続するだけでは存続が難しく、新たなビジネスモデルを見出し、経営基盤を強化する経営革新が必要です。
漁業法と科学的管理法
漁業法とは日本の漁業生産に関する法律であり、海や内水面で漁場を誰にどのように使わせるかを定めたものです。漁業法は明治43年の成立以降、何度か改正されています。近年資源水準が大幅に低下し、漁業従事社の減少など漁業の危機的状況を背景に直近では2020年12月に改正漁業法が施行されています。改正漁業法で最も着目すべきは科学的管理法の採用です。改正漁業法を踏まえ、より実効性の高い水産政策が水産庁から発表されています。科学的管理法では、一定海域の資源尾数をコホート解析で推定し、これから最大持続生産量(MSY)を算出します。算出されたMSYから漁獲可能量(TAC)を設定し、IQで配分した結果をコントロールする流れとなります。
漁業経営の状況
漁業就業者とは過去1年間に「漁業の会場作業に年間30日以上従事」した「満15歳以上」の人を指します。個人経営体(漁船漁業)の経営収支を見ると平均漁労所得は2021年で226.7万円です。高齢化するほど所得は少ない傾向にあり、操業日数を縮小し、肉体的負担の少ない漁業に変更するなど縮小した規模で漁業を継続していることが伺えます。また、漁船の老朽化も大きな経営課題です。漁船の耐用年数は20トン以上の漁船は500トン以上で12年、500トン未満で9年です。また、20トン未満のFRP船が5年です。しかしながら、現在、船齢が20年以上の漁船が全体の77%を占めています。小型船舶ほど漁船の高船齢化が進み、高品質の水産物供給が難しいといえます。
日本はまわりを海に囲まれた海洋資源国です。これらの海洋資源を守りつつ、海外の取組を必要に応じて取り入れ、日本の新しい漁業のあり方に積極的にチャレンジしていく必要があります。