ものづくり事業部

事業部トップ>執筆者:田島 寛司

執筆者:htajima

第68回 有機農業者の労働力不足支援プロジェクト

◎日本の農業の方向性
2021年5月12日にみどりの食料システム戦略が農林水産省から発表されました。日本の農業が有機農業を推進する方向に「舵を切った」と言えます。具体的には、我が国の農林水産業の生産力強化が克服すべき課題であると明記されています。
農林水産省は、国の施策として有機農業を推進していくことを「みどりの食料システム戦略」で、宣言しています。スマート技術(スマート農業)は作業の省力化・省人化、作業の安全性向上、化学農薬・化学肥料の使用量低減など様々な効果が期待されると謳(うた)っています。EU が 2020 年 5 月に「ファーム to フォーク戦略」として化学農薬・肥料の削減等に向けた意欲的な数値目標を打ち出したことを踏まえて、日本政府は農林水産業の脱炭素化、化学農薬・化学肥料の低減等の環境負荷軽減取り組み環境調和型の生産を可能にすることが、経済・社会・環境のバランスの取れたSDGs モデルの達成につながるものであるとしています。 みどりの食料システム戦略では、「脱炭素化、健康・環境に配慮した食品産業の競争力強化」を謳(うた)っています。また、この戦略には、日本政府が 2050 年までに有機農業の耕地面積を 100 万 Haに拡大する目標を建てています。

◎有機農業を理解する
有機農業は数多くの作業工程が あり、その作業は手間のかかる農作業があり対応するには労働力が必要になっています。 有機農業は、除草剤や虫を殺す 農薬を使用していないので、慣行農法(農薬・化学肥料を使用)に比べて、栽培には「手間」がかかります。この手間を惜しむと品質の良い青果物ができなくなってしまいます。 しかし、有機農業では収穫前に必要な作業をする労働力が現在は不足しています。農家がこの作業に多くの労務費をかけると費用が大きくなり、販売価格を上げざるを得なくなり適切な価格で売れなくなってしまいます。この労働力不足を無料で調達できれば、健康に害のない青果物を適切な価格で販売することができるようになります。

◎農作業を企業研修プログラムに組み入れる
この付帯的な農作業(雑草取り、マルチシート片付け、畝づくり作業、マルチシート貼り)をすることを企業の人事研修プログラムに取り入れました。1 チーム5人で作業をおこない、チームワークを取りながら農作業をすることで完成度の高い作業を素早く行えるよう工夫してみました。 チームワークを高めて作業する際には、コミュニケーションスキルが必要になり、自然発生的にコミ ュニケーションを取るようなヒューマンスキルを醸成できる人事研修プログラムを開発しました。

 マルチシート貼り作業は 1 チーム 5人で分担して作業することで、完成度が高くなるような工夫を求められて作っています。工夫するためにはコミュニケーシ ョンを取ることが必要でヒューマンスキルの醸成に役立ちます。作業をおこなう前に研修講師からの「投げかけ」をおこないコミュケーションを取らざるを得ない状況を作り出します。

◎労働力不足支援プロジェクトは有機農業者と企業をつなげる社会貢献度の大きいものです。

企業研修プログラムに取り組むことで、従業員はコミュニケーションスキルを駆使してチームワークを上手く取り、素早く完成度の高い農作業を達成できるようになります。

企業は従業員がヒューマンスキルを取得でき、農業者は労働力不足を解決できるという二つの課題を解決する社会貢献度の大きいプロジェクトです。

このプロジェクトは日本の農業の方向性にマッチした取り組みだと言えないでしょうか? 興味を持たれた方は、農商工連携プロジェクトチームまでお問い合わせください。

第50回 人材育成の仕方

中小企業の経営者の方とお話をしていて、人材育成の基本的なこと(動機づけ)について誤解されている方がかなり多いことに気がつきます。最近では、新聞記事を読んでも誤った内容が散見されます。今回は人材育成のための動機づけ論について説明します。
動機づけ理論で有名なものはマズローの5大欲求理論(1)とハーズバーグの2要因論(2)説の二つがあります。他の欲求理論もありますが大まかに言うと二つの理論で大体説明ができます。

マズローの理論を具体的に例えてみますと下記のようになると思います。
生理的欲求・・最低賃金(給料が欲しい)
安全欲求・・社会保険(安全な暮し)
社会的欲求・・クラブ活動(群れをなしたい)
承認欲求・・地位・名誉(出世したい)
自己実現・・自己啓発(社会に貢献したい)

上から3番目までは低次欲求、下の二つは高次欲求と分けて考えられています。最近では6番目の欲求で「自己超越の欲求」と言われていますが、字数の関係上説明を省きます。

現在では、ハーズバーグの2要因論が動機づけ理論の主流と考えられています。アカデミックの人達には怒られるかもしれませんが、ざっくりとした言い方をすると、マズローの理論の低次欲求が衛生要因と考え、高次の欲求が動機づけ要因と考えることができます。

中小企業の経営者の方に講演会でお会いした際に直接ヒアリングをさせて貰い過去のご自分の失敗例を伺ったことがあります。
日本で成功している飲食店チェーンを東南アジアに出店する際に、日本の優秀な店長を連れていく際に日本のほぼ倍の給料を出したそうです。しかし、翌月には、仕事量が大変なのでもっと欲しいと言われたと話していました。結局、東南アジアのお店は上手くいかずに撤退したそうです。要するに衛生要因を充実させても、要求がどんどんエスカレートしていくのです。モチベーション理論の失敗談として私が良く紹介しているものです。

自らが成果を上げようとしている時に、人は意思決定が必要な状況に遭遇すると上司から権限移譲をされている時のほうが良い判断をできるそうです。お金を多く貰っている時ではありません。最近、モチベーション理論の最も基本的なことを知らない企業経営者が増えてきているように思います。企業経営を成功させるポイントはモチベーションをいかに高めるかにつきるといえます。
人材育成で失敗しないためのハウツーを端的に言うと、人事考課システムの構築と能力評価システムの構築につきます。能力評価と給与査定は別物であると考えることが重要なのです。これを間違えると人件費だけが肥大化して企業の業績が伸びていかない現象に陥ります。

透明性のある基準を基に従業員の能力評価を公平におこなうことが、人材を育成するためには重要なことです。それを踏まえて人事考課をおこなっていけば会社の業績は向上していきます。
今回お伝えすることは、従業員のやる気を継続させる方法として「具体的な数字」をあげて目標を決めてあげる(自分で決めさせる)ことです。そして、経営者は従業員に数か月後の自分をイメージさせることが必要なのです。
まずは、従業員と対話をしてみてください。答えをその中にみつけられるはずです。

(1)出所:中野明[2016]『マズロー心理学入門』星雲社
(2)出所:ハーバードビジネスレビュー編集部[2009]『動機づける力』ダイヤモンド社

第34回 ものづくりは人づくり Part2

今回は働き方改革と人材育成について述べたいと思います。働き方の中で問題視されるものに残業があります。その残業時間を考える前に人の集中力について考えてみたいと思います。    

人間が集中できる時間は諸説ありますが、15分間から45分間とも言われています。デスクワークにおいても同様なことが言えると思います。また、人が作業をする時間は起床後13時間[1] までが限界と言われています。つまり、朝6時に起きた人ならば夕方7時が限界になると言うことです。それ以降の時間は、「酒気帯び運転」と同じレベルの脳の状態しか得られないと言われています。15時間を超えると「酔っ払い運転」と同じレベルの脳の状態になるのです。つまり、残業をさせるという行為は、高い残業代を支払って酔っ払いの部下に仕事をさせているのと同じ事なのです。

この学術的見解から言えば、「部下に一か月で20時間以上残業をさせる人間は管理能力が著しく低い」と言わざるを得ません。上司が部下に仕事として行うことで一番大切なことは、仕事のタイムプランをたて「今やるべき事」と「後に回す事」を分けることを教えることで、やらなくてもよい事を部下にさせていないかを常に見直しをすることです。言い換えれば、上司の仕事で一番大切なことは、仕事の優先順位を部下に教えることなのです。残業をさせないで仕事を終了させることがいかに会社にとって有益なものかを理解する必要があります。

人材育成をする時に言えることは、教育を受ける立場にある人間(トレーニー)が教育をする立場の人間(トレーナー)の話を集中して聞いているかと言うことです。話す内容がトレーニーに正しく伝わっていることを計測するには、トレーナーがトレーニーにその話の内容を要約して貰うとよくわかります。自分では客観的に伝えたと思っていても、相手には自分が意図したように伝わっていないことがよくあります。コミュニケーションを取るタイミング、声のトーンやスピードなどで自分が気を付けることは多岐に渡っています。相手の体調も気にしなくてはいけません。伝達する時間などは極力午前中が良いと言われています。これらのことは集中力の話からも理解できると思います。そしてトレーニーが行ったことをトレーナーが的確に評価し、フィードバックに心がければ業務の生産性は飛躍的に向上していきます。人材育成のキーワードは「集中力」と「評価」です。今後、OJTを行う時には注意してみてください。

繰り返し述べますが、国会で審議されていた「残業時間を一カ月で30時間以内にする」などというのは、医学的にみても愚かな行為でしかないと言えます。残業自体が無駄な行為の典型だからです。人は「資源」であり「何物にも代え難い資産」でもあります。資源を有効に活用できない企業は、市場に生き残っていくことは難しいと考えるべきなのです。その為には、「工夫する」ことができる人を育成していくことを考えてください。岐阜県に残業禁止が会社の方針になっている従業員800名の中小企業があります。20年間も右肩上がりの数字を残しています。この会社は残業が禁止なために従業員同士がどうすれば時間内に仕事を終えられるかを絶えず工夫して考えていると本[2] に書かれていました。うちの会社には、到底できないことだからとあきらめる前に「やってみよう」と考えてみてはいかがでしょうか?今すぐに行動できるのが中小企業の利点でもあります。大企業には決して真似できないことです。まずはやってみましょう。

1 小室淑惠[2016]『労働時間革命』毎日新聞出版
2 山田昭男[2011]『日本一社員がしあわせな会社のヘンなきまり』ぱる出版

 

 

第20回 「ものづくりはひとづくり」

大企業でも、中小企業であっても、モノ作りをになうのは最終的には人であると言われています。よほど汎用性のあるものでない限り、ほとんどの場合で最終的にモノを作るためには人の手が関わってきます。ということは、モノづくりは「人づくり」であるといっても、過言ではないということになります。今回は「人を作る」つまり、人材育成について考えてみたいと思います。

1.人は資源か資産か
大辞泉を調べると「資源」は、広く産業上利用しうる物質や人材とあり、「資産」では、個人や企業が所有する財産と説明されています。いずれにしても、人は経営資源の一つに違いはありません。
人を資源と捉えると次のような特徴が考えられます。手を加えると価値が上がっていくが、加え方を間違えると逆に価値が下がっていく。入手した時点から価値が上がっていく資源であるが、組み合わせにより力を出したり出さなかったりする。日によって調子が変わりやすい。非常に扱いが難しい資源だと言われています。

2.人的資源の動機づけ理論
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが人間に対する分析を行い、「動機づけ・衛生理論」を提唱しています。人間には2種類の欲求があり、苦痛を避けようとする動物的な欲求と心理的に成長しようとする人間的な欲求という別々の欲求があるとしています。
言いかえると苦痛を避けようとする動物的な欲求をいかに充足しても、人間は不満足感が減少するだけで積極的な満足感を増加させることはない。また、たとえ心理的に成長しようとする人間的欲求を十分に満たすことができなくても、不満足感が増加するわけではないと述べています。つまり、仕事の満足感を引き起こす要因と不満を引き起こす要因とは違うということなのです。
不満要因(衛生要因)をいくら取り除いても、満足感を引き出すことにはつながらず、不満足感を減少させる効果しかなく、仕事自体の満足感を引き出すには「動機づけ要因」にアプローチしなくてはいけないということです。
少し極端に言うとすれば、給料をいくら多く出しても、人間は、直ぐに当たり前だと思うようになるので、給料を多くするだけでは駄目だということです。仕事の満足感を与えようとするならば、その人間にある仕事を任せて、その達成度を評価してあげるということをすれば、人は成長していくということを述べています。成長するということは、人は自らが考えて、自分で問題点の解決策を発見していくことだと言えます。

3.人を資産と捉える
アメリカの経営学者のピーター・ドラッカーは、人こそ最大の資産であると著書のなかで述べています。人のマネジメントとは、人の強みを発揮させて生産に結び付けることであり、また、人の弱みを中和させることであると述べています。ここでいうマネジメントは「管理」という意味でなく、組織に人を適材適所で「配置すること」であるとしています。また、彼は人材を資産と考えたとしても、人は企業の所有物ではなく清算するものでもないと述べています。
人は共に働く人たちを生かすべきものとして捉えることであり、その強みが成果に結びつくよう人を配置すべきであると説明しています。ドラッカーだけが経営学者ではありません。しかし、人材育成とはどのようにするべきなのかという課題のヒントにはなると言えます。

4.イノベーション(革新)を起こす
中小企業は、大企業に立ち向かうのではなく、いかにして、大企業と戦わずに勝利をおさめるかということを常に考えていなくてはなりません。人、モノ、金、情報である経営資源が乏しい中小企業は、競争市場の中で戦っていくためにさまざまな工夫が必要となってきます。
戦っていく武器のひとつにイノベーション(革新)を起こすという考え方があります。この革新は、人の頭の中からしか生まれてこないのが特徴です。どこに問題点があるのかをいつも考える習慣が、人の頭の中にないとこの革新という発想は決して生れ出てきません。どんなに多くの人間がいても駄目です。
多能工化している中小企業では、このチャンスに恵まれていると考えることができます。「人をつくる」ということは、重要であると再認識できます。
小さな工夫をするということは、革新を起こすことに他ならないのです。人材を育成するということは、この革新を生み出すために必要なことであると言い切ることができます。モノ作りを極めるためにも、人材を育成することはイノベーションを起こすために重要なことなのです。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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