ものづくり事業部

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執筆者:htanaka

第80回 リサイクル事業者の経営革新事例

リサイクル事業を行うA社は,北海道北部で1974年に古物商からスタートし,1990年に法人化,創業から50年を迎える。現在は,産業廃棄物処理業を主業とし,その他創業時からのスクラップ事業および解体事業を行う。道北地域に本社と事業拠点としてリサイクルセンターを置く従業員24名,売上高5億円のリサイクル事業者経営革新への取組事例を紹介する。

1.A社の事業概要

A社は,2001年に処分業許可を得てリサイクル事業に進出し,中間処理場のリサイクルセンターを新設,大型破砕機導入など積極投資も行い中核事業に成長した。自社解体事業で発生する建築廃材や同業者の持込廃材,収集運搬事業で取り扱う建設系および事業系廃棄物の中間処理を行い,リサイクル品と最終処分品に選別し,それぞれ販売先や最終処分場に自社便で搬送している。A社直近の収益状況は,図表-6の通り売上高530百万円に対して営業利益17百万円であり,営業利益率3.2%は,経産省ローカルベンチマーク業種別基準値の4.0%と比較して低い水準となる。同リサイクル事業はCO2排出削減や資源獲得を目指した循環型社会への要請も受け需要拡大に向けた重要事業として位置づけており,当事業を主軸に収益率UPを目指して経営改善に取り組んでいる。

2.A社の現状分析

(1) 強み

A社は創業から50年続く老舗企業である。先代の創業者から長兄が事業を継承したが、実直な仕事ぶりでトラブルも少なくお客様からの信頼も厚い。また,長年の事業歴を通して,建築解体現場から出る産業廃棄物の分別,処理に関するノウハウの蓄積がある。道内でも一貫処理する事業者は少なく,処分価格および効率性が強みとなる。

(2) 弱み

解体事業および収集運搬事業は,新規参入も含め同業者が多いため価格競争が発生し,取引価格の低迷で利益率を圧迫している。リサイクル事業では,持込廃材の全量を分別処理したいが,処理設備と人手が十分におらず,外部に処理委託している。

(3) 機会

国や北海道は,脱炭素社会への移行に向け,持続可能な形で資源利用する「循環経済」への移行を目指し,サーキュラーエコノミー政策を推進している。政策推進のための各種支援や排出事業者の意識変化により,リサイクル品への需要増が期待できることからA社リサイクル事業の拡大チャンスとなる。道内最終処分場のひっ迫は脅威となるが,中間処理場への持込ニーズが拡大することから対処方法によっては事業チャンスとなり得る。

[4] 脅威

道内の最終処分場の受入が限界にきているため,受入制限や処分費用が高騰し,収益へのマイナス影響が拡大している。A社では通年で人材募集をするが3K職と回避される傾向が強く,人材確保に苦慮している。少子高齢化による就業者不足と合わせて,この傾向は強くなる一方であり事業維持にも困難をきたす大きな脅威となる。

3.A社の課題と改善の方向性

SWOT分析から導くA社の経営課題は,収益性の高い事業分野への構造転換である。そのためには,中核事業に成長したリサイクル事業の更なる強化が目指す方向となる。解体現場からの排出物は,収集運搬・積替・保管を経て中間処理施設で選別されリサイクル工場と最終処分場に搬出される。A社も受入れ量の拡大に従い,リサイクルセンターでの処理効率化が求められるが一番のボトムネックが選別工程にある。現在,持ち込まれた混合廃棄物は手選別工程を経てリサイクル品,最終処分品に振り分けられるが,選別精度が荒く結果として最終処分品が膨らみ収益に悪影響を与えている。最終処分品は,最寄りの最終処分場自体が枯渇していることから遠く道央地区まで輸送しており,最終処分埋立費用の高騰に合わせて輸送費用も燃料高により収益を更に圧迫している。また,処理量の増加に合わせて従事者の高負荷が顕著になっており,働き手不足も加わり経営上のリスクと捉えている。持続可能な循環経済への移行推進と資源価格の高騰により,リサイクル品への需要が増している。リサイクルラインを高度化することで最終処分品の削減,需要拡大への対応と作業員の負荷軽減に取組む計画である。

4.具体的な対策と実施項目

 (1)  リサイクルラインの高度化

A社リサイクルセンターでの建設混合廃棄物の選別工程効率化に取り組む。現在,受け入れた建設系廃棄物は,破砕機を使った荒破砕工程を経て人手による選別を行い,リサイクル品と最終処分品に分類され搬出される。最終処分品は,道北地区最終処分場が枯渇していることから,遠方の道央地区の最終処分場まで300Km超を自社トラック便で往復することになっている。選別精度を上げることで最終処分場持込量を減らすことができ,最終処分費用および輸送費用の削減,作業者の負担軽減につなげる。持込量の最も多い建設系混合廃棄物の処理工程を以下に記載する。

リサイクルライン処理の流れ

1) 破砕工程     :    持ち込まれた建設系廃材の重量物を荒破砕する。

2) 篩(ふるい)分け工程     :  荒破砕された産廃品から残土など小さなゴミ類を取り除く。

3) 軽量選別工程     :  体積の大きい軽量物(例:紙くず,廃プラ,繊維くずなど)を除去する。

4) 手選別工程 :  前工程を経て搬送ベルトコンベアで人手による選別を行う。

従来は,コンクリート土間に中腰姿勢で作業を行っていたが,立ち姿勢に変えて作業条件にあったコンベア調整で作業効率UPと身体負荷を軽減する。

 (2)  優良認定取得とコンプライアンス遵守

環境問題への社会的要請が高まる中,A社は処理業者として北海道優良産廃処理業者の認定取得を目指している。同制度の認定を受けるためには,遵法性,事業の透明性,環境配慮の取組,電子マニフェスト,財務体質の健全性,の5つの基準に適合することが必要となる。その一つである環境配慮の取組みとして,エコアクション21の認証登録を進めている。また,収集運搬事業では,排ガス規制基準に適合した車両への計画的な更新と法定速度の遵守,アイドリングストップなど担当社員への教育と継続的な啓蒙活動を実施する。廃棄物処理法が厳格化されており,とくに「欠格事項」の規定は厳しく,許可が取り消しになると廃業もあり得る大きなリスクとなる。外部機関の支援も得ながらコンプライアンス教育の徹底と従業員の働きがい醸成にも取り組む。

 (3)  IT利活用

A社はIT化の取組みが比較的遅れていたが,電子マニフェスト制度などIT化への対応を進める。現在,表計算ソフトで管理している配車運行をクラウドサービスで提供される車両運行管理システムに切り替える。産廃の配車要件が複雑なため,ベテラン運行管理者の依存度が高く,システム導入は管理者の負荷軽減と属人化を防ぐ狙いがある。また,同システムを契機にデータ活用と社内業務見直しを通じて従業者の負荷減と効率化につなげていく。

 (4) 業者間連携

A社は,産業廃棄物の処分とリサイクルとを行うため,労働力とリサイクル技術が重要な経営資源となる。顧客から廃棄物処理の依頼を受けたとき,自社で対応できるものと限らないため,業者間のネットワークづくりを進め最終処分量を減らす。地域の同業者からの中間処理受入や顧客である住宅メーカーからのニーズにも応えられるよう取り組む。

5.経営革新で目指す利益計画

A社直近決算では,リサイクル品相場の高騰で売上が伸長し収益も伸びたが,1年目以降は平年並みに落ち着くとみており,リサイクルライン高度化による設備投資と生産性向上による収益改善を折り込み改善後の計画値とした。現在の廃棄物受入量は約1,000t/年であるが,投資効果から受入量を増やし3年目は,1,200t/年を見込む。設備投資による減価償却費増と従業員給与伸び率の年3.0%を折り込み販売管理費に計上をしている。収益効果では,廃棄物処理の受入量増による処分売上増に加え,最終処分場への運送費および最終処分委託費の費用削減よる収益改善を見込み3年目の営業利益を50,000千円,営業利益率8%超を目標とする。

A社は,環境を守る社会的使命と排出者が処理責任を全うするための重要な社会インフラを担っており、事業を通して循環型社会構築にも貢献していく。

第77回 AR(拡張現実)技術の産業利用について

昨今はよく目にする技術となってきているので、ご存知の方も多いかもしれませんが、ARは、Augmented Reality(オーグメンテッド・リアリティ)の略で、日本語では『拡張現実』と言います。このARは、人が知覚している現実の環境(物や空間)に対して、仮想の情報を重ね合わせる表示技術です。AR技術の産業利用について、技術動向と合わせて紹介します。

1. ARは幻滅期から啓発期へ
ガートナー・ジャパン発表の「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2022」
では、メタバースへの期待感が一気に高まる一方で、AR/VR(拡張/仮想現実)は、市場から著しく期待される時期を過ぎて幻滅期にあるとしています。デバイスの進化に後押しされたAR/VR技術も安定普及に向けて進む啓発期にあります。

図表-1 出所 ガートナー「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2022」

2.ARとMR/VRの違い
現実と仮想を組み合わせる表示技術として、AR以外にも、VR(バーチャル・リアリティ)やMR(ミクスド・リアリティ)といった物があります。この中でもVRは、コンシューマ向けのゲーム等の普及で体験したことがある方も多いかもしれませんが、VRは仮想世界に人間の知覚(視覚や聴覚)を没入する事で仮想(バーチャルの)世界を体感するもので、仮想世界がメインとなります。それに対し、ARは現実世界がメインで、現実の画像に仮想の情報を付加するというものになります。

3.AR技術の活用例
AR/VRの技術は、ゲームなどのエンターテインメント分野で特に普及が進んでいますが、技術としてはまだまだ多くの活用領域があります。
(1)作業支援・教育支援
現実の機器にアノテーションを重畳表示することで操作を行う位置やアクションを容易に把握することができる。また、危険箇所への注意喚起などにも利用可能です。
(2)3Dモデル配置
現実の風景にCGや3Dモデルを重畳表示することで、あたかも「そこにあるかのように」に感じられ、見た目やサイズ感、設置イメージを視覚的に把握することで配置検討ができる。
(3)透過モデル表示
現実の物体に3Dモデルを重畳表示することで、内部が透けているかのように見え、分解せずに故障個所を把握することや、内部構造の理解を深めるなど技術教育などに利用することができる。
(4)空間情報表示
現実の空間中に文字情報や矢印、画像などを表示することで、道順や看板、注意書きを仮想的に表示させ、目的地まで安全に誘導する経路案内などができる。

上に挙げているのは用途の一例ですが、AR表示する内容・重ねる対象物など、様々な業種・業務でこの技術を活用できます。その中でも、特に産業領域においては、ARなどのビジュアル化技術の活用度は高く、また効果も出やすい領域です。

4.ARマーカーについて
AR表示するためには基準となる箇所を認識する必要があるため、ARマーカーを使用します。
マーカーには情報を表示する仕組みから大きく3種類に分けられます。
■画像認識型
カメラで取得した画像を解析し、画像や映像にデジタル情報を付加する方式
■位置情報型
GPSや加速度センサーなどから取得した情報と紐づけて、ARを表示する仕組み
■空間認識型
カメラで取得した空間の情報を解析し、画像や映像にデジタル情報を付加する方式

画像認識型と位置情報型では、ゲームコンテンツや、地図アプリなどでの活用事例が増えていますので目に触れることも多いかと思います。空間認識型では、自立型ドローンなど精度の高い情報として利用する例が見られます。

5.AR技術への期待とギャップ
やっぱり、ARするならスマートグラスでしょ!
これはARを産業利用に取り入れようとする多くの方の意見です。付加された仮想情報を見るときに、スマートフォン、タブレットでは、どうしても両手が塞がり使いづらい。両手フリーのグラスがデバイスの第一選択肢となります。ネット上に登場するPR動画もスマートグラス装着のシーンが多く、イメージ先行の感が否めません。
実際に装着してみると、重いです、画面小さいです、電池が持ちません。など意外とネガティブなコメントが多く登場します。単眼式グラスでは、現物を見る目との視差で慣れるのに苦慮します。両眼式グラスでは、目の前に付加情報が表示されて、歩きながらの作業には向かない。人間の知覚によるところですので、個人差も大きいと見られます。こちらは、スマートグラスの今後の機能改善に期待したと思います。

出所:マイクロソフトHP https://www.microsoft.com/ja-jp/hololens/apps より

6.ARの産業利用例
産業利用例を一つ紹介します。
国土交通省の排水機場点検業務にヘッドマウント型のスマートグラスを装着し、設備点検業務にARが利用されています。ポンプ設備の点検を実施する際、排水機場の光景に付加情報(ホログラム)を重ね合わせて表示します。正確な点検箇所を把握し、点検結果を入力する。紙やタブレットを使うよりも安全に点検でき、施設情報を熟知していない作業者でも容易に点検できるなどのメリットもあります。

出所:クボタHP https://www.kubota.co.jp/news/2024/management-20240208.html より

第60回 コロナ禍を取り巻くSDGsの近況

持続可能な開発目標(SDGs)は、1/3の期間が過ぎ、達成に向けての具体的な行動が求められています。直近の各報告書からその近況を見てみたいと思います。
1.パンデミックで後退するSDGs
持続可能な開発目標(SDGs)は、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として策定されました。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標では、地球上の誰一人として残さない(leave no one behind)を理念とし、実現するための17のゴール・169のターゲット・232の指標が示されています。
2021年6月に公表された国連持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)の報告書(Sustainable Development Report 2021)によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響により、2015年にスタートしたSDGsの目標は、初めて達成に向けた進捗が後退しました。2020年の世界平均のSDGs達成点数は、前年より減少し、その主な要因はパンデミックによって生じた貧困率と失業者数の悪化によるものです。

2.日本の達成度は18位、ジェンダー平等と環境分野が課題
日本の進捗状況は、世界順位で165か国中18位、19年の15位、20年の17位から更にランクダウンとなっています。目標別に見ると下図に赤表示されている、ジェンダー平等と環境分野に大きな課題が残っているとされています。
なかでも目標15:陸の生物多様性は、保護された陸地や内陸水面の面積の減少を理由に、2段階下げて悪化となりました。新型コロナウイルスの影響は経済、社会、環境のすべてに及んでいますが、達成に向けては、持続的な成長を見据えた経済復興が鍵となります。

             出所:Sustainable Development Report 2021

3.ESGから見るサスティナブル投資の現状
投資家がE(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)の3つの指標で企業の持続的成長を評価するのがESG投資です。SDGsが世界共通の目標であることから、投資家が各企業のESGを評価する上でSDGsは大きな指標となっています。
GSIAの報告(GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020)によると2020年のESG投資は、地域別で、アメリカと日本が急伸し、逆にEU国が見せかけのグリーンウオッシュ排除など基準見直しにより減少となっています。
全体の投資残高では、35兆3千億ドルで2016年の総額から55%の大幅な増加となります。
ちなみに、35兆ドルの規模感ですが、機関投資家の全運用資産が約100兆ドルですので、その35%がESG投資となります。コロナ禍にあっても環境分野を中心にサスティナブル投資が伸張していると言えます。

          出所:GSIA  GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020

4.これからは行動の10年
日本政府は「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、経済、社会、環境の三分野での課題への取組みを強化し、経団連も企業行動憲章を改定し、会員企業に対してSDGsの達成に向けて行動するよう求めるなど、企業によるSDGsの取組みを後押しています。
新型コロナウイルスによるパンデミックは、先送りしてきた社会の課題を改めてはっきりとさせ、「持続不可能」な社会にいることに気づくきっかけになったのではと思います。普及と後退の期間を経て、SDGsは「行動の10年」に向かいます。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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