ものづくり事業部

事業部トップ>執筆者:神谷 恭子

執筆者:kkamiya

第76回 自分と会社を守るということ

私は約3年前、業務委託契約を締結していた企業から、業務委託料の未払被害に遭ったことがあります。当時、個人事業主として開業して3年目に入ったところでした。今回は、経験しないと分かりにくい訴訟の実態について可能な範囲で明らかにし、考察してみたいと思います。

※なお、このコラムはあくまでも訴訟経験者である私個人の見解であり、法律の専門家としての見地には立っていないことを申し添えておきます。

1.事件の経緯

2020年末:予定されていた約300万円の支払いが履行されず、相手方とも連絡を取れない状態となりました。私は弁護士と対応方針について相談をし、まず「内容証明郵便」を送ることにしました。この時は、1) 業務委託契約の即時解除の連絡  2) 債務の即時弁済の督促  3) 債務の即時弁済が履行されない場合には法的措置を検討する、という内容を記したものでした。

この内容証明郵便は受領はされたものの、相手方からの反応はありませんでした。

2021年6月:事件発覚から半年が経過しました。この間、若干の支払いがありましたが、相変わらず連絡がつかない状態が続いていました。そこで、2度目の内容証明郵便を送付し話し合いの場を持ち対応方法について協議したい旨を通知しました。この通知書には、私の想いを記した手紙も添えました。徒に紛争を激化させることを望んでいるわけではなく穏便に解決策を見出したいこと、これまでの機会提供への感謝などを綴ったものでした。

2021年7月:その後、引き続き何の連絡もなく、弁護士からのメールへの反応も皆無でしたので、訴訟に踏み切りました。弁護士の提案により、訴訟を提起後、相手方に和解を提案しました。結果として、分割払いで債務を弁済する、という和解案を作成・合意して裁判は終了しました。

2022年1月以降:8月まで計画通り支払いがなされたものの、9月以降は履行されず約100万円の債務が未回収となったまま現在に至ります。この時点でも相手方と連絡がつかず、これ以降の回収を諦めました。

2.考察

(1) 債権回収戦略

1)  ADR(裁判外紛争解決手続き):相手方と話し合いができる状態ならば、ADRが有効です。非公開で弁護士が調停を行います。3か月程度と比較的短期で決着できるうえに、費用がかかりません。ただし、相手方を交渉のテーブルにつかせることができない場合はこの方法は採用できません。

2) 内容証明郵便の送付:相手方と連絡がつかない場合には、まず内容証明郵便を送付し相手方の反応を見ることを推奨します。内容証明郵便は、「このような内容の書面をいつ、誰が誰に送りました」ということを証明するもので、内容証明郵便そのものには法的な効力はありません。しかし、法的措置が示唆され、かつ弁護士の名前で通達がなされるわけですから、一般的には、受け取った方は少なからず衝撃を受けると思います。驚いて支払う可能性があります。この内容証明郵便にも無反応だった場合には、いよいよ法的措置をとるかどうかの選択となります。法的措置をとるかどうかは当然、状況に応じて判断が分かれますが、コスト面は一つの基準になります(後述)。

3) 訴訟提起~和解:私の場合は、相手が自身の債務不履行を認めており、敗訴の可能性はほぼゼロに近かったのですが、勝訴した場合債務は一括弁済が基本となり、相手方が支払えなければそれで終わりです。実現可能な支払計画(分割払)を相手方と相談して、現実的な和解案を作成するほうが債権回収の可能性が高まるため、和解案を選択しました。

結果的には全額回収できませんでしたが、分割払にしたおかげで一部回収できたと感じます。

(2) コスト

債権が回収できない事態に至った場合、対応方法を検討する際に重要となるのがコスト面です。

1)  訴訟にかかる費用:訴訟を提起する場合は原告側が裁判費用を負担します。和解合意した時点で交渉

成功とみなし、成功報酬が発生します。原告の立場からすると、債権回収が実現するか不明な中、弁護士には成功報酬を支払わねばなりません。私の場合は弁護士費用(内容証明郵便、裁判に要した着手金+成功報酬)は約100万円でした。最終的に回収できた債権は約200万円、100万円は未回収です。

2) 強制執行:和解合意した場合(裁判に勝訴した場合も)で不履行が生じた際に、「強制執行」という

手続きを行う権利が得られます。ただ、この強制執行を行うためにも多額の費用がかかります。裁判所に担保金の供出を行い、加えて別途弁護士費用もかかります。また、差し押さえる財産がない場合(もしくは事前に察知されて財産を引き上げられた場合)には「差し押さえ失敗」となり担保金が1円も戻ってこない可能性があります。

このように、権利はあってもコスト的に行使するハードルが高く、現実には泣き寝入りせざるを得ないことがほとんどではないかと感じます。

3.総括
一般的には、「裁判に勝てばお金は取り戻せる」と思われているのではないでしょうか。私もそう信じていました。相互に合意している報酬を支払っていないのだから「自分は絶対的に正しく、相手が絶対的に間違っている」と思っていました。しかし、裁判で和解案に合意したとて、相手が支払わなければそれで終わりです。また、強制執行しても、財産がなければそれで終わりなのです。また、訴訟を提起するためにかかる膨大な労力とそれに伴う精神的負荷はかなりのものです。

こういったことを起こさないようにするために、また、被害を最小限にする対策として、弁護士保険や共済への加入、支払いサイトの短縮化、取引先の与信チェック等のリスクヘッジをしておくことが重要になります。そして、取引先との日常的なコミュニケーションの中で信頼関係を構築しておくことが何よりも大切だと感じます。

何か不具合が生じても、率直に話し合える関係を構築していきたいものです。

第66回 組織開発の現場より

最近関わったある組織を通じて再認識したことについて、振り返ってみたいと思います。

「色々と対策を講じても事故がなくならない。どうやらその理由は、所員同士がお互いに関心を持っていないからではないか?」という事業所長さんの見立てにより私に相談が持ち込まれた、というのが、その組織に関わる契機でした。

予めお断りしておきますが、「事故が無くならない」ことの根本的な原因は、半年関わる中である程度見立てができたものの、現時点ではまだ解決に至っていません。

相談を受けた私は、アンケートデータを元に組織状態を見立てて、打ち手のご提案を行いました。

事業所は5つの班に分かれているのですが、その班ごとにチームビルディング(各班全4回・各回3時間のセッション)を行うことになりました。各班は4~6名程度のメンバー構成です。

チームビルディングで主に使った手法は、「システム・コーチング🄬」と言い、チームや組織を対象としたコーチングです。システム=組織・チームを表します。

最近は、個人向けのコーチング(パーソナル・コーチング)の認知度が飛躍的に高まり、かなり市民権を得てきたように思いますが、組織を対象としたコーチングは、まだよく知られていません。

パーソナル・コーチングは、クライアントがコーチとの対話により自身の内面と深く向き合っていくプロセスです。そこから、自身の課題が見えてきたり、本当にやりたい事が明確になったりします。コーチとの対話で潜在的なものが表面に現れることもあるでしょうし、もともと顕在化しているが見て見ぬふりをしていたことを突きつけられる、ということもあるでしょう。

システム・コーチングは、端的に言うと、このプロセスをコーチとチームで行う、ということになります。チームはメンバー同士の関係性で成り立っています。そして、チームは共通の目的を持っています。メンバー同士の関係性が良好でないとチームの目的が達成できない事も多いため、システム・コーチングは「チームの関係性」に焦点を当てて進めていきます。また、コーチングをご存知の方はすんなりと理解ができることと思いますが、システム・コーチングでも、コーチは「こうしなさい」とチームに指示をすることはありません。チームが主体的に何かを決めたり行動したりする、という状態を目指して、意図的に関わっていきます。

さて、先ほどの事業所の話題に戻りましょう。

5つの班に対して、それぞれチームビルディングセッションを行ったのですが、チームの状態はすべて異なっていました。今回は、その中でも、5班で起こったことについてご紹介します。

5班は、20代女子・30代後半男子・50代後半男子2名というメンバー構成で、和やかな雰囲気を持っていました。一見和やかなのですが、セッションを始めてみると、誰も話さないのです。

とにかく、口が重い。何を問うても、誰に問うても、とにかく、話し始めるまでに長い沈黙があり、そこからぼそぼそと短く答えて終わり。チームやメンバーが何を考えているのか、どう感じているのかが、まったく見えてこないのです。

3回目のセッションではこんなこともありました。皆で1つの物を協力して造り上げる、というゲームをやった後で、振り返りを行っていたのですが、1人のメンバーはその振り返りに参加せず、そこにある道具を使って一人でゲームの続きをやりだしたのです。

3回目のセッションが終わって、私たちは途方に暮れました。このチームは、一体どうしたいのか?
「チームとしての意志」が全く見えてこないからです。また、こうした「場」自体への(消極的な)反発があることも感じていました。

最終回の4回目をどうしようか、いっそのことやめてしまおうか、と散々悩む中で、私はある仮説に思い至りました。

それは、彼らには、「癒されない現状」があるのではないか、ということです。

現状がきちんと肯定されないと次のステップには進めない、というセオリーがあります。

自分達の現状には課題も多くあります。しかし、課題もあるし欠点もあるけれど、現在の自分(自分達)をしっかりと認知・承認してあげないと、次の壁を乗り越えよう・頑張ろうというエネルギーは湧いてこないのです。

もしかしたら、彼らは今、そういう状態にあるのではないか?と感じたのです。

最終回では、チームメンバー1人1人を対象に、その人がどんな人なのか、どんな素晴らしいところがあるのかを徹底的に掘り下げる、ということを行いました。

どんな小さなことでも構わないので、とにかく、自分から見てその相手がどのような人に見えているか、を言葉で表現してもらったのです。想像以上にたくさん、出てきました。

そして、自分のことを言われている間、みんな照れくさそうにしていましたが、とても嬉しそうでした。最後の感想でも、「自分のことをそんな風に見てくれているとは知らなかった。嬉しかった」「皆が期待してくれている自分になるためにもう少し頑張ってみようと思った」等、それまでとは別人のような感想が出てきたのです。その場の雰囲気も、今までにないほど温かいものでした。

人間はいくつになっても、どれだけ人生経験を積もうと、自分のことを知ってもらえたり認められると嬉しいし頑張ろうと思える生き物なのだ、ということを再認識した、今回の経験でした。

第47回 試される信頼関係

このコロナ禍において、世の中のパラダイムが転換しようとしています。
これまで当たり前だったことが当たり前ではなくなる、そんな時代になっていくのだと思います。
その象徴と言えるのが、在宅勤務です。在宅勤務の広がりによって仕事に対する考え方が様々なレベルで変わりつつあることを痛感しています。

例えば、新人研修。
実践とフィードバックにより基本的な考え方を身に着け行動できるようにしていくもので、社会人の土台をつくる大事な時間です。私自身、特に、新人研修は対面で実施することに価値がある、という考えを持っていました。しかし、実際にオンラインで実施してみると、オンラインでもできることはたくさんあることに気づかされました。また、オンラインだからこそのメリットがあることも発見できました。コロナ収束後も、対面でないと実施できないという言い訳は通用せず(対面ではないと実現できないこともありますが)、オンラインとリアルを上手く活用した効果性の高い研修が求められていくのだろうと感じています。

新人研修は一例ですが、多くの方が自分の身の回りに起こっている事柄から、これまでの常識が通用しない世の中が到来する、ということを感じておられるのではないでしょうか。

一方、在宅勤務が広がるにつれて、組織内のコミュニケーションが問題となるケースが増えているようです。

1)ちょっと聞きたいことがあるが、ミーティングをするほどでもない
・・・・ちょっとしたことを確認・相談しにくく、もやもやが蓄積してしまうケース

2)18:00からの1時間は子供をお風呂に入れる役割を担っているので、この時間だけは予定を入れたくないのだが、言いにくい
・・・・家庭内における役割(家事分担など)や自分の抱えている事情を組織のメンバーに言い出せずにストレスを抱えてしまうケース

上記はほんの一例ですが、このようなコミュニケーションの問題は、在宅勤務ならではの問題なのでしょうか?
私はそうは思いません。在宅勤務によって明らかになった、というだけで、もともとあった問題と捉えています。つまり、土台の関係性が脆弱な場合にこのようなことが起こるのです。

下記の図は、元MIT教授のダニエル・キムが提唱した、「成功循環モデル」です。関係性の質を高める事が成果の質に繋がる、ということを立証した大変有名な理論ですが、組織で活動した経験のある方なら、誰もが納得感を持たれるのではないでしょうか。
私は、関係に質には段階があると考えています。

レベル4は関係性の最終段階と言え、これが実現できている組織は多くありませんが、少なくともレベル2以上でないと、仕事やプロジェクトをうまく進めていくことは困難です。

ご自身の会社・組織の関係性レベルはいかがでしょうか。関係性の状態が、日常のコミュニケーションにどのような影響を与えているでしょうか。

この機会だからこそ、振り返ってみることをお勧めします。

 

 

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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