ものづくり事業部

R&D 第6章 開発管理の要点 7

成功する企業には新商品開発がある

6.開発管理の要点  - 新商品の果実を結ぶ -

6-7.販売への連結

〔商品化計画の機能〕

● 生みだした新製品を飾りつけ
 造られたものは『製品』ですが、新製品は市場に販売される『商品』にしなければなりません。製品要素は、製品の『性能』や『外観デザイン』など開発段階で「創造される」設計品質と、生産段階で「作り込まれる」製造品質です。これに対し、市場の要求品質を満たす商品要素は、製造品質だけで出来上がっているのではありません。
 売るための新商品開発ですから、もちろん新製品は『新商品企画』の段階から「商品を想定」しています。が、せっかく生みだした新製品ですから、「より多く売るために」商品らしい飾り付けも、一緒に『開発』しなければなりません。
 これは明らかに、開発業務のうちの商品化計画という仕事に位置付けて考えなければならないのです。開発製品に飾り付けるべき商品化の要件はいろいろとありますが、図表6-22のような内容が主要な事項になろうと思います。
6-22.jpg

● 開発の最終工程として位置付ける
 新製品を生むためには、場合によっては『研究開発』段階から始め、『開発設計』から『生産移行』段階へと長期間を要します。このため開発終了時には、改めて商品化計画が必要になるというわけです。
 商品化計画が別に必要となるわけは、アイデア開発など『新製品企画』の初期段階で、あまり細かい商品要件まで追及していると、思考が総合的な構想に集中できなくなってしまうからです。これでは企画の「大筋を見失う」恐れがでます。
 また余りにも具体的な『商品目標』は、細部の要件にこだわって、それに開発業務をも縛り付けかねません。さらに商品化を「先走って考えすぎる」と、開発期間中に起こる『変化に対応しにくい』状況をつくってしまうことにもなります。詳細な開発状況などの情報漏洩がある恐れもでてきます。
 それらはすべて開発リスクに繋がります。開発期間中に起こり得る各種の変化を考えると、「後で考えた方がよい」商品化検討項目がでてきます。新製品完成の時点でもう一度考え直すのが、商品化計画だというわけです。
 ただ、開発管理上で留意すべきは、長期間を要した開発設計者としては「早く終らせたい」新製品ができたのだから「飾りつけなどは後工程に任せたい」心情があることです。が、これを許すことは絶対にだめです。
 商品化は開発の最終業務と位置付け、最後の最後まで流れと勢いで完了させるべきです。開発者をして、『達成の喜び』を味あわせてあげ、開発者の『誇り』をもって大きな成果を迎えさせるべきです。

〔パッケージのデザインも新規に開発される〕

● サービス商品でないかぎり
 サービス商品は、生産されると同時に消費されます。が、製造製品である新商品が消費者ユーザーに届くには、物的流通(物流)が伴います。物流には、教科書的な羅列になりますが、図表6-23のような機能をもったパッケージ(包装)を必要とします。
6-23.jpg
 要するに新製品は、パッケージされて新商品になるわけです。「包装は無言のセールスマン」といわれるように、どんなパッケージ形式であっても、包装材の外観機能は格好のメッセージ媒体です。そのあり方は新商品の開発業務において、売れる新商品をつくりこむ『仕上げの技』というわけです。
 新製品は「開発されたばかり」かつ「販売に出されたばかり」ですから、いまだ『市場に認知されていない商品』です。せっかく開発された新商品ですから、不特定多数の購入見込み客に商品を知っていただくための『仕掛け』をします。
 その狙いのひとつが、ユーザーや消費者の『目に訴求』して商品の「印象を焼き付ける」パッケージデザインです。
 パッケージは、それが『目を引いた』とか『おもしろい』とかの理由から購買活動につながるのなら、パッケージデザインは会社にとって、新商品の「研究開発と同じ意義」をもつわけです。

● 工業デザインと商業デザインのコラボ
 デザインそのものには、先のDR:design review(設計評価)ではないですが、機械設計などにみられる『工業デザイン』の分野において、開発、生産部門などのエンジニアが担当するジャンルがあります。もう一方では宣伝・広告のアート・デザインとか、IT時代ではホームページのWebデザインなど、『商業デザイン』の分野で美術系の技術・技能者が活躍するジャンルもあります。
 この分類は技術体系上のものにすぎませんが、従事者はいずれもビジュアル・クリエーターであることに違いはありません。ですから新商品開発には『深いかかわり』があり、それぞれのジャンルで『新製品開発』や『新市場開拓』に活躍しています。
 さて、そこでパッケージのデザインですが、このようなデザイン・ジャンルは、図表6-23のパッケージ機能と比べてみるとその専門性がわかります。つまり『保護機能』『作業機能』『統合機能』は工業デザインの分野、『外観機能』は商業デザインの分野に「ウエイト付け」されそうです。
 これは新商品開発の全プロセスを考えたとき、前段の製品化では工業デザイナーが、後段の商品化では宣伝マンなどの商業デザイナーがかかわる傾向があるからでしょう。
 しかし新商品は工場を出るとき、ちゃんと『パッケージされた』荷姿でなければなりません。当然、より多く売れるための新商品開発ですから、全プロセスにおいてベストの企業努力が注入されます。
 ですからパッケージ機能から、品質の維持とビジュアル効果の目的において、図表6-24のように商工業両方のデザイナーによるコラボレーションが、最も望まれるところでしょう。
6-24.jpg
 ただこのエコ時代に、留意すべきは過剰包装の問題です。どれくらいのレベルから「過剰になるか」は必ずしも明確ではないのですが、エンジニアとアート・デザイナーが『変に競い合う』ことによって、結果としてこの問題に巻き込まれるようではいけません。
 過剰包装は、ひところの消費者運動などで問題にされました。が、結局これは供給者側で『包装のコスト』とそれによる『付加価値の増加』を対比して判断することです。
 何しろ新商品開発にはこの種の不透明な事項に対し、クリエーターが「判断に悩む」場面はいっぱいあるものです。『奇をてらう』ことなく、しかし『大胆な創作』が望まれます。

〔商品メッセージのいろいろな効果〕

● 開発者自身のためにも
 近時は、商品に『情報を付けて売る時代』だといわれます。つまり供給側が商品とともに、消費者やユーザーへいろいろなメッセージを送らなければ、新製品であっても新商品としての付加価値が得られないのです。
 メッセージの中には、『薬事法』や『不当景品類及び不当表示防止法(景表法)』などによって、添付が義務付けられた医薬品の『効能書』などがあります。もちろんこれは、消費者保護のための法規制です。が、仮に規制がなくてもこの種の商品メッセージは、供給者自身のためにも積極的に提供すべきです。
 また、近時は『PL(製造者責任)法』が制定され、メッセージの様子が違ってきました。製品を取り扱ううえで、当然の注意事項が明記され、消費者に対して伝達されていなければ、供給者として『無過失の対抗』ができなくなったからです。
 しかしこれら規制危機管理のための商品情報は、むしろ『消極的なメッセージ』といえます。これに対し、会社の意志により消費者やユーザーに独自の情報を伝えるための、『積極的メッセージ』があるはずです。

● 的確な情報量で発信
 メッセージの媒体には、商品に直結する『包装紙』や『レッテル』がよく使われます。が、積極的メッセージはもっと「多くの情報をお伝えしたい」のです。
 例えば食品の銘選品や陶磁器、塗り物などに添付される『しおり』類、機器商品に添付される『パンフレット』類などは、商品から独立して添付されるものです。が、これらの中には消費後も取っておきたいほど、美しく楽しいものがあります。
 パソコンのハードやソフトの『マニアル』類は便利性もあって「単行本として売れる」ほど、説明書自体が商品からはなれて独自の価値をもってきます。
 メッセージしたい情報量を小さなスペースで確保するため、マニアル類などでは写真やイラスト、図面などによるビジュアルな表現が多くなりました。さらにメッセージ媒体は、CDやDVDにしたりインターネットのホームページから無償でダウンロードできたりします。
 しかしイラストだけではなく、図面、スケッチなどのビジュアル要素は、インターネット時代になっても印刷物媒体の優位性は十分にのこっています。いやむしろ印刷媒体は、他の電子媒体などとミックスしてよりメッセージ効果を高めます。
 つまり印刷媒体は、伝達する『単位情報量当たりの経済性』がよく、CGやディジタルカメラ、さらには印刷技術の向上によって紙上での品質が数段によくなっているからです。
 今後はこれら情報媒体の多様性が、新商品の高度化にともなって、新商品メッセージの意義をますます高めることだけはたしかです。売れる新商品開発の作業として、絶対に商品メッセージの創作を加えたいものです。

〔ふさわしいネーミングか、人目を引く名称か〕

● 名は体を表わすべきか
 新製品は、いまだ市場に認知されていない商品です。ですから、逸早く「商品を知っていただく」ためにネーミングします。この狙いがユーザーや消費者の「耳に響く」のに対し、「目に訴求」して商品の印象を焼き付けるのが、パッケージデザインです。
 さて新商品に名称を付けること自体は、昔からありましたが『成熟市場』においては商品名によって『他社商品との差別化』を図るマーケティング機能が重視されます。商品に付けたペットネームニックネームは、商品に新しい魅力を加え、やがて強力な『ブランドに発展』します。
 新製品が産業財の場合、従来は『波型鋼板』『NC工作機』のように、新製品のもつ形状や機能などの商品特性を名称としました。まさに『名は体を表わす』ネーミング方式です。
 また、メーカーや問屋筋などの間で「商品を区分・整理する」ために、符丁のように使われる『モデル番号』や『型式番号』が、そのまま商品名に代わって通用しています。
 この傾向は今でも根強く、在庫管理用の『コード番号』なども盛んに使われます。その典型がD-51(デゴイチ)ですが、『蒸気機関車』の愛称もこれほど有名になれば、商品の差別化手段として十分に使えます。が、この例は専門業者の呼称が、SLフアンなど一般ユーザーにも浸透したにすぎません。

● 名称の有意性より印象性
 新商品のネームは見たり聞いたりするだけで、消費者やユーザーに強いインパクトを与え、短期間に市場浸透される要素をもっています。このため新商品の開発者は、意識的にネーミングしなければなりません。
 新製品が消費財の場合、商品化に当って『名は体を表わす』的な、名称の有意性は必ずしも重視されません。「キャラメルは言われなくてもキャラメル」だからです。が、新製品のことですから、従来にはない「こういったキャラメル」なんだというのなら、新種の名称を付けたほうが、新商品の普及につながります。
 語呂のよさや響きのよさ、または連想されるイメージを強調するわけです。
 最近は名前を聞いただけで、どんな商品かわからないネーミングの『遊び心』が、飽食時代の若者の間で爆発します。しかしその愛称を市場浸透させるには、「相当のマーケィング費用が要る」のですから、資力のない中小企業などはネーミングに「奇をてらう」わけにいきません。

〔価格設定の真髄〕

● 難しいから安易に走る
 製造業などでいう『売価設定』も流通業などの『値付け』も、商品の価格やサービスを購入していただく先の対価を決めるのは、最も難しい経営政策の部類です。
 売価設定の作業は、業務として「考えれば考えるほど難しい」ため、かえって安易なコストプラス法に依存しがちです。
    つまり【販売価格=原価×(1+諸経費比率)】
    または【販売価格=原価÷(1-粗利益率)】の一本調子です。
 しかしコストプラス法による売価設定の問題点は、経営実務において「コスト自体が変動」しており、市場での実勢価格も変動しています。このため計算の『根拠になる数値』が、設定する時点の状況から変わってしまうことです。
 とりあえず図表6-25は、売価を設定するための計算書の事例です。このワークシートをはたらかせるためには、あらかじめ過去の原価計算データから『諸経費比率』や『粗利益率』を算定しておかなければなりません。また開発設計者は、新製品の見積原価の積算も必要です。
6-25.jpg
 売価設定は計算式だけでいえばこれだけのことですが、一部の中小企業では原価計算制度自体があいまいです。さもなければ「税理士さん任せ」で、自分では過去の実績の「数字をもっていない」場合があります。
 ですから『プラスされる元の原価』も、『プラスする配布率』もよくわからないまま、販売価格が決められている実態が多くみられます。だのに『直接原価』に『経費の配布率』を掛けるか割るかで、販売価格を「事務的に決めて」しまいます。

● 計算法上の便利さもある
 ただ流通業など多くのケースでは、相場などの影響で激しく変動する仕入原価に対し、即座に売価決定を行う実務的必要性があります。こういった経営の現場では、コストプラス法の計算根拠になる損益分岐点売上高から次のような計算式が導かれます。
    【損益分岐点=固定費÷(1-変動費率)】において
    【(1-変動費率)=粗利益率】ですから
    【有利益価格=(固定費+適正利益)÷粗利益率】の計算式を用います。
 大雑把に「仕入原価だけが変動費」だとみれば『今朝の仕入原価』は、納品書などで即座に分かります。一方、商店主の方などは平素から、家賃やパートさんの給料など、お店の経営に必要な『固定費』と、平均的な『粗利益率』を把握しています。
 ですから「今月分として必要な売上は○○万円」だから、「これを□□円で売らねば」と、電卓などを使って「元が取れる販売価格の目安」を直ぐに計算できます。この計算値に5%とか10%の適正利益を上乗せすればもう、その日の『値付け』ができるというものです。
 このような値付け方法はぐっとにらみ法と呼んでもいいでしょう。要するに「毎日変化する状況下」で、経営者が商品をぐっとにらんで、過去の経験と勘によって「よし、いくらに決めよう」という、いわゆるドンブリ勘定のことです。
 ただ一面で、これによって対象商品の世間相場に、迅速に迫れるならぐっとにらみ法も市場価格に沿い、かつ効率的で、合理性があるのかもしれません。正直なところ、原価資料の乏しい営業所勤務の頃は、補修部品の価格決定などにおいて、筆者自身もこの方法を採ったものです。
 しかしせっかく開発した新商品の『死命を決する販売価格』が、こんな安易に決定されたのではたまったものではありません。

● いろいろな価格政策の中で
 商品やサービスの販売価格は「需要と供給の関係で決まる」のが、物々交換が始まった太古の昔から通用する市場原理です。
 ですが市場提案型の新製品開発は、新しい『供給者の登場』によって、従来は潜在していた『需要を喚起』し顕在化するわけです。つまり未成熟市場に向かって新商品を発売するのですから、いろいろな価格政策を検討しなければなりません。
 価格政策でもっとも単純なところでは、薄利多売があります。これに対して『高利少売』とは言いませんが、薄利に応じる適正価格政策の議論があります。が、いわゆる『安売り』の価格政策は、新商品企画の段階から決まっていなければなりません。
 つまり『おとり商品』のような薄利多売品は、開発業務に入る前から品質水準許容原価の狙いどころが決められています。ですからこの場合の売価設定は、企画段階と新商品発売時との完成度確認だけになるでしょう。
 またスキムプライス(上澄み価格)といって、競争者の現れない新商品の発売時期は『高値設定』し、上澄みのおいしいところだけ吸い上げようという政策です。もちろん追従者が現れたら、その時点で価格競争に転じ『先行者の強み』を発揮しようという政策です。
 他では、地域価格政策、特定顧客価格政策などがあります。が、これらの価格政策は販売側の身勝手な、まさにプロダクトアウトのマーケティング態度です。 ただプロダクトアウトが間違っているからといって、新商品の値付けに「この方式でやれば問題ない」という、うまい方法がありません。

● マーケットインの売価設定とは
 そこで考えるのは、新商品企画からマーケットインの理念が貫かれてきたことです。ですから価格設定に当たっても、この理念は貫かなければ、ここまでのプロセスが無意味になるというものです。
 要するに「市場に受け入れられる価格」を設定する理念です。となると売価設定だけは、開発終了後の『商品化計画の課題』ではなくなります。
 つまり新商品が出来上がってしまってから、売価設定を考えるのではもう手遅れです。新製品の発売によって利益が生めるコストは「開発段階で品質とともに」つくりこみをしなければなりません。目標売価から必要限界利益を差し引いた、許容原価の範囲内に新製品をつくりこむというわけです。
    【許容減価=目標売価-必要限界利益】
 ここで製造業では『限界利益』といい、商業では『粗利益』という利益の概念があります。これらの概念は経営的にも会計的にも違いがありますが、経営最大の課題である価格政策自体は、一冊の本にしても余りあるところです。ですからここでは、この違いにこだわらずマーケットイン政策の真意だけを述べるに留めます。
 さて、商品化計画段階での売価設定は、開発期間中に起きる「諸情勢の変化を見極める」ことです。開発活動の結果『品質』、『性能』、『原価』が、初期に設定した新商品企画段階の目標に比べてどのように『仕上がった』かを「開発計画書と照合」して評価します。
 それが図表6-11にも示した、開発段階のDRに対するコスト・レビュー(CR)というものです。また、需給関係を規定する『市場の景況』、『競合社の出現』などは、企画書を「引っぱり出して」チェックし、できあがった結果確認をします。
 もちろん『類似商品』の市場実勢価格は、調査しなければなりません。そのうえで、お客様が求める商品価格に決めるのが、開発終了時点で行う常識的なマーケットインの売価設定です。
 現実には、開発は終了したものの「コストが許容原価に納まらなかった」ということはよくあります。が、これは明らかに新商品開発の失敗というべきです。こんな失敗がないように、開発過程でDRやCRを繰り返し、「軌道修正しながら」開発を進めるのです。
 しかしこれ以上は「本題から外れそう」なので、別の拙著にも詳述していますし、機会があればこのメルマガの次のシリーズでお目にかかることにいたしましょう。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

詳細はこちら >

執筆者

月別アーカイブ

このページの先頭へ