ものづくり事業部

第1回 実際原価計算の課題

激しい価格競争はいつまで続くのか
 近年円相場の変動が大きく、3年ほど前と比較すると30%以上高くなり、昨年の年初と年末で対ドルが約6円、対ユーロで25円高くなっています。さらに、東日本大震災後には、対ドルで80円を下回ることも発生してきました。
 日本の製造企業は、海外から資源を輸入し、国内で加工し、輸出することによって、収益を上げてきました。
 円相場の大きな変化は、国内で生産した商品について、企業努力に関係ないところで、価格競争力を失わせることになってしまいます。その結果、大手製造業 だけではなく、中堅・中小の製造企業も、為替変動による影響を受けにくく、人件費の安価な中国を中心とするアジア諸国へと生産拠点を移してきています。円 高が続くかぎり今後も、この傾向は続くでしょう。
 価格競争は、国内中心から海外を中心としたグローバルな競争へと進んでいくことになるでしょう。これは、利益の確保のために、国内外の生産の体制や地域 における生産技術力、量産に対応した設計力など広範囲な企業の資本や人材などの資源の活用と継続的なコストダウンが求められることになるのです。

利益はどこから得られるのか
 それでは、会社の利益は、どこから得られるのでしょうか。
利益=売上高-費用
という計算式で一般に表されます。
 売上高は、製品を販売することによって得られます。具体的には、実際の製品単価×販売数量×販売品目数の合計になります。

 これに対して、材料や部品の購入費用、社員や現場の作業者に支払う給料・賞与、設備機械の償却費、設備機械を動かすための動力費、事務所を借りていれば家賃、通信費、事務用品費などの費用が発生します。
 そして、売上高から経営活動で発生した費用を差し引いた結果が、その会社の利益ということになります。これは、半年や1年といった一定期間の会社の業績を数字でまとめることになります。これが、決算書です。
 決算書には、会社の財産がどのように変化したのかを表す貸借対照表、会社の業績は利益が出たのかを表す損益計算書、製品を作るために使った費用の内訳は どのようになっているのかを表す製造原価報告書(製造原価明細書)、資金状況は過不足がないかを表すキャッシュフロー計算書などがあります。

利益を増やすためには3つある
 この決算書の示す数字は、「いくら儲かった」、あるいは「いくら赤字になった」といった結果を表しているものです。したがって、赤字になったからといっ て、何らかの対策を打とうとしても、結果であるため変えられるものではありません。

 それでは、どのようにしたらしっかりと利益を確保することができるのでしょうか。

 このために会社では、まずいくら儲けたいのかを決めることが大切です。つまり、目標とする利益を設定し、その目標達成のための計画を作成することです。
 これは、経営という視点から捉えると中期経営計画をもとに作成される年度経営計画にあたります。年度経営計画では、計画した利益をもとに予算の編成を行ないます。
 本題に戻って、利益を増やす方法について考えてみましょう。
 利益を増やすためにまず考えられることは、売上高を増やすことです。売上高は販売数量に売価を乗じて求められることから、販売数量を増やすか、売価を上 げることが考えられます。しかし、一般に売価をアップすることは難しく、売上数量アップの面から検討することが中心になります。

 2つめは、経営活動で消費される費用の削減を図ることです。
 費用の削減は、売上高の一部が利益になるのに対して、費用の削減額が、そのまま利益になるというメリットがあります。また、費用の削減は、社内で発生す るお金に対して一人一人の社員が中心になり、社員の創意工夫によって達成できるものです。
 しかし、その一方で削減のしかたによっては、売上高をダウンさせてしまう要素も含んでいます。
 ある会社で経費削減が進められ、社員の出張費を厳しく制限した会社があります。

 そして、3つめは、製品の採算性向上を図ることです。
 つまり、製品の売価=原価+利益の考え方をもとに利益の割合を高めることです。製品の売価の中に利益が含まれていなければ、いくらたくさんの製品を販売 しても利益を確保することができません。製品の売価にどれだけの利益が含まれるのかが重要です。
 売上高のアップと費用の削減は、相互に関連しています。一方だけを推し進めることをしても、もう一方に影響が出るものです。相互の関係を理解し、製品の視点から利益の確保を捉えることなのです。
 収益性の向上を図るためには、3つめの製品の採算性管理がもっとも重要になります。
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実際原価計算の課題
 それでは、製品の採算性を判断するためにどのように進めるのでしょうか。

 製品の売価は、需要と供給の関係や市場の競合他社商品の売価、顧客の要求価格などによって決まってきます。これに対して製品の原価を知るためには、一般に原価計算が用いられます。
 原価計算で求める原価は、ある一定期間の経営活動の結果発生した費用を作った製品に割付けます。その割付けは、費用がどの製品のためにどれだけ発生したのかを示すものです。
 具体的には、製品を形作る材料や部品などがあります。製品でとらえると材料費です。
 つぎに、調達した材料や部品は、社内で加工され、組立てて製品になります。この加工や組立てでは、製品を作るために作業者や設備機械が必要になります。
 作業者は、労務費として、設備機械に関しては、動かすために動力費、設備機械そのものの減価償却費などがあり、経費の扱いになります。
 このほかに販売活動では、営業マンの人件費、顧客訪問のための旅費交通費、販売促進のための広告宣伝費などの販売費、会社全体を管理する経理や総務部門の社員の人件費、役員報酬、事務所の水道光熱費などの一般管理費があります。

 これら発生した費用を製品1個当たりに割り当てることが原価で、これを求めるために原価計算が用いられているということです。
 しかし、一般に財務会計上で用いられているのは、実際の経営活動で消費した費用であり、実際原価の計算であり、「この製品の原価はいくらかかりました。」を表しているものです。つまり、「かくあった姿」を表しているのです。
 これは、管理上の課題が発生し、異常な原価が発見された場合でも、原価計算結果が出る通常1ヶ月以上あとになってからでないとわからないことがほとんどです。
 このため、何らかの対策を打とうとしても、もう後の祭り状態になってしまうわけです。
 対策とは、問題が発生したときに、すぐに打つことによって効果が得られるものです。
 このように従来の実際原価計算では、管理上の課題や問題を解決するために有効ではないことがわかります。
 それでは、管理に役立つ原価の管理とは、どのように進めたらよいのでしょうか。

利益管理に役立つ原価の考え方
 管理とは、人的・物的な要素を組合せて、ある目的を効率的・効果的に実現することです。このために、計画-実施-チェック-アクションの管理サイクルが用いられているわけです。
 原価についても実際原価の計算は、管理サイクルのチェックに重点を置いているものであり、計画があってのチェックをするべきです。つまり原価の計画に重点を置くべきです。このために標準原価を活用するので。
 標準原価とは、あらかじめ標準とするべき原価のためのコスト基準を設定し、これを用いた原価計算によって算出された原価の値です。つまり、コスト基準とは、「あるべき姿」としての基準値であり、これをもとに原価算出することです。

 一つの例として、新製品を作るときのことを考えてみましょう。
 新製品はいくらで販売したい、いくらで作れるか、いくらの利益が見込めるかを実際原価計算で求めることができるでしょうか。
 従来の製品を改良したものであるならば、おおよその金額を算出することはできるかもしれません。
 しかし、過去に買った材料の値段は、現在も同じ価格でしょうか。もしかしたら安く購入できるかもしれません。また、過去に発生した費用には、作業待ちや 機械の故障、部品の不具合による追加修正などの発生した費用も含まれています。これらの金額をもとに算出した新製品の原価は信頼できるものでしょうか。
 さらに、新しい技術や設備機械などを導入しようとしたら、原価計算は役に立たないでしょう。
 とくに新製品の場合には、製品を作る前に「いくら利益を確保する。」のか決めることが当たり前になっています。つまり、売価=原価+利益の考え方から売 価-利益=原価という計算式をもとに目標原価を設定して、その達成に努力するというステップになっています。
 このため、その製品は、「本来、いくらで作れるのか」という視点からを考えることが必要になります。つまり、「今、その材料を買ったらいくらなのか」、 「その製品を作るには、これだけの時間があればできる」といった未来を予測することであり、これが「かくあるべき姿」といいます。
 標準原価とは、この「かくあるべき姿」を算出するために用いられるものです。
 そして、計画としての標準原価を設定し、製品を作った結果である実際原価とを比較・チェックし、課題の抽出、改善を進めるためにアクションを行なうのです。
 これが本来行なうべき管理に役立つ原価管理活動です。
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経営判断に役立つ原価
 そしてもう一つの原価計算の手法があります。それは、経営判断に活用されます。
 標準原価は、すべての経営判断のために役立つものではありません。
 たとえば、設備投資をする場合や内外作の決定、受注決定の判断などについて、事例をもとに考えてみましょう。
 現在、社内で製造している部品Aの原価が300円であったとします。これを協力会社X社に依頼して製作してもらうと250円で購入できます。
 この場合、社内からX社に注文を切り替えた方がよいと判断してよいでしょうか。
 社内で製作する部品コストの中には、材料のように生産に比例して発生する費用(変動費)と設備機械のように生産に比例することなく、毎年発生する費用(固定費)があります。
 もし、部品Aの固定費が100円発生しているとすれば、変動費が200円となります。100円は、内外作の検討に関係なく発生します。
 したがって、社内製作では200円、協力会社X社では250円を比較することになります。
 この結果、社内で従来通りに製作した方が良いという判断が出来るのです。

 このように利益計画のための経営判断には、標準原価の考え方とともに直接原価の考え方が必要になってきます。
 これは、標準原価とともに直接原価の考え方を組み合わせた直接標準原価が有効であり、このしくみを作っておくことが、利益管理に役立つ原価になるのではないでしょうか。
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ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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