ものづくり事業部

事業部トップ>コラム>成功する企業には新商品開発がある>販 売 第7章 販売ルートの考え方 2

販 売 第7章 販売ルートの考え方 2

成功する企業には新商品開発がある

7.販売ルートの考え方  - 新製品の収穫を得る -

7-2.ルートへの攻勢

〔販売促進策をもって攻める〕

● 販売ルートのパワーを活用
 大メーカーは資本力にものをいわせ、新商品を大々的な宣伝広告によって市場浸透させてきます。この直接的なはたらきかけだけで、消費者やユーザーが「新商品の存在を知り」十分に売れるなら、販売ルートまたはマーケティングルートへの新商品攻勢は後回しにしてもいいわけです。
 たしかに商品というものは、消費者やユーザーに『知られなければ』売れません。が、『知られるだけ』で売れるとはかぎりません。特に新商品は、まだ習慣買いされることのない、いわば『めずらしい商品』ですから、ルートのパワーがプラスされないと売れないのです。
 その理由は明白で、消費者やユーザーに直接『見たり』、『聞いたり』、『試したり』させないと商品が売れないのです。ただそれだけのことですが、それが店先や陳列、サンプル提供や試用を販売員の手によって進められるというわけです。
 たしかに、商品の存在を知られることで消費者やユーザーの『購買意欲』は、喚起できます。が、さらにその上に売り手の一人ひとりが、購買意欲を満たすための積極的な売り込みをしないと、『購買行動』までには至りません。この売り込み、即ちセールスこそルートパワーの本領です。

● メーカーとルートの関係において
 新商品は、売り手側から買い手側に強力な売り込みがなければ「仕入れ行動が起こってこない」のは、メーカーとルートの関係においても同じ理屈です。
 特に他社ルートを活用して新商品を売りたければ、メーカーはまず未知のルートに『売り込み攻勢』を掛けなければなりません。そしてルートが主体になって、消費者やユーザーへ売り込みを掛けるという連鎖です。これが新商品を『ルート販売』する手順というものです。
 ルート自身でも、大いに「新商品を売りたい」気があるパートナーです。が、そのルートより「もっと売りたい」気が強いメーカー自身が、もてるすべての販売促進手段をもって、ルートに攻勢をかけなければ新商品は売れないということです。

● ルートへの販売促進手段は
 ルート攻勢には、図表7-9のような販促活動を繰り出すわけですが、手段の体系としては、消費者やユーザーへの販売促進手段とほぼ同質です。
7-9.jpg
 メーカーが消費者やユーザーへの「直接的なはたらきかけ」と「ディーラーへのはたらきかけ」との異質な点は、攻勢をかける『対象範囲』と『タイミング』だけです。不特定多数の消費者やユーザーへは、『浅く』『広く』はたらきかけます。が、狭い範囲の特定なルートへは、『素早く』『深く』攻勢をかけるのです。
 ルートへの販売促進手段は、図表7-9のほかにも、多種多様に考えられます。しかしいずれの手段をとるにせよ、単発手段による販売促進ではなく、長期 的、戦略的に同一手段を継続的に用いなければ『虻蜂取らず』になってしまいます。こうなると、各々の手段が活かされなくなることは、販売手段活用の特性だ といえます。
 しかしこれらの手段は、いろいろな方法を混合する、いわゆるセールスプロモーション・ミックスが相乗効果を生むという特性もあります。これは前言と矛盾しますが結局、新商品販売、新ルート開拓への投入コストの問題です。
 多くの投入コストが見込めない中小企業の場合は、相乗効果を狙ってエネルギーを『分散』させるより、同一エネルギーの『集中』による継続性効果を狙うほうが得策でしょう。するとこの販売促進戦略は、より効果的な「手段の選択」によって決まることになります。

● 売れなければ話しにならない
 ここで価格政策を物的販促策とするのは、異に感じられるかもしれません。が平たくいえば、これは『卸価格の設定方式』による販売促進のことです。新商品の定価設定と併せて、卸売り価格をいろいろとアレンジすることよって、ルートが刺激を受けることだけはたしかです。
 しかし卸売り価格をあまり下げると、新商品が『安売りのタネ』にされる恐れがあります。かといって、定価と卸売り価格の差つまりディーラー・マージンが小さいと魅力ある新商品になりません。やはり売価設定は、最も難しいマーケティング政策といえます。
 ところでルートに対する販促策で最も効果的なのは、何といっても『人的販売促進』です。ルート側からみれば、新商品が売れるようになるメーカー側の指導・支援が欲しいのです。いくら卸値の割引率が大きくても、ルート側は「売れなければ粗利が稼げない」のです。そんな新商品にルートは、まったく興味を示しません。
 ですから新商品の生みの親であり、かつその「売り方をよく知っている」はずのメーカーの販売員に、『売り方のコツ』のような『勘どころ』を教えて貰いたいのです。
 人的販促はどんなケースにおいても、人件費がかさむ『最も高価な販促手段』です。したがってメーカーは、自社ルートの販売員をもって他社ルート、すなわちディーラー側に多数いる販売員にはたらきかけます。
 消費者やユーザーには、ディーラーの販売員を通じて「間接的にたらきかける」形態が、メーカーとルートの『連鎖的な販売活動』になるのです。
 マーケティングとは、どんな企業にとっても最も重要な情報活動を意味します。ルートに対するセールスプロモーションは、人的販促と物的販促の情報活動をミックスし、相乗効果を狙います。
 事実、メーカーが「よくPRしている商品」は、ルートも強い関心を示し、メーカーの販売員は現地の出張先ルートにおいて、新商品の普及活動がし易くなるというわけです。

〔情報キーマンを攻略する〕

● トップセールスの必要性
 攻勢のきっかけは、ルート側の「馬を射る」ことです。ディーラーの社長や営業本部長など、仕入れの『意思決定をする』トップ自らが興味を示さない新商品には、第一線のバイヤーやセールスマンが興味をもつはずがありません。その理由は、新商品販売によって「新しい利益源を確保」しようとするのは、常に「経営のことを考える」トップだということです。
 仮に、第一線で新商品に興味をもつ者がでても、企業のリスクを負担するトップに興味がなければ、仕入れを実現するまでの道程がえらく遠くなるのです。それどころか、日常業務が多忙な第一線の現業セールスマンは、新商品の導入に対して意外にも保守的になりがちです。
 ですからここは、経営「トップに向けた攻勢」が何としても必要です。が、ここで「将を射ろう」とすれば、その馬はこちら側の「将が射る」必要があります。それが、いわゆるトップセールスです。
 たしかにトップ同士の合意があれば、メーカー側の販売員がルート側の仕入担当や販売員に「攻勢をやりやすく」なるのは当然です。が、ルート側の現場意識は、図表7-10に示すように、トップ合意だけで必然的に変わっていくほど生やさしいものではありません。これを突破する仕掛けが、ルート側の現場キーマンの存在です。
7-10.jpg

● ルート側のキーマンを頼りに
 新商品導入の『取り掛かり点』で、販売現場においての普及活動をリードするキーマンが、ルートの拠点に1名でも居てくれれば助かります。キーマンが文字通り『核になって』、地域なり分野なりの拠点に『新商品情報を伝播』してくれるからです。
 各々のキーマンが、次のキーマンを育ててくれれば、『ねずみ算的』に新商品がわかる販売員を増やします。ですから先ずキーマンをみつけて、重点教育することです。
 問題は、標的とするキーマン候補への動機付けです。標的は個人ですが、あくまでも他社ルートの一員ですから、個人的なリベートなど金品の供与を『動機付け手段』に使うのは絶対にいけません。
 新商品開発を機に新ルートを開拓するのなら、そのアプローチ段階で担当キーマンをトップに『指名して貰う』手もあります。が、そんなことをせずとも、 ルート社員の中に新商品に興味をもちそうな人物は、平素のルートとの付き合いの中で『目星をつけておく』ことのほうが大切かもしれません。

〔第一線販売員が知っておくべき商品情報〕

● 身方はあざむかない
 新商品や新サービスに関する教育の原点は、メーカーからマーケティングルートへの商品知識の『移植』です。そのネタは図表7-11のような体系になるでしょう。が、問題はアンダーラインをしたように『標準原価』や『価格政策』、さらに『ウイークポイント』までも、ルート教育に取り入れることの真意です。
7-11.jpg
 第一線の販売員は、競争現場でライバルに新商品の「弱点を突かれたとき」の防戦に困ります。また『価格競争』に巻き込まれたときは、撤退ラインがわかりません。が、販売の現場で孤軍奮闘する販売員の商品知識は、市場に発信する最も『中身の濃い商品情報』ですから「良いも悪いも正確」を期さねばなりません。
 もちろん近時は、社会問題にさえなる『欠陥商品』は、発売されるべきでない『開発未熟品』です。はじめから『欠陥商品』であることが、分かっていながら 発売するはずはないので、『欠陥の内容』は商品知識ではありません。が、価格政策や未解決課題などは、『未公開の特許情報』などと同様に、重要な企業秘密の部類です。
 ですからこの種の商品情報を移入するのは、販売員に諸刃の剣を与えるようなところもあるわけです。したがって自社ルートの教育内容と、他社ルートの商品知識教育の内容は『使い分ける必要』がでてきます。

● 門前の小僧方式だけでは不備がある
 自社の販売員は、新商品企画の初期段階から参画させていれば、開発終了時期にはかなりの商品知識が吸収されています。特に市場関係情報は、開発の各段階で販売員が自ら、市場導入の予備調査をしていれば、ルート教育用のセールスマニアルが『自分で書ける』ほど、詳しくなっているはずです。
 また開発過程の『仕様検討会』や『DR:デザイン・レビュー』など、開発の各段階に販売員を参画させることによって、「自分で開発した新商品」という愛着心が開発担当者と同じくらいに育ちます。
 この愛着心が新商品の市場導入の『エネルギー源』となって、自身の商品知識を深めさせるという相乗効果があるのです。当然、参画してきた販売員は、社外ルートに対するインストラクター(指導員)が務まります。
 社内ルートの販売員は、自分の商品知識を「ルート販売員に教える」機会があれば大いに励んで、商品知識を身につけようとするものです。ただ仲間同士の社 内ルートとはいえ、商品知識は独りでに憶えるのではなく、きちんと『社員教育の一環』として身に付けさせなければなりません。

〔技術的知識を身につける〕

● 人から人への情報伝達のために
 技術的な理解を要する商品知識は、『門前の小僧式』だけで身につくものではありません。ものによっては、技術教育のためにかなりの『時間と経費』を改めて投入するが必要です。
 また、対面販売をしないような新商品や新サービスであっても、ルートの方では技術的商品知識が必要になります。それは情報そのものが、本質的に人から人に伝播されるものだからです。
 どんなに詳細なカタログなどの『商品説明用ツール』があっても、売り場の関係者が「まったく知らない新商品の情報」は、消費者や最終ユーザーまで伝わり難いのです。
 たとえば東京秋葉原の家電量販店の販売員は、新商品を競って拡販しているためか、十分な商品知識をもっています。接客現場でいろいろな人からの質問に答えられないような販売員しかいないお店は、新商品の市場導入をする資格がありません。

● 産業教育のあり方を考える
 ルート販売員の養成に限らず、産業教育学校教育とは違った図表7-12のような特性があろうと思われます。
7-12.jpg
 ルートの販売員教育は、もちろん産業教育ですから『目的』とするところも、『教育対象』も『期待効果』も『インストラクター』も学校教育とは異なります。が、いずれにせよこの種の教育は、メーカーにもルートにも、公的負担が大部分を占める学校教育と違って、両者ともにコストがかかります。
 しかし如何にコストがかかっても、ルート教育が新商品開発プロセスの仕上げ段階だということです。ですからはじめの新商品企画の中に、最終段階の『ルート教育』までも含めておかなければならなりません。
 ルート教育にコストがかかる反面、教育対象がルートに勤める販売員とかサービス員個人ですから、「育ってきた人に辞められる」という損失を被ることもあります。
 これはメーカーには『人事権』の及ばない社外ルートすなわちディーラー側の経営失態ですから、この損失を止めようがありません。結局、産業教育の効果は人事リスクを含む「歩留まりで考える」よりほかにないでしょう。
 ですから同じ教育でも、学校教育では考えなくてもいい『リスクの減少策』が必要で、まさに『産業教育は企業経営』そのものです。ですからルート教育は、教育効果に若干のリスクが伴っても、新商品情報が十分に伝わるように継続しなければならないのです。

● セールスエンジニアの育て方
 かなり以前から、エンジニアリングセールス、コンサルティングセールスのため、セールスエンジニアの敬称をもった販売員が注目されました。
 このような技術知識豊富な販売員の教育は、ルート要員を『開発か生産のプロセス』に繰り入れて、実作業を通じて『現場実習的』に技術知識を身につけさせる方法もかんがえられます。が、それはあまりにも非効率です。また、開発・生産技術を知ることが、必ずしも商品知識を身につけることにはなりません。
 そこでルートの技術教育は、逆の方向を考えます。つまり新商品の市場導入時に、開発や生産部門が『販売活動の応援』に行きます。この考え方は、コンカレントエンジニアリングの理念が入っていますが、中小ベンチャービジネスでは手っ取り早いのでつい、ピカ一技術者を販売現場に出向させているわけです。
 ただ、開発技術者や生産技術者が、新商品の「市場反響を膚で感じ」自身で「市場実態を把握する」意味で出向するのはともかく、この種のルート教育の方法には、別の問題が残ります。
 なぜなら、せっかく「ピカ一技術者が来てくれて」顧客に説明しているのに、ルートの販売員は技術者と「同行するだけの道案内人」となり、自分の知識にする態度を示しません。失礼ながらこの現象は、筆者自身が度々体験したところです。
 技術的な説明は「横から聞くだけ」で理解できないため、ルート販売員が関心を示さないのは仕方ない面もあるのです。が、わからないことを放置すると、 ルート販売員に新商品や新サービスそのものの興味を失わせます。挙句は、秋葉原のような、優れた商品知識の持ち主は生まれません。

● 体系的な技術教育に必要な要素
 新商品の技術知識の教育は、レクチャーなどの形式であらかじめ『基礎的知識』を身につけさせます。基礎知識が入っていれば、技術者同行のようなロールプレイング(実演)方式の教育は、技術知識の習得に具体的な効果を発揮するのです。ルートの販売技術教育はどうしても、それだけの『時間と費用』を掛ける初期投資が必要です。
 もう40年以上も前の話しで恐縮ですが、筆者がサービス技術のルート教育を四年ほど実施したときの事例を図表7-13に示します。
7-13.jpg
 この実務体験からいうと産業教育のうち特に技術教育には、メーカーとディーラーの両者が「コスト負担するに足りる」教育体系の確立が必要です。
 その第一は教育目標です。先ず教育対象たるディーラーの販売員・サービス員は、技術知識のレベル格差が大きい現実に注目したのです。いずれのレベルで も、ディーラーにとっては貴重な存在ですし、われわれメーカーとしては『新商品拡販の現地キーマン』に育って貰わなければなりません。そこで観念的ではあ りますが、学校教育のような『定額的なレベルアップ』ではなく、現状より『定率60%のレベルアップ』を狙うというわけです。
 この目標設定により、具体的な内容解説を重視した『カリキュラム』、ドキュメント類をベースにした『テキスト』、目で見たり手で触れたりする対象となる『教材』、三つの要素を確定し、準備することができました。この準備には、講師陣に予行演習までさせて相当な時間つまりコストを要したものです。
 せっかく素晴らしい新商品を開発しながら、「教育投資まで手が回らない」という中小企業はたしかに多いでしょう。が、その実態は、教育のための投資余力がないのではなく、このような基礎的な『産業教育三要素』が整えられないことの方が大きいのです。
 要するにそれは、ルート教育まで新商品開発計画の中に『組み込んでいなかった』ことになるのでしょう。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

詳細はこちら >

執筆者

月別アーカイブ

このページの先頭へ