ものづくり事業部

第3回 標準原価を求める

基本的な原価の求め方は
前回までコストダウンを進めるにあたっての基礎知識と標準原価の考え方、標準原価を活用したコストダウン実践ステップを紹介しました。今回は、「売価は、どのように求められるのか。」、具体的に「標準原価の算出の仕方」について考えてみましょう。

売価は、小売や卸などの販売業の場合、仕入れた商品の代金(仕入原価)にある一定の比率を乗じて、売価を求めます。この比率とは、販売活動で発生する広告 宣伝や販売員の給与などの販売費、人事、経理などの社員の給与など管理活動のための一般管理費、そして利益を加えることを意味しています。
つまり、売価=仕入価格×(1+一般管理・販売費比率)×(1+利益率)、または売価=仕入価格×(1+粗利益率)ということです。
ここでの粗利益率とは、売価から仕入価格を差引いた残りを粗利益といい、売価に対する粗利益の割合のことです。
これに対して製造会社では、仕入価格の代わりに、製品をつくるために発生する費用である製造原価になります。製造業の場合、一般に原価に占める製造原価の割合が一番大きいため、製造原価の算出が重要になってくるのです。
製造原価は、製品を形づくるための原材料や部品などを外部から調達することによって発生する費用(材料費)と社内で製品をつくるために部品加工や組立などの作業を行なうことによって発生する費用(加工費)に分けられます。つまり、製造原価=材料費+加工費で求められます。
したがって、製品の売価は、(材料費+加工費)×(1+一般管理・販売費比率)×(1+利益率)、あるいは(材料費+加工費)×(1+粗利益率)と考えられがちです。

また、製造業の場合には、材料や部品に何らかの新たなる価値を付加することによって収入を得るという見方もあります。つまり、外部から調達する費用(材料費)+付加価値と表すことが出来ます。付加価値の中は、新たなる価値あるものにするための加工費、一般管理・販売費、利益になります。
この見方を前出の計算式と比較すると、材料費に一般管理・販売費を乗じるか否かが異なっていることがわかります。
そして、材料費に一般管理・販売費を乗じる計算方法は、見積書に記載される金額の計算で用いられることがあります。
この計算方法では、高額な材料を用いて、簡単な加工した場合と安価な材料を用いて複雑な加工をした場合、どちらも同じ売価になってしまいます。つまり、製品のために何らかの新たなる価値を付加することが、まったく反映されないことになってしまいます。
このようなことから、材料費+加工費×(1+一般管理・販売費比率)×(1+利益率)、あるいは材料費+加工費×(1+粗利益率)が本来の正しい原価の求め方になります。これが、製造業の売価の算定です。

製造原価の求め方
製造原価を求める基本は、材料費と加工費の合計であることを述べました。それでは、さらに掘り下げて、材料費と加工費はどのように求めるのかを考えてみましょう。

まず、材料費については、購入する材料の価格(材料の単価)とその材料をどれだけ使うかの数量(材料の使用量)で構成されます。この2つの数字を乗じた金額が、材料費になります。
つぎに加工費は、加工時間と単位時間あたりの加工費から構成され、これらの数字を乗じて求めます。
加工時間は所要時間ともいわれ、その製品や部品をつくるために必要な時間と表し、標準時間をもとに生産性の指数を乗じて求めます。
これに対して単位時間あたりの加工費は、工程や設備機械ごとに1分あるいは1時間、1日といった単位時間あたりの加工費のことを指します。単位時間あたり の加工費は、ある一定の期間に製造活動で発生する費用をその期間の直接作業をする時間で除して求めます。このようにして材料費と加工費は、求めます。

生産活動に必要の基礎情報
p-joho.jpg
製品を作るための生産活動では、まずその品目の情報が必要になります。この品目情報は、図面や仕様書から入手できる部品番号や名称、その品目を作るための製作の手順を示す工順、その製作に必要な期間(リードタイム)、などがあります。
そして、生産活動を進めるうえでは、生産計画、部品表、在庫などが必要になります。
生産計画は、皆さんもおわかりの通り、「その製品をいつ、いくつ、作るか。」を表したものです。このもとになる情報は、販売計画及び在庫情報になります。
部品表は、製品が、どのような部品から構成されているのかを表すものです。部品表によって、必要な部品(品目)がわかるのです。
また、各部品を調達面からみると、自社で加工して部品となる原材料と購入したならばそのまま組み付けることのできる購入品の2つに大分類することができます。
そして、購入品は、さらに自社の要求に基づいて製作してもらう外注加工品と相手先企業の規格である規格品、あるいはJISなどの標準的な規格に基づく市販品などに分類することができます。
また、各品目には、図面あるいは仕様書があります。図面には、その品目の形状や材質、グレード、寸法、寸法公差などの情報が記載され、仕様書は、購入品に ついての取り決めが記載されています。従来、図面を紙に書いていたのですが、最近では、パソコン上で処理する三次元CADが広く普及したこともあり、部品 情報をデータでやり取りすることが一般的になってきています。
品目情報で紹介しました工順は、品目ごとに原材料から完成品に至るまでの工程とその順序を示すものです。この工順は、社内で設定されるもので、コストダウンの要素を含んでいます。
在庫は、品目ごとの在庫数量をカウントしておくことです。近年、在庫は持たないという考え方が定着してきましたが、それでも必要な在庫があります。
これは、1回の生産ロットと関係し、1個あたりの加工時間に影響を与えるものです。
これらの情報がないと生産活動に支障をきたすことを知っておいてください。

これらの情報を使い、原価を算出していきましょう。
具体的な例を交えて説明していきます。
よく重いものを運ぶときに台車を使うでしょう。
その台車には、タイヤが4つ付いています。このタイヤのついたユニット部をキャスターといいます。そして、キャスターには、車輪だけが回転して前後方向に のみ移動する固定タイプと方向を変えることのできる自在タイプというものがあります。ここでは、固定タイプのキャスターで考えてみます。
キャスターAは、本体、車輪、車軸という3つの部品から構成されています。これを書面で表しているのが部品表です。

puroduct.jpg

さらに、キャスター本体という部品は、図面を見ると鋼板という鉄の板の材料を用いることがわかります。そして、キャスター本体の形状を作るためにプレスという機械で加工し、形作ります。その後、さびを防ぐために表面に黒色のメッキをします。
これでキャスター本体の完成です。キャスターAの本体は、プレス→メッキという工程を経て作られることを意味します。これが、キャスターAの本体の工順です。同様に車輪、車軸も工順の設定があります。
この工順の設定は、生産数量に基づいて、もっとも経済的な工法を選ぶことがコストダウンのポイントになります。

それでは、キャスターAの原価を求めてみます。
まず、各部品の原価から求めます。
前述の工順や材料の情報を活用します。キャスター本体の製作は、プレス→メッキという工程を経ます。それらの工程ごとに用いられる設備機械や作業者が決 まってきますので、その設備機械の減価償却費や動力費、労務費などが決まります。これは、労務費と経費が決まることになって、単位時間あたりの加工費が明 らかになります。

そして、工順の設定は、工程ごとに作業に費やすべき標準時間を決めています。
標準時間について少し詳しく説明しますと、標準時間は、実際の品目を作る作業時間と作るために材料や工具を用意する、後片付けをするなどの準備のための段取り時間から構成されています。

そして、作業時間は、1個や1kgなどの原単位や単位時間で捉えることができますが、段取り時間は生産ロット数1回に1度だけ発生しますから、段取り時間を生産ロット数で割った1個あたりの段取り時間を合計した時間が標準時間になります。
この標準時間に作業能率や設備機械の稼働率など生産性の指数を加味して、「かくあるべき姿」としての加工時間値を決めることになります。

この結果をもとに、工程ごとに単位時間当たりの加工費に加工時間値を乗じて、加工費を算出します。
そして、工程ごとの加工費を合計した値が、その部品の加工費となるわけです。

この加工費の算出でポイントになることは、加工時間値の設定です。生産現場でIE手法による標準時間をはじめとするデータ整備が行なわれていることが必要です。
なぜならば、標準時間の設定では、作業時間だけでなく、作業の打合せや朝礼、清掃など実際に作業する以外の時間も発生しています。また生産性の指数についても、稼働率の良し悪しは、加工時間値に大きな影響を与えます。これらの数値をしっかりと把握しておくことが必要です。

つぎに材料です。材料は、材料費の算出のために活用します。材料に関しては、購入単価と使用量を乗じて求めることになります。
材料の使用量を考えると、製品になっている分だけが材料の使用している量になるのかといいますと違います。それは、設定した工順によって発生する、生産上 どうしても必要になるロス部分や材料の決められている大きさによって発生するロス、段取り作業時に発生するロスなどあるからです。これらを加味した必要量 が材料使用量です。
ここでもIE手法が必要になります。材料についてのロス量をいかに減らすかを検討することです。これは、一般にカッティングプランと言われ、生産技術部門などが最適な材料取りとして検討しているものです。
原価計算では、材料消費量という言葉を用いますが、消費した材料の実績量ではなく、理論的に算出する意味を持って、使用量とします。

そして、もう一つの材料単価については、調達部門で調達量を決めて、取引先との価格交渉を行って決定するのですが、「今、購入でしたらいくらか。」を前提に単価設定します。

p-cost.jpg

それでは、キャスター本体のコストを求めてみましょう。
加工費は、第一工程がプレス工程ですので、使用する機械の能力から労務費、経費を集計して、1分あたりの加工費が30円とします。これに加工時間が、段取 り時間を数量で割った時間と1個あたりの作業時間を合計しまして0.05分とします。したがって、プレス工程の加工費は、20×0.1で2円になります。
つぎにメッキ工程があります。社内にメッキ処理の装置を持っていないため、協力会社に依頼して、1個あたり6円であったとします。
したがって、キャスター本体の加工費は、プレス工程が2円、メッキ工程が6円、合計8円になります。
材料費は、使用量がカッティングプランによって検討した結果0.2㎏、材料単価が100円としますと、20円になります。
この結果、キャクター本体の原価は、材料費20円、加工費8円で合計28円になります。

同様にして、車輪と車軸の原価を算出します、
車輪は、プラスチックですので、射出成形工程→二次加工の2工程で、原価24円とします。
車軸は、ヘッダー工程→メッキ工程の2工程で、原価8円とします。
これで部品の原価が明らかになりました。

つぎに、部品を組立てるための組立費用を求めます、
キャスター本体に車輪と車軸を取り付け、車軸をカシメます。このとき、プレス機械を用いるものとします。組立時間が1個0.2分とし、1分あたりの加工費が50円としますと、10円になります。これまでを合計しますと、70円になります。これが製造原価です。
これは、製造部門で発生した費用だけですので、これに販売部門と経理や総務部門などの管理部門の費用を製品に割り付けます。これを合計で16円とします。
以上を合計すると86円になり、キャスターAの原価を求めることができました。

台車の原価を算出しようとする場合には、キャスター、台、パイプ、固定金具ユニットなどのユニット単位で原価を算出し、組立費を求めて合計する。このうえで、販売部門と管理部門の費用を割り付けて原価を算出します。
このように材料から部品へ、部品からユニットへ、ユニットから製品へと原価を積み上げていく算出法を原価積み上げ法といいます。
従来は、原価の積み上げを行い、利益を加えて売価としていました。
しかし、現在では、「売価は、市場が決める。」といわれるように、性能や品質がよければ売価が高くても売れるということはなく、売価設定によって受注量が大きく変化するため、非常に重要な要因になっています。
このため製造企業では、販売価格を設定し、その販売価格から目標利益を確保した中で製品を作るという考え方が浸透してきました。つまり、売価-利益=原価の考え方をもとに目標として設定された原価の範囲内で製品が作れるようにすることが一般的になってきています。
このため、製品の開発をする設計段階では、製品の原価を強く意識するようになってきています。次回この設計段階でのコストダウンについて紹介いたします。


掲載された記事の内容について、許可なく転載すること及びコピーすることを禁じます。ご了解の程、お願い致します。


事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

詳細はこちら >

執筆者

月別アーカイブ

このページの先頭へ