ものづくり事業部

事業部トップ>コラム>成功する企業はベストコストをつくり込む>成功する企業はベストコストをつくり込む(14)

成功する企業はベストコストをつくり込む(14)

3.間接費低減の手法を考える

3-5.低減手法以外で生む利益

● ここでやはり損益分岐点
 間接費低減のための『対策を確立』することは、企業の強靭な経営体質を築くことです。その理由を明らかにするためには、やはり『損益分岐点の特性』を知る必要があるでしょう。

 改めて説明する必要もないくらいに一般的な、損益分岐点分析の概念かもしれませんが、図表3-7に示しておきましょう。分析のための計算式は、要約すると【損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率】で示せます。
 この分析要素は、ご覧のとおり売上高(S)に対する変数である固定費(F)と変動費(V)だけで成り立っています。固定費と変動費に関しては、第1章『図表1-13 同じコストでありながら』と『図表1-14 単位あたりコストの特性』(‘12.04.19掲載)で既に述べました。

● 間接コスト低減はどう響く
 分析の結果『損益分岐点が低い』状態は、低い売上高レベルでも十分に「利益機会が得られる」ということですから、企業は『経営体質が強靭』だといえます。そこで問題は「大部分が固定費」である間接費損益分岐点売上高(P)への影響です。

 図表3-7は、具体的数値が入っていない概念図です。しかしこの状態で、間接費つまり「固定費を5%ダウンさせる」と、それだけ『総費用線』が下方へスライドして『損益分岐点が左方向へ移動』まます。すなわち、より『低い売上高』でも利益確保が可能になることがわかります。
 これに対し、仮に当面の直接費つまり「変動費(V)を5%ダウン」できれば『変動比率(総費用線の立上り角度)』は、わずかに下向きます。それにつれ『損益分岐点(P)』もわずかに左方向へ移動することはたしかです。しかし「下がり具合」は、固定費の減少に比べものになりません。
 直接費のコストダウン効果は、そのときの『操業度(売上高)』や『世間相場』またマクロでは『景気動向』などによって、一時的に変動するものです。これに対し間接費のコストダウン効果は、に固定的にどこまでも作用し続けるのです。
 コストダウン努力は「変動費だろうが固定費だろうが」「直接費だろうが間接費だろうが」同じです。コストダウン技法には、両者の間で若干の違いはあります。が、このために「費やすエネルギー」は、どちらにせよ大変なことに違いありません。
 たしかにベストコスト達成には、全方位のコストダウン活動が展開されます。が、ベストコスト追求の大きな目的のひとつである『企業のgoing concern』のためには、企業体質を強靭にしておかねばなりません。損益分岐点への着眼点は、低減技法『以外の切り口』にこそあるというわけです。

● 回転率向上には逆風が吹く
 間接コストをダウンさせる目的は、今更ながらの観があります。が、経営の『利益体質づくり』でもう一つ考えておかなければならないのは、回転率向上策に違いありません。

 端的には、図表3-8に示す投下資本利益率(Return On Investment)を上昇させることです。

 要するに、もしも売上利益率が下がっても、資本回転率を上げれば、投下資本に対する利益率は保てるということです。経済社会において、この「もしも」の事情はいっぱいあるのですからROIの向上策には、注意していなければなりません。これは要するに『小さな資本』で経営目的を達成することですから、借金の少ない強い体質の経営状態を指すわけです。
 しかし常識的には、商品回転率を上げるために「商品在庫を減少させる」となると、在庫切れによる機会損失を恐れます。また反面では、大量仕入れ大量生産による『コストダウン効果』も見込めます。ですから、逆に「借入金を増やして」でも、仕入れ過ぎ造り過ぎをやって商品回転率を下げてしまいます。
 たしかに『借入金の増加』による『利益減への影響』は、損益計算書の営業外費用だけで済みます。この費用の内訳は『支払利息』や『手形割引料』ですから、昨今の超低金利時代では、在庫を減らして『守る経営』姿勢をとるよりも、大量仕入れを前提に積極的に売る体制の『攻める経営』をとる方が勇ましく見えます。
 つまり高回転率の企業体質強化策には、常に「逆風が吹いてくる」ということです。間接コスト低減策も、必要経費を「ケチって損をする」的な嘲笑を常に浴びる風土と似ています。

● 現金の在り処は嘘をつかない
 企業の経営思想からいえばROIを圧迫しても、薄利多売を採るとの考えは『売上重視時代の遺物』に過ぎません。世はまさに低成長期を迎え、利益重視時代から現金重視時代へと移ってきているのです。

 欧米の格言では「Profit is a matter of opinion. Cash is really.」というのがあるそうです。直訳ですと「利益は意見の分かれる問題」「現金は真実」とでもいうのでしょう。
 たしかに【利益=収益―費用】ですが、現行の会計制度は発生主義と簿価主義を採っているため『資産の評価』によって、利益計算にいろいろな「意見の違い」いわば「見方の違い」を生じます。
 発生主義とは、受注後「商品を発送」すれば売上が発生し、帳簿に売上高を立てることです。当然、売掛金が立つので『資産が増加』し、現金取引でもないのに『会計上の利益』は増加してきます。また、簿価主義では「もう売れない」デッドストック品であっても、廃棄せずに残っているかぎり『在庫という資産』は減少せず『見かけ上の利益』は減りません。

● キャッシュフローに真実を語らせる
 第1章の『全部原価計算方式』のところ(1-5 原価と付加価値の計算方法 ‘12.03.23掲載)でみたように、資産の評価では「あの受注を売上に立てよう」とか「このデッドストックは残しておこう」などと、利益の計上に関する意見がいろいろと分かれるものです。

 結局、人の考え方解釈によって、明らかに数値変動が「起こる」か「起こす」ことができるわけです。あまりよくない表現ですが、ある程度の『利益操作』ができるわけです。こんなことでは、現場でベストコストを目指している人々にとっては、たまったものではありません。
 ところが現金重視の立場では、企業経営をキュッシュフロー(cash flow)で考えます。つまりキャッシュは入金から出金を「差引いた残」だけで評価されるのです。それ以外に評価の仕方がないため「あれば有る」「なければ無い」と、真実がはっきりしてくるというわけです。
 ですから他に「操作の仕方がない」つまり「嘘をつかない」評価方法に、真実を語らせようというのが、キャッシュフロー経営です。
 図表3-9は、貸借対照表・損益計算書等の2期分以上が比較できる比較財務諸表から、キュッシュフローがすぐに計算できるように、表計算ソフトで作った計算式の部分にコメントを入れて表したものです。
 会社の財務状態をディスクローズする上場企業などは、10年ほど前に「決算書には従来の財務諸表のほかに、連結のキュッシュフロー計算書を添付」することが義務付けられました。しかしキャッシュフロー自体が、ここで説明したいことではないため、これ以上の詳述は避けます。

● 類別の遣り繰りなきフロー
 回転率という経営指標は、売上高との対比ですから、売上が高水準のときは高く算出されます。が、図表3-9の営業活動キャッシュフローの構成要素である営業資産は、原材料・仕掛品・製品・商品といった『棚卸資産が増加』すると、マイナスで計算されることに注目です。

 このように、絶対値で示されるキャッシュフローでは、いくら低金利時代であっても、『在庫が増える』と全体的な財務状態が悪くなります。ですから「売上が上がると高くでる回転率」と違って、キャッシュフローは売上に関係なく「在庫が増えてくる」と、金回りが悪くなるというのが、いろいろな「意見を挟まない真実」として存在するわけです。
 ですから日常の「筍生活」や「ローン生活」と同じで、営業活動キャッシュフローのマイナスは、投資活動キャッシュフローや次の財務活動キャッシュフローで埋められるものではないのです。
 もちろん投資や財務活動がなければ、企業は『金詰り』になって倒産してしまいます。ですから日常生活の経常収入(営業活動)の過不足は、預金を崩したり(財務活動)友人から借金したり(投資活動)して、一時的に補っていなければなりません。が、それが決してよい日常生活を送っているといえないのと、経営も同じ事情です。
 要するに「営業資産を増やし」「営業負債を減らす」中で、売上高も高水準に保って高回転営業ができる企業体質を備えていかなければならないということです。
 第1章で「営業外費用もコストダウン・ターゲット」としたのは、金利という「間接費を圧縮」させるだけでないのです。企業経営にとってこのような、資金流動の深い意味があるのです。もちろんベストコストは、これらの深い意味も全部飲み込んだうえで、やっと望めることに違いはないのです。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

詳細はこちら >

執筆者

月別アーカイブ

このページの先頭へ