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成功する企業はベストコストをつくり込む(16)

4.人の知恵にみる標準化

4-3.予算を惑わす心情がある

● 自分自身のための見通しは
 将来予測を集計し、計画にまとめていくことは、トップなど管理者側にとっても、コストダウンする人々の被管理者側にとっても、立場の違いからお互いに辛いことがあります。

 特に、先行き不透明な時期においては容易に『見通しが立たない』ため、トップは「販売見通しを甘く」し、「経費見通しを厳しく」して何とか利益を生み出そうとします。つまり「売上高予算は多目」に「経費予算は少な目」に見積もり、最大限の限界利益を生み出して『経営の安泰』を図ろうとします。
 対して現場の人々は自分たちの『立場を優先』し、極力「販売見通しを抑え」「経費見通しの許容を大きく」した見積を立てようとします。つまり「売上高予算は抑え目」にし、「経費予算では余裕」をみようとするわけす。
 しかしこの上下の立場の違いから、収入の見通しが『甘い』と『抑制』である一方で、支出の見通しが『抑え』と『許容』のままでは、とても現実的な予算など組めたものではありません。

● お互いに惑わされないために
 そこで図表4-3のように、トップダウンによる『割り当て方式』と、ボトムアップによる商品別とか販売地域別とかの『積み上げ方式』を混合することを考えます。

 トップは予算編成に当たって、必要とする『限界利益の水準』を論理的に説得しなければなりません。更に目標達成のために予算編成段階から、目標達成に対する『昇進制度』など、何らかの誘因(incentive)が与えられれば結構です。
 またボトムとしてはトップの意図を納得のうえ、各部門が『限界利益の獲得を競うなど、企業への『貢献度を意識』するムードの中で遣り甲斐を見出し、士気(morale)を高めていければなお結構です。

● 心情だけでなく合理性の中で
 いずれにせよ予算は、不確定な将来に向かって「予め計算」しておくことですから、将来の行動指針を拘束されるような気がします。つまり「心情が先立つ」のですが、これを理性的な判断のもとに、将来の行動を規定できるようにすべきです。

 とすると誰もが、共有できる『標準を活用』するための知恵がでてくるようになります。標準という共通基準をもった損益予算は、P-D-C-Aサイクルすなわちチェックの過程で有効にはたらくからです。
 すなわち【限界利益=(売価-原価)×数量】であることから、先ず個々の商品の平均売価取得原価の『標準を立てて』おきます。そして販売数量の『見通し』だけを立てていけば、それだけで限界利益が予算化できるというわけです。
 そうすると予算の実行段階では「限界利益が計画どおりにいかない」とすれば、その原因は、
  『予算で見込んだ数量だけ販売できたか』
  『予定した平均売価と実際の平均売価の差はどうか』
  『設定した標準原価に対し、実際原価はどうであったか』と、チェックするのです。
 そうすれば『すなわち予算執行の問題点』は、
  『数量差異があったのか』
  『売価差異がでたのか』
  『原価差異が生じたのか』の、三要素に切り分けられるということです。
 ですからこの差異分析は、心情だけで立てた損益予算ではないのでから、合理的なすなわちチェックができるというわけです。
 『品目別』とか『販売地域別』『得意先別』とかで、このようなチェックができれば、どの商品で販売促進策を強化し、見込んだ数量確保をしていくか。市場実勢価格が下がった問題商品をどんな商品に移行し、全体としての平均的な売価維持をしていくかといった施策が方向付けられるというものです。
 また、実際原価が標準原価に収まらない原因は、商品別に解析したうえで、どんなコストダウン対策をとるかといった、具体的なすなわちアクションが、適切に執れることになるでしょう。

● 計数標準の泣きどころ
 数標準には、便利性有用性もあるのですが、ハードな標準と違って『観念的な標準』であるため、問題点も多くあります。

 それはまず『予算の立て方』です。たとえば予算は、努力目標を加味して「平均売価は実績の10%増、標準原価は実績の10%減で設定する」と決めたとします。が、それを実現する具体的な対策が伴わなければ、現場の人々に『守られない標準』になってしまうことです。

 計数標準は観念的で『拠りどころ』を求めるのが難しいものですから、過去の実績だけを根拠にそれを上回る数値が努力目標と称して決められがちです。すると当然、現場にいる人々の『意志が入った』計数標準となりません。そんな根拠の乏しいままの標準によって予算に編成されてしまえば、この変化の激しい時代に「予算が守れない」のは至極当然です。
 さらにそんな標準に、設計部門の『希望的な見積金額』が加わると、もっとやっかいな『実施上の問題』が混入してきます。というのは開発・設計部門の担当は、生産部門のボトムアップと逆で、原価の標準を「低く見積もって」くるからです。
 その理由は、自分で「予算を実行しない気安さと無責任さ」からではありません。開発・設計者なら誰でも「自分が開発し、設計した製品」に大きな誇りをもっていることです。つまり開発・設計者は、絶対に「これくらいで上がる」はずだという思い込み   があるわけです。
 この誇りは、いわば『会社の宝』ですが、見積りは予算のために予測する重要な情報です。ですから「この程度のコストで十分にできるはずだ」という単純な推測や「高品質、低コスト商品を開発」したという個人的な誇りは、『見込みを大幅に狂わせる』可能性があるのです。

● 変なことがあるものだ
 これは実際にあった話ですが、新商品の売価設定に当って、開発・生産・販売部門が、それぞれの思惑をはたらかせて見積もったことがあります。すると図表4-4の左側に示すような、三すくみの状況ができてしまいました。

 この図は新たに『設計する新製品』に既成の従来製品』を合わせた『複合製品』の価格を決めるケースです。図のうえでは若干の誇張があるため『水増し原価』が大幅になっています。が、こんなに各部門がそれぞれの『思惑を込めた見積』をするような意識では、図表4-4の右側に示すような、トップが期待する予算が組める状況ではありません。
 仮にこれで組めたとしても、実施段階で「売れなかった」とき、開発・設計部門は数量差異がでた要因を「市場情勢の変化だから仕方ない」と言うことで済ませてしまうでしょう。
 また原価差異が発生する要因は、生産台数、習熟速度など「はじめに立てた見積条件が違った」と、生産部門が反発するはずです。販売部門にだって、売価差異が出るのは「競争力が乏しい製品だった」との言い分があるでしょう。
 こんな状況ではP-D-C-Aサイクルどころか、スタート点の『計数標準が惑わされ』て、結局、損をするのは「会社自身」になるわけです。ひいてはこの損が、開発・生産・販売担当の従業員側にふりかかってくるのは目に見えています。

4-4.後追い管理になってはいないか

● 伝統的なコストダウン手法
 計数標準をベースにした標準原価管理法は、伝統的なコストダウン手法として依然、重要な位置づけをもっています。この手法が、なぜ「コストダウンを生むか」については、図表4-5の左側に示すような管理プロセスをご覧いただければ、おわかりになると思います。

 すなわち先ず、個々の製品別またはサービス別に「標準原価を設定」します。そしてその標準を以って「利益予算を設定」し「予算実行の後」に、計画された標準値実際値の「比較」つまり差異分析をするわけです。
 この流れはあたかも、大工の棟梁が『物差し』を使って仕事をするようなものです。この物差しがなければ、ひん曲がった家ができたとしても「どこをどう直せばよくなるか」わかりません。
 しかしいくら物差しが立派でも、実際に「鋸を引き」「鑿を打ち込み」「槌を振るう」作業がなければ、ちゃんとした家は建たないのです。ですから標準原価管理法自体が、コストダウン手法だというのは一寸、怪しいかもしれません。が、仕事にかかる前に、その普請に『ふさわしい物差し』をつくっておくのが、この手法の基本であることに違いはありません。

● 後始末はつけようがない
 この管理プロセスは、コストダウン手法として重視しない企業でも、標準原価そのものは利益計画経営計画)など、予算制度に不可欠の要素になります。

 したがって『物差しづくり』は、決算期ごとに『標準原価の設定』によって行われます。そして「仕事にかかってから」は、常にこの物差しを使って「結果を計測しながら」作業を進めます。つまりこれが経営計画における『予算の実行』に相当するわけです。
 作業の実行結果は「物差しとの比較」によって、原価差異として把握されます。すると次には、差異がでる「原因を追及」し、それを補正するために「鋸や鑿を持ちだす」のです。この管理手法では、それが一連のP-D-C-Aプロセスになるわけです。
 ただ、図表4-5のようなプロセスを見るかぎり、いかにP-D-C-Aサイクルしても標準原価法は、後追い管理になってしまうのが問題です。つまり、既に『できあがった家』については、多少「歪んでいても」そのまま出荷し、大家さんに「次には歪んでいない家を建てる」と謝るよりほかにないわけです。
 だって『建て直し』は、もっとコストがかかることになるのですから。また仮に『建て直し』のお許しがいただけたとしても、先の「歪んだ家」の方は引き取って貰えるわけがないでしょう。

● 道具の利用価値を高める
 物差しは『売価』『数量』『原価』の「出来上がり寸法を測るだけ」の道具ではありません。単に結果測定だけの用途に過ぎないのなら、流通業や製造業が将来に向けた販売促進コストダウンの施策に用いることができないでしょう。

 したがって自分用の物差しをつくるときは、販売促進やコストダウンの改善効果を『予想』して、予め物差しの「目盛に刻み込む」ことです。そうしておけば仮に後追い管理になったとしても、予算実行中の改善活動による「効果の程度が分かる」ようにしておくことです。
 それは予め立てた、販売促進策の「効果を見込んで」経営計画に盛り込んでおくのと、同じようなものです。こうすれば標準原価は、ものづくり業だけのツールでなく、流通業サービス業の限界利益管理などでも、十分に使えるような道具になるはずです。
 予め改善効果を『見込んだ標準』をつくるから、標準原価管理法が『伝統的なコストダウン手法』といわれる所以でもあるのです。
 こうして作った物差しは、家を建てる『土台造り』のはじめから『鋸を引き』『鑿を打つ』前に使うのです。それなら、予算の実行段階で予定した改善』を進めることになるのですから、できあがった家は「歪まずに建つ」というわけです。
 経営計画の例に直すと、利益不足という「曲がった家ができて」から、利益増のための対策を打つのでは『手遅れ』だというのと同じでしよう。

● コストダウン・ツールを使い分け
 本来、標準原価というものは『棚卸資産を評価』するための会計的基準として、財務会計の分野で設定されてきたものです。管理会計用に設定した計数標準は、経営計画の『予算設定』や商品価格決定』の基準などとしても使えます。そこで更に『コストダウンの道具』としての着目点もあるわけです。

 しかしコストダウン目標として設定される標準原価は、改善を「見込んだ低い原価」に『厳しく設定』されています。したがって標準原価には、機会利益つまり「達成されれば獲得しうる利益」をも含んでいます。
 そんな標準で財務会計の棚卸資産の評価に使うと、資産に含まれる直接コストの部分は、実際原価より安く評価され、それだけ利益が多くみられる可能性があります。
 もしも目標どおりの改善が進まないと、その期間内の管理指標は甘くなり、決算時の実際原価計算によって、はじめて「赤字計上を知って」驚くことになりかねません。逆に標準原価そのものを甘くすると、コストダウン目標にはならないというわけです。
 ですから『棟梁の物差し』と『大家さんの物差し』を「別々にする」考え方がでてきます。つまり、財務会計と管理会計が分野別に、それぞれの計数標準を設定するのです。この考え方は一部において、実務的に採用されているわけで、いわゆる税務対策などの二重帳簿とは違います。

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