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成功する企業はベストコストをつくり込む(34)

6.コストはデザインできるのか 

6-1 コスト形成の根源は 

● コストを創りこむ工夫
 本書の主要課題であるベストコストは、筆者の造語です。連載第1回目に明言したように、1995年(平成7年)日刊工業新聞社『月刊工場管理』誌の2月号(Vol.41 No.2)に『低コスト体質を身につけ“ベストコスト”をつくり込む』という3回連載の投稿記事で初めて使用した用語です。
 本書でいう『ベストコストをつくり込む』は、いわばそのときから20年も暖め続けた概念です。たしかに世の中が激変し、経営環境も変化している中で「20年前の概念が通用するか」との疑問は尤もです。が、会社がいつまでもローコスト体質を築き続けなければならない事情は、まったく変わっていません。
 さらにベストコスト追求の方法論からみても、この20年の間に画期的な新技法が編み出されたとは、とても認識できません。ベストコストの追求は従来型のコストダウン技法、つまり「現状のコスト水準を引き下げる」とか「ダウンさせる」とかの諸々の方法だけでは、到底及ばないだろうことだけは分かります。
 ですからここはゼロベースにおいて、モノづくりの初めから「コストを理想水準の近くにつくりあげる」工夫をするのです。つまりそれは、コストデザインでなければならないということです。 

● コストは全社あげての創造物
 20年前の「コストをつくる」ための思考過程では、最初に源流管理という概念に突き当たりました。
 ところが各方面を調査しているとき、あるメーカーの方から「源流管理といっても、設計部門だけを責め過ぎる」のはいけない。それによって設計部門が、もしも手をあげることがあれば「会社が手をあげるとき」だから、との発言を耳にしたのです。
 たしかにコストダウンは、全社が一致協力してやるものです。いくらコストをデザインするからといって、デザインの当事者たる設計部門だけに、しかも「コストだけのベスト」を求めても「品質がベストでなくなる」危険性もあるわけです。
 会社が手をあげるというのは、コスト至上主義を強いて、クリエイティブなデザインが生まれなくなければ「魅力的な新製品」が生まれなくて「会社の将来がない」という意味にもとれます。
 設計者は「工程内の仕損じや間接コストの増大まで負担しきれない」といいたくなるはずです。したがって「源流だけを責めるな」という発言は、トータルコストにおいてベストを追及するうえで、なかなか含蓄のある示唆になりました。 

● コストをデザインする構造
 およそコストというものは図表6-1のイメージのように、はじめに『設計段階』でのつくり込みがあり、次が『生産工程』で展開する手順が揃わなければ、ベストに近づくことはできません。そして全般的な『間接コスト』のダウンが存在すれば、万事は手順どおりベスト近くに収まるはずです。

 しかしローコストを生みだす会社の企業体質は、間接コストの低レベルをベースとし、その上にローコストでモノが『つくれ』て『売れる』機構が、乗っかっていることによって保てます。
 さらに生産する商品自体が、必然的にベストコストを実現できる『設計』がなされなければ、頑健な体質ができたとはいえないのです。したがって社内全体の行動を統合し、全員が集中してコストダウン業務に当たるために、ベストコストという『共通の認識』をもつ必要があるのです。 

● 理論原価が理想原価になるか
 ロスアプローチ法というコストダウン技法には、理想原価という概念があります。しかしコストダウン実務において、理想的なコストという概念には、図表6-2に示すように条件付けひとつをとっても、いろいろな疑問が残ります。

 まず、理想とされる理論値の算出に当たり、だれでも認識できるムダロスは、現在の技術水準で解決不能だということです。ムダロスと分かっていながら放置する企業が、あるはずがないからです。
 たとえば『電気釜から漏れる熱エネルギー』部分の費用のように、技術的に未解決だから生じているコストは、それを排除する『防熱材』とか『防熱構造』などの手段がければ、ムダロスとはいえないのです。ですから、この場合の目標はムダやロスと思える原因が「特定できる」か、そして現状よりも「改善できるか」否かの検討になるわけです。
 仮に、新商品の開発や設計段階において、理論コストは頭の中でつくりこめるとしても、現状の技術水準から生産段階で理想コストを実現することは不可能だとすれば、理想コストは目標になっても、ベストコストではありません。 

 源流管理の意義はここにあり
 開発・設計部門の見積原価が、単なる『希望原価』になるとさらに困るのは、このような原価を根拠にして経営計画が樹立されてしまうことです。企業経営の機能別フローからみて、源流にあたる開発・設計部門の見積りは、会社の経営計画の基礎数値になります。
 つまり利益計画の大部分は既存の、いわゆる『従来商品』の実績を根拠に検討されるでしょう。しかしそれだけでは企業の発展性が見込めないので、どこの会社でも「来期こそは・・・」の意気込みで『新製品』『新商品』『新サービス』を売上高予算の中に組み込みます。
 ここで開発・設計部門の見積りが、実際と大きなマイナス・ギャップを生むと当然、構成比の大小にかかわらず、利益計画が画餅と化すわけです。
 新商品それぞれは『売価』も『販売数量』も違う、つまり経営全般に及ぼす影響の大きさが違います。図表6-3でいえば、B商品E商品の利益でC商品D商品の機会損失を補うようなセールスミックス効果は殆んど見込めません。仮に『大が小を埋め合わせた』としても、それがOKといきません。経営者や従業員が『意図した経営』とはいえないからです。


 最近はあまり聞かなくなりましたが、源流管理の意義はここにあります。その意味で、理論コスト理想コストの意義も消えたわけではありません。が、実務面ではそんな不確定な要素を追わないと同時に、現実的なベストコストの設定方法と、そのつくりこみ方法を考えようとするべきです。

 

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