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成功する企業はベストコストをつくり込む(39)

6.コストはデザインできるか

6-6 後からスペックダウンは許されない

● 品質水準はさまよう
 過剰品質はコストとの関連で、どのレベルに『限界』があるか、簡単にはわかりません。なぜなら比較対象が、他社製品との『差別化』という、ファジイ(あいまい)な存在だからです。
 たとえば、建築基準法などで「震度6まで耐えること」と決まっているとすれば『材質強度』と『建築構造』から支柱の太さが決まります。必要条件以下の柱を使えば、品質不安が残りますが、安全率を「見込み過ぎる」と過剰品質によるコスト高になるでしょう。 このように『法規制』や、JISのような『公的規格』がある製品は、当然その品質水準を維持しなければなりません。しかし商品差別化は、そのような品質レベルを『必要最低限』とし、それ以上のレベルで競われます。
 レベルの高さが、どれほどなら「競争に勝てる」という保証はありません。桧の大黒柱をドンと据えるのは『強度』という機能品質よりも、むしろ安心感や『豪邸のステイタス』を主目的にするはずですから官能品質というべきです。となると過剰の『上限』はなくユーザーや消費者が、この『ステイタス度』をどのように評価するかに掛かってくるわけです。
 供給側・売り手側は、必要最小限の品質レベルと、商品差別化との間の『ファジイな領域』で試行錯誤し、苦しみながら競争しています。ただ売り手側で設定する販売価格は、ユーザーや消費者・買い手側にすれば、はっきりと購入コストに違いないのです。
 買い手側はたしかに、品質レベルに対する適正価格以下のレベルを、比較購買の中で自由に『選択する目』をもっています。ですから販売価格自体は、他社商品との比較においてさえも、決して『ファジイな存在』ではありません。

● 各担当者の心の中に
 差別化競争のもとにありながら、開発設計者の気持ちには「不良品を出すまい」とする防衛心と、高品位で勝負したくて「飾りやおまけを付けたい」とする攻撃心が共存しています。この気持ちは、生産に従事する担当者も、顧客に接する営業担当者も同じです。
 社内の各担当者それぞれに共通の『心情』によって、設計仕様書の一般公差などが「必要以上に厳しく」されたり、ニーズの見込みがない「アクセサリー類」が重ねられたりして知らず知らずのうちにコスト高を呼び込みます。あたかも生産・営業両担当者がともに、在庫切れや納期遅れが「怖くて」過剰在庫を生んでしまう『心情』に似ています。
 開発設計の後工程を担当する、つまりお客様に「より近い」生産・営業担当者のこのような心情は、わからないでもないのです。が、結果的な過剰品質・高コストは、図表6-10のように生まれます。このように、担当者レベルで『自己顕示欲』のほうを『会社の利益』より優先させることは、意外と多くあるものです。

 その心情は、たしかに一面で『仕事熱心』の表れでもあるでしょう。開発設計担当者の『品質意識』は十分にあるのです。だから冷静な状況分析に基づく情報を背景とする『コスト意識』が低下してさえいなければ、的確な設計目標は立つのです。
 管理・監督者は『高い目線』で市場情報を収集・分析し、社内の担当者を誘発指導する役割を負うわけです。

● 部門意識でなく立場の違いで
 設計品質の『過剰』は後で気付いても、生産ラインで改善することはできません。その典型が、商品の表に現れる『顔の部分の修正』が許されないことです。
 既にカタログが出回って市場認知が進み、今なお生産も販売も続いている商品は、その品質スペックを『顔』として今の販売価格があるわけです。ですから営業部門は、当然ながら『顔が崩れる』スペックダウンの修正を認めません。
 仮に社内の打ち合わせで営業部門が、スペックダウンを納得しても、お客様が許すはずがないのです。つまりお客様にとっては、過剰品質の改善も何も関係ないのですから、スペックアップだと思うのは、売り手側の独善に過ぎません。
 商品の「顔が変わる」なら、値下げでもしない限り売れないのです。値下げしたのでは、過剰品質の改善によるコストダウンができても、結果的に利益減となって改善の目的を失します。
 ですから発売後の過剰品質の修正は、営業部門のセクショナリズムによる否定ではないのです。企業の事業として「やってはいけない」ことなのです。

● 転ばぬ先の杖
 発売後に過剰品質を見つけても、それを是正するための上手い手はないのです。敢えて言えば過剰品質製品を販売中止し、新たにモデルチェンジ品を発売する方法だとでもいえるでしょうか。が、それは『過剰品質の是正』ではありません。
 またスペックアップしたモデルチェンジ品の『再販』は、お客様にとって「改良品が買える」ことだとすれば、一応「ためになる」のかもしれません。が、この手法は『PRのし直し』など、会社に多大なマーケティング・ロスを与えます。
 結局あらゆる商品は、上市されてからの改良品再販が「不可能に近い」くらい不利なマーケティング活動になるというわけです。要は「転ばぬ先の杖」を付いておくことです。
 適正品質は、商品企画や開発・設計までの『前段階』で確立しておくことです。その基礎になるのが、生産プロセスの前段階を担当する開発・設計当事者の品質コストに対する『意識』のあり方です。
 しかし、開発・設計の当事者には意識改革を迫れば、それだけで十分ではありません。真にコスト意識を喚起するためには、開発・設計段階で繰り返す設計評価など『諸制度の確立』がプラスされなければならないのです。その評価、つまりコストレビューが、これから述べるコストデザインの大きなテーマになってくるわけです。

● 売価設定はひとつの難関
 ベストコストは『社内』において、自社だけが独自に追及することができます。が、競争社会がある『社外』からは品質第一主義の中でお客様が、その品質に「いくらまで支払ってくれるか」を問われ続けます。
 新製品開発は市場に「新しい効用」を供給し、会社に「新しい利益」をもたらすために行います。一方、コストダウンは『絶対的な行為』ですから、ベストコストは十分に「利益がある」ときでも、常に追求していなければなりません。
 新製品開発で『固定された品質』と、市場で『変動する販売価格』との相対関係では、品質を基底としなければなりません。あらかじめ変動を前提で、販売価格は弾力的に設定されるものです。
 売価設定は、新商品企画の初期でマーケティング上の『重要』かつ『難解』な経営課題です。が、販売価格を設定せずに市場に上げて様子をみるわけいきません。テストマーケティングでも、価格を示さなければテストにならないのですから、どうしても市場で「認められる販売価格」は的確かつ戦略的に設定しておくのです。
 そのためにまず、社内の『造り手』や『売り手』の全員が、開発した新商品の品質的優位性を認めることです。その上で、お客様に許容してもらえる適正価格を自信をもって値入することです。
 新製品には品質に見合ったコスト、即ち製造原価が必要です。自分達が開発した新製品の付加価値は、自分達が正しく認識しなければなりません。社内の誰かが「こんな新製品では・・・」と思っていて「売れるわけがない」でしょう。売れなければ、ベストコストどころではありません。
 こんな当たり前のことを、わざわざ強調するのは、売価の『適正な設定ライン』を見付けるのに、多くの要素が絡むためだからです。また『安売りの限界』も、容易に知れないわけです。

● 見えない敵に脅えない
 販売価格の設定では、需要の価格弾力性がその難しさを助長してきます。価格弾力性が『高い』日用品のようなケースでは「価格を安く」しても、その割に「需要量が伸びない」わけです。つまり価格と販売量が逆相関なので「どれほどの売価」なら「どれほどの販売量が見込めるか」わかり辛いのです。
 逆に価格弾力性が『低い』つまり「値段を下げれば」それだけ「多く売れる」商品もあります。高級品に多くみられるこんなケースでは、販売数量を見込み易く『量の経済性』をはたらかせて低コスト仕入れができます。
 しかし実勢市場での高級品の薄利多売は、思わぬ販促費がかかったり、デッドストックを抱え込んだりと、易しい販売政策とは必ずしもいえないのです。逆に価格弾力性が高い商品は、自社への需要見込みだけでなく、競争相手コンペチターが自由市場に「どのような売価を提示するか」も、ほとんど読めないケースがあるわけです。
 ただ、どちらのケースでも確実にいえることは、自分達で開発した新製品の価値は、自分達の中で「絶対的な認識」が必要です。コンペチターを恐れるあまり、自社商品の品質レベルを省みず、安売りをしないことです。
 せっかく自分たちで『創りだした』新しい価値は、自らダンピングすれば大きな機会損失を受けることになるでしょう。これでは、開発段階のコストダウン努力が吹っ飛んでしまって「安売りに追い付くコストダウンなし」の状態に陥りかねません。

● コストの絶対性と売価の相対性
 新製品開発を機会にベストコストを『目指す』のですから、業務の前の企画段階で品質に適合した設定売価は、あらかじめ考えておくべきです。もちろんその前提として、マーケティングによる情報活動が必須です。
 適正売価を模索する過程において、市場関係と相対的な自由競争に臨む背景が感じられ、それ自体が絶対的なベストコストが追及されなければなりません。これは『マーケティング』と『プロダクト』の双方に実務経験をもつ、筆者の偽らない実感です。
 ただ設計の下流に位置づけられる『造り手側』は、安売りするなら「コストダウンしない」とはいえません。やはりコストダウンには絶対性があるからです。にもかかわらず、競争社会において品質に連動するはずの販売価格には絶対性がなく、あくまでもコンペチターとの相対関係の中で決定しなければならないのです。
 販売価格が決まれば『造り手側』は、その価格でも十分に「利益がでる」製造原価に収めることが、絶対的な使命になるわけです。図表6-11の関係ですが、ベストコストは永遠に追及されることに変わりないのです。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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