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成功する企業はベストコストをつくり込む(40)

6.コストはデザインできるか

6-7 目標達成手段はいろいろ

● コストの創出術とでもいうか
 まだ数十年も経たない以前の話ですが『わが国固有』の概念として、原価企画という考え方が生まれました。発祥元は管理会計の分野なのですが、著者が初めにこの概念の存在を知ったとき、従来にはなく優れた思考であると思えました。
 というのは、その第一に原価企画が先行管理の考え方をすることです。コストダウンの見地からすれば『会計学的手法』は、どうしても後追い管理になってしまうと説明したものです。が、原価企画の考え方は、コストを予め『企画』していく積極性を感じます。
 予めという点では標準原価管理法でも、年間の予算制度と相俟って、事前に『原価計画』をたてます。つまり先の第4章 4-4.後追い管理になってはいないか(’12.12.19.掲載)で指摘したように、標準原価自体はP-D-C-Aサイクルの一環として存在し、生産活動後の『Check』や『Action』に重点が置かれて管理されるため、やはり後追いになるわけです。
 ところが原価企画では、最初の『プラン』の段階で、予算制度とは別途に「あるべきコストの水準」を独自に企画し、そのコスト水準に適合するような『Do:生産の実施』をするのです。つまりこれは紙の上で、新しい「コストを創りだしている」ことになるのではないですか。
 ですからタイミングは、標準原価が予算編成期に計画されるのに対し、原価企画は『開発設計』『モデルチェンジ』『VA・VE』などに際して、いつでも企画されます。そして実績を積めば「次期の予算編成時」に、その実績を背景として標準化されることもあるわけです。

● ゼロベース予算というのもあった
 さらに会計分野では、30年以上も前になりましょうか「現状の水準をそのまま容認しない」ゼロベース予算という考え方が生まれました。つまり事業計画は、過去の実績をそのまま延長するのではなく、年度毎にすべて「ゼロからスタートすること」を前提として、改めて予算を組み直すのです。
 しかし現実は、ゼロに返せない中・長期計画の途上事業が多くなってきました。また事業計画が多岐にわたり、すべてを一件ずつ見直し、ゼロからスタートするには、予算の編成作業が大変になるという実務的な問題もあります。
 ですからゼロベース予算でありながら、基本概念である「ゼロからスタート」できず、現実に流されてしまうと予算制度自体が、だらだらと結果主義に陥ってしまいます。ですからこの考え方は「用語だけ残って」実質的には、あまり有効に機能しなかったと記憶します。
 結局、予算実行の過程で各セクションの「必要経費はやむを得ない」事実が、積み重ねられると、ゼロベース予算も成り行き管理に終わります。
 このため従来からの、経費予算では必要やむを得ない経費の管理不能費と、それ以外の管理可能費に区分し、少なくとも管理可能費の方は「成り行き管理に終わらせない」といった程度に落ち着いたものです。

● その時々に達成手段も変わる
 また予算のゼロベースどころか、さらに会社のすべてを「ゼロから作り直そう」とするリエンジニアリングの考え方も注目された時期もありました。1990年に提唱されたこの考え方が再び注目されたり、忘れられたりするのは、どうやらリストラだけで乗り切れない不況対策に打つ手がないからのようにみえます。
 提唱者マイケル・ハマーさんは「従来のビジネス・プロセスをまず一度壊して、新しい仕事の流れをゼロから設計し直し、利益がでる体質にすること」といい、その概念が達成手段であるコンピュータシステムの基本理念となりました。
 しかし家元の米国では、フォードやクライスラーが成功したものの、導入企業の半分以上が失敗だともいわれ、結局システムの「売り込み手段」として一頃のブームが忘れられてしまいます。
 このように企業の『適正利益の確保』には、いろいろの関係者が達成手段を提唱しています。それぞれの主張点と方法論は、その時々の状況に乗って浮き沈みしながらブラッシュアップされる理論もあれば、忘れられる方法論もあるわけです。
 ですから、何か一つに限定して「経営資源を投入し尽くす」危なさは拭えませんが、経営情報としては捉えておくべきだろうと思います。

6-8 経営計画と原価企画のリンク

● 仕方ないではすまされない
 さて、論点が少し暴走気味になりましたが、前項のはじめに述べた原価企画が画期的だと思える理由の第二は、原価を企画するときの尺度に許容原価を使い、市場に『適合した販売価格』を形成しようとする姿勢です。つまり原価企画には、結果を送りだすプロダクトアウトではなく、結果を導くマーケットインの思想があるのです。
 もっとも、許容原価という考え方用語自体は、管理会計の分野に古くからありました。つまり【売価―原価=利益】ではなく【販売価格―目標利益=許容原価】だというわけです。要するに利益というものは、生産販売活動の『結果ではなく』はじめから『目標として設定』し、それを創り出すために「どんな生産・販売活動をするか」を考え、工夫したうえで『企画した原価』を実現していくのです。
 これは自社がコントロール『可能な幅』の小さい市場の要求に対し、『幅が大きくとれる』はずのコストの方を合わせていくという考え方です。
 また第三の素晴らしいところは、許容原価を割り付けるという、企画した原価の『達成方法』が提示されていることです。
 原価企画手法での『割り付け方』に関しては、図表6-13に示すとおりです。が、日常的な経営活動の中では、とかく「必要経費はやむを得ない」といった意識と同様に、現状のコスト水準は目一杯努力した結果だから「仕方ないもの」とされてしまいがちなのです。
 目標利益を獲得するためには、予定した売上高を「きちんと上げる」ことを前提に、その中で許される範囲の原価をギリギリのところで決めます。このような考え方の典型が予算管理です。

● 許容原価を根拠として
 原価企画手法の概念で感心した第四の点は、許容原価が経営計画を根拠に算出され、それが個別の『製品』なり『サービス創生』部分または組織ラインの『各部門』に割り付けられる点です。
 ただ直接コストは、組織上のセクションに割り付けたからといって、それで経営計画ができたわけではありません。ですから具体的には、図表6-13に示すように、部品別の許容原価までブレークダウンさせて、それで全社的な「経営計画を組む」ことができるのか検証することです。

 つまり原価企画は、割り付けられた許容原価を、再度積み上げて経営計画に収斂させているのです。実行された結果は許容原価と照合し、評価されることによって、経営計画のP-D-C-Aサイクルが回ります。
 企業全体に許容されるコストは、全体の各セッションに割り付けられることによって、それぞれに計画の具体的な目標を与えます。ですから原価企画には、トップダウン形式で企画される総合性があるのです。
 その許容原価は、予定売上高と目標利益から導かれます。経営計画は利益計画ですから、個別に企画された原価が、経営計画に包含されるのは当然です。ですから原価企画の考え方のポイントは、むしろトップダウンで『割り付ける』という達成方法にあるわけです。

● コントロールし易いほうで勝負
 一般的に経営計画での割り付けは、売上高予算の『編成時』にも行われます。が、数字を配分しただけでは、個別セクションの『具体的な目標』になりません。したがって全社の予定売上高は、トップダウンによって具体的に『営業所別』とか『地域別』『市場特性別』『販売員個人別』へと割り付けられます。
 しかし割り付けられた予定売上は、コントロールの「効かない社外の市場」を相手にして達成しなければなりません。それに対して原価の割り付けは、社内で自社の完成品を対象とし、それをセクション別に達成するのですから、売上高よりも余程コントロールを「効かせやすい」はずです。
 したがって、同じ予算の割り付けでも『売上』と『原価』や『経費』では、達成の可能性が違います。これはあたかも、野球評論家がいうように「打撃は水ものだから、投手力でがっちりと守らなくては勝てません」というのと、同じ事情でしょう。
 経営計画の目標利益を確実に確保するためには、がっちりと守れる許容原価が、それぞれの投手に割り付けられることになるのです。さらにそれぞれの投手は、守る方法を「直球にこれくらい。カーブはどのように。スライダーの切れが少し悪いから、フォークを」と配球を考えるような調子で、それぞれの機能部分に割り付けます。
 もちろん結果は、割り付け通りにもっていくため、野球なら練習に練習を、コストダウンならVEにVEを重ねなければなりません。これが個別原価企画の具体的な活動になるわけです。

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