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成功する企業はベストコストをつくり込む(44)

7.ベストコストづくりを考える

7-2 目標コストの設定と新製品企画

● プロダクトアウトからマーケットインへ
 ベストコストの追求手順としては、これから開発する新製品が「いくらなら買ってもらえるか」と、マーケットイン的に考えるのが順当です。が、その王道に逆行するようですが、開発企画の段階では「いくらで売れなければならないか」という『造り手』や『売り手』側に立って、プロダクトアウト的な視点から始めるべきです。なぜなら開発に取り掛かる前では、品質形成に必要なコストの『計数的な根拠』が掴めないからです。
 ですから最初は、自社内で『把握しうる数値』を根拠にした『仮設の販売価格』を設定してみます。その仮設売価と、開発対象と類似品の市場実勢価格とを照合しながら、狙うべき目標コストの水準を探っていくことになります。つまりプロダクトアウトから始まっても、最終的な販売段階ではマーケットインに帰すというわけです。

● マークアップ価格と実勢価格
 ベストコスト追及の『計数根拠』は、マークアップ係数を使って設定する『計算上の販売価格』から逆算して導くのが便利でしょう。
 マークアップとは『仕入れ値』や『製造原価』から導く『粗利益』や『限界利益』を根拠に、いわゆるコストプラス法によって販売価格を決める『売価設定』もしくは、流通業などの『値入れ』のことを指しています。    
     
 図表7-3(1)式の限界利益率粗利益率)が求められるところまでは、常識の範囲です。ここからは(2)式のようなマークアップ係数が必然的に導かれます。
 過去の実績から、予め『限界利益率』の社内標準を設定しておくと、直接コストの『大雑把な把握』によって(3)式のとおり、開発製品を「いくらで売れなければならないか」が計算できます。
 ここまでの手順は、将にプロダクトアウト的な売り手側の独善にすぎません。ですからこの『計算売価』は、市場の『実勢価格』と比べてみることによって、果たして「いくらなら買ってもらえるか」というマーケットイン的な検証に近付けていくのです。
 ちろん【計算売価<実勢価格】なら一先ず合格として次のステップに進めます。もしも【計算売価>実勢価格】であるようだと、程度によっては新製品企画自体を「最初から練り直す」必要性さえ起ります。が、これは仮の数字ですから、この段階で一喜一憂して大切な開発シーズを反故にする必要はなく、次のステップこそ大切です。

● コストプラス法の利便性もある
 ところで図表7-3の参考欄に示した計算式は、ベストコスト追及から外れますが、実務的な利便性もありますので、ちょっと横道にそれます。
 ここで『実現利益幅』というのは(1)式の『限界利益』と同義ではありますが、最終的に「これくらいの利幅」がなければ、経営が成り立たないという実務的な『必要利益』と解釈します。
 さらに商売する前から、二重価格を連想させる『値引き高』を見込んだり、歩留まりの悪さを認める『減耗高』を計算式に入れておいたりするのは、ベストコストどころかベターコスト追及のうえでも問題かも知れません。
 しかし商売の現場では、売れ残り損を最少にする『値引き販売』や、生鮮商品の『品痛み』などが現実にあるわけです。ですから初めの値入のときは『値引き高』と『減耗高』を分母・分子の両辺に入れておかないと、限界利益(粗利益)確保のための計算にならないということです。
 現実に流通業の店頭などでは、多忙を極めています。予め一定の『値引き高』と『減耗高』を見込んだ係数を立てておけば、仕入れ値から暗算か、少なくとも電卓がありさえすれば「売値が決められる」利便性があるというわけです。が、ベストコストの追求がこんな便法を使ってはいけません。

● 仮計算売価から許容されるコストを
 さて新商品の企画段階では、目指す品質レベルに見合った『希望売価』を想定して『開発への意思決定』がされています。つまり「これくらいなら」この企画内容は「市場実勢価格に対抗していける」という確信があったからこそ、よし「これをやろう」となったはずです。
 品質レベルに見合った『予定販売価格』は『社内標準』を根拠としたマークアップ係数をもって計算されました。その結果、企画段階の『希望売価』相当の『予定価格』が確認できたら、ベストコスト追求のために、図表7-3の(4)式による『目標コストの算出』に移ります。
 およそ新製品開発の目的は『現状をよくする』ため、もしくは『苦境を脱する』『将来を開く』ためなど、その企業によってまちまちです。ですがマークアップ係数を構成する『限界利益』の水準は「悠々の黒字経営」もあれば、そのままでは「赤字経営を余儀なくされる」おそれもあるわけです。
 もちろんベストコストは、将来の経営に「福をもたらす」のが目的です。ですからプロダクトアウト的現状満足はありえず、仮に現状が「恵まれた経営数値」であても、追及し続けなければなりません。
 したがってここでは、自社の経営にとって最低限必要な『限界利益』確保のために許される『直接原価』はどれほどのレベルに抑えるかを確認しなければなりません。つまり図表7-3の(3)式で得た『予定売価』を前提とすれば、マーケットイン的には図表7-3の(4)式で、この開発製品の『目標コスト』を見積っていくのです。

7-3 構想づくりは見積りづくり

● コストを創造するために
 さて、いよいよベストコストをめざすために『コストを創造』していく、いわゆるコストデザインの本務です。そのはじまりは、コスト構想を『設計する』ことです。
 『品質の設計』は、特定の『生産手段』と『方法』を用いて『生産対象』を加工することによって実を結びます。それに対しベストコストは、設計業務の努力だけでは実現しません。
 ですからここでは、全生産プロセスを通じて発生するコスト、つまり『直接原価』も『間接原価配布率』も含め、すべてのコストをどのようにして最低水準に「追い込んでいくか」という課題が主眼となります。
 コスト構想の設計とは「目標コストを達成する」ため目前の生産『対象』にどんな『主体』が、生産『手段』『方法』を用いて『何時ごろ』『どれくらいの量』のモノづくりをするかといった、総合的な構想を組み立てることです。
 つまりコストは、新商品の品質形成に「どんな設備や工数」を使い「どんなやり方」で「どんな部品材料や商品構成要素」を加工するかの構想を実生産の前に『練っておく』のです。
 要するに、品質コストは同時に考えるという、至極当たり前のことをいうのです。なぜならば『開発業務』に入ってしまうと、とかく『開発設計者』は品質形成に夢中になって「良いものを創る」ことだけに囚われてしまうからなのです。しかも『良いもの』の意義も定義もわきまえないままにです。

● ラフな概算見積であっても必要
 たしかに新製品の基本設計段階では、まだ確定しない品質の部分が多くあるでしょう。それと同様に、コスト構想だけであっても、まだ容易に固まらない部分的なコスト形成の要素があるはずです。したがってこの段階では、まだ「どんな材質を使う」か「どこの部品を採用」して性能を満足させるか分からないでしょうが、それでもいいのです。
 特に従来『手掛けていない新商品』開発の場合、当然ながら分からない部分が多くあります。が、不確定な部分があっても、直接コストの見積りだけは立てなければなりません。なぜならコスト構想の立案では、概算見積りのラフさ加減よりも、大きな部分の見落としによって、見積りの『確度を下げる』ことのほうが困るのです。
 その見落しを避けるために、コスト要素の積み上げは、商品を構成する機能部分別に行います。この部分別見積は、コストデザインが進展する後の段階で、別の役割を果たします。

● 紙に書き出せるように
 ここで練り上げたコスト構想は、設計者の『頭の中』に留めておかず、必ず『紙に書いて』整理することです。もちろん当節なら、パソコンに書式をつくっておき、みんなでレビューするときはプリントアウトできるようになっていれば上出来です。
 コスト構想は、機能部分別に立てるべきですから、第5章のコストテーブルのところの図表5-10、図表5-11、図表5-12(13.07.24掲載)で説明した、ステラクチャ型部材表のスタイルで整理します。このほうが、手数はかかるようですが『見落とし』がないからです。
 一例を示すと、あらかじめ図表7-4のような書式を作っておきます。まだ構想段階なので『小品名』が決まっていなかったり『規格欄』が明記できなかったりするでしょう。ですから空欄にするか、後で埋められるように?マークでも入れておくといいのです。
     
 紙に描いたコスト構想は、新商品開発が終了したとき、原価見積書から『積み上げて』きた過程が、そのまま製品化したときの『製造資料』に使えます。『品質設計用』と『コスト設計用』のドキュメントは、開発業務終了後に別途つくられる必要はありません。

● コストデザインの手掛かりに
 原料・部品・材料などの『生産対象』と、工数や加工外注などの『生産主体』は、コストを形成する二大要素ですから、その積み上げがコスト構想の全体像に影響します。また『生産手段』や『生産方法』が、従来と変わるのであれば、予めそれなりの手当てが必要です。
 たとえば新製品を生産するために必要な、大型設備の新規導入を構想する場合は、調達金額・期間、試運転・熟練などによって『生産移行時』のリスクが大きくなるので、取得のために単独の検討を要します。
 さらに品質コストがついてくるのですから、本来は品質とコストの両者が『同時に設計』されているはずです。つまり品質設計の『図面』や『仕様書』などと同様に、コストデザインによって紙に書かれた『製造資料』などのコスト・ドキュメントが形成されるでしょう。
 原価構想の段階では『荒っぽい骨組み』に過ぎなかったコスト要素は、開発プロセスが進められるに従って『肉付け』されていきます。個々のコスト要素が、具体的になって見積りができあがっていく過程は、モノづくりのための製造資料、データ集などのドキュメント類を整備していく過程と全く同じです。
 また、このドキュメントは単に『記録を残す』だけでなく、コストデザイン過程で『用途別コストテーブル』にも使えます。つまり目の前に、新商品の現物を置くことができないコスト構想の段階は、紙に書かれたドキュメントが、開発過程のVAに有力な手掛かりを与える道具として使えるというわけです。

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ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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