中小企業の経営者の方とお話をしていて、人材育成の基本的なこと(動機づけ)について誤解されている方がかなり多いことに気がつきます。最近では、新聞記事を読んでも誤った内容が散見されます。今回は人材育成のための動機づけ論について説明します。
動機づけ理論で有名なものはマズローの5大欲求理論(1)とハーズバーグの2要因論(2)説の二つがあります。他の欲求理論もありますが大まかに言うと二つの理論で大体説明ができます。
マズローの理論を具体的に例えてみますと下記のようになると思います。
生理的欲求・・最低賃金(給料が欲しい)
安全欲求・・社会保険(安全な暮し)
社会的欲求・・クラブ活動(群れをなしたい)
承認欲求・・地位・名誉(出世したい)
自己実現・・自己啓発(社会に貢献したい)
上から3番目までは低次欲求、下の二つは高次欲求と分けて考えられています。最近では6番目の欲求で「自己超越の欲求」と言われていますが、字数の関係上説明を省きます。
現在では、ハーズバーグの2要因論が動機づけ理論の主流と考えられています。アカデミックの人達には怒られるかもしれませんが、ざっくりとした言い方をすると、マズローの理論の低次欲求が衛生要因と考え、高次の欲求が動機づけ要因と考えることができます。
中小企業の経営者の方に講演会でお会いした際に直接ヒアリングをさせて貰い過去のご自分の失敗例を伺ったことがあります。
日本で成功している飲食店チェーンを東南アジアに出店する際に、日本の優秀な店長を連れていく際に日本のほぼ倍の給料を出したそうです。しかし、翌月には、仕事量が大変なのでもっと欲しいと言われたと話していました。結局、東南アジアのお店は上手くいかずに撤退したそうです。要するに衛生要因を充実させても、要求がどんどんエスカレートしていくのです。モチベーション理論の失敗談として私が良く紹介しているものです。
自らが成果を上げようとしている時に、人は意思決定が必要な状況に遭遇すると上司から権限移譲をされている時のほうが良い判断をできるそうです。お金を多く貰っている時ではありません。最近、モチベーション理論の最も基本的なことを知らない企業経営者が増えてきているように思います。企業経営を成功させるポイントはモチベーションをいかに高めるかにつきるといえます。
人材育成で失敗しないためのハウツーを端的に言うと、人事考課システムの構築と能力評価システムの構築につきます。能力評価と給与査定は別物であると考えることが重要なのです。これを間違えると人件費だけが肥大化して企業の業績が伸びていかない現象に陥ります。
透明性のある基準を基に従業員の能力評価を公平におこなうことが、人材を育成するためには重要なことです。それを踏まえて人事考課をおこなっていけば会社の業績は向上していきます。
今回お伝えすることは、従業員のやる気を継続させる方法として「具体的な数字」をあげて目標を決めてあげる(自分で決めさせる)ことです。そして、経営者は従業員に数か月後の自分をイメージさせることが必要なのです。
まずは、従業員と対話をしてみてください。答えをその中にみつけられるはずです。
(1)出所:中野明[2016]『マズロー心理学入門』星雲社
(2)出所:ハーバードビジネスレビュー編集部[2009]『動機づける力』ダイヤモンド社