ものづくり事業部

第37回 「もの補助」から見る「印刷業」

(1)ものづくり補助金

この時期、気になるのは「ものづくり補助金」です。今年も、平成30年度補正予算で、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」が公募され、公募の第二次締切は5月8日です。今回も多くの企業が応募し、採択・不採択の結果次第では企業の今後に大きなインパクトがあります。
「もの補助」は平成24年度予算から始まりましたが、平成24年度・平成25年度は各3回の公募、平成26年度・平成27年度は各2回の公募、平成28年度は1回の公募、昨年平成29年度は2回の公募でした。これまで13回の公募があり、応募総数は157,172件、採択数は64,175件、採択率は40.8%でした。

直近の平成29年度補正「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金」(2次公募)を調べてみました。結果は、応募数6,355件、採択数2,471件で、採択率は38.9%でした。私も、支援先である「印刷業」が応募する際にお手伝いをしますので、同業の「印刷業」の動向が気になります。そこで、中小企業庁より発表された「採択案件一覧」で「事業計画名」を「印刷」で検索してみました。
検索結果は94件がヒットしました。(その後、会社名からホームページを調べ、94社すべて「印刷・同関連業」であることを確認しました。)採択者数2,471件中の94件、シェアは3.8%でした。
「県別」では、北海道が6件、埼玉が8件、東京が13件、愛知6件、大阪16件で、その他の件は1件または2件で、西日本の県は0件が多くみられました。(印刷業が都市型産業であることを再認識しました。)
の後、「採択案件一覧」でヒットした94件の「事業計画名」を分析し、(但し、「事業計画名」からのみ判断したものです。また、判断根拠は印刷会社に勤務していた自身の経験による独断なので、その真偽は保証の限りではありません。)以下を調べてみました。
1)事業計画から見える「テーマ」

図2
2)事業計画から見える「印刷方式・工程」
・<印刷方式>デジタル印刷35%、オフセット印刷30%、凸版6%、凹版2%、その他27%
・<工程>印刷工程48%、営業25%、加工16%、製版11%
3)事業計画から見える導入した「設備」
・印刷機18件、検査機8件、システム7件、製版機4件、校正機・断裁機・カットミシン・折圧機・貼付機・ラベル製造機・サーバー各1件(合計48件)、(その他46件は「事業計画名」からは読み取れず。)

「採択案件一覧」の分析から見えてきた「印刷業」をまとめると、
1)立地的には、ヒトや情報が集まる「都市型産業」であること、
2)テーマや課題は、「生産性向上」「サービス向上」「高品質」が上位3つを占めていること、
3)印刷方式では、デジタル印刷・オフセット印刷で65%と2/3を占めていること、
4)工程では、「印刷工程」が48%と半分を占めていること、
5)導入した設備は、「印刷機」が18件と最多であったこと、でした。
サプライズはありませんが、現在の「印刷業」の置かれている状況を理解するのには妥当な結果のように思われす。

(2)印刷業の今後
印刷産業の市場規模は、2010年は8兆円規模であったが、2020年には7兆4千億円に縮小すると予測されています。(市場規模は、出荷額にソフトサービス・精密電子部品・産業資材等、他の製品分類の事業分野を加算して集計)<出所:日本印刷産業連合>

2004年に調査開始した「印刷統計」の製品別シェアを見ると、この11年間で大きく減少したのは「出版印刷」で、出版不況の長期化により30.0%から18.7%に減った。次に減少したのが「証券印刷」で、証券印刷物の電子化により2.0%から1.5%に減った。逆に大きくシェアを伸ばしたのが「包装印刷」で、包装材の多様化により13.0%から18.5%に伸びた。また、着実に増加したのが「建装材印刷」で、建装材の多様化により3.2%から4.3%に伸びた。クライアント産業の動向に敏感に反応する「商業印刷」の動向がそのまま印刷産業の動向になっています。<出所:日本印刷技術協会>

印刷関係者の多くは、印刷市場が現在の印刷業を続けていて、市場規模がプラスに転じるとは思っていません。経営者の多くは、業界全体が印刷市場に続く柱を作っていけるかが大きな課題と思っています。今後も顧客はペーパーレス化を進めていくため、印刷業界がとるべき方向は4つと言われています。
1)デジタル化(webマーケテイング・オンデマンド印刷)
2)高機能化(包材・建材・ガラス・産業資材)
3)ソリューション化(顧客業務をアウトソーシングする分野への参入)
4)さらにはビジネスモデルの進化(デジタル+ITに強い企業との連携)
この4つのどれも実現できない印刷会社は、残念ながら淘汰の対象になると言われています。

キーワードは2つと言われています。
1)ワンストップソリューション(前後工程の内製化など)
「ものづくり補助金」で設備を導入して「生産性向上」を目指すのも悪くはない。
2)ワンソースマルチユース(印刷業務から派生する周辺業務にリソース「情報」の活用)
他社との差別化は「サービス向上」で差をつけたい。知恵を絞りたいものです。

第36回 企業経営の実務に迫る

1.人・もの・金づかいとみつけたり

企業経営は人々や社会に有益な『物資やサービス』をつくりだし、永続的な利益を得ることが最終目的になるはずです。ですから持てる経営資源をフル活用して企業を永続させることこそ経営実務になるわけです。ここでいう経営資源とは、いわゆる『人・もの・金』の基本3要素を指しているのです。
05経営資源の要素

ただ、こうして要素別の相互関係を整理してみると、事業は『人がすすめる』のですから、当然ながら人的資源が最も重要な位置づけになることが分かります。つまり企業内の人々が有する情報技術を以て『ものづくり』し、市場を開拓して築き上げた実績のもとに、企業の信用が構築されていくのです。

企業は『生きもの』ですから、お金は企業内を循環する血液とでもいうべき経営資源であって、資本や融資、債権、債務のような現金以外の血液までもが、売上金回収を主要因として順調に回っていなければ、企業は死滅します。

ですから経営者は、常に流動している『財的資源』を使って、好立地のもとに工場や商店などの『経営基盤』に設備投資し、原材料などの『ものを調達』します。『人的資源』は、この基盤のもとで製品や商品をつくって販売し、売上という新しい血液を注入して循環させてゆくのです。まさに企業経営とは『経営資源づかい』の実務だというわけです。

2.使い方の巧拙が死命を制す

あの難しい筆記試験や実務補修を突破して、やっと大臣登録ができたころの話です。ある経営者が「中小企業診断士は嫌いだ」というのです。経営者自身も自覚している経営上の不具合を、診断士は「あれが悪いこれが不備だ」と「傷口に塩を擦り込まれる」ようにあげつらうだけではないかというわけです。そんな嫌がらせみたいな指摘が「企業診断だ」と『勘違いしている輩』がいたのかもしれません。

たしかに企業が経営資源を使いこなしていく過程で、いろいろな『問題点』や克服すべき『課題』が生じるものです。その実態は経営の『執行責任』をもち、仕事をしたうえでの『結果責任』も負わなければならない当事者として、もちろん経営者ご本人は感じているところです。これらの『問題点』は「岡目八目」の例えのとおり、診断士が面倒な経営理論を振り回さなくても、経営の実務経験者なら誰でも気付くものです。

要は、如何にして「問題点を解決」するかです。ある時点で『人使い』に問題点があれば必然的に採用、教育、処遇、定着、組織化などの課題が生じます。同様に『金使い』では売掛金滞留、回転率不足とか経費節減などです。また『もの使い』では新製品開発、コストダウン、工程改善設備老朽化、過剰在庫などの課題もでてきます。

そしてこの『資源使いの巧拙』は、確実に経営効率に影響してくるのですから、如何に上手く『資源を使いこなすか』が経営実務になるわけです。しかし企業単独では、容易に解決できない経営課題もいっぱいあるはずです。でも現業経営者の方々が直面する問題点や諸課題は、われわれ『ものづくり事業部』に任せてもらえば直ぐに「解決できると」言えば「実務を知らないコンサルタントだ」と嘲笑されること間違いないでしょう。

経営支援が本分のわが『ものづくり事業部』は、いろいろな産業分野で各種の職業経験を積んできた中小企業診断士、弁理士、税理士、行政書士などのメンバーで構成されています。また月例研究会などを通じてメンバー相互に情報交換を行って各自の英知を集め、問題点を明らかにし、解決策を立てていきます。

支援策の検討が『経営診断』を前提にすること自体は、依然として変わりないのです。ですから事例ごとに『経営実務に携わるトップ』に寄り添って、慎重なヒヤリングやバックデータによる基本診断を行います。具体的な提言は、基本診断を根拠に『現場に即した解決策』の創出になりますから、経営実務家に『恥じる支援策』を立てることはありません。このことこそ、経営実務に適した経営支援策であり、われわれメンバー各自の社会貢献の形式だと信じているからです。

第35回 投資優遇税制を活用しよう

国内経済活性化と国際競争力向上を目指して、政府は数々の投資優遇税制を設けています。特に平成31年政府予算では、これらの投資優遇税制が拡充強化されています。今が投資のチャンスでしょう。そこで今回4つの優遇制度概要を紹介します。
1.経営力向上計画認定による中小企業経営強化税制:
 原則取得前に経済産業局の認定を受ければ、機械装置等取得額の法人税控除または即時償却と固定資産税3年間半減を得ます。2019/3月までの時限制度でしたが、2021/3月まで延長されました。

2.先端設備等導入計画認定による生産性向上特別措置法適用:
先端設備等を取得前に法認定された市区町村の認定を受ければ、固定資産税が3年間ゼロとなります。改良設備であることを証明する「工業会証明書」が必要です。
設備投資関連税制(出典:中小企業庁HPのH31年予算説明資料より抜粋)

3.地域経済牽引事業計画認定による未来投資促進法課税特例:
工事着工・設備取得前に道府県知事および担当大臣の認定を受ければ、取得額の一定比率の法人税控除または特別償却ができます。機械装置等は4%控除/40%特別償却、建物は2%控除/20%特別償却できます。2,000万円以上の投資で、先進性のある高額付加価値地方投資が対象(大企業でも適用可)です。建物への投資優遇が特徴です。

4.企業立地優遇制度による不動産取得税補助:
各県は企業立地優遇制度として企業立地促進補助金制度を有しています。一般的には、高額・広面積の事業用不動産を取得・進出した場合に、不動産取得税相当額が補助金還付されます。県ごとに要件や制度に差があり、大企業でも適用可です。

4を除く1~3はいずれも投資実行前に事業計画を認定しておくことが、課税特例適用の要件です。また資産区分ごとおよび国税・地方税ごとに、どの制度のメリットが大きいかは異なってきます。よって複数の認定を取得しておいて、税申告時点で最もメリットのある制度を選択適用するのが賢い節税となります。なお適用には各種要件がございますので、担当官庁またはさいたま総研にご相談下さい。

第34回 ものづくりは人づくり Part2

今回は働き方改革と人材育成について述べたいと思います。働き方の中で問題視されるものに残業があります。その残業時間を考える前に人の集中力について考えてみたいと思います。    

人間が集中できる時間は諸説ありますが、15分間から45分間とも言われています。デスクワークにおいても同様なことが言えると思います。また、人が作業をする時間は起床後13時間[1] までが限界と言われています。つまり、朝6時に起きた人ならば夕方7時が限界になると言うことです。それ以降の時間は、「酒気帯び運転」と同じレベルの脳の状態しか得られないと言われています。15時間を超えると「酔っ払い運転」と同じレベルの脳の状態になるのです。つまり、残業をさせるという行為は、高い残業代を支払って酔っ払いの部下に仕事をさせているのと同じ事なのです。

この学術的見解から言えば、「部下に一か月で20時間以上残業をさせる人間は管理能力が著しく低い」と言わざるを得ません。上司が部下に仕事として行うことで一番大切なことは、仕事のタイムプランをたて「今やるべき事」と「後に回す事」を分けることを教えることで、やらなくてもよい事を部下にさせていないかを常に見直しをすることです。言い換えれば、上司の仕事で一番大切なことは、仕事の優先順位を部下に教えることなのです。残業をさせないで仕事を終了させることがいかに会社にとって有益なものかを理解する必要があります。

人材育成をする時に言えることは、教育を受ける立場にある人間(トレーニー)が教育をする立場の人間(トレーナー)の話を集中して聞いているかと言うことです。話す内容がトレーニーに正しく伝わっていることを計測するには、トレーナーがトレーニーにその話の内容を要約して貰うとよくわかります。自分では客観的に伝えたと思っていても、相手には自分が意図したように伝わっていないことがよくあります。コミュニケーションを取るタイミング、声のトーンやスピードなどで自分が気を付けることは多岐に渡っています。相手の体調も気にしなくてはいけません。伝達する時間などは極力午前中が良いと言われています。これらのことは集中力の話からも理解できると思います。そしてトレーニーが行ったことをトレーナーが的確に評価し、フィードバックに心がければ業務の生産性は飛躍的に向上していきます。人材育成のキーワードは「集中力」と「評価」です。今後、OJTを行う時には注意してみてください。

繰り返し述べますが、国会で審議されていた「残業時間を一カ月で30時間以内にする」などというのは、医学的にみても愚かな行為でしかないと言えます。残業自体が無駄な行為の典型だからです。人は「資源」であり「何物にも代え難い資産」でもあります。資源を有効に活用できない企業は、市場に生き残っていくことは難しいと考えるべきなのです。その為には、「工夫する」ことができる人を育成していくことを考えてください。岐阜県に残業禁止が会社の方針になっている従業員800名の中小企業があります。20年間も右肩上がりの数字を残しています。この会社は残業が禁止なために従業員同士がどうすれば時間内に仕事を終えられるかを絶えず工夫して考えていると本[2] に書かれていました。うちの会社には、到底できないことだからとあきらめる前に「やってみよう」と考えてみてはいかがでしょうか?今すぐに行動できるのが中小企業の利点でもあります。大企業には決して真似できないことです。まずはやってみましょう。

1 小室淑惠[2016]『労働時間革命』毎日新聞出版
2 山田昭男[2011]『日本一社員がしあわせな会社のヘンなきまり』ぱる出版

 

 

第33回 マーケットイン型の商品開発における成功要因

ものづくり企業では「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という考え方のもと、商品開発を進めていくことがあります。聞いたことがあるという方も多いかと思いますが、改めてご説明しますと、一般的に「マーケットイン」というのは、顧客や市場が欲しいと思うものや求められているものを開発しようとする考え方で、「プロダクトアウト」というのは、自社の持つ技術や設備など提供する側の発想から商品を開発しようする考え方と言えます。

一時は「顧客ニーズに合わせたものづくり」として、徹底したマーケットイン型の商品開発が支持されたこともありましたが、やはり顧客の声だけでは画期的なイノベーションは生まれず、プロダクトアウトの思考で開発することも重要だと再認識されています。この二つはどちらが良い悪いではなく、自社のコア技術や主力製品、自社と取り巻く環境やマーケットに合わせて、柔軟にその対応を変えていく必要があります。

私の知っている企業で、「マーケットイン型の商品開発」に取り組み、ヒット商品を開発した部署がありました。営業・マーケティング部門の徹底した調査・現場からの情報収集、それに対応する素材研究や設計に対応した開発部門、さらに外注に頼ることなく、自社のコア技術で製造できるラインを構築した製造部門。まさに三位一体の取り組みにより、メーカー側では検討もしなかった製品ができあがったのです。

しかし、この成功に至るにはさまざまな障壁がありました。顧客のニーズに対して、「こんなものが売れるのか」「作るのが難しい」「在庫が残ったらどうするんだ」など、部門間のコンフリクトが発生しました。これに対して、部署を牽引するマネージャーは3部門がうまく情報を共有することができるようリーダーシップを発揮し、各部門のモチベーション維持を図りながらプロジェクトを統率しました。

戸崎図表

 ヒット商品の開発において、いずれのアプローチにしても開発・製造・営業の各部門が一体となって取り組まなければ成功はありません。自社のコア技術を中心に部署のリーダーが各部門をマネジメントし、ひとつの目標に向かって互いの情報を共有しながら進めていくことは、マーケットイン型商品開発の成功要因の一つと言えるでしょう。

 

 

 

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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