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新商品コンセプト 第2章 商品企画 1~3

成功する企業には新商品開発がある

2.新商品コンセプトの樹立- 新商品の根っ子の部分をしっかりと -

2-1.商品フレームを組み上げる

〔フレームとしての商品コンセプト〕

● 新商品によせる熱い思い
 コンセプトは簡単に『理念』と訳されます。が、それだけではコンセプトの様態がわからないので、ここでは「当事者が理想に描く熱い思い」と解釈しておきましょう。
 新商品コンセプトは、新商品のあるべき姿を規定する経営者や設計者が、その開発にあたって心に描く『熱い思い』です。あるいは新商品への『思い入れ』、 または『考え方』の根底です。ですからコンセプトの樹立は、新商品開発の根っ子の部分をしっかりと形成することになります。

● 開発の前に骨格を立てる
 マーケティングでは、商品の差別化戦略が強調されます。自社商品は他社商品に対し「ここが違うんだ」という、基本的な考え方を打出すことによって他社商 品と「ここが違うんだ」と差をつけるのです。この基本的思考は、商品差別化の要素としてハード面やソフト面で新商品に盛り込まれます。
 自社が打ち出す新商品コンセプトは、市場においてライバル会社の商品コンセプトとぶつかり合って戦います。そこでもし、自社に「飛び抜けて売れる」商品が一つでもあるとすれば、ヒットするそのエレメント・要素を全商品に叩き込みたいところです。
 自社には、特に目立ったヒット商品がないようだとなおさら、新商品開発に取り掛かる前に、商品コンセプトを慎重に検討をしなければなりません。開発投資はそれからですから、売れる新商品の根っ子を築いておくのです。この手順は極めて重要です。
 新商品の根っ子とは、自社商品レパートリ全般に共通の商品フレームです。フレームというのは、船舶でいえば図表2-1のような『骨格』のことです。

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〔新商品企画のはじまり〕

 新商品企画の第一ステップは、企業の目指すべき事業分野を商品フレームの形式で設定することです。個別の新商品企画とは、このフレームに具体的な肉付けをすることです。商品フレームの上位概念は、図表2-2のようになっています。

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 このうち企業フレームは、度々設定し直すものではありませんが、世の中が進んでくれば時流に合わせて、企業存立の基本的な考え方までも改めていく必要があるものです。

● 事業領域のフレームが明確になっていれば、企業に所属する全員が組織をあげて認識できます。
 「どの方面にPRすればよいのか」社員が、よくわからないようだと、企業活動が非効率になります。指向性が明確でなければ、市場の方でも企業に対する認識が高まりません。

● さらにマーケティング・ターゲットに仕向けるべき、個別商品を規定する枠組みが商品フレームです。もちろん新商品企画の本題ですから、次回で詳しく説明します。

2-2.フレーム設定へのアプローチ

〔フレーム設定の方向性〕

● 横分業への展開
 製造業のリストラクチャリング(事業再編成)は『有望分野』へ向けて、自社の『事業領域』と『商品フレーム』を、徐々に変化させていく事業活動です。ですから、リストラを従業員首切りの代名詞に使うのは、とんでもないことです。
 それはともかく、市場で販売される多くの商品やサービスは、いくつかの企業が生産・販売プロセスの『上の流れ』、『下の流れ』に結びついて「横方向に分業」してできます。したがってリストラは、図表2-3の上下に指向するわけです。

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● 縦分業としての
 もうひとつは、業種で示される経済社会の「縦分業の垣根」を越えて左・右に、立体図で示せば前と後に拡張する方向です。この場合、自社商品の周辺から広 がっていけば『進出リスク』が小さくなります。ですから商品フレームは、周辺分野に設定していく事例が多くみられるわけです。

● 狙いどころをみんなで認識
 さて、フレームの方向が設定されれば、これから開発しようとする新商品のコンセプトは、特定な方向付けをします。
 何故ならば、現在は一人の考え方や力量によって、売れる新商品を開発するのが難しくなっていて、みんなが分業し協力しながら、やっていくようになってい るからです。また技術分野の構造も細分化され、それらが複合化されて、高度化社会に対応するような市場の仕組みになっています。
 このように複雑な状況下で、企業の各組織構成員が各々、別々な考えをもって新商品開発に臨んだのでは、組織全体の力を結集した強力な商品の開発は難しいのです。
 もちろん「もうかるものなら何でもやろう」というフレームはありません。結局、何もやれないからです。
 商品全般のフレームで方向性が決まれば、それに沿った新商品コンセプトを具体的に企画します。これから開発しようとする、新商品「個々の狙いどころ」の骨組みをはっきりさせるのです。
 新商品フレームは開発業務に先立って、新商品の目指すべきところの総枠を概念的に描きます。

〔新商品開発の成功率を上げるため〕

● ある基本コンセプトの話
 大手繊維メーカーの『株式会社ユニチカ』で新事業開拓担当部門の方は、図表2-4のような概念図を示し、同社の新商品開発の『基本コンセプト』を説明し てくれたことがあります。もう随分と前の話になりますが、これは大変わかりやすかったのでここに流用させていただきます。

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 製造業でない企業でても全部がほぼ同じですが、新商品開発によって新事業開拓を果たします。ですからユニチカさんの話は、新商品フレームの設定に通じると思います。
 つまり繊維産業という『大地』からは、わずかながら有望分野へ迫り出している『半島』がみえます。この場合、より有望な市場に近付くため、その半島を徐々に迫り出していこうというアプローチなのです。

● まず身辺を見直す
 このように狙うべき商品領域は、身辺にある場合が意外に多いのです。したがってフレーム設定のアプローチは、まず「商品領域を再認識」することです。新 商品フレーム設定に必要な情報は身辺から求め始めるのですから、こういった接近方法はプロダクトアウトの考え方と違います。
 フレーム設定においては、自社の「技術シーズが何であるか」を知ることです。自社がこれまで培ってきた技術が、全く使えない新商品開発の分野では危険が増すばかりか新規開発は、ほぼ不可能とみるべきでしょう。
 技術には『積み重ねによる重み』というものがあります。どんなに陳腐化した技術のようであっても、それなりの意義がちゃんとあり、新技術だけでは新商品 にならないのです。要は、陳腐化したようにみえる技術を「どのように手直ししていくか」活用の方法だけが問題なのにすぎません。
 鉄鋼、造船などの重厚長大型産業は、本業の『支援技術』を活用して有望な新市場分野に指向します。程度の差こそあれ、中小企業にも現在もっている独自の技術があります。その技術をスタート点として、「商品フレームの設定」にアプローチしなければならないということです。

〔技術シーズと有望市場の認識〕

● 自社の技術を認識するとは
 新商品フレームの設定は「身辺を見直す」ことから始めるとすると、自社内にある技術シーズを自己分析する必要があります。これはいわば、社内『技術の棚卸し』です。
 通常の会計的な棚卸しが企業の「有形資産の在り高」を確認するのに対して、技術の棚卸し作業は「無形資産を調査」するのだと思えばいいでしょう。
 棚卸のやり方は会計上の棚卸しと同様に、図表2-5のような棚札を準備します。これを社員に記入して貰うのですが、目に見える「物品の数量確認」をする 棚卸しとは様子が違います。つまり技術の棚卸し作業は、仮に「ドキュメント類にまとまっている」としても、なかなか難しいものです。

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 しかし現場の技術者は、自身の技術を自ら「書きだす」ことにより、自己の技術を「改めて認識」することにもなります。
 技術進歩が早い現代において、自社の『技術的な力量』が認識できれば、社会的な技術分野と水準における自社の『位置づけ』も認識できます。的確な認識があけば、新商品開発で異分野の技術を必要とするとき、比較的早く対応できます。

● 将来展望は近視でも遠視でもダメ
 技術棚卸の結論は「わが社の『得意技術』はこれだな」と全員で確認することです。また棚卸しは、できれば年に一度のペースでやりたいものです。昨年の棚卸票と比較すれば、この一年間で「どんな技術的財産が増えた」か、自身の成長を振り返ることができます。
 どんな企業においても『市場』と『技術』は、いわば車の両輪ですから、自社の得意技術を通じて有望市場を想定することは、新商品フレームを設定するもうひとつの狙いです。
 技術の棚卸しは社内的な『現状確認』ですが、有望市場の認識は将来に向け『社外の情勢を展望』しなければなりません。
 どの企業にとっても事業機会は無限ですから、フレーム設定にはグローバル(広大)な見地が必要です。が、有望の半島に焦点を絞らないと、何も見えなくなります。
 また未来予測には、時間的ターム(期間の幅)が要素になるため、視点を3~5年先におく必要があります。目先があまりに短くても、長くなり過ぎても、やはり何も見えなくなります。
 ここでも、これから迫り出していくべき「わが社にとって有望な『市場分野』はこれだな」と全員で確認することです。

2-3.商品戦略を考える

〔マトリックス上の認識〕

● 市場適合のための共通認識
 いうまでもなく製品やサービスは、市場に適合した商品でなければなりません。自社の製品やサービスを有望市場に適合させるため、企業全体で共有できるコンセプトを組織のみんなで認識するわけです。
 共通認識を得るために、狙うべき『市場』と自社の『技術シーズ(技術の種)』をマトリックス(縦・横関係)に表わすツールがあると便利です。つまり有望 市場と自社の具体的なアイテム(商品名)が、図表2-6のような一覧表に整理されていると、みんなの理解が得やすくなるわけです。

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● 社内共通語で表わせばよい
 商品戦略で考えることは、自社の技術力をどの市場にぶつければ「有効に活かせるか」です。このためマトリックスの横軸は、あくまでも技術の名称であるべきでしょう。
 しかし一つの製品やサービスには、いろいろな技術が複合化されているはずです。したがって技術名で書けなければ、マトリックスは商品戦略を考えるための『道具』ですから、横軸を「商品名で表す」ことにします。
 また有望市場の区分や名称も、いろいろ考え過ぎるとこれが意外に難しいものです。が、とりあえずは社内の認識が得られればいいのですから『社内共通語』のようなもので漠然と表現しておいても、ここでは十分に通じるはずです。
 マトリックスの作り方は、ブレーンストーミングよろしく模造紙に縦軸・横軸のマップを描いておきます。そして現在の手持ち商品別に『売上高の大きさに比例した面積』のカードを作って、張り付けていきます。
 さらに『ライバル企業』の色違いカードを作り、このマップの中に重ねて張ると、相手の狙いどころもよくわかります。もちろん今なら『パソコンの画面』上に、マトリックスを描いておけば、検討過程で自由に変化させながら使えます。

〔セグメンテーション戦略の誤解〕

● 隙間市場狙いなんてとんでもない
 マーケティング戦略には、セグメンテーション(市場細分化)という考え方があります。これは細分化した特定市場に、「経営資源を集中」させようというわけで、前項の『市場・シーズのマップ』と同じような形式で説かれます。
 ただ、セグメンテーション戦略には『隙間市場狙い』のニュアンスもある点が気掛かりです。これは「よく探せば、大企業の知らない隙間市場があるはずだ」とする、とんでもない勘違いの狙いです。
 需要がなければ隙間でも広間でもなく、市場は形成されないのですから、大企業が入ってこないのは道理です。これを勘違いして「自分だけが見つけた市場だ」と、ほくそ笑むのは『愚の骨頂』というものです。

● ただ、隙間商品ならある
 しかし反面、技術面で徹底的に差別化し、大企業がとても入ってこられないような『隙間商品』とでもいうべき『商品ジャンル』は確実にあります。
 大企業が独自の、強大な情報収集力をもって掌握する市場の、特定分野において『採算面』や『特殊技術面』から、製造しえないのが隙間商品です。そんな隙 間を狙う商品戦略は、結局、大企業の「情報力を利用すること」になるのですから、セグメンテーション戦略の醍醐味を味わえるかもしれません。
 中小企業にとっては、最も危険にみえるこのような競争関係の状況下に、意外な『安全地帯』があるものです。ですから、ただひたすら「大企業が入ってこない」ことを願いながら、独自の隙間市場を狙うのとは、まったく正反対の考え方です。
 大規模市場の分野において、十分に技術的に差別化した商品を供給するセグメンテーション戦略は、隙間市場狙いとは当然がごとく違います。その概念は、図表2-7のとおりです。

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● 浮島模様を求めても無理
 通常の経営状態では、有望市場に向けて『主力商品』が立ち上がり、図表2-8上図のような『商品-市場分布図』になるのが現実的な姿でしょう。が、経営 効率の面からは、新商品を有望市場に集中させ、上右部分で『団子型に固まった』商品群を開発したいと望むかもしれません。
 しかし現実問題として、経営のベースになる商品がなくて、図表2-8下図のようなパターンを形成することはありません。つまり正規分布型の商品構成にお いて『富士山の裾野』に相当する部分の『基盤商品』がなくて、勢いのある新商品だけが有望市場に束になって売れる状況は、ありないということです。

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〔全社の統一認識〕

● 新商品フレームは理想の追求
 ただ商品フレームは、これから「目指すべきところ」新商品の「開発指針となるところ」を示すものですから現実にはなくても、この理想図のような狙いはあってもいいのです。
 先の図表2-6に示す現状のマトリックスチャートは、毎年つくらなければなりません。そして『市場と技術シーズの関連マップ』は、毎年つくったものを重ねてパラパラとめくります。
 するとあたかも動画を見るように、富士山の頂上が有望市場に向けて力強く伸びていくといったイメージが描けたとします。これはまさに商品フレームの設定が、うまくいった証拠になるのではないですか。
 また当然ながら、図表2-2にある企業内のフレームは、どれもトップの意志決定として明確に定めなければなりません。フレーム設定までのプロセスは、『ボトムアップ方式』でも『トップダウン方式』でもいいのです。
 しかし商品フレーム自体は、最終的に企業の重要な『決定事項』でなければなりません。トップの明確な意志が入っていなければ、企業の確固たる『商品コンセプト』にならないのです。

● ビジュアルな表現形態
 次に、ここで設定された商品フレームは、それ自体が「訴求力をもつ形態」に整えておかねばなりません。つまり誰が見ても認識できる商品フレームに表現するのです。
 例えばそのイメージを『短い言葉』にまとめて表現したり、『キャッチフレーズ』や『解説文』をつけたりして、できるだけビジュアルにまとめます
 ビジュアルな表現形態があると「市場に対して訴える」ときも、これが有効に使えます。商品フレームを社外に向けて「一般社会や市場に公表」することは、ブーメラン効果のように跳ね返って『社内の認識』をより高めるのに役立ちます。
 ビジュアルにまとめた表現の一例として、よく用いられるツリー形式によるイラストを図表2-9に示します。
 これは、北陸地方のある中堅企業の会社案内書にブロックチャートの形式で示されていた商品フレームを『ヒント』に書き換えたものです。このような『会社案内』があれば、お客さんだけでなく自社の社員さえ誰もが「わが社の商品構成」を誇らしく認識するというものです。

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事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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