中国政府の半ば強制的な普及政策、欧州自動車メーカのディーゼルからの方向転換、日本メーカの開発体制強化など、いまEV(Electric Vehicle:電気自動車)に注目が集まっています。排気ガスもなく静かで充電電気代も少ないと、多くの利点が喧伝されています。車そのものと利用シーンだけを見ればその通りですが、エネルギーとCO2排出を社会的な視点で見ると別の側面が見えてきます。
車を走らすにはエネルギーが必要です。EVは電気でガソリン車は化石燃料が走行エネルギーですが、どちらもエネルギーフローを経て我々の手元に届いています。このフローに着目してEVとガソリン車(ハイブリッド車)を比較してみます。(ガソリン車がガソリン車であり続けるとすると、エネルギー高効率化とCO2排出抑制の点でハイブリッド化は一つの有力解です。)
最新のEVには40kWhの蓄電池搭載で400kmと長い航続距離を誇るものがあります。一方ハイブリッド車は航続距離と言うよりも燃費が基準になり、その中でも優れた燃費を持つものは40.8km/Lを誇ります。エネルギーの単位は遙か昔に中学か高校で習ったJ(ジュール)です。1kWhは3.6MJ(メガジュール)で、ガソリン1Lは34.6MJのエネルギーがあります。これを元に1km当たりの走行エネルギーを比較すると、
EVは3.6MJ x 40 ÷ 400km=0.36 MJ/km ハイブリッド車は34.6MJ ÷ 40.8km =0.85 MJ/kmとなります。
EVは同じ距離を走るのにハイブリッド車の約40%のエネルギーですむ計算です。これだけ見ると素晴らしいエネルギー効率ですが、この効率は蓄電池と燃料タンクにエネルギーが充填されてからの効率で、充填されるまでのエネルギーの損失を計算に入れる必要があります。一般的に発電に投入されるエネルギーは40%程度が我々需要家の手元に届きます。EVを1km走らすために発電へ投入されるエネルギーは 0.36 ÷ 0.40=0.9 MJ となります。更に蓄電池では充電時に損失があります。EVの充電の効率を85%と見ると 0.9 ÷ 0.85=1.06MJとなります。
ハイブリッドが0.85 MJですので、数値が逆転します。原子力が殆ど停止している今、日本における発電はわずかな再生可能エネルギー(水力、風力、太陽光)を除くと殆どが化石燃料によるものです。EVもハイブリッドも、燃やすところが発電所かエンジンかで、化石燃料がエネルギー源である点に変わりがありません。EVは発送電による損失がありハイブリッド車にはそれがないため、EV本体の効率が良くても大元の投入エネルギーに対する効率はハイブリッド車に負けるということが起きるのです。
ところでCO2排出の視点ではどうでしょうか。環境省は電気事業者別のCO2排出係数というものを毎年発表しています。電気事業者毎の1kWhを作り出す時に排出するCO2の量です。電気事業者によって異なるのですが、概ね0.00055トン=0.55kg程度と考えられます。一方ガソリンのCO2排出量は2.32kg/Lとなっています。1km走るときのCO2排出量を計算すると
EVは 0.55kg/1kWh=0.55kg/10km=0.055kg/km、
充電損失を考慮して 0.055kg/km/0.85=0.065kg/km
ハイブリッド車は 2.32kg/L=2.32kg/40.8km=0.057kg/kmとなります。
CO2排出でもハイブリッド車が優れているという計算です。
以上エネルギー効率とCO2排出を見てきましたが、EVはこの点で決して優れてはいないのです。EVの普及を進めると社会全体のエネルギー消費とCO2排出が増えてしまうという、イメージとは逆のことが起き得るのです。中国では国策でEVを推進していますが、石炭火力が多いため大気汚染とCO2排出に拍車がかかるのではと危惧されます。
効率とCO2排出に優れた再生可能エネルギーに発電が置き換わっていけばEVの社会的な価値は向上します。それまでの間は優れた燃費のハイブリッド車を使うというのが社会的には良いのではと筆者は思っています。