中小企業白書でITの活用が取り上げられてから久しい。ITの活用というと、電子メールや自社ホームページの開設、インターネットバンキング、自社サイトでの製品販売などがイメージされます。ここでは中小製造企業とITの関連で、ものづくり支援補助金事業の事業類型にあるIoTとは一体どのようなものを想定しているのかを考えてみました。
中小企業庁は平成27年度ものづくり補助事業の対象として、「IoT等の技術を用いて生産性向上を図る設備投資等を支援。」と説明しています。例として「あらたに航空機部品を作ろうとする中小企業が、既存の職人的技能をデータ化するとともに、データを用いて製造できる装置を配置。」としています。
昔から普及しているNC装置や自動機械の導入でも「IoT等の技術」に含まれる幅広い内容で、国の施策としては、実に寛大な定義であると思えます。
施策の背景には、中小企業の人手不足と設備の老朽化がすすんでいることが考えられます。中小企業の設備年齢は、1993年のデータと比べて2倍近く老朽化しています。実際、設備投資額の推移をみると、円高や海外進出も加わりリーマン・ショック前の水準くらべかなり落ち込んでいます。リ-マン・ショックから7年近くたちますが、この間、休廃業・解散中小企業数は増加傾向が止まりません。
IoTと重なる用語に「インダストリー4.0」があります。蒸気、電気、電子に続くITを第4次産業革命に位置づけたドイツでの官民一体となったプロジェクトを指しています。ドイツでは、主要な企業がテストベッド(模擬工場)を設けて、生産コストを極小化するスマート工場の実現をめざしています。
IoTは、米国ではすでにあたりまえのシステムになっていて、ますます進化しています。例えば、GEのジャック・ウエルチに続くジェフ・イメルトは、IoTを、「インダストリアル・インターネット」と名付け、GEという巨艦をけん引しています。一例ですが、GEのエンジンを搭載した旅客機(ハードウエア)にはすべてセンサーが取り付けられ、世界中から刻々と集まるデータをソフトウエアで処理し、メンテナンスや航空会社向けの営業サービスに活かしています。これによって参入障壁を築くとともに売上の増大を図っています。
インダストリー4.0は、工場内のIoTと理解して間違いありません。ドイツは、極限までコストをカットすることで米国や日本に対抗できる製造業をめざしています。日本がものづくり技術で遅れているわけではないのですが、「見える化」、「5S」等による工場内の合理化だけでは、人件費の増加をカバーするだけの製造コストのカットは限界が見えてきています。日本の中小製造企業にも部分最適でない全体最適のものづくり情報武装化のムーブメントが来ることを願っています。
では、中小製造企業でIoTは合理化対策になるのでしょうか。まだ、明確な答えはないように思えます。
どういうシステムを導入すれば、どのくらい生産性が向上するのか、といった基本的なデータがありません。国内には、IoTを開発し、提供している企業はありますが、中小企業には、それを評価し、導入システムを組める人材はいません。そもそもFAメーカーが提供する標準的なIoTが中小企業にそのまま役立つとは思えません。中小製造企業は、あまりにも人手に依存した仕組みのなかでなりたっているからです。
大企業ではERPやFMSなどはすでに導入されています。IoTは考え方次第で導入にさほどの困難はないように思えます。
一方、中小製造企業がIoTで合理化を進める解は、発注先企業との連携システムや同じ中小企業同士の生産の同期化システムといった、システム結合による効率化に見出せるような気がします。内部のモノのインターネットは、標準システムのカスタマイズが欠かせません。外部とのモノのインターネットの構築のほうがシステムを構築するリスクが少ないと思われます。