ものづくり事業部

月別アーカイブ:2024年 2月

第76回 自分と会社を守るということ

私は約3年前、業務委託契約を締結していた企業から、業務委託料の未払被害に遭ったことがあります。当時、個人事業主として開業して3年目に入ったところでした。今回は、経験しないと分かりにくい訴訟の実態について可能な範囲で明らかにし、考察してみたいと思います。

※なお、このコラムはあくまでも訴訟経験者である私個人の見解であり、法律の専門家としての見地には立っていないことを申し添えておきます。

1.事件の経緯

2020年末:予定されていた約300万円の支払いが履行されず、相手方とも連絡を取れない状態となりました。私は弁護士と対応方針について相談をし、まず「内容証明郵便」を送ることにしました。この時は、1) 業務委託契約の即時解除の連絡  2) 債務の即時弁済の督促  3) 債務の即時弁済が履行されない場合には法的措置を検討する、という内容を記したものでした。

この内容証明郵便は受領はされたものの、相手方からの反応はありませんでした。

2021年6月:事件発覚から半年が経過しました。この間、若干の支払いがありましたが、相変わらず連絡がつかない状態が続いていました。そこで、2度目の内容証明郵便を送付し話し合いの場を持ち対応方法について協議したい旨を通知しました。この通知書には、私の想いを記した手紙も添えました。徒に紛争を激化させることを望んでいるわけではなく穏便に解決策を見出したいこと、これまでの機会提供への感謝などを綴ったものでした。

2021年7月:その後、引き続き何の連絡もなく、弁護士からのメールへの反応も皆無でしたので、訴訟に踏み切りました。弁護士の提案により、訴訟を提起後、相手方に和解を提案しました。結果として、分割払いで債務を弁済する、という和解案を作成・合意して裁判は終了しました。

2022年1月以降:8月まで計画通り支払いがなされたものの、9月以降は履行されず約100万円の債務が未回収となったまま現在に至ります。この時点でも相手方と連絡がつかず、これ以降の回収を諦めました。

2.考察

(1) 債権回収戦略

1)  ADR(裁判外紛争解決手続き):相手方と話し合いができる状態ならば、ADRが有効です。非公開で弁護士が調停を行います。3か月程度と比較的短期で決着できるうえに、費用がかかりません。ただし、相手方を交渉のテーブルにつかせることができない場合はこの方法は採用できません。

2) 内容証明郵便の送付:相手方と連絡がつかない場合には、まず内容証明郵便を送付し相手方の反応を見ることを推奨します。内容証明郵便は、「このような内容の書面をいつ、誰が誰に送りました」ということを証明するもので、内容証明郵便そのものには法的な効力はありません。しかし、法的措置が示唆され、かつ弁護士の名前で通達がなされるわけですから、一般的には、受け取った方は少なからず衝撃を受けると思います。驚いて支払う可能性があります。この内容証明郵便にも無反応だった場合には、いよいよ法的措置をとるかどうかの選択となります。法的措置をとるかどうかは当然、状況に応じて判断が分かれますが、コスト面は一つの基準になります(後述)。

3) 訴訟提起~和解:私の場合は、相手が自身の債務不履行を認めており、敗訴の可能性はほぼゼロに近かったのですが、勝訴した場合債務は一括弁済が基本となり、相手方が支払えなければそれで終わりです。実現可能な支払計画(分割払)を相手方と相談して、現実的な和解案を作成するほうが債権回収の可能性が高まるため、和解案を選択しました。

結果的には全額回収できませんでしたが、分割払にしたおかげで一部回収できたと感じます。

(2) コスト

債権が回収できない事態に至った場合、対応方法を検討する際に重要となるのがコスト面です。

1)  訴訟にかかる費用:訴訟を提起する場合は原告側が裁判費用を負担します。和解合意した時点で交渉

成功とみなし、成功報酬が発生します。原告の立場からすると、債権回収が実現するか不明な中、弁護士には成功報酬を支払わねばなりません。私の場合は弁護士費用(内容証明郵便、裁判に要した着手金+成功報酬)は約100万円でした。最終的に回収できた債権は約200万円、100万円は未回収です。

2) 強制執行:和解合意した場合(裁判に勝訴した場合も)で不履行が生じた際に、「強制執行」という

手続きを行う権利が得られます。ただ、この強制執行を行うためにも多額の費用がかかります。裁判所に担保金の供出を行い、加えて別途弁護士費用もかかります。また、差し押さえる財産がない場合(もしくは事前に察知されて財産を引き上げられた場合)には「差し押さえ失敗」となり担保金が1円も戻ってこない可能性があります。

このように、権利はあってもコスト的に行使するハードルが高く、現実には泣き寝入りせざるを得ないことがほとんどではないかと感じます。

3.総括
一般的には、「裁判に勝てばお金は取り戻せる」と思われているのではないでしょうか。私もそう信じていました。相互に合意している報酬を支払っていないのだから「自分は絶対的に正しく、相手が絶対的に間違っている」と思っていました。しかし、裁判で和解案に合意したとて、相手が支払わなければそれで終わりです。また、強制執行しても、財産がなければそれで終わりなのです。また、訴訟を提起するためにかかる膨大な労力とそれに伴う精神的負荷はかなりのものです。

こういったことを起こさないようにするために、また、被害を最小限にする対策として、弁護士保険や共済への加入、支払いサイトの短縮化、取引先の与信チェック等のリスクヘッジをしておくことが重要になります。そして、取引先との日常的なコミュニケーションの中で信頼関係を構築しておくことが何よりも大切だと感じます。

何か不具合が生じても、率直に話し合える関係を構築していきたいものです。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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