アベノミクスの旧三本の矢「成長戦略」が、政権発足以来長らく不発でした。実は昨年度、ものづくりに深く関係する成長戦略が体系化されました。「日本再興戦略2016」における「官民戦略プロジェクト10」の一番目「第四次産業革命」です(名前は前年度に初出)。
・経済対策を通じた『日本再興戦略2016』の実施の加速について
今回のコラムは「ものづくり再興」を志して診断士の資格を取った筆者が、三回シリーズ、1)第四次産業革命/Industry 4.0とは、2)日本のものづくりと第四次産業革命の現状、3)中小ものづくり企業の第四次産業革命への処方箋、の順でお届けします。中小企業様が「第四次産業革命」の流れに乗るための情報と取り組み方法をお示しします。
尚、旧三本の矢の「異次元金融緩和」は、副次的な円安で輸出増という大きな効果を上げましたが、本来目的の脱デフレには届きませんでした。「財政出動」は日本では常態化されて波及効果も少なくなり、国の借金増加と自助努力が削がれることが心配です。また2015年秋に発表された新三本の矢、「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」は、目標としては重要です。お金を余り使わない規制緩和等具体策の早期実行が待たれます。
一方、支援中の中小企業様へのヒヤリングでは、大企業の好業績が末端の中小企業に滴り落ちるトリクルダウンに関し、「売価は上がらず、実感がない」との意見が大半でした。市場縮小の中、国の支援策は世界でも類をみない充実度ですが、経営の自律化を阻む側面もあります。我々も「上げ善据え膳」は考えもので、人と組織の成長を目指して参る所存です。
1)第四次産業革命/Industry 4.0とは
第四次産業革命はドイツのIndustry 4.0(英語)に端を発し、起源は2008年リーマンショック後の工作機械メーカーのシステム化と言われています。メルケル首相が2011年に未来プロジェクトの高度技術戦略として取上げ、国内の自動車産業を始めとする、ものづくり高度化を産学官挙げて取組むIndustrie 4.0(独語)として体系化されました。
IoTの名称発祥の地、米国でも同様の動きは勿論有りました。GEのIndustrial Internetがその代表格ですが、こちらは民間主導です。
日本の第四次産業革命は、端緒は日本が得意なロボット革命イニシャティブでしたが、経産省の内容を見る限りドイツと余り変わらないとの印象ですので、旧三本の矢の成長戦略に当初から据えて欲しかったと思います。
中身に入る前に、念のために過去の産業革命をおさらいしておきましょう。
- 18世紀末の蒸気機関と製鉄産業がもたらした「第一次産業革命」
- 19世紀末の石油利用の化学新素材とガソリン自動車の「第二次産業革命」
- 20世紀後半の半導体の進歩によるIT革命とも呼ばれる「第三次産業革命」
- 今回のIoT、BigData、AI、Robotによる「第四次産業革命」
第四次産業革命でどの様な未来を描けるか見えない部分もありますので、過去の3つに比べ小振り感もありますが、「破壊的イノベーション」には違いありません。また、初期には産業革命の間隔は1世紀を要しましたが、今回は半世紀程度とスピードが速くなっています。
さて、本論に入ります。ものづくりは従来「サプライチェーン」に代表される、垂直的な連携による生産の仕組み高度化が行われて来ました。しかしIndustry 4.0ではIoT、AI、Robot等で下図に示す様な、主に水平的な連携を目指しています。またITとの区別から、CPS(Cyber Physical System)とも呼ばれています。
“Horizontal Value Network” Source: Industrie 4.0 Final report P22
では、日本でも古くから行われてきたFA(Factory Automation)との違いは何でしょうか?またFAで使われているM2M(Machine to Machine)とIoTは、何が違うのでしょうか?
FAとM2Mは社内ローカル接続のClosed Drainで、IoTはInternet環境のOpen Domainの違いと言われていますが、むしろシステムのClose/Openがポイントだと筆者は思います。
第四次産業革命では、IoTで収集したBig DataをAIで分析して、装置間の横連携、Robotを介しての装置間の縦連携、輸送手段による工場間の連携、更には最適在庫を目指した顧客との受注出荷連携等、なるべく人手を介しないで生産の最適化、高度化を行う全体システム、と位置付けて良いと思われます。このことから、企業間、業種間にまたがる、共通プラットフォームの構築が鍵となります。
尚、ドイツでは装置(もの)から発したのに対し、米国のIndustrial InternetはIT(Internet)が源であり、クラウド上にものづくりに必要な情報を集め、企業間連携もクラウド上で行うもので、原則、基幹企業がシステムの提供を行うケースが多いようです。
この様な「IoTで繋がるものづくり」において、人はどの様な役割を果たすのでしょうか?実はここが一番大事な部分で、集めたデータをどの様に分析するか、その尺度は、最適化するための手法は、等々、ものづくりに必要なノウハウが密接に関係します。その意味で、第四次産業革命は、システム全体は開発投資も含めて大企業マターですが、個別のものづくり最適化は、中小企業が持っている「暗黙知」や「経験知」をアルゴリズムに落し込むことが必要となってきます。これは第3回で詳細を述べる予定です。
以上、ものづくりに密接に関係する第四次産業革命の起源、およびドイツと米国の状況を見て来ました。第二回では、日本のものづくりと第四次産業革命の現状に付いて述べます。