ものづくり事業部

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第57回 業界状況 「もの補助」からみる「印刷業」

1.印刷産業の特徴
昨今の印刷産業の特徴は、市場規模(出荷額)でみると、1991年の9兆円がピークで年々縮小し、2020年では約5兆円である。約30年で半減している。
印刷産業(印刷業・製版業・製本業・印刷加工業・印刷関連サービス業)の事業所数をみると21,247事業所(2019年工業統計調査)で、従業員4人以上の事業所数は、製造業24業種中、金属製品、食料品、生産用機械、プラ製品、繊維に次いで6番目に多く、全製造業の5.3%を占めている。
しかし、産出事業所数でみると、特に出版印刷と商業印刷の減少が大きい。ピークであった1990年と比較すると、活版印刷は7,279事業所→737事業所(90%減)、オフセット印刷は13,179事業所→6,022事業所(54%減)と大きく減っている。
また、売上シェア(2019年度決算書)でみると、T社(1兆4647億円)とD社(1兆4015億円)と大手2社で印刷業全体の約60%、上位10社で全体の70%と超寡占状態である。市場規模(出荷額)は5兆円であるから、残り約2兆円を約2万社で競争していることになる。
2020年度は、他産業同様に新型コロナのダメージが大きく、印刷生産金額(従業員100人以上)は*3,444億強で前年比7%減のマイナス成長だった(印刷業界NEWS 2021/3/3)。
(*生産金額とは、工業統計の出荷額と異なり、印刷前後工程と用紙代などを除いた、印刷工程の生産金額に限定された数字)

2.もの補助と印刷業
ものづくり補助金とは、正式名称は「ものづくり・商業・サービス革新補助金」であり、中小企業・小規模事業者の生産性向上を図り、我が国経済の発展に資する目的で、24年度補正より実施され、中小企業の革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善等を行うための設備投資等を、平成24年度補正以降約52,000者を支援してきている。
「ものづくり補助金総合サイト」で令和2年度補正「もの補助」で申請者の業種を調べてみると、製造業が過半の52.5%を占めており、採択率は45.6%だった。つまり、申請者の半分は製造業で、その半分は採択されていることになる。
では、印刷業はどうかと調べてみると、詳細なデータは入手できないので、令和2年度補正4次募集の採択結果(3,131件)から「印刷業」で検索してみると「72件」がヒットし、2.3%のシェアであった。
6月18日、注目の「事業再構築補助金(1次)」(予算額1兆1,485億円、複数回にわたる公募、17万件の応募予想、6万7千件の採択予想と超大型の補助金)の採択結果が発表された。
<緊急事態特別枠>申請件数5,181件、要件適合4,326件、採択2,866件、採択率(55.3%・66.2%)。印刷業14件(シェア0.5%)だった。
<通常枠・卒業枠・回復枠>申請件数17,050件、要件適合14,913件、採択5,150件、採択率(30.2%・34.5%)、印刷業53件(シェア1.03%)だった。

3.今後の印刷業
日本国内の中小企業数は約430万社であり、大企業を含めた全企業数に占める中小企業の割合は99.7%である。中小企業の従業員数は2,800万人であり、大企業を含めた全従業員数に占める中小企業の割合は70%である。
全法人数に占める赤字法人の割合は前年度分から0.9ポイント減少の62.6%であり、過去最高の赤字割合を記録した平成21年度分(72.8%)から8年連続で低下している。数字上はアベノミクス効果等による企業業績の改善がみられる。
しかし、業種別に赤字法人割合をみると、最も高いのが「出版印刷業」で74.8%と4社に3社が赤字である。以下、「繊維工業」74.4%、「料理飲食旅館業」73.3%、「小売業」70.6%、「食料品製造業」70.3%までが赤字割合が7割を超えており、最も低い業種は「建設業」の57.2%だった。(出所:国税庁平成29年度分「会社標本調査」)
また、2019年の「印刷業の休廃業・解散」動向調査(出所:東京商工リサーチ)では、2019年に休廃業・解散した印刷業を業歴別(判明418件)にみると、50年以上100年未満が109件(構成比26.0%)で最多だった。印刷業では業歴の長い老舗企業を中心に市場からの撤退が進んでおり、新規参入の減少と老舗企業の退出が加速しているのが特徴となった。
さらに、2019年に休廃業・解散した印刷業の直前期の決算は、64.7%の企業が黒字(当期純利益)だった。休廃業・解散した印刷業の黒字率は、2013年が59.6%、2017年が77.6%と年により変動するが、総じて6割以上で推移している。全業種の黒字率は61.4%にとどまり、印刷業が3.3ポイント上回っているが、印刷業の「黒字廃業」が目立つ。
印刷市場が現在の印刷業を続けていて、市場規模がプラスに転じることはない。今後も、顧客はペーパーレス化を進めていくため、印刷業界(特に中小印刷・商業印刷・オフセット印刷の分野)がとるべき方向は、4つにわかれるといわれている。
(1)デジタル化…webマーケテイング・オンデマンド印刷
(2)高機能化…包材・建材・ガラス・産業資材
(3)ソリューション化…顧客業務のアウトソーシング
(4)新しいビジネスモデル形成…デジタル+ITに強い企業と連携
この4つのどれも実現できない印刷会社は、残念ながら淘汰の対象になるといわれている。
(5)ワンストップソリューション…前後工程内製化
(6)ワンソースマルチユース…印刷業務から派生する周辺業務にリソース活用
印刷業界全体が、印刷事業に続く柱を作っていけるかが、大きな課題であり、「受注産業の壁」を破れるかが焦点である。そのためにも「補助金」を活用して「勝ち組」になって生き残ってほしい。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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