6.コストはデザインできるか
6-2 開発・設計段階のコストづくり
● 概念的な数字だが
コストを「つくりこむ」という言葉には『生産部門』が、主体的に担当する任務のような響きがあります。が、ベストコストをつくりこむのは、何といっても『開発・設計部門』が主役です。その理由は図表6―4に示すように、商品の『コストを決定する要因』の55~65%までは、開発・設計段階での業務になっているからです。
図の中で要因の大きさを示すパーセンテージは、業種によってたしかに違うでしょう。コスト自体は、多くの「要因によって確定」され、かつ「商品の種類や生産方法」によって、その荷重が変わってくるからです。が、開発・設計段階の重要性は、これだけでも観念的にご理解できるのではないでしょうか。
特に装置型素材産業の繰り返し大量生産のケースでは、プラントの自動生産が大部分の工程を占めるのですから、生産段階でコストが確定する要因は、極めて少ないのです。開発・設計段階で、既にコストもつくりこまれていなければ、低コストにはならない特性があるわけです。
● 後工程への垂れ流しでは
しかし組立型産業において、繰り返し生産されない多品種少量製品は、経済界に多数あるわけです。また、どんな形態の産業でも、十分な「準備ができないうちに」生産をはじめなければならないことがあります。
つまり開発の完成度が低いまま、生産に移行せざるをえない事情も起ります。そんなときは、コストを決定づける要因が次々と下流の工程にしわ寄せされます。
だからといって、なにもかも後のプロセスに流し、コスト確定要因を順送りしていたのでは、低コスト体質などつくれません。あくまでもコストは、コスト形成要因の大部分を制する上流の開発・設計段階でつくりこんでいかなければならないのです。
後のプロセスに送るほど「コストは膨張する」ものです。その「傾向を抑える」には、より多くの『精力』と『時間』すなわち『コストを費やす』ものです。こんなルーズな垂れ流しは、どんなケースにおいても好ましい状況ではありません。
さらに金型設計のように、生産段階へ送り込んでしまうと下流の後工程では、やり直しの利かないものがあります。いや最近の金型は「容易に手直しができる」という反論があるかもしれません。が、はじめから「修正ありき」の設計態度でベストコストが目指せるはずがありません。
結局、このようなコスト固定の基本的要素は、上流でベストコストの基を「仕込んでおく」よりほかにないのです。
● 確定したコストをダウンさせる愚かさ
ただ、研究・開発部門では「よく売れる新商品の開発に夢中」なのに、そのうえコストのことまでは「とても注意力がとどかない」という声が聞こえそうです。つまり出来上がった「コストを改めてダウンさせる」ことがコストダウンだとの概念があることです。
そればかりか、トップの方でも「市場に受け入れられる新商品ができれば、それだけで十分」であり、当然「よく売れる新商品なら利益はあがる」と考えます。コストダウンには絶対性がある、すなわち「負けそうなとき」だけでなく、いつも「勝って兜の緒を締める」必要があるのです。
しかし経営の上層部では、そこまで気配りして『スケールの小さい新商品』しか出なくなるのが怖いのです。実は白状すると筆者自身にも、以前は「内容に力のある新商品でありさえすれば」との気持ちがありました。
売れる新商品は優れた品質を有し、さらにその品質が適正価格のもとに、他社商品と差別化できることです。他社商品と差別化できる要素、すなわち品質と適正価格の源泉になるコストは、開発業務でつくり込まなければ『売れる商品』にならないのです。
にもかかわらず「品質は考えるが、コストは別の業務で考えてくれ」では、開発の業務だとはいえません。品質とコストは一心同体ですから、同時に考えるのは当然のことです。
もちろん生産段階では、ベストコストを目指した生産部門の熾烈なコストダウン活動がなければなりません。が、開発設計段階から、まるで生産部門に「コストダウンのネタ」を残してやる美徳はありません。生産部門よ「これ以上のコストダウン余地があるなら探してみろ」と言うくらいの気概です。
● 第一歩を踏みだそう
市場のウォンツは『安くて良い商品』に向くのですから、ベストコストのつくりこみは、開発業務に制約条件のブレーキをかけるどころか、開発・設計業務そのものでなければなりません。
しかしまた、設計部門だけを「責めすぎてはいけない」のも事実です。したがって開発・設計の担当技術者には「コストをデザインする」ことが、特定部門だけを責めるのではないことを十分に納得してもらいます。
図表6‐5に分類するとおり、開発・設計部門の技術者は、会社の利益創出の根源となる任務を負っていると自負するべきです。立場によって役割は違いますが、全社が一致協力してベストコストづくりにあたる体制の中で、部門の任務を認識してもらいます。それが取り組みの第一歩です。