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成功する企業はベストコストをつくり込む(43)

7.ベストコストづくりを考える

7-1 コストの見積りから始まる

● 狙いとするコストの水準は
 ずいぶん前のことになりますが、1995年(平成7年)日刊工業新聞社の『月刊工場管理』誌2月号 (Vol.41 No.2)に『低コスト体質を身に付け“ベストコスト”をつくり込む』というシリーズのコラムを寄稿したことがあります。ベストコストとはこのとき初めて、筆者の造語として使ったものです。
 その後、ベストコストつくり込みの実務的な試行は、2000年(平成12年) 11月に(株)かんき出版から『コストデザインの構築と実践』を上梓させることになりました。つまりコストデザインは、新商品開発時点でベストコストを設計する技法であり、その実践記録を単行本にしたというわけです。
 ただ、目指すべきベストコストは観念的な用語であって、実務的には金額で明示される『目標値になりにくい』という問題点もあります。したがってコストデザイン・プロセスでは、狙いとするベストコストのレベルを、何とか数値で示し現場実務者に明らかにすることから始めなければなりません。
 それにはまず、設計対象である新商品の『品質レベルを確定』し、その『適性コストの推定』が必要です。目標とするターゲットつまり標的は『適性コスト以下のレベルにある』はずですから、はじめにそれを把握するというわけです。 

● 新商品企画の段階で決まる
 開発対象である新製品の設計品質は、その製品固有の『性能』『機能』『仕様』『デザイン』などで構成されています。たがって設計品質のレベルを決めることは、新商品企画の仕事になるわけです。
 開発プロセスとしては『企画段階』から開発の意思決定を経て、次の新商品開発の段階に『業務のステップを進める』のです。が、そのかぎりにおいて狙うべき設計品質のレベルは、企画段階でほぼ決まっていなければなりません。
 ただ開発という業務は、未知の『技術分野』や『市場分野』に向けて、新商品を創造していく時間のかかる仕事です。このため、あまり早くから無理に品質レベルを確定していると、開発途上で『予期せぬ競合の出現』や『市場の縮小』などによって、あらぬ機会損失を招く危険性を潜ませます。
 そのリスクを小さくするために、開発プロセスは『弾力的に対応』するのが、現実的な姿です。開発対象によっては、調査・研究段階からはじまることもあるでしょう。それに続くプロセスとして『基本設計』『詳細設計』の段階が加わるわけですから、調査・研究業務では、とてもスペックなど決まらないでしょう。
 開発プロセスのある段階では、開発が『振り出し』に戻ったり、狙いとする『スペックが変更』されたりしますが、それが『開発実務』の実態というものです。

● 品質第一主義は絶対的な成功要因
 どんなケースにおいても、たとえ『普及品』や『安物』の新製品開発であっても、設計理念品質第一主義でなければなりません。ですから目標品質が定まらなければ、開発はステップを進めることができません。
 新分野進出など未経験の『新製品開発テーマ』への取り組みでは、開発プロセスが長くなったり、企画段階に逆戻りしたりする試行錯誤があるわけです。その進行自体は予測がつきにくいのですが、テーマに挙げた『特定の品質レベル』には、必ず『そのレベルの適性コスト』があるはずです。
 ですからコストデザインの最初の仕事は、適性コストを把握すること、つまり『特定の品質レベル』に対する『コストの見積り』を立てることでなければなりません。
 開発・設計部門などからは、新製品企画の初期段階では「とても見積もれません」という声を聞くことがあります。ですが、どこの会社でも『新製品開発をしよう』という意思決定前に新商品アイデアの提案が審議されるでしょう。
 仮にワンマン社長がいて、そんなプロセスを踏まない場合でも、開発目標は『どんな新商品』で『どのような性能・仕様』を有する製品を『どれくらいの投資金額と期間』をかけて『開発する』ということは、きちんと決めて開発業務にとりかからないと、開発は成功するものではありません。開発投資に際し、トップの意志決定を引き出すには、開発の結果『どれほどの利益増』になるか、明確にしなければならないからです。
 当然、図表7-1の事例のように企画書には、販売数量予定売価及びコストの三項目が予測され、見積もられているはずです。      
   

  そうでないと、この製品を開発すれば『いくら儲かるのか』分かりません。にもかかわらず『開発しろ』と命じるのは、賢明な経営者とはいえません。たとえ基礎研究に対する意思決定であっても『投資金額』と『開発期間』の目標なくしてとりかかることはないはずです。
 予測である以上、確度はともかく「まだ見積ができません」といっていたのでは、新商品開発の意志決定が引き出せないのです。原価見積は、新商品企画の一部分です。原価の見積りは予測であってもいいのですが、その確度はできるだけ高いのが望ましいことはいうまでもありません。

● 改善余地まで予測した見積り
 一方で、見積りを『素早く効率的』に出すことは大切なので、第4章シリーズ(15)’12.11.28.掲載で述べたように『標準部品材料』とか『標準工数』などのコストテーブルを最大限に活用しなければなりません。
 そしてまず、新製品企画を立てた時点で予測できる、ベストコストをはじき出します。見積りがでればそれを足掛かりに、最終的なベストコストを模索していくというわけです。
 さらにその時点での原価見積額はこれくらいだが、『新しい技術』を取り入れてどの程度まで下がる可能性があるかも予測します。つまり、新技術導入VAの成功に「どれほど期待できる」といったように、改善の結果を予測して見積り、企画書に付け加えます。
 その見積金額から、予想利益の経済計算をすることによって、開発業務にとりかかるか否かが、意志決定されるのが順当な考え方であり、正統な手順だというべきです。
 それにしても「適性コストとベストコスト」「原価見積に目標原価」などと、原価・コストに関する用語がやたらにでてきますので、図表7-2にその使い分けを整理しておくことにいたします。

        

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