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成功する企業はベストコストをつくり込む(32)

5.VA・VEの王道を探る 

5-12.ドキュメントの訂正で完結 

● 合理的思考の理に適う
 VAアイデアがVE業務によって製品化商品化されると、最後のプロセスは『ドキュメント類の訂正』です。VEは『現有製品』に改善を加える業務ですから新製品開発と違い、VE業務の締めくくりは、改善結果をドキュメントに反映させることです。
 ドキュメントつまり記録類とは「紙に書き残された」または「電子ファイルにメモリーされた」すべての製造資料のことです。ですからドキュメントへの反映は、これまであったドキュメントに『差し替え』『再編成』などの形式で訂正し、整理することです。
 ドキュメントは、まぎれもなく製品歴を写した会社の財産です。記録の媒体は紙に限らず、電子媒体でもいいのです。が、ドキュメント類は『誰でも』『何時でも』『何処ででも』即座に見ることができなければ、企業としての資産価値がありません。このペーパーレスの時代に逆行するようですが、ドキュメントは紙媒体にしておくのがよいのです。
 たとえば、ISO9000Sでは『表見主義』の立場から、品質システムを「紙に書かせる」文書化によって、全システムが客観的に認知できるように要求します。と同時に『実績主義』の立場から「品質記録を残す」ことを求めます。ですからVE業務の終結は、合理的思考のISOの要求事項にも合うわけです。 

● いろいろな隔たりを埋めるコスト
 VAやVEを実施した『時』と『場所』は、VAやVEの結果を反映する『時』と『場所』とに大きな隔たりがあることもあります。
 仮に時間的、空間的な隔たりはなく、つい「そこで」「今さっき」やった業務であっても、それをやった『人』と後で見直しなどをする『人』が違う場合もあります。また、中小・零細企業などでは、同じ『人』の業務であっても、その『人』には勘違いや記憶違いもあるわけです。
 ドキュメント類は、これら諸々の隔たりを接続してくます。たしかにドキュメントを整備するには、相当の人手つまりコストがかかりますが、それに見合うだけの意義があるわけです。
 製図用の『ドラフタ』が『CAD』に変われば、ドキュメントの作成手段にも『機器の減価償却費』や、導入訓練という『人件費』など、新たなコストが上乗せされること必定です。
 仮にこれらのドキュメント制作費が『ドラフタ時代』よりも『CAD』利用による「迅速化」「正確性」という省力化が図れることが分かっても、わが社では「とても・・・」ということになるケースがあるかも知れません。
 しかしドキュメント類は、会社の知的財産の一形態ですから、ドキュメントつくりにかけるコストは、後の財産を貯金しているようなものでしょう。 

● 間違った資産は無いほうがまし
 VEを担当する部門からいえば、ドキュメント変更のポイントは『正確性・確実性』と『相互関連性』の二つです。変更に間違いがあれば、完全にVEの業務ミスになるのです。VEは、現在進行形の『既存製品の製造資料変更』ですから、ミスが発見されたときは既に、傷口が深くなっている場合が多いのです。
 さらにVEによる既存資料の変更は、部分的な訂正を加える場合が多く、それだけにいわゆるポカミスを犯し易い状況にあります。にもかかわらず『設計変更』では、新規設計のときの検図制度のような『ポカミス防止策』が、確実に採られる体制になっていないのが一般的な状況です。
 ドキュメントの、中心的存在である製造図面の事例では、図表5-30のような不備図面のケースがありました。この例でみるようにVEに基づく図面変更は、設計図の変更に際して発生する不備要因と、変更手続き上のミス要因の両方にまたがることがわかります。

 つまり新製品などの新規設計の場合は『制度上の不備』によって、不備図面が引き起こされる傾向があります。が、VE改善による設計変更の場合は、これに加えて『人為的なミス』も作用する傾向も加わるのです。
 新製品開発時の設計変更では、仕事にかかる前の準備段階で発見され、修正されることが多いので『品質不良』や『コスト高』の実害を被るケースは、比較的少ないといえます。しかし設計変更時の不備図面は、ワークが『現在進行形』ですから、まさに『実害を生み続ける』わけです。
 しかし、こんな負の財産なら「会社に無いほうがまし」だと言うのは本末転倒です。要は、不備図面を出さないようにするのが本筋です。 

● 不備図面を曝し首にしろ
 ドキュメント類の変更ミスを発見するのは、ほとんどが後工程の担当者です。また後工程になるほど、仕事の『やり直し』だとか、品質不良原価高の『責任追及を受ける』など、不備図面による『仕事上の被害』を大きく被ります。
 にもかかわらずミスに気付いたとき、現場関係者はお互いを『庇い合って』自分達に都合の悪い状況を上層部に報告しないかもしれません。また、不備図面によって発生するロスムダの実体は、計数管理面では把握することができません。
 管理者が把握できるのは、VEの効果が「小さい」とか、効果が現れるのに「時間がかかる」といった、表面に出る客観的な現象だけにすぎません。
 ですから筆者は、仕事上の被害者である後工程の関係者に、以後のみせしめのためにも不備図面の事例を掲示しろと、現場責任者にもちかけたことがあります。ときどき品質管理の事例でみるように、不良品を『曝し首の刑に処する』わけです。が、仕事上の仲間に『個人的な恨みを買う』ことは、誰も望みません。
 たしかに図面の制作でいえば、昔の工業高校で『製図の実務教育』を十分に受けた技術者が、少なくなった今日です。その代わり『VEの遂行』では、高度な知識を有する技術者が増えました。CADなど、あっという間に使いこなしますが、製図基礎ができていない作業者のオペレーターには怖いものがあります。
 企業の資産を形成するベーシックな『技能・技術教育』は、自己啓発に任せるだけでなく、会社が主体となって行うよりほかにないのです。それがVEの高度な技術を活かすための、ドキュメント作りになるということです。

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ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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