1.人的資本経営とは
「人的資本経営」という考え方があります。これまで、企業価値を測る主な指標として、財務三表に代表されるような財務情報が重視されてきました。会社の財政状態を把握できる貸借対照表、経営成績を確認できる損益計算書、そして会社の資金の流れがわかるキャッシュフロー計算書の3つの計算書類です。一方で近年では、投資家の視点が変化しつつあります。売上や業績といった数値だけでなく、「人材」にも注目が集まっています。つまり、人材を従来のコストとして捉えるのではなく、「人的資本」として投資すべき対象とみなす考え方です。こうした取り組みの内容や質を通じて、企業価値を評価しようとする動きが広がりつつあります。
2.注目される背景
人的資本経営が注目される背景としては、もともとは投資家がこの領域に対する関心を高めたことがきっかけにあります。人的資本への取り組み状況を企業価値の評価指標として捉える動きがあり、注目されるようになりました。特に日本においては、人口減少といった外部環境の変化も相まって、その重要性は一層高まっていると言えます。実際に、企業が重視する経営課題の1つに人に関わる項目が取り上げられております。日本企業の約99.7%は中小企業で構成されていますが、こうした中小企業が抱える経営について、帝国データバンクが実施した「令和6年度 中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」を見ると、「人材確保」が最も重要な経営課題として挙げられています。
3.人的資本に関する指標
では、人的資本に関して、企業はどのような情報を開示すべきなのでしょうか。主な指針は大きく2つ挙げられます。
1つ目は、内閣官房・非財務情報可視化研究会が2022年8月30日に公表した「人的資本可視化指針」です。この指針では、「価値向上」と「リスクマネジメント」という2つの観点から、人的資本に関する開示事項が整理されています。
2つ目は、金融庁が2023年1月31日に改正した「企業内容等の開示に関する内閣府令」です。この改正により、有価証券報告書および有価証券届出書において、人的資本に関する情報の開示が新たに求められるようになりました。指標の中には①女性管理職比率②男性の育児休業取得率③男女間の賃金格差といった指標になります。
いかがでしょうか。会社にお勤めの皆様の中には、最近企業が女性管理職の登用を積極的に進めていると感じたり、これまで主に女性が取得するものとされていた育児休業について、男性の取得を推進する動きが強まっていると感じている方も多いのではないでしょうか。まさに、こうした取り組みが進められている背景には、企業に求められる人的資本に関する情報開示の影響があると考えられます。
4.取り組むことの効果
人的資本に関して企業が取り組むべき指標は、開示義務として求められているものに限りません。例えば、従業員の育成にどれだけ力を入れているかといった点など、自社の取り組みを積極的に公表している企業も見られます。こうした取り組みは、投資家に対して企業価値をアピールするだけでなく、企業自身が経営課題として掲げる「人材確保」にも好影響をもたらします。
近年では求職者が仕事を選ぶ際の基準として、給与などの条件面に加え、「その企業でどれだけ成長できるか」といった観点や、「安心して働ける職場環境かどうか」といった点を重視する傾向も強まっています。パーソル総合研究所が調査した結果からも傾向を読み取ることができます。
そのため、人的資本経営への取り組みを強化し、可視化・発信していくことは、求職者に対する訴求力の向上につながります。結果として、企業の採用力を高めるという点においても、好影響を与えると考えられます。中小企業こそ、今取り組むべきテーマであると言えるでしょう。



