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執筆者:山崎 登志雄

第5回 経営革新のもとになる予測の手法(山﨑登志雄)

〔経営は無鉄砲に革新できない〕
 革新し続けなければ生き残れない、昨今の経営環境です。だのに某経営者に「経営革新計画の必要性」を説いたら「どうせ計画どおりにいかない」のだから「そんなものは必要ない」と言われたことがあります。
 ご自分の「経営革新を進める力量」には、十分な自信がおありなのでしょう。が、計画という指針なくして「革新できた」か「できなかった」か、本当に革新力が「ある」のか「ない」のか、どうして分かるのですか。
 会社の経営に限らず人間の行動は、すべて「将来に向かって暗中模索」するのですから「どうせ思うようにいかない」のが当たり前だといえます。ですから「思うべきこと」つまり「目指す方向」を「計画の形式」で明らかにして、意識的に「思うよう」にいかせる能力こそが、本当の革新力というものです。
 ものづくり事業は、他の産業に比べて比較的大きな『設備』を抱え、長年培った『技術』を以て経営しています。そこで無計画な成り行き任せの経営で、上手く「ことが運べる」はずもありません。
 “ものづくり”は長期間にわたって、固有の『新製品開発』や『調達』『生産』『販売』などの諸活動を積み上げ、それらを総合して付加価値を生む事業です。いわば「大きな図体」をして「長距離を長時間」駆けっこしているようなものですから、駆けだす前に目的地をしっかり「見極めて」いないと、とんでもないところで歯車が狂い「ばったり」いきかねません。
 人間の行動の目標であり、指針でもある『計画』というものは、未知の「将来に向かって立てられる」ということです。行動の「行き着く先」の状態は、不透明ながらも『予測』して『目標』や『指針』が『経営革新計画』として、はじめて描けるわけです。

〔先人の知恵が詰まった予測技法〕
 予測技法といえば、過去のデータを基にした時系列分析が浮かびます。つまり統計学上の『最小二乗法』、『指数平滑法』、『移動平均法』、『相関係数法』、『連環比率法』及びこれらの混合法などの計数分析の結果を回帰式に表して「将来の姿」を予測します。コンピューを駆使した『多変量解析』のような、難しい予測技法を説く人もいます。
 たしかに計数分析には客観性があるのですが、難しい技法を駆使したからといって「予測の確度」があがる保障はありません。経営実務では、数値化できない事象のほうが多いのですから、むしろ『デルファイ法』のような計数分析以外の技法をミックスすることが大切です。
 デルファイ法というのは、主観的なある予測対象を設定し、複数の専門家にアンケート方式などで、第一次の予測をしてもらい、その集計結果をバラツキのあるデータのまま、再び回答者に示します。そして再度予測してもらうわけですが、この作業を繰り返し、データのバラツキが「これ以上縮まらない」段階で最終的な予測結果を得る技法です。
 まことに手間のかかる技法のようですが、この原理はアイディア開発のブレーンストーミングの「三人寄れば文殊の知恵」に通じます。要するに将来の状況は、より多くの人々の「情報」と「知恵」を終結して予測しようということです。
 ものづくり企業の社内には、自社の仕事に最も関心を寄せて「情報収集」し、真面目に「将来を心配」している専門家が多くいます。またコンサルタントなど、社外専門家の意見を聴取する手立てもあります。いかに有能なワンマン社長でも、専門家の見解を活かせずに的確な予測ができるわけがないのです。

〔トップが判断しなければ〕
 いろいろな情報や、将来に対する見解が錯綜すると、どれを「根拠」にすればよいか迷うだけかも知れません。それは予測が、経営革新計画を立てためのプロセスの一端に過ぎないからです。
 将来を見極め「どの方向へ」「どのように」進めばよいかは、社長が決断しなければなりません。ただ判断の根拠となる予測には、どうしても勘(K)と度胸(D)と運(U)によって適否が決まるというやっかいな問題が残ります。
 どんな手法を用いた予測であっても、最終的に「人の判断によって選択」されなければなりません。ですから「科学的背景をもつ勘(K)」に頼って「大胆な度胸(D)」を発揮しなければ、会社を経営革新に導く計画にはなりません。
 計画遂行の過程には、思わぬ特需に恵まれたり、自然災害のような予期せぬアクシデントに襲われたり「運(U)の善し悪し」がつきものです。予測手法としてはその事態に際し、如何に「対処するか」が大切になってきます。
 決断には勘(K)をはたらかせるといっても、安易な山勘に大切な経営革新を委ねるわけにきません。反面いつまでもぐずぐずして、意志決定する度胸(D)がなければ、革新計画は策定できず、P-D-C-Aサイクルが始動しません。したがって次の図に示すような、予測技法をミックスして経営革新の成功度をあげていくよりほかにないのです

成功する企業はベストコストをつくり込む(52最終回)

『おわり』に代えて

 約4年間に亘ってご愛読いただいたこのコラムは、第51回をもって連載を終了しましたが長すぎて、本文の右欄にある月別アーカイブだけでは、個々の掲載内容が検索できなくなりました。今回は、掲載日とは逆順に『章』と『節』の目次と『掲載年月日』を掲載し、月別アーカイブから掲載年月日をクリックしていただければ、ご関心の項目が見つかるようにしました。これを以て、ご愛読の御礼とさせていただきます。

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成功する企業はベストコストをつくり込む(51)

7.ベストコストづくりを考える

7-10 コスト・コーディネーターの役割

● 社内の仕事も三権分離
 コストデザイン過程を順調に進めるには、それなりの仕掛けが必要です。その第一は、関連する規程の制定やコストレビューのための諸々の『書式を制定』することです。第二にはそれらの仕組みが、現業者の間に『制度として定着』することです。
 これを逆にいえば「仕掛けを終わり」「仕組みを整備して実行する」ことによってこの制度が完全に導入されたといえるのです。かといって『CR実施規程』だとか『CR運営要領』『コスト評価基準』『目標原価設定ガイドライン』等々の社内法規の整備が、コストデザイン過程が『進行できる保証』にはなりません。
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成功する企業はベストコストをつくり込む(50)

7.ベストコストづくりを考える

7-9 コストレビューは開発効率の阻害要因か

● 開発者のブーイング
 ベストコスト追求の一環としてコストデザイン構想を固め、その実施手順書を関係者に示したとき、現業の開発・設計部門から「CRコストレビュー)みたいなことをしていたら、新商品の開発期間がますます長くなる」というブーイングを耳にしました。
 たしかに近時は、どんなケースでも開発期間が『伸びる傾向』にあり、かつ開発スケジュールが『遅れる』ことがしばしばです。この傾向は、どこの会社のどんな開発業務にも共通していえます。
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成功する企業はベストコストをつくり込む(49)

7.ベストコストづくりを考える

7-8 コストレビューの進め方

● レビューに用いるツール
 CRすなわちコストレビューは、図表7-6(’15.05.28掲載)に示したように、最少でも新製品開発の三段階に分けて行います。レビューに用いるツールいわば『道具立て』は、前の図表7-7(’15.06.18掲載)に示した『コストレビュー・シート』と、これから説明する『チェック・シート』の両立てです。
 レビュー・シートの方は一種類ですが、この履歴欄には「どの段階のCRであるか」にレ印を入れれば3通りに使えます。つまりCRの3段階で同じシートを用いることによって、レビュー対象の『目標原価』や『見積原価』『原価差異』が、CR段階別の過程を比較できることになります。
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事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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