ものづくり事業部

第59回 繊維産業の現状と今後の方向性

1.国内繊維産業の現状
経済産業省によると、国内繊維産業の2017年の事業所数は1.1万事業所、従業員数は21.4万人、出荷額は3.2兆円、全製造業のうち5.7%の事業所数、2.8%の従業員を占める産業となっている。国内生産の減少により、国内繊維事業所数、製造品出荷額ともに、1991年比で約1/4に減少、国内アパレル市場における輸入浸透率は増加し続けており、2018年には97.7%まで増加している。国内のアパレル市場規模は、バブル期の約15兆円から10兆円程度に減少する一方で供給量は20億点から40億点程度へとほぼ倍増している。衣料品の購入単価および輸入単価は、1991年を基準に6割前後の水準に下落しており、供給量が増加しても単価の減少により市場規模が縮小していることが読み取れる。
さらに、長年の厳しい国際競争の中で、生き残った素材メーカー等は相応に強いものづくりの地力を有し、生地輸出額は世界的に見ても高い水準にある一方で、生地は競争力があるが、衣料品の輸出は先進国のなかでも極めて少ない状況にある。このように、国内繊維産業は厳しい状況にある。

2.繊維産業の今後の方向性
国内の繊維産業の現状を踏まえ、経済産業省は「繊維の将来を考える会」を発足。繊維産業の業界をリードする事業者間で、繊維産業の課題や将来等に関して自由闊達に情報・意見交換等を行うネットワークの場を設けるとともに、当会での意見をもとに政策の企画立案をしている。令和元年には、繊維の将来に向けた行動指針「繊維の将来宣言」を公表した。
「繊維の将来宣言」の行動指針のポイントは以下の5つである。
1) 自社の強みの把握やブランディング、販路開拓・ユーザー開拓を行い、自社の強みを生かした経営で価値を高めること
2) 海外販路開拓を行い、「メイドインジャパン」に満足するのではなく、独自の価値を世界に発信・提供すること
3) 画期的な製品・サービスの開発やIT・新技術の積極的な活用を行い、あらゆる分野で繊維の可能性を探求し、常に新しく付加価値が高いものづくりを実践することにより、素材革命を起こすこと
4) 異業種連携や産地間連携を推進するなど、繊維産業が技術とクリエイティビティが融合する先端の分野であることを広く発信すること
5) サステナビリティやSDGsへの対応、責任あるサプライチェーンをつくるなど持続可能な繊維産業の在り方を模索し、社会課題の解決に貢献すること
私は、この「繊維の将来宣言」の内容は今後の繊維産業の生き残りや発展にかなり役立つと考えている。もし、OEM生産に依存して、上記の1~5の行動指針を実践していない企業は今後の繊維製造業界の中で取り残される可能性があると考えている。

3.コロナ禍における繊維製造業の景況と成功事例
靴下製造業など多くの繊維製造業が集積する奈良県のコロナ禍における繊維産業の景況感について奈良県中小企業団体中央会の発表は以下の表のとおりである。

年月 景況感
2020年10月

 

依然として百貨店や大手アパレル等の小売業は、売上高が横ばい又は減少傾向で厳しい状況が続いているが、ネット販売で検討しているメーカーもある。
2021年1月

 

緊急事態宣言の再発令に伴い、小売店の客足は減少し、業界としては依然として厳しい状況にあるが、コロナ禍で同業者が廃業したことによって受注が増えているメーカーや自社ブランドのEC販売が好調に推移しているメーカーなどもあり、販売先によって明暗が分かれてきている状況にある。
2021年7月

 

大手百貨店の7月売上高は前年同月比で2~3割減少しておりコロナ禍による外出自粛の影響が再び広がりはじめている。組合員の売上高減少の影響が出始めている。

自社ブランドを構築してEC販売を行っている企業は好調に推移しており、前述の「繊維の将来宣言」の内容を実践している企業はコロナ禍の状況を乗り切っている、または、乗り切ろうとしている。
実際に、奈良県の靴下製造企業の中では、OEMに依存せず、積極的に独自で素材開発をして画期的な製品を開発し独自ブランド化をはかり、EC販売を行うことでこのコロナ禍を乗り切っている、または、乗り切ろうとしている企業が多数存在している。
コロナ禍でも好調に推移している企業が存在していることから、コロナ禍という状況において経営が思わしくない企業は、現状の繊維製造の経営方向性を見直す機会となっていると私は考えている。今後の発展のために「繊維の将来宣言」の行動指針などを踏まえ繊維製造の経営の方向性を再検討することをお薦めします。

第58回 商標の不使用取消審判について

1.商標とは
商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)です。
その商品やサービスは、ある程度の範囲の塊ごとにグループ(45の区分)に別れてます。さらにそのグループ内での小グループ毎に商標権を取得できます。
但し、出願された商標は、特許庁での審査を経て権利化されます。
但し、例えば、他人の商標と紛らわしい商標は権利化されません。
そして、権利化された商標は10年毎に更新できます。

2.時々他人の商標と紛らわしい商標を使いたいときがあります。そのときどうする?
通常は諦めます。他人の商標を勝手に使えないので、別の商標を考えます。
でも他人の紛らわしい商標を製品等で使用していないときがあります。このときには「不使用取消審判」を特許庁に請求します。
この請求が成功して、他人の商標権が取り消されると、自分が出願した商標が登録されて、自由に使用できます。どうしても権利化したい商標があるが、その商標権を他人が持っている場合には、他人がその商標を直近3年以内に使用していないことをWeb等で確認して、「不使用取消審判」を行うことになります。
使用しない商標権を保有し続けることは、他人が選択できる商標の範囲を狭める。また積極的に使用して業務上の信用維持を計る観点からも、不使用を続けることは好ましくない。そのために「不使用取消審判」の制度があります。

3.商標の不使用取消審判に関連した最近進行中の事例
登録された化粧品の商標Aがあります。
商標Aの権利者は従業員10人以下の企業です。
その商標を使用したい企業が現れました。その企業は世界的日用品メーカーです。世界中で同じブランドを展開しており、新たに展開するブランドがたまたま商標Aでした。
当然のことながら、世界的日用品メーカーは商標Aの使用をWeb等で調査済です。しかし、権利者の企業の事業規模が小さすぎるため、Webでは使用を発見できませんでした。
世界的日用品メーカーは「商標Aは不使用である」と考えて、不使用取消審判を請求しました。
実は商標Aを実施していたので、その証拠を基に争い、結果的に商標Aは取り消されませんでした。
その結果、現在でも世界的日用品メーカーは日本において、そのブランドを展開できていません。
今後、どうなるかは未定です。裁判事件になる可能性もあります。
いずれにしても、知的財産というものは企業規模に関わらず、公平な制度であり、必要に応じて積極的に活用することが望ましいと考えます。

第57回 業界状況 「もの補助」からみる「印刷業」

1.印刷産業の特徴
昨今の印刷産業の特徴は、市場規模(出荷額)でみると、1991年の9兆円がピークで年々縮小し、2020年では約5兆円である。約30年で半減している。
印刷産業(印刷業・製版業・製本業・印刷加工業・印刷関連サービス業)の事業所数をみると21,247事業所(2019年工業統計調査)で、従業員4人以上の事業所数は、製造業24業種中、金属製品、食料品、生産用機械、プラ製品、繊維に次いで6番目に多く、全製造業の5.3%を占めている。
しかし、産出事業所数でみると、特に出版印刷と商業印刷の減少が大きい。ピークであった1990年と比較すると、活版印刷は7,279事業所→737事業所(90%減)、オフセット印刷は13,179事業所→6,022事業所(54%減)と大きく減っている。
また、売上シェア(2019年度決算書)でみると、T社(1兆4647億円)とD社(1兆4015億円)と大手2社で印刷業全体の約60%、上位10社で全体の70%と超寡占状態である。市場規模(出荷額)は5兆円であるから、残り約2兆円を約2万社で競争していることになる。
2020年度は、他産業同様に新型コロナのダメージが大きく、印刷生産金額(従業員100人以上)は*3,444億強で前年比7%減のマイナス成長だった(印刷業界NEWS 2021/3/3)。
(*生産金額とは、工業統計の出荷額と異なり、印刷前後工程と用紙代などを除いた、印刷工程の生産金額に限定された数字)

2.もの補助と印刷業
ものづくり補助金とは、正式名称は「ものづくり・商業・サービス革新補助金」であり、中小企業・小規模事業者の生産性向上を図り、我が国経済の発展に資する目的で、24年度補正より実施され、中小企業の革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善等を行うための設備投資等を、平成24年度補正以降約52,000者を支援してきている。
「ものづくり補助金総合サイト」で令和2年度補正「もの補助」で申請者の業種を調べてみると、製造業が過半の52.5%を占めており、採択率は45.6%だった。つまり、申請者の半分は製造業で、その半分は採択されていることになる。
では、印刷業はどうかと調べてみると、詳細なデータは入手できないので、令和2年度補正4次募集の採択結果(3,131件)から「印刷業」で検索してみると「72件」がヒットし、2.3%のシェアであった。
6月18日、注目の「事業再構築補助金(1次)」(予算額1兆1,485億円、複数回にわたる公募、17万件の応募予想、6万7千件の採択予想と超大型の補助金)の採択結果が発表された。
<緊急事態特別枠>申請件数5,181件、要件適合4,326件、採択2,866件、採択率(55.3%・66.2%)。印刷業14件(シェア0.5%)だった。
<通常枠・卒業枠・回復枠>申請件数17,050件、要件適合14,913件、採択5,150件、採択率(30.2%・34.5%)、印刷業53件(シェア1.03%)だった。

3.今後の印刷業
日本国内の中小企業数は約430万社であり、大企業を含めた全企業数に占める中小企業の割合は99.7%である。中小企業の従業員数は2,800万人であり、大企業を含めた全従業員数に占める中小企業の割合は70%である。
全法人数に占める赤字法人の割合は前年度分から0.9ポイント減少の62.6%であり、過去最高の赤字割合を記録した平成21年度分(72.8%)から8年連続で低下している。数字上はアベノミクス効果等による企業業績の改善がみられる。
しかし、業種別に赤字法人割合をみると、最も高いのが「出版印刷業」で74.8%と4社に3社が赤字である。以下、「繊維工業」74.4%、「料理飲食旅館業」73.3%、「小売業」70.6%、「食料品製造業」70.3%までが赤字割合が7割を超えており、最も低い業種は「建設業」の57.2%だった。(出所:国税庁平成29年度分「会社標本調査」)
また、2019年の「印刷業の休廃業・解散」動向調査(出所:東京商工リサーチ)では、2019年に休廃業・解散した印刷業を業歴別(判明418件)にみると、50年以上100年未満が109件(構成比26.0%)で最多だった。印刷業では業歴の長い老舗企業を中心に市場からの撤退が進んでおり、新規参入の減少と老舗企業の退出が加速しているのが特徴となった。
さらに、2019年に休廃業・解散した印刷業の直前期の決算は、64.7%の企業が黒字(当期純利益)だった。休廃業・解散した印刷業の黒字率は、2013年が59.6%、2017年が77.6%と年により変動するが、総じて6割以上で推移している。全業種の黒字率は61.4%にとどまり、印刷業が3.3ポイント上回っているが、印刷業の「黒字廃業」が目立つ。
印刷市場が現在の印刷業を続けていて、市場規模がプラスに転じることはない。今後も、顧客はペーパーレス化を進めていくため、印刷業界(特に中小印刷・商業印刷・オフセット印刷の分野)がとるべき方向は、4つにわかれるといわれている。
(1)デジタル化…webマーケテイング・オンデマンド印刷
(2)高機能化…包材・建材・ガラス・産業資材
(3)ソリューション化…顧客業務のアウトソーシング
(4)新しいビジネスモデル形成…デジタル+ITに強い企業と連携
この4つのどれも実現できない印刷会社は、残念ながら淘汰の対象になるといわれている。
(5)ワンストップソリューション…前後工程内製化
(6)ワンソースマルチユース…印刷業務から派生する周辺業務にリソース活用
印刷業界全体が、印刷事業に続く柱を作っていけるかが、大きな課題であり、「受注産業の壁」を破れるかが焦点である。そのためにも「補助金」を活用して「勝ち組」になって生き残ってほしい。

第56回 重大事故未然防止とリスクマネジメント

近年重大事故やリコールを切っ掛けとして、大企業が倒産したり窮境に陥る事例が頻発しています。それらを紐解いていくと、開発設計時点では「想定外」だったものの、事故後に検証してみるとデザインレビュー(DR)やリスクマネジメントの不備に行きつくことが多々あります。また自然環境の激変やコロナ禍をはじめ、過去の常識や経験だけでは防ぎきれない災害や事故が頻発しています。どうすれば重大事故・品質トラブルを未然防止して、事業継続を図れるのか?その考え方の基本を紹介します。

1.他社の失敗事例に敏感になろう!
一番大切なことは、他社等の失敗事例が報道される度に「当社は大丈夫だろうか?」と振り返ってみることです。重大事故未然防止の代表的成功例は、JR東日本の橋脚補強工事成果による新潟中越地震(2004/10/23)での新幹線脱線・死傷者ゼロ達成です。JR東日本は、1995/1阪神淡路大震災における阪神高速道路倒壊事故を受けて、即時自社設備の点検・補強工事を2度累計5年間に亙って実に18,000本の橋脚補強工事を行いました。1回目は地震多発地域の橋脚3,000本を補修しましたが、2003/5には対象外地域だった宮城県沖地震で橋脚30本にひび割れが発生した事実を重く見て東日本全域の橋脚15,000本を補強したのです。その後の度重なる大地震でも、新幹線に被害が出ていないのは、この時の橋脚補強工事の成果だとみています。

2.商品・システムの企画・設計・上市には「安全デザインレビュー」を行おう!
消費者製品や自動車のリコールは後を絶たないほど発生しています。これらの品質重大事故を防ぐためには、商品企画・開発設計時点での安全性やリスクの想定・確認・検証が極めて重要です。私はこれを「安全DR(デザインレビュー)」とよんで、開発度の高い製品への関係者全員による取組みを推奨しています。特に社会や人・経営に重大な影響を及ぼす品質事故をどう想定・リスク抽出して対策を講じるかが如何に大切かは、㈱タカタのエアバッグ暴発による倒産等の事例を見ると判ります。下図は経産省が推奨するリスクアセスメント手法「R-Map」を改良した「遠山式R-Map」です。ここにサンプル記載されている「タカタエアバッグ」や「福島原発事故」のようにならないようにリスク対策をしましょう。

第55回 ここに経営支援軍団あり

【企業は永遠でなければ】
企業は一旦誕生したからには、永遠に生き残っていくべき運命にあります。つまりどんな姿・形であっても、企業は永続することによって、その社会的責任を果たしていくのです。しかし経済社会は常に変動し、または昨今の疫病のような大禍によっても、企業の経営環境は大きな影響を受けます。
経済社会には、その企業に生活基盤を置いている人々がいます。また外部には顧客や取引先、さらには地域社会の人々までもが、その企業に関わりをもって経済活動をしています。だからどんな状況下であっても、企業は存在意義を失うことなく、永遠に生き続けていかなければなりません。
仮に、経営環境の変化によって、企業の永続性を保つに必要な利益が獲得し辛くなり、経営の危機が到来したとしても、企業自体の存在意義は変わらず、企業の社会的責任が軽減されるわけではないのです。

【生き残り策はあるのか】
生業たる事業が、経営環境の変化に適合しなくなったとすれば、企業を存続させるためには「事業の方を変えていく」しかあません。つまり企業は事業転換だとか業種変更を成し遂げてでも、生き残っていくべき存在価値があります。
そのために最初に採るべき経営政策は、現在の「主要事業の見直し」です。また更なる経営戦略は「新製品開発や新事業開拓」なのです。が、これらの生き残り策を誤ると、かえって命取りになる危険性があります。ですから先ず、企業に事業転換などに「耐えうる体力」があるのか、慎重な診断が必要です。

【外部の英知を借りて成し遂げる】
日常業務に追われながらの自己診断では、冷静な判断が難しくなるかもしれません。このとき、経済社会への客観的な第三者の目が頼りになります。
現在の主要事業を手直しさえすれば、苦境を乗り切れる場合もあります。何故なら、今の事業の「商品やサービスのつくり方」「市場性や競合関係」「将来性予測」などの的確な調査・分析によって対策が打ち出せるからです。また現在の事業の手直し程度では済まないのなら、もう少し深入りした経営戦略が必要です。それには時間を掛けて、現有の経営資源をチェックのうえ「狙うべき新事業分野は」「事業転換の成功要件は」「補強すべき経営資源」「新製品開発・新市場開拓の手法」などを調べ、リスク軽減を図る必要があります。

【第三者の目はここにある】
経営者の方々は、自社の事業に対するビジネス・マインドは高く、ビジネス・スキルも高レベルにあります。対して、その事業に対する心意気や熟練度が、経営者と同じ程度の第三者でなければ、的確な支援策を望めません。ただ経済社会には、無限の業種や業態および関連の職能があるため、第三者を自負する側からすれば、常に研鑽を重ねることで、支援策に責任がもてます。
幸いにも、わがさいたま総研には、いろいろな業種、職能における職業経験を有するメンバーがいます。さらに相互の情報・知識を共有すべき勉強会・研究会をもって現役経営者の方々のマインド&やスキルに近づく努力を重ねています。将にわれわれは、第三者の目をもった経営支援軍団を自負しているのです。

事業部紹介

ものづくり事業部では単に製造業に限らず第一次産業でも第三次産業でも、人々の生活を豊かにする「ものづくり」機能全般にわたって企業支援をいたします。
「ものづくり」は単に、物財の製造だけを指しているのではありません。私たちは、人々の生活を豊かにし、企業に付加価値をもたらす財貨を産み出す総ての行為こそ「ものづくり」だと捉えているのです。
ものづくりの原点にかえって、それぞれの企業に適した打開策をご相談しながら発見していくご支援には、いささかの自信があります。

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